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ベビーモンスター

 とある日、俺は今まで使えなかった施設の1つに向かって歩いている。

 それは全てのモンスターたちを生み出す最初の部屋、卵部屋と言われている様々なモンスターの1番最初のモンスターを生み出すための施設だ。

 どのようにしてこの施設がまた使える様になったのか分からないが、以前できなかった卵が2種類だけ生産可能となっていたのだ。

 本当は火、水、土、風、光、闇の6種類の卵から始めるのだがどうして今は2種類しか1から育てる事が出来ないのか分からない。おそらくこのアルカディアにその属性のモンスターたちを連れ戻せていないからではないかと俺は思っている。なのでこれから先、他のモンスター達を連れて帰れば6種類すべて1から育てる事が出来るかも知れない。


 そう思いながら俺はモンスターの赤ちゃんを誕生させる。

 モンスターの赤ちゃん達はどれも小さい。たった今生み出された赤ちゃん達は眠たそうに眼を開けたり閉じたり。そして俺を見つけると親だと分かるのか構ってほしそうに俺の足元で小さな毛玉がぴょんぴょん飛び跳ねる。

 俺は可愛いなっと思いながら「ちょっとだけ待っててくれ」と頭を撫でてから作業に戻る。


 今回生み出したのは光属性のモンスターの赤ちゃん5体、闇属性の赤ちゃん5体だ。

 光属性の赤ちゃんは黄色で垂れた犬耳と三日月の様なふさふさの尻尾が特徴。

 闇属性の赤ちゃんは全身真っ黒な毛におおわれており、瞳がきれいな金色なのが特徴。


 生まれたばかりでも性格と言う物は既にある。

 例えば俺の足元で構ってほしいと積極的に跳ねている個体も居れば、少し離れたところで眠たそうにうたた寝をしている赤ちゃんもいる。今俺の足を噛んだのは腹減ってるんだな。すぐ飯あげるからちょっと待って。


 腹を空かせている子達に肉を与えた後施設を出た。

 跳ねたり転がって移動したりする姿はとても可愛い。個人的にコロコロ転がって止まれなくなっているちょっと間抜けな姿も癒される。

 うちの子達はみんな最初はここからだった。ゲームなので繁殖なんてできるはずなく、全員この小さな可愛らしい存在から始まったのだ。


 そして草原で少し生まれたばかりの赤ちゃん達と猫じゃらしなどで遊んでいるとブランが子供達を連れてやってきた。


「パパどうしたのその子達!?私の妹!!」

「そうだよブラン。ついさっき新しく誕生させたんだ」

「へ~。初めまして、おチビちゃんたち~」


 ブランはしゃがんで赤ちゃんの頬をつつく。赤ちゃん達は頬をつつかれてわざとキャーっと言いながら追いかけっこを始める。

 子供達は驚きながらも少年が俺に聞く。


「ご主人様。私達はこれから仕事を任されると聞いてきたのですが……」

「そうだよ。これは命令だ。この子達の世話をするんだ」


 そう言うと子供達は真剣な表情で姿勢を正した。

 仕事と命令。この2つを言われると子供達はピシッとする。

 俺は真剣な表情と声で子供達に言う。


「あの子達は本当に生まれたてて何が安全なのか、何が危険なのか全く分かっていない。好奇心の塊で目を離すとどこに行くのかも分からない。当然今は喋れないし、何か伝えたい時は泣く事しか出来ない。そんな弱い存在達を育てるのは大変だぞ」

「ご命令とあればいかなる困難も超えて見せます」

「その心意気は買おう。でも大変なのは目に見えているからみんなで育てな。どの子を育てるかは好きに決めていいから」


 こうして子供達に仕事と言うか、役割を無理矢理与えた。

 本人達は嬉しそうにしているがこれ本当にハードだからな。楽しめるのは最初だけだからな。


「パパ、何か不安そう」

「育児ノイローゼにならないと良いんだけどな」


 俺はそんな事を呟いてから子供達が赤ちゃんたちを選ぶのを眺めていた。


 ――


 数日後、今日はブランとノワールを交えて草原で日向ぼっこをしていた。

 今日は2人とも人間状態で、ブランの姿は無邪気な子供なので何の違和感もないが、ノワールの人間態だとちょっと違和感がある。

 何せノワールの人間態は燕尾服を着た30代半ばの男性だからだ。しかもオシャレに片眼鏡とシルクハット、若々しい姿ではなく少し若さが抜けて落ち着いてきた頃のイケメン男性なのだから街中を歩けば様々な年代の女性にモテまくるだろう。

 そんな男性がシルクハットを日除けにし、手を頭を後ろで組んだ状態で昼寝をしているのだから普通ありえないと思うだろう。

 俺はつい起き上がってノワールに聞いてしまう。


「なぁノワール。昼寝するならもっとラフな服装にしたらどうだ?燕尾服の状態で昼寝って寝苦しくない?」

「この服はブラン同様に私の鱗を服の形態にしているだけなので着心地は問題ない。それにこの服の形成はどうしても自分らしいと思える服装になってしまうのであまり自分の意思で変えようとは思えない」

