子供達がいるかもしれない情報
果樹園を造る事に成功した後、俺は城で王様達に褒美は何が良いのか聞かれていた。
「ドラクゥルよ、褒美は何がいい。誓いのバラの開花方法の確立、ヴェルト様の産卵の手伝い、果樹園の創作、貴殿の成果はあまりにも多過ぎる。故に我々に出来る事であれば何でも言うがよい」
王様は堂々とそう言った。
それに対して俺が欲しい物は何かと聞かれると、思い付いたのは1つだけである。
「それなら俺の家族に関する情報が欲しいです。どこかで特殊な魔物の話を耳にした事はありませんか」
こんなとてもあやふやな願いだけだ。
もちろんブランも俺のその願いを聞いてくれているのでホワイトフェザーの情報部とでもいうべき場所が子供達と思われる情報も集めてくれているが、今のところそれっぽい情報はないらしい。
なのでこの冒険者が多く集まるこの国ならちょっとした情報ぐらいはあるのではないかと聞いてみたのだ。
この願いに対して考える王様と女王様。
俺の家族、かなり特殊で強いモンスターで思い当たる節はないかとか聞いてみたが、やはりないのかと残念に思う。
「1つ、いえ2つはもしかしたら程度の可能性はございます」
「え」
意外な事を言ったのは女王様の方だ。
でも念を押すように女王様は言う。
「ただしこれ本当に可能性です。ドラクゥル様の御家族である可能性がある特殊な魔物、と言っても本当に特殊と言うだけで実際にドラクゥル様の御家族であると確約する事は出来ませんがよろしいでしょうか」
「お願いします!その種族は、彼らはどこにいますか!!」
俺がそう叫ぶと女王様は手を叩いて何かを用意させる。
騎士の人達が持ってきたのは大きなテーブルと1枚の紙だった。
おそらくこの世界で使われている羊皮紙と言う奴だろう。俺が使っている紙とはだいぶ印象が違う。
王様と女王様は下りてきてこの紙を俺に見せる。
「こちらは大昔からあるSSS級クエストの依頼書です。冒険者に依頼するクエストにも魔物にランクがある様に、ランクが付けられています。そしてこの依頼は1000年間誰も依頼達成をする事が出来なかった依頼となります」
「1000年前の依頼書、ですか」
1000年間誰もクリアした事のない依頼とはどんなものかとか依頼のタイトルを読むと、『ゴブリン帝国の崩壊』と書かれていた。
「ご、ゴブリン帝国、ですか」
「冒険者達には世界最悪のダンジョンとして知れ渡っています。文献によれば最初こそただのゴブリンの村かと思ったらホブゴブリン達が町、それどころか国を造っていたという話です。何度かどこかの国がその広大な土地を奪おうと戦争を仕掛けたそうですが、全て敗北。ゴブリンとは思えない知略と策略、いつの間にかその土地はゴブリン達のための国となり、人間の国はもう誰も手を出さなくなりました」
「1000年間無敗のゴブリンの国、という事ですか」
「はい。人間や我々獣人やエルフであっても1000年間無敗という事実は脅威です。誰もそこまで守り通した国は神に守られてきた六大大国以外ではありません」
確かにブランやノワール、ヴェルト達に守られてきた最低でもこの3国以外ではかなり厳しい事だろう。何か特殊な事情や地形などが関係しない限り地続きの国で守り続けるのは難しいと思う。
でもそうなるとやっぱりまだ行っていない六大大国も怪しいんだよな……
「なるほど。確かにそれだけ強くて知力があるとなると俺の子供である可能性が高いですね……」
「実を言うとゴブリン帝国は秘密裏に友好的な関係にある里が多く存在する。里と言っても全て魔物の里で、我々獣人族の中でも特に野生に近い者達などと取引をしているとの噂も存在する。あ奴らはその知識を使って他の魔物に近い種族たちから信頼を得ている。それもまたゴブリン帝国に手が出せない理由でもある」
「獣人の中でも小さな里で暮らしている人達も居るんですね」
これはあくまでも俺の勝手な想像だが、彼らこそが本来あるべきこの世界の魔物なのではないだろうか。
自分自身と子供達の事をこのように言うのは嫌だが、俺達はこの世界から見れば外来種だ。文字通り異世界からやってきた外来種。
SFだったらこれだけで超大作が書けそうなぐらい大規模な話になりそうだ。
だが俺の子供達は侵略などはせず、この世界の住人達とうまく付き合って生きている。だからこそ異世界の外来種として大戦争にはならなかったのだろう。
「そうだ。もしや他の獣人達も我々の様に生きていると思っていたか?」
「正直に言うと、はい。このグリーンシェルはそういった方々が多くいる国だとばかり思っていたのです」
「もちろんそういった面もあります。小さな里から出てきた獣人や亜人と呼ばれる我々エルフの様な者達が最初に来るのはこの国ですから。彼らはみな天性の狩人たちが多い。弓や己の爪と牙、時に剣などを使い魔物を討伐して生きていきやすいのはこの国ですから」
「さらに言うと人間の中には邪な者もいる。特にエルフのような長い時間若い姿を保ち続ける種族となると奴隷にし、悪逆の限りを尽くしていた歴史も存在する。故に獣人である我と、エルフである妻が治めるこの国は里から出てきた者達にとって来やすい国でもある」
やっぱそういうクソな歴史はテンプレなんだな。
でもそうなるといきなり俺がそのゴブリン帝国に向かうのは結構危険なのではないだろうか?
いざという時は子供達に護衛されながら行くしかないか。
「もう1つはアビスブルーの神が怪しいかと思います。あまりよくない噂と共に」
「あまりよくない噂と言うのは?」
「アビスブルーで悪事を働いた者は巨大な神の手によって深海に引きずり込まれる、と言う噂です。こちらも真偽は判明していませんがこちらも何か関係があるやも」
神様の手で深海行きか。それは恐ろしい事だ。
「しかしアビスブルーは移動する海上都市です。この大陸に来るのは年に数回ほど、1度搭乗する事が出来ないと次回までとても時間がかかります。しかも同時に貴族や王族向けの観光都市でもあり、必ず他の者の招待がないと搭乗できません。そのため購入した機材などは全てアビスブルーで作られ、その製作過程は誰にも分かりません」
「謎の多い海上都市、ですか。一般の人は本当に行けないんですか?」
「行けないな。アビスブルーで注文した品は全て大陸に来た際に取引される。そのため買取に来た商人なども海上都市に足を踏み入れる事は出来ないのだ」
秘密主義……なのかも知れない。
情報もろくにないようなので行って調べてみる事しか出来ないな。
でも誰かの招待がないといけない。あれ?これ詰んでね?
「なので次回のアビスブルーに行く際我々がドラクゥル殿を招待し、アビスブルーに乗れるよう手配しておこう」
「え、良いんですか?」
「これぐらい構いませんよ。というよりはこれぐらいでしかお役に立てることがないと言えます。今回のお礼はアビスブルーへの招待という事でよろしいでしょうか」
「ぜひ、よろしくお願いします」
俺はそう頼んだ。
満足そうに頷く王様と女王様は続けて言う。
「次にアビスブルーが来るのは春先だ。それまではどうする」
「それでは少しここに残ってゴブリン帝国に付いて調べてみようと思います。その後にアビスブルーという事で」
「承知した」
こうして俺はゴブリン帝国と、アビスブルーの情報を得たのだった。




