ノワール・ドラクゥル
再会を祝福するのは良いとして、ワインを一口飲んでから俺は聞く。
「それでノワールは今どこに居るんだ?」
「この国の中心の地下に居ます。種族的にその方が落ち着くそうですので地下でノワール様用の洞窟を用意しています」
「ノワール用の洞窟か。自分で掘ったかどうか知らないが用意するのは大変だったろ」
ノワールもSSSランクのモンスターだ。ブラン同様に専用の育成施設が必要でこれまた大変な作りになっているのである。
俺はアルカディアにいる頃の施設を頭の中に浮かべているが、ヴラドたちの表情を見る限りそう大変でもなさそうだ。
「流石にアルカディアに居た頃ほどの棲み処は用意出来ませんが、地下で落ち着ける場所なら構わないっと言う感じでしたのでこの国の中心の地下に穴を掘って棲み処を作っていました」
「それはそれで地盤沈下とかが起きそうで怖いな。しかも国の中心って大丈夫?」
「そんな軟な作りをしていませんわ。それに地下と言っても500メートルは掘っているはずなので恐らく大丈夫でしょう」
「う~ん。歩いて500メートルは大した距離に感じないのに地下500メートルと聞くと遠く感じる言葉の魔法。でもそんな深くに居て行き来は大丈夫なのか?」
「この屋敷の隠し階段から行く事が可能です」
「この屋敷と繋がってるのか。それならすぐにでも挨拶しに行った方がいいかな」
そう言って立ち上がるとヴラドが待ったをかけた。
「お待ちください父上。この国の空は紫で分かり辛いかも知れませんがもうすぐ日が落ちます。先にジェンを使いとしてノワール様にお伝えしておきますのでまた明日参りましょう」
「そっか……まぁそうだよな。突然行ったら迷惑か。それじゃアポ取ってから行くとするか」
「それから本日は屋敷でお休みください。父上のためにもてなさせていただきます」
少し残念ではあるがノワールはブランよりも忙しそうにしているようなので無理は言えない。ブランは素直にラファエル達に頼っているが、ノワールは出来るだけ自分で終わらせるような性格してるからな。頼るのが下手と言うか不器用と言うか。
それからガブリエルに今日の飯はこっちで食う事を伝えておかないとな。今日はアルカディアに戻らずこの屋敷で寝るからな。
ブランは後で怒りそうだが寝る時だけアルカディアに帰ると言うのも失礼だろう。
「そうだな。それじゃ今日はここでゆっくりさせてもらう」
「は」
「それから後でアルカディアに戻る吸血鬼たちを集めておいてくれ。ヴラドとカーミラには先にアルカディアに帰れるようにするけど、出来るだけ1回でまとめて帰れるようにした方がいいだろ」
「ありがとうございます。それで皆に連絡をしておきます」
「頼んだ」
こうして俺はヴラドの屋敷に泊まった。
ここでもどこかの高級レストランみたいな食事が出てきたのだが、どう食べて良いのか困惑していたのが俺だけではなくポラリスのみなさんも戸惑っていたのはちょっとした心の安定剤になったのは黙っておく。
――
翌日。さすがに朝飯はレストランのような食事ではなく普通にパンが中心の朝飯で安心した。
それらを残さず食べ終えるとヴラドから言われる。
「父上。ノワール様にお伝えしたところいつ来ても構わないとのご連絡があります。いつ参りますか?」
「出来るだけ早く会いたいが……忙しいんだろ?俺に合わせて大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。案内に関してはエリザベートに頼むつもりでしたから。忙しくて申し訳ありません」
「戦争中に無理言って来た俺が悪いんだ。後俺1人で行った方がいいよな?」
確認するように言うとヴラドは頷いた。
「はい。この国で神と呼ばれているお方なので出来れば父上と案内人だけにしていただきたいと思います」
一緒に朝食を食べたポラリスのみなさんと一緒でもいいかどうか確認してみたが、やっぱりダメか。
先に食べ終えて部屋に戻っているから多分ダメだろうな~っと予想はしていた。
今は食後のコーヒーを飲んで一服していたところだ。
「それじゃ俺とエリザベートの2人で行くか」
「もう1人案内人としてレディーを付けます。その、娘はまだまだ未熟ですから」
視線をそらしながら言っているところを見る限り本気でそう思っているらしい。
それとも娘が我が儘だからとかかな?俺は放任主義でほとんどそう言うしつけ的な事は他の子供達に任せてきたからな……俺には何にも言えねぇや。
と言う事で俺はレディーとエリザベートの2人に案内でノワールの元に向かう。
