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ヴェルトが土に戻るまで

 ヴェルトの産卵から早3日、現在のヴェルトはアルカディアで作った野菜をもりもり食っている。


『……美味しい』


 ヴェルトほどの巨体になると野菜の消費も激しいのだが……倉庫に溜まってた分食い尽くすんじゃないか?と言う勢いでもりもり食べる。

 でも好き嫌いはないので色んな野菜を与えているので問題はない。偏食だったら大変な事になってたけど。


 そんな俺達の様子を遠目に見るのがグリーンシェルの人達。遠目と言ってもこの巨体な訳だからどこにいようがはっきりと見える。

 ヴェルトが食事をしている姿を見ている訳だが……見ていて楽しくもないだろうに。

 だってヴェルトはうちの野菜食べてるだけだぞ。それに嬉しい誤算として食べる量は昔とそんなに変わらない。最上級の野菜であればレタス20玉か食べさせれば満足する。

 これだけの巨体でレタス20玉で満足すると言うのも奇妙な話ではあるが。

 ヴェルトはのんびりと食べていると、ふと思い出したように言う。


『……私の子供、どうなった?』

「今孵卵器の中で温まってるよ。ブランとノワールが言うにはもうすぐ生まれると思うって」


 孵卵器も最上級の物を使っているので卵の中に居る状態で会ってもある程度調べる事は出来る。

 例えば病気にかかっていないかとか、例えば卵の中の心音がおかしい点はないか、みたいな事を調べる事が出来る。

 機材での判定も良好だし、ブランとノワールからも大丈夫だと言われた。


「予定では今日明日中にでも孵りそうだって。今はブランが熱心に見てるし、孵ったらすぐ知らせてくれるよ」

『……そう。次、トマト』

「へいへい」


 そう言われて俺はヴェルトの口の中にトマトを5個放り込む。口を閉じで食べている姿だけは昔と一切変わらない。

 平和ではあるけど今後はどうするんだろうな~っと俺は思う。

 俺個人の目標としてはうちの子供達全員をアルカディアに帰す事が目的なのだが、ヴェルトが家に帰って来たらグリーンシェルは大混乱になってしまうだろう。ダンジョンの消失、そして崇めていた世界樹がなくなると言う事は俺が想像している以上の大損害になるのは目に見えている。

 なので俺は聞いてみた。


「ヴェルト。お前はどうする?アルカディアに帰るか?」


 俺はそう聞くとヴェルトは少し空を見てから再び俺の事を見た。


『……残る。約束した』

「約束?」

『……ん。前に守ってほしいって。見守ってほしいって言われた』


 誰とそんな約束したのか分からないが、多分グリーンシェルの当時の王様とかだろう。

 これからもヴェルトがグリーンシェルに残ると聞いて他の人達は安心した様だ。

 そこに突然空間に穴が開いたかと思うと、なぜか荷車を押しながらブランがやってきた。


「パパー!ヴェルトお姉ちゃんの赤ちゃん生まれたよ!!」

「お、マジか。見せてくれ」

「ほら、この子達だよ」


 そう言って見せてくれたのは台車に乗っている亀。背中の木はまだ小さくて盆栽ぐらいの大きさ。それが並んで2匹いる。


「ってあの卵からこんな小さな亀が生まれたのか?いや、十分ゾウガメの大人サイズではあるんだけど」

「でも孵卵器から出てきた時はこの大きさだったし、こう言う物なんじゃない?」

「それ言われるとどうしようもないが……とりあえず台車から降ろすか」

「あ!ちょっと待って!!」


 そうブランが言う前に持ち上げようとすると、めっちゃ重い!!

 え、この子達何キロぐらいあるの!?数センチようやく浮くぐらいにしか持ち上げられないんですけど!!


「その子達の重さは100キロ。小さい分余計に力がいるから腰とか悪くしないでしょ」

「それ、先に言って……メチャクチャ、大変なんですけど……」


 力込めながら話すのもやっとなぐらいで、俺はようやく1匹をそっと地面に下ろす事が出来た。

 たった1匹を下ろすだけでもかなり疲れた……もう1匹はどうしようかと思っているとブランが下ろしてくれていた。正直めっちゃ助かります。

 子亀2匹はゆっくりヴェルトに近付き、鼻先をヴェルトの顔にくっ付けた。

 それを見て、感じたのかヴェルトの表情はさっきよりも緩んでる様な気がする。もっと簡単に言うとデレデレになっている気がする。


『……可愛い』

「それでどうする?この子達アルカディア(うち)で育てるか?それともグリーンシェル(こっち)で育てる?」


 そう聞くとヴェルトは少し悩んだ表情をしてから言った。


『……任せる。でも、たまに会いたい』

「大丈夫だって。この子達も穴は開けられるようだし、いつでもこっちに来れるよ。それにヴェルトがもう1度土の中に潜るまでは一緒に居るつもりだし」

『……ん』


 その一言に安心したのか、ヴェルトは子亀たちとじゃれ合いながらのんびりと過ごす。まぁじゃれると言っても子亀が鼻先でヴェルトの事を突っついたり、身体をこすり合わせるだけだが。

