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果樹園、花が咲く

 木が育ってから3日後、まだまだ小さいけれど花が咲き始めた。

 それを確認した俺はヴェルトの森から連れてきたフクロウのための小屋を作り、居心地がいいか確認してもらう。


「こんなもんでどうだ?」


 日曜大工程度の腕しかないけど一応小さな小屋ぐらいは作れる。

 それに穴を空けるための道具などはアルカディアに揃っているので作業そのものはとても簡単だ。仕上げに紙やすりでとがったところを丸くし、フクロウに確認してもらう。

 フクロウは小屋の中に入って色々と確認した後、どこかに飛び立った。


「それで、あのサイレントオウルは巣箱を気に入ったのか」

「恐らく。これから更に住みやすくするために材料を取りに行ったんじゃないですかね」


 今日は国王と一緒に居た。

 つぼみが出来た段階からとあるモンスターを育て、その設置場所などを相談するために呼んでおいたのだ。

 正直に言うと呼んだというよりは興味深そうにいつの間にか来ていた、の方が正しい。


「それにしても、貴殿の方法はどこまでも自然の力を利用した飼育方法ばかりだな。我々はこういったやり方はまだ馴染みがない」

「その方が普通だと思います。普通は虫に食べられない様に農薬を撒いて、獣が来てもいいように罠を設置したり柵を作ったり。その方が一般的だと思いますよ」

「だがその人の手だけで行なおうとしてきた結果が誓いのバラが咲かない理由でもあった。やはり我々は自然の力にはどうやっても届かないという事なのかも知れないな」


 王様が何か悟った様な事を言う。

 でも俺はあくまでもゲームで得た知識でしか行動をとった事がない。むしろ農薬などを使った場合のメリットなどを全く知らない。

 今度その辺りの本とか読ませてもらおうかな。


 そう思いながら俺はフクロウの小屋を適切な場所に立てかける。

 ここで良いかな~っと思っているとフクロウは戻って来てすぐに小屋に入って巣作りを始める。

 場所も問題ないようなので何より。

 それじゃ次だ次。


「えっと……この辺でしたっけ?」

「ああ。この辺りだ。それにしても本当に危険はないのだな?」

「ぶっちゃけるとあまりないが正しいです。知能は俺が一から育てたので高い方ですけど、危険だと判断すれば襲ってくるのは当然の事なので」


 そう言って果樹園の隅っこに俺はとあるモンスターが入った木箱を置いた。

 全部で合計4つ、全て同じモンスターだが温厚な種族なのであまり問題はないのだが……1部面倒な防衛機能があるので問題が全くないとは言い切れないのだ。

 そしてこのモンスターはこの世界でも有名なのか、国王は木箱から出てきたモンスターに顔をゆがませた。


「まさかアーミービーか」

「こっちでも有名ですか?」

「当然だ。この蜂には2つの名がついているほどだ。1つは“湧き出る黄金”、もう1つは“殺戮蜂さつりくばち”」

「殺戮の部分は分かりますけど、湧き出る黄金?」


 アーミービー。

 DとB~Aランクの蜂型モンスター。

 このあいまいなランクに関して説明すると、まず普通に花の蜜を集めるミツバチのランクはDであり素早いだけで脅威とは言えない。蜂特有の毒針も持っていないので攻撃するとすれば強い顎で噛むだけなのでそんなに危険はない。

 Aランク扱いされているのは女王蜂。女王蜂は1度交尾すれば寿命を迎える寸前までアーミービーを生み続けるのでランクは最高のAとなっている。基本的に巣の中で子供を産み続けるのが仕事なので単体では脅威とは言いにくい。

 それではなぜこれだけ色んな人に恐れられているのかというと、それは兵隊蜂とでもいうべき蜂たちのせいだ。


 この兵隊蜂達は主に巣の周辺を守っているので巣に近付かなければ出会う事はない。

 ただ蜜を集める普通のアーミービー達や、戦う事の出来ない女王蜂の代わりに戦闘に特化しており、非常に凶暴で攻撃性が高い。

 最大の特徴はその速さ。

 眼で追う事の出来ないほどのスピードで巣を攻撃しようとする愚か者に対して容赦なく毒針を突き刺していく。毒針に関しても1度使ったらそれっきりという事はなく、何度だって使用可能だ。

