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現れた森

「っと言う訳で、誓いのバラの開花方法は判明しました」


 次の日、改めて俺達は王様の部屋で起きた開花の事を謁見の間で女王様にも報告した。

 今回の事は偶然も重なったが、王様とお姫様の前で開花したという十分すぎる状況証拠が揃っていたのでその日の内にでも、と思っていたのだが予定とか色々あるらしいので少し遅れた。その間に今回の事に関するレポートをまとめていたのだが、実験室で得たデータをこの世界の人達に分かりやすく数値化する方が面倒臭かった気がする。

 研究室の数値などはすべて日本で使われている物だけなので、それを無理矢理この世界の基準となっている数値に合わせるのは本当に面倒臭い。お陰でノワールとライトさんには迷惑かけたよ。


 女王様は俺の研究レポートを読み終えると難しそうな表情で言う。


「まさか本当に咲かせるとはな。しかも2週間と経たずに」

「運が味方をしてくれただけです。姫様のペットであるフラウ様のを見てもしかしてっと思ったので実行しただけです」

「正直な事を言うと、妾はドラクゥル様が我々と同じ研究成果まで出せればいいと思っていました。人工的に開花させるのはほぼ不可能、出来るようになるにはあと300年の技術進歩が必要と結論付けられていましたから」

「貸して下さった研究室の機具を確認したところ、魔力に関する設備がなかったため、それが原因でしょう。魔力に関しても細かに知る機材が出来ていれば自分の出番はなかったでしょう」

「それでも開花させるのに動物の力を借りるという発想はなかった。大切に育てるあまり、昆虫や鳥、動物と言う類から遠ざけてきたのも原因。バラを守るために他の事をおろそかにし過ぎたのです」


 俺のレポートを他の人に渡して改めて俺に顔を向ける。

 その表情は真剣で、周りに居る護衛の騎士からつばを飲み込む音が聞こえる。


「ここで相談なのだが、ドラクゥル様に商談を行いたい」

「商談……ですか?」

「はい。この研究成果はあなたが自力で見つけ出した物、これを特許として正式に申請し、この技術を我々に使わせて欲しい」

「それはつまり……特許を売ってほしいと?」

「そのような恥知らずな事を言ってはいない。ただ特許を申請し、いち早く我々にも使えるよう頼みたいのです」


 そう言って文官の人が豪華なお盆の様な物に乗せて持ってきたのは1枚の紙と羽ペン。

 この紙の題名は特許の申請、文化的・技術的な物。と書かれている。

 これは本物かどうかよく分からないのでノワールとライトさんに確認してもらうと、本物だそうだ。


「随分早いですね」

「当然です。妾達は長い時間誓いのバラの開花方法を探求して来ました。そして今後はこのバラを繁殖させるのが悲願。そのためには1秒でも無駄にするわけにはいかないのです」


 随分と女王様はこのバラに思い入れがあるみたいだ。

 ノワールとライトさんが大丈夫と言っているので俺はサインする所にサインをする。

 書き終えると文官はまるで宝物でも運んでいるかのように慎重に、丁寧に運ぶ。確かに特許と言う物に莫大な金が転がり込んでくるっと聞いたことぐらいはあるが、誓いのバラに芸術的な価値しかないと俺は思っている。薬草のように様々な分野に行かせる技術とは違うのだ。

 だから個人的にはそんなに価値が高い様に思えないのだが……


「ではドラクゥル様達には本日は休んでいただき、明日から世界樹の治療に力を注いでいただきます」


 お、やっと本業に移れるのか。それに1度ゆっくり休みたいと思ってたし、寝不足気味の俺やライトさんにはゆっくり寝かせて欲しい。

 ちなみにノワールは1日の徹夜ぐらい何てことない様だし、ブランは小難しい話には参加してこないのでちゃんと夜には寝ている。お子様体質と言う事もあり、夜になれば眠くなって寝る。


「世界樹に行くまでには必ずダンジョンを通らなければなりません。他にもっと楽な道があるのですが……許可が下りませんでした」

「許可?この国で1番偉いのは王様と女王様では?」


 俺の当然の疑問に女王と国王は苦笑いをした後に首を横に振った。

 あれ?王様って国のトップじゃないの?なのにそれ以上偉い人って誰??


