誓いのバラ
さて。とりあえず女王様から試練としていただいたつぼみはバラらしいが……ぶっちゃけ見た目はどちらかと言うとチューリップの様な物に近い。だって鉢植えに1本だけ生えるバラってあるの?花を支える茎の部分が長いのも俺がそう思う理由の1つだ。
そのバラのつぼみを貸してくれた客室の持ってきてとりあえずテーブルの上に置いた。
そしてライトさんはため息を付きながら俺に向かって言う。
「申し訳ありません、ドラクゥル様。まさかエフェルディス様がこのような事をしてくるとは思いませんでした」
「まぁ向こうも大事な木を間違って枯らせたりしないようにするための措置でしょうから、仕方ないかもしれません。それよりこの花を咲かせるだけって聞くだけだと簡単そうに聞こえるんですけど?そんなに難しいんですか」
「はい……もともと誓いのバラは希少種で価値のある物だったのですが、200年ほど前に乱獲が行われ、さらに希少になってしまいました。そのバラを再び咲かせようとしているのがこのグリーンシェルなのですが、つぼみまではうまくいってもなぜか咲かないと言う事態が多く起こっているのです。誓いのバラを研究するバラ園でも成果は現れず、よくて100本に1~2本の花が咲けばいいと言う物だそうです」
「研究者の人が見ていない時に咲いて枯れてしまった、みたいな話はないんですか?」
「聞いていません。誓いのバラはエフェルディス様にとって大切な花のようですのでかなり力を注いでいると聞いています。研究者達が交代で24時間監視しているらしいですが……」
ふむ。そうなるとアサガオとか月下美人みたいに特定の時間帯だけ花が咲いて、すぐに枯れてしまうと言うタイプではなさそうだ。
そうなると……何らかの刺激が必要なのか?例えばハチが受粉しに来ないと開かないとか??
アルカディアでもデリケートな植物は色々あったが……このバラは一体どういうタイプなんだろう。
とりあえず調べるか。
「ノワール、ブラン。ちょっと調べるから道具運ぶの手伝って」
「分かった」
「は~い」
「道具?」
ライトさんだけは首を傾げていたがまぁ知らなくて当然か。
アルカディアに1度戻って持ってきたのは簡単な実験道具だ。
小学校の授業で見た事のあるビーカーやメスシリンダー、顕微鏡にリトマス紙、あと部屋の気温と湿度が分かる温度計などなど。珍しいのはライトぐらいか?ライトにかぶせるシートによって太陽の光に似せたり、月の光に似せる事が出来る優れ物だ。
この客室は位の高いお客を招くための部屋だからかとても広い。多分ライトさんが居るからこんなにいい部屋になったんだろうが、リビングと思われる部屋は悪いが実験室のように使わせてもらおう。もちろん危険な薬剤は使わないし、アルコールランプも使わない。
とりあえず簡単な道具を使って実験していくしかない。
これらの道具を見てライトさんは驚いていると言うよりは呆れている様にため息をついてから言う。
「本当に調べるんですね……もし咲かせる方法が分かったら世界的な発見ですよ」
「元々絶滅危惧種の花なんですよね。咲かせるよりも個人的には受粉方法の方が調べたい所なんですけどね。まぁ開花も出来ないのであれば次の受粉に進めないですから、その前段階って事になるんでしょうけど」
とりあえずルーペでつぼみの観察を行いながらライトさんに言う。
ルーペで細かく花びらの枚数を数えると19枚。数えきれるぐらいの枚数なんだな。
その後は鉢の土を少し調べて酸性かアルカリ性か調べてみる。結果は中性、変に土いじりとかをする必要があるのかどうか調べなくてもいいのかな?