 更に兵隊蜂同士で連携も取ってくるので1匹でも大変なのに集団で襲われたら絶対に殺されてしまう。


 恐らくその凶暴さと攻撃力の高さから殺戮などという物騒な名前が付いたのだろうが、湧き出る黄金という所に身に覚えがない。


「湧き出る黄金というのはアーミービーの蜜の事だ。人間には採取不能とまで言われているために、1滴で金1枚と同等の値段が付けられたほどの高級なハチミツだ。そしてこのハチミツを狙う物の事をバカにすることわざまで生まれたほどだ」

「なるほど。確かにハチミツは黄金色ですからね。それにしてもそんなに価値があったんですね」


 置いた木箱からミツバチが飛び出し、咲いたばかりの花に向かって蜜を集めに行く。

 個人的にはミツバチは可愛いし、兵隊蜂はカッコイイと思うんだがこの世界の人達にはそんな余裕ないだろうな。

 ちなみに今回はこの子達の女王蜂を卵から育てた訳だが、かなり運がいいと言える。

 何故運がいいと言えるか、それはアーミービーは風属性のモンスターだからだ。


 俺はてっきり土に関係するモンスターしか生みだす事が出来ないと思っていたのだが、ヴェルトの背の上で死んだ風属性のモンスターがいたらしい。

 そのおかげなのか風属性のモンスターもまた生み出せるようになったのだ。


 1匹のミツバチが俺の手の甲に止まり、花粉を集める様な仕草をするがくすぐったいだけだ。

 何か花粉がくっ付いていただろうかと思ったら、またすぐにどこかに飛んでいく。


 そして巣を守るために兵隊蜂達も木箱の周辺を飛び始めた。

 これ以上近くに居るのは危険だと判断した俺達は直ぐ様に撤退する。

 危険な蜂ではあるが逃げる相手に襲い掛からないのだけは助かる。本当に良かった。


「しかし……アーミービーがいるとなるとあのあたりに関しては立ち入り禁止の看板を立てておかないといけないな。いや、それでは不十分か」

「絶対に安全と言える距離はだいたい3メートル以上ですね。それ以上近付いたら……自己責任で。あと泥棒とかが来たらどうします?ハチミツ泥棒」

「……“アーミービーのハチミツ泥棒”か。ことわざでは『無謀な事をする者』という意味だ。それこそ自己責任で構わないだろう」

「……ちなみにアーミービーのハチミツを安全にとる方法、お教えしましょうか」

「……そんな方法があるのか?」


 王様は半信半疑という様子で俺の言葉に耳を傾ける。

 俺はわざといやらしい笑みを浮かべて手もみをしながら言う。


「ええ。おそらくこの世界では俺しかアーミービーを人工的に飼育した事がないからでしょうが、彼らはある時期になると集団で引っ越しをするんです。その時に巣に残ったハチミツは巣ごと回収できるんですよ」

「アーミービーの引っ越し?ある時期とはいつだ」

「それに関してはタイミングが結構難しいんですが、単に巣がこれ以上大きくする事が出来なくなった場合です。あの木箱に収まらないほどの巣の大きさになると自然と引っ越します。そして自然と古い巣を捨てて、新しい所で巣を作るんですよ。もちろん飛び立つ前に新しく大きな巣を作ればそこに巣を作るでしょう」

「そんな方法があったのか?」

「はい。ですのであの木箱が小さくなって引っ越すサインは女王蜂が巣から出てくるようになる事です。新しい巣を作るのも女王の判断ですから、女王蜂が自ら新しい巣を作る場所を見付けるんですよ」

「女王蜂の特徴は」

「簡単に言うと、大きなミツバチですね。本当に新しいミツバチや兵隊蜂を生む事に特化していますから戦闘能力はないんですよ。飛ぶのも大きいせいか兵隊蜂ほどではありませんが、当然女王蜂を守る兵隊蜂が一緒に行動するので気を付けてくださいね」

「承知した。まさかアーミービーのハチミツを取る方法が存在していたとはな」


 王様は何度も関心するように頷いた。

 生物の生態を知ればいくらでもやりようはある。俺はただそれを知っていただけだ。

 今度女王とレオにハチミツでもおすそ分けした方がいいかな?

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