「その話はお休みになった後に話しましょう。ギルドに世界樹までの案内人を依頼していますのでご安心してください。最も頼りになる冒険者です」


 最も頼りになる冒険者ってやっぱり歴戦の戦士!!みたいなごっついおっさんが出て来るんだろうか?

 ダンジョンの中って事はやっぱりトラップが出てきたり、魔物が出てきたりするのかな……俺戦う力ないからこういう時不便だな。

 そう思っている時に背中をちょんちょんと突かれる。振り返ってみるとブランとノワールが得意気な表情をしていた。

 やっぱり情けない感じはするが、こういう時こそ強くてカッコいい子供達に頼るしかないか。


 こうして俺達は謁見の間から離れ、客室に戻る。

 そこでぐだ~っとしようとしているのに、何故かレオがフライを抱いた状態で一緒に居る。


「レオ、何で一緒に来た?」

「お父様とお母様に森の民についてお話してあげなさいって言われたから」


 例の王様よりも偉い人達の事を話してくれるって事か。

 とりあえず機嫌よくはしてもらうためにアルカディア産、冬のフルーツ山盛りセットを用意する。それを見たレオは目を輝かせているので普通に皮をむいて食べさせる。

 フォークでリンゴやナシをほおばる姿は子供らしい。抱いているフラウのために硬い物はすべてすりおろしてあげる。


「それで、その森の民って人達が王様達以上に偉い人なのか?」

「そうだよ。あの森に棲んでるハイエルフとか獣人の人達の事を言うの。ダンジョンに居る魔物とかの間引きをしてくれたり、森や世界樹の管理をしてくれてるの」

「それだけで王様より偉いのか?聞いてるだけだとそんなに偉そうには感じないが」

「だって私達はあの森のおかげでダンジョンに生えてる薬草とか採取できるし、自然と住み着いた魔物達を狩って生計を立ててる。もしあの森が無かったら小国のままだったってお爺様とかはよく言ってる」


 何だろうな。グリーンシェルでダンジョンの運営の様な物で生計を立てていると言っていいのは知っているが、てっきり俺はこの国がダンジョンの管理などを行っているんだと思っていた。

 だが実際に聞いてみるとあの森に居るハイエルフなどが管理している様だし、どちらかというとダンジョンを借りているようなイメージが強くなっている。


「あの森って昔からあるんじゃないのか?」

「ううん。お爺様が言うにはお爺様のお爺様が子供の頃に()()()()んだって」

「なんだその表現。森に足が生えてやってきたとでも言いたげな感じだな」

「でもお爺様が言うにはそんな感じだったよ。昔あの森がやって来てくれた事でこの国は繁栄で来たって。それに世界樹のおかげで洪水とかそう言うのもなくなったって言ってる」

「それって具体的に何年ぐらい前だったか分かるか?」

「え~っと。だいたい2000年ぐらい?」


 2000年前。人間にとっては随分と前の事の様に感じるが、エルフの寿命は人間より圧倒的に長い。確かアルカディアだと最長で1000年のはずだった。

 だからレオの言う爺さん爺さんが森が来たという話を嘘だと決めつけるのは危険だ。

 そして仮に2000年前にやってきた森そのものがあの子だとすれば……森がやってきたという話になんの矛盾もない。


「ブラン、ノワール」

「分かってるよ、パパ。ブランもお手伝いする」

「私もだ。もしかして程度だったが、この調子だと本当に六大大国に弟妹がいるかもしれない」


 俺は協力してくれる子供達に対して真剣に頷き返したのだった。

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