それなりの数があれば土を変えてみたり、水を与えたり与えなかったりする事で実験するんだが……この1輪だけじゃあまり土を変えたりしたくはないからな……
「何か分かりましたか?」
「まだ何も分かりませんね。まだ本当に観察してどういう構造をしているのかぐらいしか調べられていませんし……もっと詳しく調べるとなると家に帰ってからになりますね」
「そうですか。そうですよね。いくらドラクゥル様でもすぐには分かりませんよね」
どこかホッとした様子で言うライトさんの事を不思議に思うが、俺はこのバラの事も不思議だ。
ピンセットで軽く摘まんでみたところ、花びらを摘まんだような感じがしない。確認してつぼみに優しく撫でる様に触れると、触った感じはまるでガラスだ。
どう言う事だろうと思ってライトさんに聞く。
「ライトさん。このバラを触った感じがガラスみたいな感じがするんですけど」
「その通りです。誓いのバラは触った感じがガラスに近いですが、簡単には壊れません。一種の魔法植物である事は証明されているので咲く条件も魔法による物ではないかと予想されています」
「魔法植物?」
聞きなれない単語に俺は聞き返す。
ライトさんは知ってて当然と言うように言う。
「魔法植物と言うのは何らかの魔法の力を持った植物の事です。ポーションに使われている薬草もその一種ですよ。薬草には癒しの魔法の効果があり、食べたり直接肌に触れさせてもあまり効果はありませんがそれを集めて抽出して効果をあげたのがポーションです。誓いのバラにも何か効果があるんじゃないかと期待されていますが……数があまりにも少ないのでそう言った実験には使用できていないそうです」
魔法の力が入った植物か……しかも薬草もその一種かよ。
アルカディアの薬草などの効果はこちらの世界の物よりも上質だから効果なども格段に上らしいが、やっぱり環境によってはあっさり咲くんじゃないか?
それに魔法植物と言うのであれば魔力の供給は当然必須。俺が育てている1部のアルカディアの植物でも土と水だけでは足りない物が多い。その魔力供給に強く影響を与えていたのがSSSランクモンスター達。自然環境と深くリンクしている彼らのおかげでうちの野菜や木は順調に成長していると言える。
っとなるとやっぱり調べるには1度アルカディアの研究室で調べてみる必要があるな。魔力量の測定からレントゲンもどきの断面図、葉脈の流れなどキッチリ調べておいた方が良さそうだ。
まぁこの場でうまくいきそうな環境づくりも頑張ってみるけど。日の光の強さ、湿気、適した鉢のサイズ、どんな土がいいのかなどなどこの場で出来る事はそれなりにある。
とりあえずアサガオや月下美人みたいに時間帯によって咲いたりするのかどうか確認する所からだな。
「パパ久しぶりに気合入ってるね」
「自分が育てた事のない、この世界の固有種だからな。1度だけ私もあのバラを献上された事がある」
「ブランもあるよ。でも何で“誓いのバラ”何て名前になったんだろうね」
「あ、それ俺も気になる」
名前の由来に何らかのヒントがあるかも知れないと期待しながらライトさんに視線を向ける。
ライトさんは思い出そうと視線を動かしながら言う。
「確か……元々はわがままなお姫様が結婚してほしかったら誓いのバラを1輪持って来いと言う結婚条件を出した事が始まりだったと聞いています。そのお姫様はバラが大好きで当時不滅のバラと言われていたそうで、その咲いたバラは永遠に輝き続けると言う伝説を持っていたそうです。なのでそのお姫様を条件を飲んだ男達はバラを探し求めたと」
なんだかかぐや姫みたいな展開だな。でもバラ1輪ならまだ優しい方か?内容はそう変わんない気がするけど。
「その条件を出して見事に持ってきたのが1人の騎士だったと聞きます。他の者は偽物を用意したり、すでに誰かが持っていた物を盗んできたりなど、色々としたそうですが、その騎士だけは自然と花が咲くのを待ち、咲いた花をお姫様に献上して結婚したと言われています。ここから“誓いのバラ”っと言う名前が付いたそうです」
へ~。かぐや姫と違って結ばれたんだ。あっちは月に帰ったけど。
でもこのエピソードじゃヒントにはなりそうにないな。やっぱり明日キッチリと調べてみますか。




