この世界の化学道具
次の日、俺は身の回りをしてくれているメイドさんにある事を頼んでおいた。
頼んだのは誓いのバラを調べるために本格的な研究室に持って行きたいので許可が欲しいと言う事を伝えてもらえるように頼んだ。
こういう時お偉いさんに直接声をかけるのは緊張するので、こうして間接的に伝える事が出来るのは正直楽だし助かる。よく分からないけどお偉いさんに直接声をかけるの無礼らしい。平社員が社長に声をかけるような感じかな?
なんて思いながらバラを観察して、部屋の中の気温や湿度を変化させながらバラが最も活性化する瞬間を調べている。俺のルーペは特別製で葉脈に流れる水を見る事が出来る。葉っぱや花びらを切って取り出せない時に便利だ。
そして見る限り気温や湿度の変化では葉脈の水の動きに変化は見られない。やっぱりアルカディアにある検査機器で調べるのが手っ取り早いな。ほとんどが傷付ける事なく調べられるし、最上級の機材を使えば繊細な植物だろうが何だろうが問題ないしな。
「パパ何か分かった?」
「今のところはこのバラが健康って事だけだな。特に病気になってないし、寄生虫や寄生植物に犯されている様子もない。っとなるとやっぱり栄養系か、特定の条件を見つけないと咲かないって事になるな……」
「確かにこのバラが病気って事はなさそうだよね。ノワールお兄ちゃんはどう思う?」
俺とブランがルーペを片手にバラを観察しているが、ノワールは優雅にコーヒーを飲みながらこの国の新聞を読んでいる。
コーヒーを皿に戻して新聞をとじると、片眼鏡に触れながらバラを見る。
「確かにバラに異常は見られない。やはり父さんの言うように条件の方が大切なんじゃないだろうか」
「やっぱりか……条件となると何なんだろうな。この国の研究結果を見せてもらおうとしたけど断られたし」
そう。俺だって一応この国の研究者達にどんな研究をしたのか教えてもらおうとしたのだ。
だがこのバラを咲かせる研究は国の重要機密らしく、見せる事は出来ないとメイドさんから言われた。この時も伝言ゲームのように女王様に伝わったらしいがダメだと。
なのでこうして地道なところから手探りで、手あたり次第調べていった訳である。
調べられる期間はたったの2週間だけなので、出来るだけ早く本格的に研究を進めたいのだが朝食の時に頼んでおいたのだが今のところ返事が来ない。やっぱ仕事が忙しいのかな?偉い人って仕事量が多いイメージがあるし。
なんて待っていると俺達の世話担当のメイドさんがドアをノックしてから入ってきた。
「失礼します。ドラクゥル様、エフィルディス様のお言葉を伝えます」
「お、やっとか」
きっと許可してくれるだろうっと言う期待を込めてメイドさんの言葉を待つと、メイドさんの言葉は意外な言葉だった。
「『我が国の宝であり、最重要研究対象である誓いのバラを国外に出すことは許されません。代わりにこの国の研究室を1つ貸し与えます。そちらで研究をしてしてください』との事です」
………………えええええぇぇぇぇぇぇ!!
「それじゃここにある研究室を使っての?無理無理!俺絶対使った事ない機械使って研究結果出すなんて多分無理!!」
「ですが……それがエフィルディス様のお言葉ですので……」
私に文句言われても困るっと言う表情で言うメイドさんに当たっても意味がない。その事は頭では分かっているがやはり納得は出来ない。
この世界の研究機材はどんな精度なのか分からないが、使いこなせるかどうかと聞かれれば絶対無理。だって自信のない道具を使って自信のある研究結果なんて出せないでしょ。
俺は指で目頭を押さえながらどうしようかと考えながらメイドさんに言う。
「分かった。それが女王様の言葉なら仕方ない。教えてくれてありがとう」
「は、はい。それでは失礼いたします」
そう言ってメイドさんは怯えた様な雰囲気と意外だと言う雰囲気を出しながら部屋を出た。
おそらく怯えているのは俺の後ろにいる2人のせいだろう。ブランとノワールはメイドさんの事をジト目で睨んでいたし、不機嫌な気配を出していたので多分こっちだ。
俺じゃないはず。
「参ったな……こうなると簡単に研究室で実験するのも楽じゃないな。とりあえずその貸してくれる研究室の設備とか見てみる?」
「しかし父さんの研究室にある物に比べると劣っているのは明確だ。最新の機具と言ってもあくまでもこの世界の基準での話だからな」
