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雪合戦。大人と子供の違い

 それじゃ近くのゴブリン帝国から調べてみようと思ったが、強烈な吹雪のせいで中止となった。なので今はアルカディアで待機中。

 しかし王様達の経験から今年の吹雪は非常に強い事からそう簡単に収まる事はないだろうと言われた。

 それじゃ仕方ないと思い、月に1度のクウォンさんへ野菜を送る事は天使に任せる。

 その後はアルカディアでゆっくりとこたつで丸くなるに限る。


「……」


 そんな俺の前にはヴェルトがコタツでどんぶくを着てみかんを食べている。今のヴェルトは思念体で本体は背中に住むヨハネ達を吹雪から守っている。

 コタツのテーブルの上には薄緑と黄緑がヴェルトが剥いたみかんを1つ口に入れてもらって咀嚼する。彼女らはまだ生まれて間もないのでまだまだヴェルトに甘えている。

 それから報告だが薄緑の方が姉で、黄緑が妹だ。まだ小さいが調べてみたら2体とも女の子である事も判明した。

 会話のない親子だが、なんだかんだで仲は良好の様で何より。仮にヴェルトが子育てに興味が無かったらどうしようかと思っていた。

 あまり感情を表に出さないからその辺り勘で察するしかないんだよな。


「パパ!雪合戦に行ってきます!!」

「体が冷える前に帰って来いよ~」

「はーい!!」


 ドタバタと廊下を走る音がしたと思うと、ガブリエルの怒った声が聞こえた。

 ブランはまだまだ子供だな~っと思っていると薄緑と黄緑がこちらをじっと見ている。


「どうした?」

「……お出かけ。雪合戦に興味」

「生まれて初めての雪合戦に興味津々ですか。それじゃ俺も一緒に行こうかね」


 少し寒いがコタツから出て素早く冬用の服に着替える。少しでもコタツの温かさが残っている間に着替え終わるのだ。

 そして薄緑と黄緑の専用台車に2体を乗せて運ぶ。

 家中用から外用の台車に2体を移動させ、子供達が遊んでいる雪合戦会場にやってきた。


「これは……白熱してるな」

「……ん」


 今目の前で繰り広げられている雪合戦は俺が思っていた雪玉に当たったらリタイヤするという感じではない。

 ネタアイテムであるビーチフラッグを持ってきて、お互いの陣地に刺してある。どうやらそのフラッグを先に取った方が勝ちというルールで行なっている様だが……どれだけ雪玉に当たろうがリタイヤなし。本人に戦う意志があればずっと続けられる。みたいな感じの様だ。

 既にリタイヤしているのはヴラドの所に居る奴隷の子供達、相当雪玉に当たったのか寒そうにしている。

 ちなみに中心には炎の小型モンスターが鎮座しており、みんなを温めている。


 そして元気に遊んでいるのは彼らが育てモンスターの子供達と、ヨハネ達の所に居た獣人やエルフの子供達。どうやらアルカディアに居る子供達とヴェルトの背中の上で生活している子供達で分かれて戦っているらしい。

 それにしても……雪玉を投げる速度や威力が半端ない。そんな剛速球俺絶対投げれねぇぞ。今すぐメジャーにでも行ってこい。


 更に少し離れた所にはヨハネとヴァルゴがモチをついてる。

 どうやらあっちは子供達が冷えて戻って来てもいいように温かい物を用意していた様だ。お雑煮の他にお汁粉も用意している所を見るとモチ系が人気の様だ。

 とりあえず俺は1番安全そうな料理班の所から声をかける。


「餅つきうまくいってるか?」

「親父。こっちは問題ないぞ」

「思っていたよりも簡単ですから」


 それはね、2人の息がぴったりだからだと思うよ。

 ヨハネが杵でモチを衝く。そしてヴァルゴがモチをひっくり返すタイミングも絶妙なのだよ。

 俺の場合1人だったから倉庫の奥にしまいこんでたしね……ひっくり返してくれる相手もいないし、俺の力じゃそんなに美味いモチが出来なかった。

 やっぱりある程度パワーが必要なのかね?


