1日目終了
スレイプニルに乗って休憩をはさみながら空を駆けると日が沈んできた。俺を乗せているスレイプニルが俺にどうする?っと聞くように短く鳴いた。
さすがに夜に無理に移動するほど切羽詰まっていないので無理せず休むべきだろう。
俺は後ろを振り返りながらポラリスのみなさんに言う。
「今日はもう日が沈んできたので休みましょう!」
そう言うと全員頷いた。
ある程度は空中散歩に慣れたようだがまだまだ怖がっている様子はある。そりゃ地面の上を歩くのが普通な人間にとっては空中と言うのはそう簡単になれない者かも知れない。
俺はどうだって?原付乗ったり旅行で飛行機乗ったりしたりしてるから特に何も?
スレイプニル達はうまく降りれそうな場所を探し、そこに向かって回るように地面に降りようとする。これでまたアレクさんが悲鳴を上げてるが、俺としてはそんなに怖いと感じない。あのグルグル回る立体駐車場みたいな感じなんだけどな。
そして地面についてから俺はそのままアルカディアに行くための穴をあける。スレイプニル達はそのままマイホームまで俺達を乗せてくれたのでとても楽だ。
全員降りた後俺はスレイプニル達を労いながら声をかける。
「ありがとさん。干し草たっぷり食って休んでくれ」
そう言って鞍をすべて外すとあの長距離移動などなんて事のない様にしっかりとした歩みで馬房に帰っていく。
それに比べてポラリスのメンバーは疲労困憊と言う感じだ。アレクさんはまるで全力疾走をした後のように前かがみになって休んでいるし、なんて事のない様にしているライナさんはまだ膝が笑っている。ディースさんは自分自身に回復魔法をかけているし、メルトちゃんは杖に寄りかかっている。
疲れているなら客室でゆっくりと休んでもらわないとなっと思いながら扉を開けようとすると勝手に扉が開いた。
何でだろうと思っていたら家の中にはすでにブランと天使達が待っていた。
そしてブランが俺に飛びつきながら言う。
「パパおかえり!!」
「お~ブラン。ただいま」
飛びついてきたブランを俺は受け止め抱っこする。それだけでうれしそうな顔をするブランはやっぱり癒される。
俺はポラリスのみなさんに家に入るよう言おうとする前に全員こちらを見て固まっていた。
驚愕と言う言葉はこういう意味だと見せつけられているような感じ。
「あの、どうかしました?」
「だ、だって……今、その子、ドラクゥルさんの事をパパって……」
「はい。娘のブランです。ブラン、ご挨拶」
「ブラン・ドラクゥルです。本日は父の護衛をしていただき誠にありがとうございます」
俺そんな挨拶しろとは言ってないぞ。もっとこう、普通の家族っぽい感じだと思ったんだけど?これじゃどこかのお嬢様みたいな挨拶じゃん。態度と見た目年齢が全くかみ合ってねぇよ。
そのせいなのかさらにアレクさん達は固まった。これなんだか大変そうだな。
そう思っていると玄関に居たミカエルが少し微笑んだ後ミカエルの方から挨拶をする。
「初めまして皆様、私の名はミカエル・ドラクゥル。父の護衛であり友人であると聞いております。お疲れのようですから体力を回復できる料理をご用意させていただきました。それとも先にお部屋でお休みなされますか?」
「ありがたくいただく」
いまだに固まるアレクさん達の中からメルトちゃんは1番先に復活した。
ミカエルは「それではこちらに」っと言ってまるで執事か何かのように食堂に誘導する。
