まさかの開花
とりあえず植物と言ったら昆虫じゃね?っと言う大雑把すぎる予想から取り寄せた図鑑をひたすら読んで誓いのバラを咲かせる事が出来そうな物を探していく。
誓いのバラのつぼみは綺麗に針ぐらいの隙間しか空いておらず、虫が直接入り込む事は難しい。最初こそハチとかそう言う花粉などを集める昆虫がカギを握っているのだと思ったのだが、どうやら違うらしい。
では次にハチドリの様な鳥がいるのではないかと予想して調べてみるが、これもハズレ。
確かにハチドリの様な鳥は存在したが、どの口も誓いのバラをつぼみの状態で蜜を吸うと言うのは出来そうにない。口のサイズはあっても伸ばす舌が短くて届かない、つぼみの蜜を吸う事は出来そうだけど口が大き過ぎて入りそうにないっという物ばかり。
バラが咲く条件は見付けたのにバラを咲かせる誰かが見付からないので進展は一切進まない。
まぁバラが咲く条件を見付けただけでも十分な研究成果なのかも知れないけど、俺のゴールは咲かせる事だからな……咲かないと意味がない。
あれはどうだ、こっちはどうだと話したり調べている間に9日が過ぎた。
――
「どうしたもんかな……」
「どうしようね……」
「どうした物か……」
親子3人、お城の中庭で雪景色を眺めてたそがれていた。
「……やっぱり親子なんですね」
その言葉に疑問を持った俺はライトさんに聞く。
「どうかしました?」
「いえ、そのように頬杖をついてため息をついている姿がそっくりでした」
そうだろうかと俺達は互いに今の姿を見比べる。確かに右手で頬をついてため息をついている姿は似ているのかも知れない。
何だか妙な所で親子認定を受けてしまった。ブランは俺と同じだと言われて嬉しそうに、ノワールはどこか気恥ずかしそうにする。俺は素直に嬉しいと思う。
少しほっこりとしたのだが、あと5日で成果を出さないと世界樹を治療する事すら出来ない。バラの事を調べている合間に世界樹の事も調べてみたが、あれは俺にしか治せない。
だからこそこ結果を出さないといけない。まぁ勝手に治すけど。
「にしてもあと5日でどうやって見付ければいいんだろうな……このバラがある地域に居る生物はどの図鑑や文献を調べても出てこないってどういう事?普通花の近くに住んでる生物ぐらいすぐ出て来るだろ」
「だよね……こう言うのミカエルお兄ちゃんとかに任せている事の方が多いけど、これ確実に意図的に避けてるよね。それとも成功させたくないから意地悪されてる?」
「意図的にそう言う事をしているのであれば、おかしいとしか言いようがない。向こうは世界樹を治して欲しい、もしくは治す方法を見付ける事が目的のはずだ。それなのに意図的に邪魔をしているのはあまりにも矛盾している」
「単に見た目だけで俺は信用ないと思われてるのかね……」
それとも今回の救援で他の人が来るとも思っていたとか?ライトさんも最初はラファエルの手を借りようとしていたし、もしかしてラファエルの名前を知っていてラファエルに助けて欲しかったって事か??
まぁ向こうからすれば俺は見ず知らずの他人だし、何らかの目に見える実績がある訳でもない。この無茶ぶりも信用がないからなのかね……
もうここが廊下である事なんて忘れて大の字で仰向けになってしばらくぼ~っとする。
ぼ~っとしながらも昆虫やハチドリの他に可能性のある誰かはいないかと考えていると、誰かと何かが俺の顔を覗き込んできた。
誰かは金髪に人間よりもとがった耳をしているエルフの女の子。何かはアリクイの様な顔をした動物だ。だがアリクイのように鋭い爪はなく、モコモコとした毛に覆われた足をしている。
「お兄さんは誰ですか?」
女の子はアリクイに似た生物を抱えながら首を傾げた。
俺は起き上がってから女の子に言う。
「俺はドラクゥルって名前だよ。君は?」
「レオはレオファリアだよ」
女の子なのにレオって名前は珍しい感じがするな。そう思っているとライトさんが慌てたように俺に耳打ちをする。
「彼女はこの国の姫です」
「え、この子がお姫様?」
ライトさんの耳打ちについ声を出してしまうと、レオは得意気な顔をして胸を張る。
「そうだよ。レオはこの国のお姫様なの。お兄さんは……何しにこのお城に来たの?」
「元々は世界樹を治すために来たんだが……このバラを咲かせてくれってレオのお母さんに言われちゃってな。今行き詰ってる所」
何故かレオは少しだけ目を大きくしたかと思うと、すぐにおかしそうな顔になって俺の事をじろじろと見る。
「へ~。誓いのバラを咲かせる様に言われた外国の人ってお兄さんの事だったんだ。やっぱり咲かせ方分からない?」
「いや、咲かせ方は分かったんだが、咲かせてくれる誰かが見付からない」
「え、咲かせ方は分かったの!?どうやるの!!」
俺の事を掴んで揺さぶるレオだが、行き詰ってるって言うのもう忘れた?まぁ子供だから仕方ないけど。
「レオ!レオフェリア!どこに行った」
咲かせ方について話そうとする前に王様がレオを探しに来ていた。
「お父様!!」
レオは直ぐに父親である王様の所に駆け寄る。
王様はそんなレオの事をアリクイに似た動物と共に抱っこする。その顔はとても嬉しそうだ。