「だよね~。自分らしいのが1番」

「2人が言いたい事は分かるんだけどね、何つ~かもったいない?せっかくのイケメンが野っ原で昼寝とかってねぇ」

「良いじゃないか父さん。ようやく私の事を神と言う大袈裟な者達が居ない静かな時間を過ごせるようになったんだから、好きな格好で昼寝ぐらいさせて欲しい」


 顔をシルクハットで隠したままそんな事を言うノワール。

 俺はため息を付いたが結局何も言えなくなって寝っ転がった。そして甘えん坊なブランはちゃっかり俺の腕を枕にして、俺の胴体を抱き枕の様にして寝る。

 まぁ幸せな時間だから良いか。ノワールも2000年間頑張ってきたのだからこれくらい目をつぶるかと思って昼寝を再開する。


 秋から冬になりかけているがまだ寒いとは言えない時期なので丁度いい季節だ。暑過ぎず寒過ぎない。こんな日での昼寝は贅沢と言えるだろう。

 俺はただ目を閉じてのんびりしているとノワールがふと思い出したように話す。


「そう言えば父さんは新しい弟妹を生み出したと聞いた。そしてその世話を奴隷の子供達にさせていると」

「おう。仕事仕事って言ってたから情操教育と言う名目で渡してみた。何か怪我とか病気っぽかったら俺を呼ぶように言ってあるから多分大丈夫だろう」

「もう既に育児ノイローゼになっていると小耳にはさんだのだが……」

「あれ?思っていたよりも早いな。複数人で1体の赤ちゃんモンスターを育ててるんだからまだ大丈夫だと思ってたんだけど」

「それでも慣れない事をしている分かなり神経と体力を使っている。特に夜泣きがひどい者は寝不足だそうだ」

「それは……どうにか交代しながら頑張ってくれとしか言いようない」


 元々このアルカディアは育成ゲームで育てるという部分だけ妙に難易度が高い。

 特にこの赤ちゃんを育てる時点で音を上げたプレイヤーも多かったと聞く。曰く夜泣きをした時の対処が難しい、曰く病気にかかった時の対処法が難しい、曰く狙ったモンスターに進化させる余裕がない。

 などなど様々な原因で各プレイヤーがコントローラーを投げ出してきた。俺もとりあえず6種類全部の赤ちゃんを誕生させて育ててみたがこれがもう大変。

 ちょっと目を離すとどこかに消える、腹が減ったというタイミングが異様に速い、ようやく寝たかと思うと1体が何故か泣きだして連鎖的に他の赤ちゃん達も泣きだす。こんな事が続いた。

 俺もまさかここまで作り込んでいるのかと思っていなくて当然後悔したよ。でも自業自得なのだから気合いで乗り切った。


 当時の事を思い出していると俺はついノワールが赤ん坊だった頃を思い出す。


「そう言えば、いっつもお前は夜泣きしてたな。そして俺が抱き締めるとすぐに泣き止むんだからそれ以降ずっと抱いて寝てたな」

「っ!?」


 その事を言うとノワールは慌てて起きた。

 その顔は真っ赤で覚えていると答えている様な物だ。俺はニヤニヤしながらノワールの事を見ているとブランが意外そうに言う。


「ノワールお兄ちゃんも甘えん坊だった頃があったの?」

「当然だろ。っと言うかうちのSSSランク達は全員甘えん坊だな。まぁノワールはお兄ちゃんって自覚がすぐにできたからある程度育つと甘えてくれなくなったんだけどな~」

「パパ的には甘えて欲しい?」

「そりゃお父さんはいつまでも子供達に甘えられたいものですよ。ノワールも腕枕してあげようか?」

「しなくていい!!私はいつまでも子供ではないし、見た目的に気持ち悪いじゃないか!」

「そうか?親子なら……まぁある程度育てばノワールの感情の方が正しいだろうけど、頼りにして欲しいって感情は嘘じゃないぞ。お前はデカくなってから俺に頼るのが下手になったし。もう少し素直になりな」

「それは……その時が来たら頼む」


 またこれだ。いっつもはぐらかす。

 ノワールはこちらに背を向けて昼寝を再開しようとしているので寝てしまう前に言っておく。


「ちゃんと頼りたい時は言ってくれよ。俺バカだから察する事が出来ねぇんだ」

「……本当にどうしようもない時は頼るよ。父さん」


 出来ればどうしようもなくなる前に相談してほしいな。

 そう思いながら俺達は昼寝をするのだった。

 種族 ベビーモンスター(火)(水)(土)(風)(光)(闇)

 ランク F


 全てのモンスターの始まりの姿。ここから様々なモンスターに進化する可能性を秘めている。

 好奇心旺盛であっちこっち勝手に行動してしまうがまだまだ幼く弱い存在なのでケガや病気に弱い。

 成長の仕方によっては途中で種族が変わる事もある。

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