 のんびりとその光景を見ていると国王と女王、そしてレオがやってきた。


「ドラクゥル殿。この度は神の産卵に立ち会っていただき感謝する」

「感謝いたします」

「お兄ちゃんありがとう!」

「おう。それにヴェルトが本当に病気などではないと分かっただけ良かったとも言えます。これからは定期的に様子を見に行きますのでその時に何か気が付いた事があれば仰ってください」


 と言ってもまずはヴェルトがまた土に戻るまで経済的な面や、閉鎖しているダンジョン、そしてヴェルトが動いた事により崩壊してしまった地下ダンジョンについての話し合いなどもある。

 元々魔物がヴェルトを狙って掘ったトンネルだから潰れても問題ないのだが、そこから侵入してくる魔物を倒す冒険者の収入がとても減った。さらにこの間のヴェルトの攻撃により魔物がビビって顔を出さなくなったのだからさらに大変。

 こういった事により冒険者達は色々と困っている。

 それをどうにかするのもヴェルトの親である俺の役割なんだろう。


「しかし……ヴェルト様が作り出した土を利用して何をするおつもりで?」

「ただの肥料にするつもりですよ。あの土はヴェルトが倒した魔物達の亡骸なきがら、もしかしたら肥料にすればいい土になるんじゃないかな~っと思いまして。それから本当にやるつもりですか?」


 俺はそう女王に確認を取る。

 実は経済回復にアルカディアで育てている果物、それらを作りたいと女王から要望が出たのだ。

 今回の事により、ダンジョンだけの経営では今後持たないと昔から予想はしてきたが、ではこの国の特産はダンジョンで取れた薬草や魔物の素材の他に何がある?っと聞かれると答えられなかったらしい。

 なのでいっその事1から始めようと言う事になり、俺がレオに食べさせたリンゴやその他もろもろの果樹園を作りたいと相談されたのだ。


「はい。今回の事でとても強く自覚いたしました。我々グリーンシェルはダンジョンに、ヴェルト様に頼りきりだったのです。ヴェルト様に寄ってくる魔物を倒すだけではこのような時に我々は無力になりました。なら今後はそのような事にならないようにいい加減自分達の足で立ち上がらなけらばならないのです。それでもまたドラクゥル様の手をお借りするのもまた、お恥ずかしい話ですが」

「何をするにしても誰だって一番最初は誰かに教えてもらう物なんですから恥ずかしい事はないですよ。ただ果樹園を作るとなるとそれなりに広大な敷地が必要です。それから四季折々の果物をどれをどれだけ作りたいのかにもよります。幸い俺が作っている果物は丈夫な物が多いので多少の事で枯れたりはしないでしょうが」

「何から何までありがとうございます。敷地や今後の運営に関してはおまかせください。すべてドラクゥル様に頼るほど恥さらしではありません」


 そこまで気負う必要はないと思うんだけどな……いや、女王としては当然の発言なのか?どこかの民間企業ならともかく、国が運営すると言う事は俺がイメージしている物とは違う事だろうし。


「冬でも食べられる果物食べれるの!?」


 レオが俺のズボンを掴みながら聞いてきた。

 さっきまで子亀と一緒に居たのに飽きて戻ってきたんだろう。

 俺はしゃがんでレオの頭を撫でながら言う。


「う~ん。それは早くても来年の冬からかな。でも1年中色んな果物が食べられるようになるのが目標かな」

「それって凄いね!!でもレオ達に出来るかな?」


 子供なりに1年中果物が食べられると言う事は難しいと察しているんだろう。

 この世界では果物はかなりの高級品なのは輸送手段だけではなく単に育成するのが大変だからだ。

 理由は色々あるだろうが、1番の問題は魔物だろう。果物の甘い香りに引き寄せられて現れる魔物の対策が大変だそうだ。元の世界でも猿が木を荒らしたとか、猪が作物を勝手に食べたとかそういう類と一緒と言う訳だ。

 それが元の世界よりも断然巨大な魔物が現れるのだから対策がさらに大変なのは俺でも想像は容易だ。

 ま、そこをどうにかするのが俺の仕事な訳だけどな。


「出来るように知恵は貸す。問題はその後続ける方だと俺は思うが、レオは頑張れるか?」

「うん!美味しい果物食べれるように頑張る!!」

「それでいい」


 そう言ってからレオの頭を撫でた。

 そして改めて国王と女王に向かって言う。


「俺なんかが役に立てるなら頑張りますよ。果樹園、成功させましょう」

「ああ」

「はい」


 こうしてお国による果樹園作りが計画されたのである。

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