「レオ。今は冬なのだからもう少し厚着をしろ。それから護衛を振り切るのはいい加減やめろ」
「でもフラウの散歩だから仕方ないもん」
「フラウも寒い中歩き回るのは辛いはずだ。せめてもう少し温かいところで歩かせよう」
「それとねお父様!あのお兄さんが誓いのバラの咲かせ方が分かったって言ってたの!!」
「なに?それは本当か?」
王様が俺の方を見たので頭を下げてから言う。
「いえ、咲かせ方は分かったのですが、咲かせてくれる誰かを探している途中なのでまだ咲かせる事に成功はしていません」
「それでも良い。少し話が聞きたい」
そう言ってレオを抱き上げたままどこかに行ってしまうので俺達は慌ててその後ろを追いかけた。
たどり着いた場所は王様の自室の様で、自分の部屋と言うよりは執務室と言うような雰囲気の方が強い。
レオ達を下ろして椅子に座り直すと王様は俺に聞く。
「それで、妻が求めているバラの咲かせ方を判明したというのは本当か」
「はい。ですが1つ問題がありまして……」
「申してみよ」
「実はこのバラのつぼみの状態でバラの中央に刺激を与えないといけないようです。他にも頂いた時に土からの栄養だけではなく、魔力も十分に与えないといけない事が条件となります」
「そうか。それでまだ実行に移せていないと。細長い針の様な物で刺激してはいけないのか」
「このバラは繊細で針で刺しては咲く前に枯れてしまうかも知れません。ですのでこのバラと共生関係にあると思われる昆虫や鳥類を探していたところです」
「分かった。では残りの期間で是非その何かを見つけ出して欲しい」
「分かりました」
そう言った後俺部屋を出ようとするが、レオが俺のズボンを掴んでじっと見る。
「ん?どうかしたか?」
「お兄さん美味しい果物持ってるんでしょ?何かちょうだい」
果物?腹でも減っているんだろうか?
それに俺は別に何か果物をあげるのは別にいいが、問題はそれを王様が許してくれるかどうかだ。当然ここには王様の他に護衛だか執事だかがいるし、俺はあげてもいいのかな?っと顔を向けると王様がレオに言う。
「レオ。はしたないぞ」
「だってお父様。彼らは自室で毎日おいしそうな果物をおやつに食べてるってメイド達が言ってたもん。私も食べてみたいし、フラウにも食べさせてあげたい」
「しかし冬の果実はとても貴重なのは分かっているだろう。あまり我儘を言ってはいけないのだよ」
「む~!」
諭す父親に頬を膨らませる娘。これはどこにでもいる親子の風景だな。
そして国王に悪いが別に俺は果物1つ食べさせたところで全く痛手はないのである。ここじゃ冬の果物は貴重かも知れないが、アルカディアでは年中食えるのだから別に構わない。
俺はリンゴを5つ取り出してから王様に言う。
「陛下。果物なら多くあるので大丈夫です。姫様にあげてもよろしいでしょうか」
「……ご厚意感謝する」
っと言う事で廊下でスタンバイしていたのか、メイドさんが現れてリンゴを4つ綺麗に切り分けた。そして1つだけおろし金を用意してリンゴをすりおろす。
何でだろうと思っているとすりおろされたリンゴは犬猫が使う皿に乗っけられ、レオに渡された。
まさかレオの皿があれか?っと思ったらアリクイの前に置いた。だよね、お姫様がペット用の皿で食べる訳ないよね。
「いただく」
「お召し上がりください」
王様はフォークでリンゴを1切れ刺して口に運ぶと驚いた表情を作る。
「これは……随分と甘いな」
「これ美味しい!!お兄さんが作ったの!?」
「ああ。気に入ってくれて何よりだよ」
俺達の前にもリンゴを乗せた皿とフォークが渡されたので一緒に食べる。王様と一緒にリンゴ食べるってどんな状況だ?
ブランとノワールは何て事ない様にしてるけど、ライトさんは良いのかな……っと言う表情をしている。そしてアリクイは見た目通りに長い舌を使ってすりおろしたリンゴを舌で舐めとっている。
その様子をじっとしている周りの人達。これって不敬罪とかにならないよね?なるならとっくにストップ入ってるか。
俺もリンゴをかじりながらふとアリクイの舌に注目した。
このアリクイの舌は非常に細く、柔らかそうだ。
………………まさか?
「あの、レオ姫様。ちょっとだけこのアリクイを借りてもいいか?」
「フラウを?怖い事に使いそうだからダメ」
「フラウに怖い目に合わせないし、今すぐここで出来る事だから、ちょっとだけ貸して」
「……本当に怖い事に使ったりしない?」
「しないしない。ちょっと手伝ってもらうだけだから」
「………………じゃあいいよ。でもここでしてね」
レオから許可をもらったので俺は誓いのバラを取り出す。
俺以外の人達全員がこんな所で誓いのバラを取り出して何をするんだろうとみているが、ブランとノワールだけは直ぐに気が付いた様でまさかっと言う顔をしている。
俺はそっと誓いのバラをフラウの前に差し出し、フラウの興味を引く。フラウはリンゴを名残惜しそうに皿を舐めていたが、次になめていい物を見付けたからかその長い舌をつぼみの奥に伸ばした。
そしてまるでピッキングでもしているかのように動くフラウの舌がつぼみから抜かれた時、誓いのバラはあっさりと咲いたのだった。