「だよね~。パパの研究室にある機械に比べたら絶対性能は悪くて、ただ大きいだけの粗大ゴミだよね」
よく分からないがこの世界最新の機具がボロクソに言われてるんだけど。
「あの、大丈夫でしたか?」
唯一1人部屋に居るライトさんが声をかけながら部屋に入って来た。
何故ライトさんだけが1人部屋なのかと言うと、普通に1番偉いからだ。そして俺達は世界樹を治しに来たけれど、ライトさんの従者っという立場でもあるので3人で同じ部屋を使っている。
まぁこれは特に何の文句もないから別にいいんだけど。
ちなみに護衛として一緒に来たウリエル達はとっくにアルカディアに戻っている。あとはいつでも出撃できるよう待機しているとの事。ここの女王様が俺に対して信用していないのが気に入らないのか、ちょっと危ない雰囲気も感じたけど。
「ダメでした。俺の研究室でこのバラの事を調べようと思いましたが、国外に持って行く事は許されないと言っています。まぁアルカディアは国外ではないので何の違反にもなりませんけど」
悪い笑みを浮かべながら言うとライトさんは少し引き気味に笑った後、真剣な表情になって俺やブラン、ノワールに聞く。
「あのね~、パパが自分の研究室でバラを調べたいって伝えたらダメって言われちゃった。その代わり研究室を貸してあげるからそこで調べてだって」
「なるほど。しかしこの国の研究機材は確かに最新のものが取り組まれているようですよ。アビスブルーから輸入したと思われる機材が多くありました。アビスブルーの機材でもダメでしょうか?」
「アビスブルーって海上都市って言われる海の上を移動する国でしたっけ?何でそこの国が出てくるんですか??」
「アビスブルーは海上都市と言うだけではなく、科学技術も発展した国だ。この大陸だとまだ魔法の方が優れているという偏見があるが、アビスブルーは海上都市と言う利点を使って他の大陸や海に近い国を巡って商業都市としても有名だ。輸出入による貿易は常に黒字だそうだ」
国が動くって言うだけでも変だって言うのに、貿易で常に黒字とかさらに凄い国だな。
まぁ外国の珍しい者などが気軽に手に入る国があるのであればその価値は計り知れないのかも知れない。
でも科学って言葉は存在するんだな。この世界に来てから懐中電灯すら見た事がないからてっきり科学的な物はないんだとばかり思ってた。
こう、ファンタジー世界で見る魔道具とかそう言うのだったら見た事あるけど。
「ちなみにこの大陸では科学の存在ってどんな形で認識されてるんだ?あまり科学的な道具は見た事ないんだけど」
「この辺りだと魔法の方が多いね。魔力さえあれば誰でも使えるし、かさばる事もない。魔力のない人でも使える道具として注目はされてるけど、まだまだ外国から輸入するしかないからやっぱり魔力のない人、ほとんどの一般家庭の人には手が届かない高級品だよ」
「ブラン様の言う通りです。元々は魔法の使えない方のために開発されたと聞き及んでいますが、この大陸では魔石を利用した魔道具の方が主流なのでまだまだです。その代わり魔石の消費量が多いので懸念の声も聞こえてきますが」
「魔石ってあの電池感覚で使ってるあの石ですか?」
何だか丸い形に成形された虹色に光るよく分からない石、それが俺の思う魔石だ。
乾電池の様に魔道具に組み込まれ、魔石に含まれる魔力がなくなると電池切れを起こすので魔石を取り替えないといけない。ちなみに魔力のなくなった石は透明になり、魔力がなくなった事を教えてくれるのでとてもよく分かる。
「そうです。この大陸では魔石を使用した魔道具によって魔法の使えない方でも辺りを照らしたり、火を点したりする生活魔法と言われる物を使う事は可能です。ですが科学によって作られた道具は高級で……まだまだ一般の肩に手が届くのは当分先ではないかと」
「まぁ輸入品使うより地元で作ってる道具の方が安くなるのは仕方ない事ですな」
バカな俺でも分かる事を言ってからとりあえず俺はライトさんに言う。
「まぁノワール達が言うには俺の研究室の道具の方が優れてるみたいだし、こっそりアルカディアに戻って研究します。ライトさんには申し訳ないのですが……」
「では私は適当に言い訳を言っておきましょう」
「よろしくお願いします」
そう言った後、俺とノワール、ブランはバラを持ってアルカディアに戻るのである。




