グリーンシェル到着
相手の事も考えてのんびりと行く馬車の旅。
たまに吹雪の影響で進めなかったりしたのでやっぱり1ヶ月と言う期間は必要だったのかも知れない。
そんな自然現象に邪魔されまくった1ヶ月の旅路が終わるとグリーンシェルの1部である森が見えた。
「あの森がグリーンシェルか?」
「はい。しかしその手前に見える城が目的地です」
俺の疑問に答えてくれたのはライトさんだ。俺はてっきりあの森の中に国があるんだとばかり思っていた。
そしてその森の中心と思われる場所に山よりも大きな木が1本だけ堂々と立っている。冬だと言うのに青々とした葉を付けた巨木は1部雲を突き抜けている様に見える。だから森の手前にある城がまるでミニチュアの様だ。
あれ程までに巨大な木が存在するなんてな……
「それじゃあの巨大な木は……」
「あれが世界樹と呼ばれる物です。グリーンシェルの方々はあの世界樹を信仰し、守られて来たと言い伝えられています。とある大規模な飢饉が起きた際にあの森だけが免れこの国の住人達を救ったり、水害が起きた際にはあの森が盾になってくれたとか」
やっぱりそう言う話は普通にあるんだな。逆にないと不自然か?
それにしても不思議とグリーンシェルに近付くにつれて寒さが少しずつ緩和している様な気がする。もちろん寒い事は変わらないが、服を重ね着して防寒対策バッチリと言う程でなくても大丈夫な気がする。
これも世界樹とやらのおかげなんだろうか?ブランの結界の様に世界樹が結界を張っている?いろいろ想像してみるが、答えは城の人に聞けば分かるだろう。
そう思いながら森の近くにある城の前に到着すると、天使が手紙を門番の人に渡し国の中に入る事が許された。
そしてここでもパレードの様な盛大な歓迎をされている訳だが……ライトさんの話と違って獣人やエルフの姿はない。全員ただの人間だ。
エルフは噂だけと言う感じらしいが、獣人がいないのは正直妙に感じる。
違和感を感じつつも俺とライトさん、ブランにノワールはこの国の王様に会う事となった。
………………
「俺、不敬な事をしそうな気がするから先に世界樹の調査に行ってていい?」
「ダメです。その国王に許可を頂くのですから共に行きますよ」
ライトさんに言われて俺は渋々国王と謁見する事になった。
いや~お国のトップといきなり顔を合わせるってこれどう言う拷問?礼儀とか作法とかさっぱり分からないんですけど。
「大丈夫だよパパ。顔をあげないで質問されたら質問し返せばいいだけだから」
「父さん。小難しい話は私とライトに任せていればいいんだよ。私は今回ホワイトフェザーの文官としてここに居るから」
「本当に大丈夫なんだよな?小難しい事を聞かれても答えられる自信はないからな!俺はただ世界樹を治しに来ただけなんだからな!!」
「分かってる。今回の目的はあくまでも世界樹と弟妹達の捜索。分かってるよ」
「ほ、本当にいざって時は頼むぞ……」
情けない父親だが許してくれ。ただの平民がお国のお偉いさんと会うのは色々とハードルが高いんだよ。
え、ライトさんの時は態度が違う?だって最初っから教皇だって知らなかったから……
とにかく俺以外堂々としている3人の後ろを歩いて城の中を確認する。
こうしている居ている通路以外の部分は基本的に芝生が生えており、うっすらと雪が積もっているが夏だったらきっと綺麗な庭園が見えた事だろう。
そして城の中には獣人が何故か多く、歓迎してくれた時に比べて人間の方が少ない。流石にここに全ての獣人がいるとは思わないが、普通に外に居る獣人達はどこに行ったんだろう?
そんな事を思いながら謁見の間に進むと、そこには既に王様と王妃様と思われる2人がいた。
王様と思われる人は玉座に座り、マントに王冠を被ったライオンの顔をした獣人。隣に居る人は一瞬人間に見えたがエルフだ。この国に来て初めて見たエルフだが俺の子供ではなさそうだ。雰囲気で何となく分かる。
俺達はその2人の前で片膝を付き、頭を下げた状態になると王様は声を発した。
「よく来てくださった、ホワイトフェザーの方々。特に教皇様自ら参られるとは驚きました」
「いえ、他者に手を差し伸べる事こそ我らの教義。特に世界樹の危機であれば我らも喜んでお手伝いさせていただきましょう」
頭を下げているので表情は分からないが、どことなく嬉しそうに聞こえる。まぁお偉いさんが来てくれたと言う事はそれだけ信頼してくれていると思っているのかも知れない。
「それで、世界樹の治療に力を貸してくれる方はどなたでしょうか」
今度は女性の声。この声が女王様の声なのかな?
「はい。こちらに居るドラクゥルと言う者が治療に当たります。ですので我々に是非世界樹に触れる許可を頂きたい」
ライトさんがそう言うと何故か沈黙が出てきた。
やっぱり俺の名前ってそんなに目立つのかな……ドラクゥルなんて名前は世界中の上層部のごく一部だけが知っているような雰囲気があるし、しかも六大大国の上層部なら必ず知っているといってもおかしくない感じだし、やっぱり俺の名前が切っ掛けで疑われたりしないよな……
そう思っていると女王様が言う。
「ドラクゥル様、ですか。申し訳ありませんが世界樹は我らの象徴であり、我らを支えてくれる神。ですので課題を与えたいと思います」
そう女王様が言った後誰かが動く気配がした。その気配は俺の前で立ち止まり、何かお盆の上に小さな鉢が乗った物を俺の前に置く。
下を向いていても分かる位置に置かれたので大体は分かるが……花のつぼみ?
「この花の名は“誓いのバラ”。希少な植物であり花を咲かせる事は至難の業。これを咲かせる事が出来れば世界樹に触れる許可を許しましょう」
どうやらこの花を咲かせる事さえできればいいらしい。それにしてもこのバラのつぼみ、どこかで見た事があるような気が……
「お待ちくださいエフィルディス様!それらの花は自然に咲く事を待つ事しか出来ない、人の手で触れればたちまち枯れてしまうと言う程の花ではありませんか!?これを咲かせろと言うのはあまりにも酷な課題ではないでしょうか!!」
「世界樹の病を治すのはこの花を咲かせる事よりも難しい事。この花を咲かせる事も出来ない者に世界樹を触れさせるわけにはまりません。これは世界樹をいたずらに傷付けないために行う物です。ライト様がお連れした方を信用していない訳ではありませんが、これは必要な事なのです」
「しかしこれはあまりも……」
どうやらこの花を人工的に咲かせる事は相当難しいこととされている様だ。
でもまぁやらなきゃいけないってんならやるしかないだろ。
「分かりました。このバラを咲かせて見せます」
「ドラクゥル様……」
「ご本人が承諾したのであれば問題ありませんね。では2週間の猶予を与えます。それまでに花を咲かせてください。以上です」
こうして俺の試練は行われるのだった。




