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果樹園、実りました。

「果物狩りじゃー!!」


 花が咲いてから5日後、全ての木に実が生ったので果物狩りである。

 まだまだ寒い時期ですが、ゲームチートのおかげで早くも収穫出来るとは本当に生産チートだよな。

 お城の人達と収穫をし、出来たばかりの果物を丁寧に収穫するのは女王様直属の研究チームとその部下達らしい。まずは生産した後にこれからどんな風に品種改良をするのか、どんな弱点があるのかなど調べるのだという。

 そして俺は当然1部の柔らかい桃などの収穫について教えていた。


「こんな風に熟して自然と落ちてくるタイプは今回みたいに袋か何かに事前に包んでおくと収穫が楽なんだ。今回植えた物だと桃しかないが、これから先熟して自然と落ちるタイプは似た様な感じがいいぞ」


 そう言いながら袋の紐を緩め、自然と落ちた桃の状態を確認してから木箱にしまう。

 当然木箱の下には柔らかい布が敷いてあり、紙で包んだ状態でもそのまましまっても大丈夫な様になっている。

 そんな事を必死にメモを取っているのも研究者達。今はまだ収穫量が少ないので研究用にして、これから先安定して作れるようにするのが第一目標らしい。


 そしてそんな収穫を手伝っているのが若葉。

 俺の所に就職するのでこういった事を自分から学ぼうとしているのだから俺とは全然違う。

 そんな若葉の様子を見て俺は声をかける。


「若葉、手とか大丈夫か?」

「ドラクゥルさん。これでも冒険者をしているのでこのぐらいへっちゃらですよ」

「あのな~。俺みたいなおっさんとは違うんだから、若い子は手とか気を付けろよ。ガブリエルとかが使ってるハンドクリーム、あれドクターに頼んで若葉の分も作ってもらってるから」

「そんな……今でも十分いい暮らしをさせてもらっているのに悪いですよ」

「俺はそんなつもり全くないの。それに元々向こうに住んでたんだから、普通はまだ働く必要なんてないだろ」

「でもこの世界の私ぐらいの子達はみんな普通に働いているんですよね……そう思うとちょっと複雑で」

「まぁ……な」


 この世界の子供達、元の世界でいう所の小学校高学年あたりから働いている子は働いている。若葉のように冒険者だったり、どこかの店だったり、職人の所だったりと色々だ。

 俺の家は多分裕福な方で、バイトは大学生になってから初めて飲食店でバイトをした。その後大学を出て就職、あまりいい職場とは言えなかったがズルズルと可もなく不可も無くという状態を維持し続けていた。