そしてメルトちゃんがまだ固まっているメンバーを軽く杖で叩いて固まった状態から無理やり復活させる。全員はっとした表情を作ったかと思うといそいそとミカエルについて行く。
何か衝撃的な光景があっただろうかと俺は考えながら歩いているとアレクさんがそっと、いまだに信じられないと言う表情を作りながら俺に確認するように聞いてくる。
「ドラクゥルさん。ドラクゥルさんに子供がいたってマジか?」
「そりゃいますよ。と言っても養子みたいな感じではありますが、注いだ愛情は本物のつもりですよ」
「よ、養子?」
確かに俺はブラン達とは血の一滴も繋がってはいないが、本物の親としていい事をすれば褒め、悪い事をしたら叱ってきたつもりだ。いくらゲームに存在するモンスターとはいえ俺は本気でこの子達を育てた。そこに偽物の感情があるとは思えない。
そう言いながら自然とブランを抱きしめる力が強くなっていたので慌てて緩めたが、ブランは甘えるようにさっきと同じように抱きしめてほしいと視線で訴える。
苦しくないか気になるが心地よさそうにしているから多分大丈夫だろう。
そしてブランも言う。
「うん。パパは私の事を愛して育ててくれたよ。血の繋がりなんてみんな気にしてないんじゃないかな?」
ブランはさっきのあいさつよりも普段通りの言い方で話した。
アレクさんはブランの子供らしい言い方に違和感の様な物を感じなくなったからか、さっきよりも納得したような表情を作る。
そしてアレクさんは感心したように俺に向かって言う。
「やっぱりすごいな、ドラクゥルさんは。養子を引き取るって結構大変じゃないのか?」
「そりゃ子育ては大変ですけどそれ以上に子供が元気に育つ姿を見るのが好きですからね。それにこの子が初めてという訳ではありませんし」
「そうなんですか?ではお兄様かお姉さまが他に?」
ライナさんも余裕が出来たのか聞いてくる。
「はい。と言うかここに居る子全員が俺が育てた子供達ですよ」
「え」
ライナさんは周りにいる天使達を見る。
今の天使たちは人間に擬態……と言っても真っ白な翼をしまっているだけだ。でも何も知らない人から見れば普通の人間だろう。イケメンと美少女ばっかりと言う違和感を除けば。
それについて答えようとする前にミカエルが先に答える。
「父の言う通りですよ。父はこの広大な土地と豊富な食材で我々の事を育ててくれました。ですので我々はみな兄弟なのです」
そう言われるとライナさんはもう何も言える事はないらしく、ただそう言う事なんだと知った。
そしてディースさんは何か落ち着かなさそうに辺りを見渡している。
「ディースさんどうかしました?」
「あ、いえ、その……先程から聖なる力が強く感じてしまって……こんなの大聖堂以来ですので落ち着かなくて」
………………あ。
そう言えばここに居るミカエルとかって白夜教の超偉い人達みな感じじゃん。ブランに関しては神様だし。
そう考えると聖なる力?とやらが強く感じるのは当然と言える。だってあっちこっちから聖なる力が溢れてるし。
「どうぞこちらに」
でもミカエルは気にした様子もなく普通に食堂に通した。いや、特に悪い事してる訳じゃないけどさ、何というかこう、もうちょっと警戒した方がいいんじゃない?ここに居るの全員天使とその眷族だって分かったらどんな反応するのか分かんないんだけど。
でもスレイプニルに乗っていた疲労などがあったからかポラリスのメンバーはみんな食事を終えた後に客室に行ってしまった。
もしかしてこうなる事予想してた?