どのように行くのだろうと思っていると、屋敷の地下書庫で1冊の本を取り出す様に傾けると逆の位置にある本棚が動き出して隠し階段が出現した。
階段の先には松明の様な物は一切なく、ただでさえ薄暗い書庫よりも暗い階段はたったの2段先から暗闇で全く見えない。
「こちらです。光の魔法で照らしますが、我々ほど夜目が効かないのですから父様はお気を付けください」
「暗いけど湿気っぽかったり、苔が生えて滑りやすいと言う事はないから安心して通れますわよ。お爺様」
エリザベートがそう言いながらも隠し階段を下りていく。
俺はレディーが照らしてくれる光を頼り階段を踏み外さないように慎重に歩く。光があると言っても見えるのは精々足元の数段だけ。この先どれぐらいの段数があるのか、どれぐらい下るのか俺にはさっぱり分からない。
分からない事は知っていそうな人達に聞く。これが俺の唯一の美点。
「なぁこの階段どれぐらい下り続けるんだ?」
「大体……10分ぐらいはおり続けるでしょうか。そこからさらに5分ほど歩きますわ」
エリザベートが答えてくれたが10分も階段を下るってかなり長くないか?しかも暗闇だからどうしても慎重に歩いてしまうのでそれ以上の時間がかかりそうだ。
「はぁ。ノワールの奴、相変わらずこんな地下が好きなんだな」
「それは種族としてどうしようもない事かと。ノワール様は地下深くの、静かな所を好まれますから」
「俺もそれは知ってるけどね……ま、アルカディアの洞窟に比べればまだマシな方か」
ノワールを育てるための施設は迷路状になっており1度迷うと脱出は不可能ではないかと俺個人は思っている。
そんな複雑な洞窟の最深部にノワールの巣があるのだ。洞窟と聞くと薄暗いイメージがあるかも知れないが、あの洞窟はそんなイメージを吹き飛ばすような美しい光景が広がっている。
今はノワールがいないので美しい光景は見れないが帰って来たらあの光景も元に戻るだろう。
ただ階段を下り続けるのも暇なのでくだらない話で時間を潰しながら進むと、少しだけ明るくなってきた。
恐らく光の根源はノワール本人の物だろう。
階段を下り切るとその先にあるのはただの少し明るい洞窟。光のない場所で少し明るいと言うのも変だが実際にそうなのだからどうしようもない。
そして足元にはとても小さなノワールの鱗の破片が落ちている。
「もったいないので帰りに拾っていきましょう。どれも小さいですが砕けば色々使えますから」
うちの長男が素材を生み出す存在の様に言われるのは流石に嫌なんですけど。そりゃノワールの鱗?は色々と使えるだろうけどさ。
更に歩いて洞窟がどんどん明るくなっていると、ノワールが動いて俺の事を見下ろした。
エリザベートはノワールの前で跪き、レディーも丁寧に頭を下げる。
そんな中俺だけはいつも通りに、他の子供達と接するのと変わらずにノワールに声をかける。
「久しぶりだな、ノワール。こんな狭い洞窟に引きこもってて大丈夫か?」
『……ああ。久しぶりだね、父さん』
ノワール・ドラクゥル。彼こそが我が家の長男であり、最初にSSSランクモンスターに進化したドラゴンだ。
ドラゴンと言ってもブランの様に西洋のドラゴンとは大きく形が違う。
彼の肉体は全てクリスタルで出来ているためにゴツゴツしている。さらに翼はないのでドラゴンと言うよりはトカゲとかそう言う類の方が合っているかもしれない。さらに上半身よりも下半身の方がしっかりとしているのでカッコよく言うとゴ〇ラとかそう言う方がいいかも知れない。
そしてノワールの身体は青白い小さな粒の様な物が血液のように彼の身体を巡っているので軽く発光している。それがさっきからこの洞窟の中が明るい理由だ。
これが俺のカッコいい長男である。
種族 アニマドラゴン
名前 ノワール・ドラクゥル
ランク SSS
全身クリスタルで出来た世界に6体しかいないSSSランクモンスターの1体。司る属性は魂、死者に魂を与え、生者から魂を世界に還す事が出来る。
厳格な性格であり、本来であれば悪戯に魂を操作する事はないが、魂をもてあそぶ存在に対して冷徹な審判を下す断罪者でもある。
補足
ノワール・ドラクゥルはドラクゥル家の長男として生まれた。他の弟妹達のまとめ役であり、そのため苦労も尽きない。
長男と言う自覚があるからか人に頼るのが苦手で何事も自分だけで終わらせてしまおうとする癖がある。責任感が強過ぎるのが玉に瑕。
もちろん家族がバラバラになった時も積極的に動いて家族を必死に守ってきた。




