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森の現状

「この度は森の民の村にお招きいただきありがとうございます。グリーンシェルの王族として感謝いたします」


 レオがグリーンシェルの王族として森の民の最長老と言われているヨハネとヴァルゴに挨拶をする。

 2人は堂々とした物で、確かに年季の入ったいい顔つきになっていた。そして周りの他の長老と呼ばれている子供達は黙って俺とブラン、ノワールの事をじっと見ている。

 まぁ突然いなくなったはずの親が急に現れたら驚くのは無理ない。ブランの様に本当に偶然会った訳でもなく、ノワールの様に俺の事を知っていた訳でもないのだから仕方ないだろう。


「そして後ろにおられるのがホワイトフェザーより来ていただきました、ドラクゥル様です。世界樹の調子がおかしくなっておられると聞き、少しでもお力になれればと連れて来た次第です」


 前半よく分からない敬語と森の民とこれからも仲良くしたいと言う言葉を並べた後に、俺達の事を紹介した。

 俺は1度頭を下げた後に礼儀を持って言う。


「初めまして。ドラクゥルと申します。本日は世界樹の治療に参りました。必ず治すので世界樹の事を知るご許可を頂きたいのですが」

「許す。こちらも少々困った事になっていたのだ。手伝ってくれるのはありがたい」


 ヨハネがそう言った。だがその顔はやりづれ~な~っと言う表情が見え隠れしている。

 そんな印象をかき消すためか、ヴァルゴが咳払いをしてから俺に言う。


「実は世界樹の変調はここで育てている薬草が必要な数を揃えられない事が原因なのです。ですからドラクゥル殿には1度薬草の栽培の方からお手伝い願いたいと思いますが、よろしいですか」

「承知しました」


 それだけで満足そうに言うヴァルゴは本当に堂々としている。ヨハネと違って表情を一切崩さない。

 だたこのやり取りを見て笑いをこらえているのはブランだ。2人の態度と俺の態度がどうやらツボにはまったようで、顔がプルプルと震えている。

 頼むから笑うなよ~。大切な話をしている時は笑うなよ~。

 ノワールは涼しい顔をしているが……こっちも為政者の顔みたいなの出来るようなっちゃって。


 こうして話を進めている間にいつの間にか終わっていた。

 全員で立ち去ろうとしている時にヨハネに止められた。


「すまないがそちらの世界樹の治療をする方々には残って話をしたい。申し訳ないがレオ姫と若葉殿には先に客室に行ってもらいたい」

「承知しました。それではドラクゥル様、お先に失礼します」

「おう。すぐに行けると思うから待っててくれ」


 そう言ってレオと若葉が先に会議室を出て、多分外で待っていた案内人の人と2人の足音が遠くなると、俺とブラン、ノワール以外の全員が一気に肩の力を抜いてくたびれた様になった。


「何で急に親父が出て来るんだよ!ノワールの兄貴とブラン嬢ちゃんまで!!」

「あ、元の口調に戻った」


 俺の事を指差して元気に言うのはヨハネ。う~んやっぱりこの元気な感じがないとヨハネっぽくない。

 その隣に居るヴァルゴは小さく息を吐きだしながら静かに言う。


「確かに、昨日ホワイトフェザーの天使達が魔物の掃除を手伝ってくれたと聞いていましたが、まさかそのブランも一緒とは思ってなかったわ」


 みんな崩れている中、1人だけ凛とした態度をしているのは流石と言える。

 そんなヴァルゴにブランは走って行って、ヴァルゴの膝の上に座った。


「ヴァルゴお姉ちゃん久しぶり!」

「ええ久しぶり。あまり見た目は変わらないけど、成長したみたいね~」


 そう言いながら優しくブランの頭を撫でる。ブランは嬉しそうに「わぁー!」っと言ってされるがままになる。

 そんな光景にちょっとだけほっこりしてからノワールは切り出す。


「それで、ヴェルトは本当に病気なのか。さっきからあまり力強さを感じない」


 ヴェルト、ブランやノワールと同じSSSランクモンスター。

 SSSランクモンスターの中でもトップクラスに巨大な身体の持ち主で、簡単に言うと超巨大な亀。本来甲羅である部分は長い時間をかけて土を被り、鳥の糞や風が運んできた植物の種により甲羅には小さな森のような物になっていた。

 特に目立つのは甲羅の中心にある立派な木。その木は1番光合成しやすい所を陣取っているので元気に育っていた。いつの間にかその木とヴェルトは共存関係になっており、どちらか一方が体調を崩すともう片方も体調不良を起こしてしまうと言う厄介な面もある。


