ホワイトフェザーからの依頼
今日は珍しい人がお客に来た。
「お久しぶりです、ドラクゥル様」
「お久しぶりです、ライトさん。本日はどうしたのですか?」
そう。今日はブランに連れてられて来たライトさんがアルカディアに来たのだ。
いつも通りレディーとガブリエルがお客様用のお茶と茶菓子を用意し、ガブリエルに気が付いたライトさんの方が緊張すると言う状態が出てしまったが特に問題はない。
ちなみに今日のお菓子はリンゴとサツマイモのタルト。俺が前に作ったパイの発展型なのでかなり美味しい。
やっぱ本職が作ると美味いな。
「え、ええ。まずはブラン様やミカエル様達がお元気なのかどうか確認させていただきたかったのが1点。続けてドラクゥル様の御様子を見たかった事が1点。そして最後にラファエル様のお力をお借りしたくお願いに参りました」
「お願い?ラファエルにって事は誰か病気でもしたか?」
同じ教会の誰かが難病にでもなってしまったのだろうか?正直難病だからと言ってなんでも薬で治るとは思えないが、逆に薬で治るのであれが早く使った方がいい。
そう思って聞くとライトさんは少し難しそうな顔をしながら1枚の手紙を出した。その手紙の封は既に剥がされており、大樹をイメージしたシンボルの様な蝋が残っている。
もしかして……なんか重要な物を見せられているんじゃないだろうか。
「この手紙はグリーンシェルより送られて来た手紙です」
「それってつまり外交うんぬんの手紙って事?無関係の俺に見せないで下さいよ~そんな重要そうな物」
「まぁ確かに重要ではありますが、問題は内容の方なのです。特にラファエル様とドラクゥル様のお力が必要であると判断し、こうして頼みに来た次第です」
教会のトップである人に頼まれるってこれ相当な問題じゃね?
そう言えば忘れていたが、ライトさんは女教皇だったらしい。教皇、つまり教会のトップ。しかも宗教と政治が深む結びついているこの世界ではどっかの国の王様以上に偉い人と言う事になる。
まぁこのホワイトフェザーからするとライトさんが国王みたいな立場に居るらしいけどね。しかも血筋で選ばれるのではなく、ブラン達が誰がいいのか選ぶそうなので男だったり女だったり、その時代によって結構変わるそうだ。
なのでライトさんは俺が思っていた以上にお偉いさんなのである。以上!
「にしてもラファエルはともかく、俺の力って何ですかね?」
「ドラクゥル様のお力はブラン様達の父神である事でしょう。ドラクゥル様はブラン様達に指示を出す事が出来ると言うだけでこの世にとても大きな影響力をもたらします。実際にこうしてドラクゥル様にお伺いする理由はドラクゥル様の御子息のお力をお借りしたいと言う内容なのですから」
「やっぱ俺は凄くないよな。息子達の方が何万倍も凄いよな……」
そう小さく呟いてからライトさんに具体的な内容を聞く。
「それで、ラファエルの薬で誰を治そうとしているです?」
「誰……と言うのもおかしな話ですが、今回治していただきたいのはこの木の事なのです」
ライトさんは封筒についている大樹の事を指差しながら言う。
「ん?木を、治して欲しいって事でいいんですか?」
「はい。この木は神木、世界樹などと言われているグリンシェルの象徴であり、ダンジョンの要なのです。この大樹の下には多くのダンジョンが存在し、冒険者達が活動しています。その大樹に何かが起こると……」
「ダンジョンごと生き埋めって事ですか?」
「最悪そうなるかと。特に今は冬になっている事もあり、実力のある冒険者達はここで薬草を摘んできたり、魔物を退治する事で生計を立てています。もしそのダンジョンなどがなくなってしまったら……」
「色んな所に影響が出そうですね……」
実際クウォンさんが言うには冬の間はダンジョンに生えている薬草などでポーションを製作している様な事を言っていたし、仮にダンジョンがなくなる事で薬草の生産力も低下したら大変な事になる。
ポーションを生産できなくなったら冒険者がダンジョンに潜る人も少なくなって……これがデフレって奴か?そしてポーションやその原料である薬草は逆に高くなる……
「大惨事になりそうですね」
「ご理解いただきありがとうございます。ですのでラファエル様のお力を借りて、大樹の再生を――」
「あ~その話なんですけど、相手が植物と言う事なら俺が直接行った方がいいかも知れませんね」
俺のこの一言にライトさんは不思議そうに首を傾げる。
「そう……なのですか?」
「はい。ラファエルは確かに薬とかを作る技術は俺を超えていますが、植物となれば俺の方が上かと。あいつはどっちかって言うと対人専門と言う感じなので」
「……そう言えば、そうだったかもしれません。以前人間に使う以外の薬を作れないか相談した際に断られたと文献に残っていたような……」
ライトさんは思い出しながらそんな事を呟く。
それに世界樹何て言われている物がどんな木なのか気になるしね。アルカディアでも栽培する事が出来るのであれば育ててみたい。
「それではドラクゥル様にお頼みしたいのですが……よろしいでしょうか?」
そうライトさんが聞くのは俺の周りに居るブランとノワール。どうもブランがライトさんにノワールがパープルスモックの神である事を既に教えていたようで、ノワールの事を見る視線が少し怯えていた。
まぁこの間属国と言える国とパープルスモックが戦争していたのだからそんな風に見てしまうのも仕方ない。
ノワールは自分が話すと雰囲気が悪くと思ったのかブランに話す様にアイコンタクトをする。それに頷くブランはライトさんに条件を言う。
「パパと一緒に行くのは良いけど、私達も一緒に連れて行って」
「えっと……一緒と言いますと?」
「ブランとノワールお兄ちゃんも一緒に行く」
「だ、ダメですよ!ブラン様はホワイトフェザーの神、神自ら出向いては護衛やこの国の不安につながってしまいます!」
「なら護衛はウリエルお兄ちゃんに任せればいいよね。元々ブランの護衛部隊だし、むしろ天使達だけで一緒に行った方が休む時はお家でみんな休めるし、変に隠す必要もないよね」
そうブランが言うとライトさんが怯む。
確かにブランとノワール、そしてウリエルたちだけなら俺がアルカディアに戻る時とか変に誤魔化す必要はない。そう考えると確かに俺達だけで行った方が色々楽だ。
ライトさんは苦悩しながら考えると、せめてもの妥協案を見付けたのか、ため息を付きながら言う。
「分かりました。その代わり私も同行します」
「え、ライトさんが?それって大丈夫なんですか?」
「ブラン様だけに行かせる訳にはまいりません。それに神木は私の様な者でないと信用がなく、資料のみでしか対策を知る事が出来ないかも知れません。ドラクゥル様は現地でどのような調べ方をなさるつもりですか?」
「そりゃ直接触れて木の状態を確認しながらどんな病気なのか調べるよ。ただ単に栄養が足りないだけなら栄養剤を足しておくだけでいいだろうし」
「なら余計に私が必要かと。私が信用する者だと言えば納得していただけるでしょう」
なんだか政治のやり取りと言う物が絡むと面倒だな……俺はただグリーンシェルの神木がどんな物か興味あるだけなのに。
「それじゃそれでいいよ。ノワールお兄ちゃんもそれで良いよね」
「ああ。ここがいい所だろう。私達の正体を知り、グリーンシェルの者になめられない権力者。そうなると彼女ほどいい者はいない」
「お褒め頂きありがとうございます」
何だかよく分からない所で話がまとまったみたいだ。
冬場で少し大変かもしれないが、こうして俺達はグリーンシェルに向かう事となった。