俺はガブリエルに食後のお茶をもらいながらミカエルに聞く。
「もしかして堂々としてたのってすぐ寝る事を予想してたから?」
「いえ、父が心を許しているのであれば警戒する必要はないと思っただけです。あのディースと言う方、中々の才能を持っているようですね。力は外に溢れない様にしていたのですが、気付かれてしまいました」
あ、最初から抑えてたんだ。
と言うか勝手にバトルマンガみたいなやり取りしてんじゃねぇよ。その辺この世界に来ても全く分からないんだから。
「それからジェンが父に用事があるそうです」
そうミカエルが言った瞬間、ジェンが黒い霧の状態から人型に戻りながら俺の前に現れた。
「ドラクゥル様にお届け物がございますのでお渡しに来ました」
「ん?何をくれるんだ??」
俺が手を伸ばそうとすると俺の膝の上に座っているブランが先に手を伸ばした。ジェンはその様子を見て微笑ましそうにしながらブランに渡す。
ブランは丸まった紙を広げるとこの世界の文字で書かれている。
内容は「入国許可書」
「こちらがない人間が侵入してきた場合、捕獲した後人間牧場に送られる事になりますので必ずこちらをお持ちください」
「これ1枚しかないけどポラリスの人達も大丈夫なんだよな?」
「ご安心ください。ドラクゥル様がお持ちしていれば問題ありません。さらに言うとこちらのインクにはノワール様の鱗の欠片を砕いて混ぜた物を使用しているので偽造防止にもなっており、どれだけ重要な方なのか分かる様にもなっております」
「あ~。ノワールのあれって鱗で良いの?正直俺、あれが鱗とは思えないんだが」
ノワールの姿を知っているとあれが鱗とは言えない気がする。
でも確かに細かく砕けば色々と使えそうだがまさか入国許可書に使ってるとは思ってなかった。
「他にも紙幣や重要機密など、インクを使った物にはノワール様の鱗を砕いた物を使用しています」
「ねぇそれノワールの奴大丈夫?あいつデカいと言っても紙幣だのなんだのにガンガン使ってたらあっと言う間にあいつの鱗なくなりそうなんだけど」
「自然とはがれた物を使用しているので問題ありません」
問題ないならいいのかな……子供の鱗が混じった入国許可書……
「あ~それあるあるだよね~。私の羽も歴代教皇の胸に付けてるし、私の羽で作った羽ペンとかで書いた物を重要機密にしてあったり」
何その赤い羽根募金みたいなやり方。と言うか自然と抜け落ちた羽とかってそんな風に使っていいの?
俺個人は切った爪を周りの人が再利用している様な気がして何かな……汚い汚くないの話じゃなくてもっとこう、嫌な感じがするんだよな。
「とにかくこれを持ってパープルスモックに行けば大丈夫って事だな」
「その認識で間違いありません」
「それからブラッディ・ピーチの方は大丈夫か?栽培よりもむしろ収穫して分ける方」
「そちらも大丈夫です。みなブラッディ・ピーチのおかげで生気を取り戻しつつあります。ドラクゥル様が参られると言う事もあり、パープルスモックはドラクゥル様が来たあとは捨ててもよいと判断しております」
「6大大国の1つが潰れるという話を聞いた俺はどうすりゃいいんだ」
俺は国1つ消えてしまう話を聞いた後ブランも物申す。
「流石にそれは困るよ。ノワールお兄ちゃんだって本気ではないんでしょ?」
「あくまでもそれも視野に入れておくと言うだけの話です。例の勇者を名乗る少年がこちらを一方的に悪と決め付けている以上話し合いの余地はなく、無理にあの地を守る理由もなくなったので最終手段として視野に入れていると聞いております」
「そんなに強いのか?勇者って」
「いえ、真祖が動けば簡単に殺せます。ですがそれはそれで面倒なので今はしていません」
あ、ジェン達の方が強いんだ。となると俺と同じゲームチートではない?まさか育成ゲームのモンスターが他の戦闘系ゲームより強いなんて事はないだろう。
やっぱ調子に乗って勇者を名乗っていただけかな。
「一応落としどころとして人間牧場の人間を解放するという形でホーリーフェザーと交渉中だとヴラド様がおっしゃっておいででした」
ん?それ初耳なんだけど。
どう言う事かとブランに視線を向けると、ブランはさらにミカエルに視線を向けた。
「一応ホーリーランドの大義は人間牧場に居る人間達の解放です。もちろん血が飲めなくなって疲弊させるという思惑がないとは思えませんが、父の桃さえあれば問題ありません」
「食糧問題に関してはな。それじゃもう少し生産量増やしておいた方がいいか?」
「問題ありません。収穫に関してはドラクゥル様の御許可さえいただければ収穫しに来られますし、今の生産量で充分食べていけます」
「それならいい。俺のカッコいい息子や可愛い娘達を飢えさせたくはないからな」
俺に出来る事はそれぐらいだ。
だからできる事を全力で行う。明日はそれなりに早く起きて畑仕事をしてから出かけないとな。
「それでは失礼いたします。パープルスモックに来る日をお待ちしております」
そう言ってジェンはまた黒い霧の状態になってどこかに消えた。そんな事しなくても穴開けて帰ればいいだけなのに。
とにかくこれでパープルスモックに行っても安全そうだ。あとは戦争に巻き込まれないようにしながら行こうっと。