 そんなのんびりと生きてきた俺にとって、突然中学生が生きていくために仕事をしなければならないだなんてありえない。

 まだ大人に甘えていていいはずだ。まだ守られるべき子供だという感覚の方が強い。

 確かにこの世界では働いていてもおかしくない年齢かも知れないが、俺達は異世界から来たのだからそちらを基準にしてもいいはずだ。


「でも俺達は突然この世界に飛ばされて来たんだ。無理する事はないからちゃんと疲れたりしたら言うんだぞ」

「ありがとうございます……でも居候って言う奴ですし、ドラクゥルさんも手伝って欲しい事があったら言ってくださいね」

「その時は頼りにさせてもらうよ」


 あまり中学生を働かせる様な真似はしたくないが……本当にどうしようもない時に力を借りよう。


 そう思いながら収穫を続けるが、やはりどれも品質は普通。個人的にうまくいったとは言い切れない。

 もちろんここがアルカディアではないのだから当然と言えば当然なのかも知れないが、それでもずっと最高品質を作り続けてきた身としては少し気に入らない。

 ここから更に品質を向上させるためにどうすればいいのかを考えなければならない。


「お父様。みな様と一緒に休憩しましょう」


 そう言いながらガブリエルが果樹園の端の方に置かれた簡単なテーブルとイスが用意されていた。

 そこには既に王様一家と若葉が座っている。

 他の女性型天使達にお茶の準備をしていたようで、あの空間はとても優雅な雰囲気が出ている。


「そうだな。休憩するか」

「はい。本日のお菓子はフルーツタルトです」

「今日も美味そうだな」

「せっかく果樹園が出来たのですから、フルーツをふんだんに使った物がよろしいかと思いましたから」

「なるほど。どうせならタルトの上の果物みたいにここの果物も美味しく出来るといいんだけどな」


 そう言いながら俺も座る。

 ガブリエルがカットしてくれたフルーツタルトに目を輝かせているのは女性陣。王様は何だか苦笑いをしている様に見えた。


「何か苦手な果物でもありました?あ、キウイとか酸っぱい系苦手でした?」

「そうではなく、これほどのフルーツを使っているとなるとどれだけの価値になるだろうかと思っていただけだ」

「そんなの気にしなくていいんですよ。どうせ家で取れた物なんですから」


 やはりこの世界で果物はかなりの高級品扱いの様だ。

 確かにガブリエルが用意したフルーツタルトは俺から見てもかなりの果物を使っているのは分かるので、贅沢に使ったな~っとは思うがそれだけだ。


「でもこれ本当に贅沢ですよね。桃とかぶどうとかいっぱい使ってるじゃないですか」

「ふふふ。お父様の果樹園で取れた物です、全ていい物を使っていますからとてもおいしいですよ。それから他の方々にもご満足いただけるよう多く作りましたから、他のみなさんも是義お楽しみください」


 ガブリエルの言葉に研究者のみなさんも喜んでいる。

 それによく見てみると研究者は女性の方がわずかに多い。かなり興奮している様なので大盛り上がりだ。


「……私の分、ある?」


 そう言ってひょっこり現れたのはヴェルト。

 どうやらフルーツタルトの匂いにつられて現れたらしい。


「ガブ、あるか?」

「ありますよ。ヴェルト様には贅沢にワンホールです」

「……ん」


 それを受け取るとヴェルトはゆっくりとどこかに向かう。


「ヴェルト?一緒に食べないのか??」

「……薄緑、黄緑、待ってる」


 そう言って果樹園の中心に向かって行ってしまった。

 それにしても薄緑?黄緑?


「ヴェルト様のお子様のお名前ですよ。先日お決めになったそうです」

「そうだったんだ。それにしても……俺が色にちなんで名前を付けたからって、ヴェルトも同じようにしなくていいのに」


 そう言いながら俺はタルトを口に含んだ。

 結構甘めかと思ったが、甘酸っぱいベリー系やほんのりと苦みのあるグレープフルーツが甘いだけではなく、スッキリとした味わいも与えてくれる。そして桃やブドウ、マスカットなど強い甘みが来るのもかなり美味い。

 でもこれってさ……


「これうちの最高品質使ったな、ガブ」

「普段お家で使っている物をお使いしましたが、ダメでしたか?」

「ダメって事はないが……こっちの人達にとって刺激が強過ぎるんだよな……」


 ぶっちゃけ美味過ぎる食材と言う物は様々な形で問題を起こす。

 実際目の前にいる王様家族が目を見開いている。


「これが神の住む世界の果実か……」

「これほどの甘み、どのようにすれば引き出せるのでしょう?」

「ここの果樹園でも同じぐらい美味しいの食べれるのかな!?」


 レオの一言が年相応のセリフでホッとする。

 そして他のテーブルでは女性陣によるタルトの争奪戦が始まってしまった。運悪く同席した男性職員はその気迫に押され、自分のタルトを差し出す事で無事を確保している。

 そうでないものはさっさと食べてしまうか、1部の強い女性に奪われてしまっていた。


「ドラクゥルさん。やっぱりドラクゥルさんの能力ってチートだよ。食べ物でこの世界の覇権取れちゃうんじゃない?」

「それこそ大袈裟過ぎるって。確かに味に自信はあるが覇権とか取ったところでどうすりゃいいのか全く分かんねぇよ」


 果物で覇権を取るとかどうすりゃいいのかさっぱり分からない。

 栽培王に俺はなる?


「お兄さん!ここでもこれぐらい美味しい果実食べれるのかな!?」


 レオの期待した質問に対して俺は素直に答える。


「今すぐは無理だろうな。でもその内作れるようになるだろうさ」

「その内ってどれぐらい?」

「それは……レオ達の頑張り次第だな」


 ゲームで使用している物と全く同じ品種なのだから努力次第では到達する事が出来るだろう。

 俺のあいまいな返答ではあったが、そのうち同じように美味い果物を食べれるようになると思ったからか、元気にレオは言った。


「それじゃお兄さんに負けないぐらい美味しい果実が作れるように頑張る!!」

「ああ、それでいい。美味い物が食えるっていうのは幸せな事だからな」


 そう言ってタルトに使っていた粉砂糖が付いた口を拭いてあげるのだった。

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