冒険中でも普段通りの朝
翌日、いつも通り6時に起きて俺はマイルームを出る。いつの間にか忍び込んでいたブランを起こさないようにそっと出るのが日課になってしまった。
「おはようございます、お父様。今日も畑の様子を見に行くのですか?」
朝飯を用意してくれるガブリエルとその妹達。彼女達は料理に興味をもって自然と家事をする様になったので、家での家事担当はガブリエルになっていた。
なので今日も朝飯を用意するために早く起きるガブリエルと顔を合わせる事が多い。
「そう言うそっちは朝飯の準備か?たまにはゆっくりでもいいんじゃない」
「それならお父様もだと思いますよ。お父様は毎日この時間に起きて畑や設備を整えてらっしゃるじゃありませんか」
「俺の場合は習慣だよ。癖と言ってもいい。それに俺が行わないと今は使ってない施設は直ぐにゴミだらけになりそうだからな」
ゲームだから埃だとかそう言う物は溜まったりしないが、それでも使われていない施設はいつでも子供達が戻って来てもいいように整備している。
森とか海系のモンスターたちは未だに帰って来ていないので寂しい感じがとても強い。ノワール達の所は最近より整備する様にしているがみんなこっちに帰ってくるかな……今の家をそう簡単に手放せるとも思えないし。
それに整備だ畑仕事だと言ってもその辺りはゲーム仕様。メニュー画面から施設を選択して畑の雑草抜きや設備に何か異常が起きていないかちゃちゃっと調べられるのでぶっちゃけると施設に行く必要は一切ない。
それでも俺が施設に直接行って作業をしたいと思うのはただのこだわりだ。
俺以外の子達がやると本当に手作業になるのでそんな事に時間を使わせたくないという気持ちもあるが。
「ふふ。それでは朝食を用意して待たせていただきます」
「ああ。よろしく頼む」
それでも手作業にしか出来ない事、今ガブリエルが行っている調理や収穫などは何故か手作業だがこれはこれで情緒があるという奴なのかも知れない。そんなに長生きしている訳ではないから情緒と言ってもあまりよく分かっていないが。
そんな感じで家を出て各施設にジャンプしながら設備に問題がないか確認する。
特にノワールやヴラドたちが住んでいたところは入念に行っておく。もうすぐ帰ってくるかも知れないと分かっているのだから念を入れておくのは当然だ。
ノワール達が住んでいる施設や周辺の環境は薄暗い、ちょっと怖い感じのするエリアだ。ここは中世のお城と城下町を再現してあるエリアなので最も人間に近い生活をしている。それ以外の子達だとほとんどが森の中だったり山だったり海だったりとするが建築物に住みたがるのはブラン達の様な種族か、ノワール達の様なとても人間に近い種族だけだ。
他の人型の種族と言ってもツリーハウス的な木の上に小さな家を建てていたり、社会の教科書で見たモンゴルの伝統的なテントの様な家っぽかったりと本当に色々だ。レンガ造りと言うか、石を切って重ねた様な定住する事を前提にした家はとても少ない。
動物型のモンスターだと放し飼いの様になっているので家と言うか巣と言うか、そう言うのを作らない子達の方が多かったりする。
もしくは……共存系だな。
1体の特に大きなモンスターの背中に住み着いて共存するタイプ。この場合超大型モンスターの背に乗っているモンスターが超特大モンスターの体調管理をしてくれるのでかなり楽だったりする。
害獣や害虫と呼ばれるモンスターがいない訳ではないが……この世界で育った子達はみんな俺に育てられたからか、小さな喧嘩はしても本気の戦いになった事はないからな。
正直どうなるのか分からん。
そんな事を考えながら俺は全ての作業を終了させる。
デリケートではない野菜であればメニューにある収穫を使えば一気に収穫できる。1部の特殊な収穫方法の野菜でなければ収穫もその後の種を植える作業も一瞬で終わる。
あとは現在いる子達の健康状態などを確認しておしまい。
スレイプニル達はまだまだ元気そうで今日も背に乗って走る事が出来そうだ。
そうしたことを確認し終えてマイホームに戻るとブランが出迎えてくれた。
「パパおはよ~」
「はいおはよう。もう少し寝ててもいいんじゃないか?」
時間を見るとガブリエルが朝飯の用意が終わるまでまだ少し時間がある。
どうやら今日は俺の方が少し早く確認が終わったらしい。
「今日はお客さんいるから、お弁当も一緒に作るって言ってた」
「ガブリエルには色々世話になりっぱなしだな。もちろんミカエルにラファエル、ウリエルとかも俺の事手伝ってくれてるわけだけどさ」
「でも楽しそうにしてるよ。そのうちパパよりも料理が上手になりたいって言ってた」
「いや、あいつの場合とっくの昔に俺よりも腕は上だろ。俺が作れるのはただの家庭料理だぞ。なんかよく分かんないレストランの料理を作れるガブリエルの方が上に決まってる」
最近知った事なのだが、あの大聖堂の庭園で食べた料理は全てガブリエル作だったらしい。
その時に見た綺麗な飾り付けや、ソースで描かれた綺麗な円など俺にはあんな事が出来ない。俺が出来るのは一気に大量に作れる山盛りの家庭料理ぐらい。比べるのもおこがましいと言う奴だ。
そう思っているのにブランは首を横に振って言う。
「でもガブリエルお姉ちゃんはまだまだだって言ってたよ。どうしても自分が作った料理よりパパの料理の方がおいしいって感じるって」
「それはあれだ。俺の飯を食って育ってきたからその味が美味いって感じているだけだろ。他の全く関係のない人達がおれとガブリエルの飯を食べ比べればガブリエルの飯の方が美味いってみんな言うだろうさ」
俺の予想は間違っていないだろう。俺みたいにゲームの中でしか料理をしたことのない奴と、ずっと料理をしてきた人と比べるのはおかしなことだ。
多分俺の味に慣れてその味が当然だと思ってしまっているだけだろう。
習慣って奴だ。多分それだ。
「朝ごはん出来ましたよ~」
そう思っているとガブリエルが呼んでいる。
俺はブランと手をつなぎ、一緒に食堂に向かう。
「朝飯食いに行くか」
「うん!」