「お前らは本当に仲がいいな」

「2000年間一緒だからな」

「夫婦になってそれなりになりますから」


 この言葉も昔を思い出すとありえない。気が合うとか仲が良いというたびに2人共全力で否定していたと言うのに……時間の流れはここまで変わる物か。

 そして他の獣人達はみんなでお雑煮の準備、ガブリエルを筆頭に天使達がお汁粉を作っている。


「ってガブは相変わらずお菓子系か。お汁粉がお菓子系に入るのかどうか分からないけど」

「甘いものは私が担当なので」


 良い顔するな~。そしてぐっと親指立てるな。


「作るのは良いが食べ過ぎて太ったりするんじゃないぞ」


 そういうとガブリエルの手がピタッと止まった。

 そして油の切れたロボットの様なぎこちない動きで俺に振り返る。


「ふ、太る訳ないじゃないですか。私はいくら食べても太りにくい体質なので」

「本当にそういうセリフ言う人初めて見た。でもお前の翼、前より大きくなってないか?」


 よく分からない天使の性質。

 天使が最も先に太るのは胸とか尻とか女性らしい部分や、分かりやすく腹などに肉が蓄積される事はそんなにない。

 ではどこが太るかというと翼だ。

 翼が太るという表現も少し違う気がするが、翼に蓄えられる羽の量が増える。そのため太ると翼の羽が増えるという現象が起こり、飛行した際にいつもよりも速度が出ないという事態になるのだ。


「そ、そんな訳ありません!!ついこの間の戦闘でかなり消費――は!?」

「やっぱ太ってたんだな。しかもこの間のヴェルト出産のときに痩せたと」


 俺の言葉にガブリエルはお玉を鍋の中に入れた後に両手両足を雪の上に付けてうなだれた。

 効果は抜群だ!!


「親父。今の親父じゃなかったら殴られてるぞ」

「そうです。女性に言う時はもっとオブラートに言わないとダメです」


 ヨハネとヴァルゴがそう言い、女性型天使達があわあわする。


「でもさ、太ってるって正直に真正面から言わないと絶対痩せようとしないだろ。普段から菓子作りで色々食ってるんだからさ。そこから更に普通の飯も三食しっかり食べてる訳だし、太らない方がおかしいだろ」

「がふ!!」

「それでも周りの天使達はみんな黙っていたんですよ」

「げふ!!」

「そうだぞ親父。たとえみんな分かっていたとしても自分で気付くのが重要なんだ」

「ぐはっ!!」


 俺達のセリフでガブリエルが吐血するような姿で重傷を負っている様に見えるが……これぐらい言わないとダイエットするとは思えないから放っておこう。


「ふ、ふふふ、ふふふふふふ。ダイエット、そうですかダイエットですか」


 ……あれ?天使なのに真っ黒なオーラが見えるよ?

 堕天使なんてモンスターは存在しないはずなのに、何となく翼や天使の輪が真っ黒になっている様に見えるよ?

 ガブリエルは幽鬼のような力が抜けている様な感じなのにしっかりと立っているというちょっと不気味な感じで立ち上がった。


「なら私が太ったと気が付いていた方々にも協力してもらいましょうか……全員強制参加です……」


 有無を言わせる気のない雰囲気!!

 普段ならあり得ない笑い方をしてものすごい気迫を発しながらガブリエルは言う。


「それじゃせっかくですしみんなで雪合戦をしましょうか。子供達がお雑煮やお汁粉を食べている間に私たち大人の番としましょう……みなさん。手伝ってくれますよね!!」


 あ~。これ完全にやらかした。

 ダイエットを決意してくれたのはいいけど、家族を巻き込んだダイエットって絶対悪い方向に行きやすい。なんとなくそんなイメージがある。


 そんな大人達に全く気付かずやってきたブラン達。

 大人達の雰囲気から何か異様な空気を感じた子供達は何事かとその場であちこちを見渡す。


「ブラン様。こちらにあるお汁粉とお雑煮で身体を温めて下さい。好きによそって好きに食べていいですよ」

「えっと……良いの?いっぱい食べちゃうよ?」

「大丈夫ですよ。私達もこれから雪合戦をしてきます。その間食べて待っていてください。行きますよ」


 こうして俺達大人組は雪合戦ガブリエルのダイエットに付き合う事になった。

 その内容はちゃんとしたチーム分けもなく、突然ガブリエルが怒りを爆発させたリタイヤも勝利条件もないただのバトルロワイヤルであった。

 一応相手に直接攻撃したのは雪玉だけという点だけは、感謝した方がいいのかも知れない。

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