 これはゲーム上の設定であり、進化したらいつの間にか巨大な森を背負った亀になっていたので驚いたもんだ。

 そしてもう1つヴェルトには特殊な事が出来る。それは幽体離脱の様な感じで、小さな亀としてみんなの前に現れる事。その時は小さな木、盆栽を背負った亀の様な感じで結構可愛い。触れる事も出来るし、この小さな亀に触れられた感覚や見た物は本体と共有されるらしい。


 ヴェルトに関する簡単な説明はこの辺にしておいて、ノワールの質問にヨハネは何とも言えない表情を作りながら言う。


「病気……と決まった訳じゃない。原因不明なんだ」

「原因不明だと?何らかの前兆はあるだろ」

「それは確かに全くない訳じゃない。10年ほど前から時々体調不良になる事が多くなった。だがそれは今の様に冬の時期で日がささない日が多い時ばかり。今回もそれに近いと思っていたのだが……」

「想定以上だと。ヴァルゴはどう思う」

「ヨハネ同様に原因の特定には至っていません。背中の木や森に異常はありませんし、冒険者達による魔物退治によって害虫や害獣の駆除は滞りなく行われています。しかし、ヴェルト自身が体調不良のせいで魔物達が多く侵入、結界は張られていますが防がれる事より侵入される数の方が多いのが現状です」

「え、冒険者達の魔物狩りってヴェルトの健康維持のためにしてたのか?」


 ちょっと意外な真実に俺はヴァルゴに聞く。ヴァルゴは俺の言葉を頷いて肯定した。


「はい。結界と言ってもここに居るブランほど強い結界を張れる訳ではないのでどうしても取りこぼしが出てしまいます。最初はあたし達だけで退治して来ましたが、まだ小さかった頃のグリーンシェルが魔物退治に協力する代わりに、魔物の素材を分けて欲しいと言ってきたのが始まりです。あたし達には不要の物だったので構わなかったのですが、魔物達がヴェルトの体内や木に寄生するための道を作ったのでそれが自然とダンジョンと呼ばれるものになり、現在に至ります」

「ま、マジでか。それじゃ冒険者達が発見できていない階層から寄生虫が侵入していたりとか――」

「今の所はそんな兆しはねぇぞ。現在の最下層である35階層は俺達が殲滅しているし、最上層である53階層でも殲滅できてる。害獣や害虫の仕業ではない」


 ちょっと気になる単語が出てきたけど、まぁこいつ等の戦闘能力なら大抵の連中は敵にはならないだろう。なんせここに居るのは最低でもSランクのモンスターだし、魔物と呼ばれる奴らは強くてもBランクあたりだろう。Sランクの敵じゃない。


「そうなると……細菌やウイルスの侵入による感染……これは詳しく調べないとダメか。ヴェルトの頭ってどっち方面?」

「ダンジョン入口の方を向いてる。今は首を引っ込めているから問題ないが、もし立ち上がって検査するって言うならかなり時間がかかるぞ。グリーンシェルの方に通達してダンジョンの閉鎖に住民の避難。これだけでもどれだけの経済的損失が大きいか分かるか親父?」

「うん。正直分かんない。でもヤバいって事は分かった。それじゃ顔出してもらうのは無理か……」


 ヴェルトの身体は巨大すぎて治療するのは非常に難しい。

 甲羅を割るのは当然ダメ、現在頭や手足は甲羅にしまっているとしても多分土の中、しかも頭はグリーンシェルの方を向いているのでそう簡単に起き上がらせる訳にもいかない。

 そうなるとあの背中の木から薬などを注入するしかない。ほぼ一体化しているとは言え、間接的な物だから効率悪いんだよな……


「なら仕方ない。ヴェルトの治療は明日木から間接的に探ってみる。ヴェルト自身は顔を出す事は可能か?」

「例の分身体なら出せるはずだ。ただ最近は身体の調子が悪くてあまり長時間話す事は出来ない。それでもいいか?」

「構わねぇよ。それからお前ら全員1度アルカディアに帰って来て登録しておこう」

「帰れるの!?私達の家に!」

「元々お前達を家に帰したくてこの世界に来たからな。まぁこの国に居るとまでは分からなかったけど。とにかくそういう訳だから、今はここに居るみんなを家に還すと同時にいつでもアルカディアに帰って来れるようにする。それでいいか?」

「「「ああ(はい)!!」」」


 とりあえずヴェルトの背中に居る子供達はこうしてアルカディアに再登録した。

 問題はヴェルト自身の身体がどうなっているのか調べる事。気合い入れてかないとな。

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