進化方法
と言うわけで翌日、さっそく俺はペガサス2体、ユニコーン3体を前に説明をする。
今目の前に居る子達は寿命ギリギリの俺が直接育てた子達だ。なので言う事を聞く方ではあるが、今の種族のまま死にたいと言うのであれば俺はこの子達を候補から外そうと思っている。
特にペガサスなんかは翼のある状態を誇りのように感じている部分があるので嫌がる子が多いのだ。ユニコーンの場合は角がなくなることを嫌がる。どちらも自分の象徴的な部分に誇りを持っているからこそだろう。
だが5体とも嫌とは言わずにおとなしく進化する事を受け入れた。
俺は5体に「ありがとう」と伝えてから早速進化の準備を行う。
アルカディアでの進化方法は大きく分けて3パターン存在する。
1つは特別な体力や攻撃力のようなパラメーターを上昇させる食材を食べさせるやり方。
食材を食べさせるだけなのでお手軽ではあるが、食材は当然消耗品なのでなくなれば使う事が出来なくなる。俺の場合最大まで畑などのレベルは上がっているので元々使いきれないほどに余っているから問題ない。
あえて問題点をあげるとすればモンスターが満腹状態の場合だと食べてくれない事。無理やり食べさせることはできず、腹が減るのを待つしかない。
2つ目はトレーニングルームで鍛えてもらう事。
トレーニングルームとはモンスター達を鍛えて進化させるためのパラメーターを上昇させるための施設だ。
こちらは初級、中級、上級の3種類があり、初級が最もローリスクローリターンで安定したパラメーターを鍛える事が出来、上級だと失敗すると逆にパラメーターを低下させてしまう可能性がある。
問題点はそれだけではなく、年を取ると上級などでは失敗しやすくなってしまうと言う点だ。普通の人間だって年を取って体が動かしづらくなるようにモンスターに寿命システムがある以上年を取って死ぬことがある。そんな感じで若いうちならともかく、年を取った後だとこの方法はとてもキツい。
3つ目は1つ目と2つ目を組み合わせた方法。
つまりパラメーターをあげる食材を食べさせながら、満腹になったらトレーニングルームでさらにパラメーターをあげると言う方法だ。
ぶっちゃけこれが最も効率が良いのだが、今回はどうだろう。何せ今回は若いモンスターではなく老いたモンスターなのだから出来ると言ってもローリスクローリターンな物だけだろう。
あまり効率的に成長できるとは思えない。無理させると寿命も縮まるしな。
なので無理なく確実に進化させるために食材によるパラメーターの上昇と軽いトレーニングで体力ゲージを上げていく。
この5体を調べた結果、やはり足りないのは体力面だけ。これならトレーニングの初級でも十分間に合うだろう。
俺はユニコーンとペガサスに体力が上がるスイカを丸ごと食べさせる。スタミナウォーターと言われる物で、みずみずしくて甘いスイカである。
ゲームだからとは言えスイカを食って体力が上がるのは謎だ。普通に米とかを食って体力付けるとは違うのな。
とにかくこのスイカを1体につき3個食べさせる。他に普通の干し草なども食べさせた後に体力パラメーターを上げるトレーニングの初級編を行わせる。
ちなみにこの初級の体力アップトレーニングの見た目は完全にルームランナーである。
そりゃどんなモンスターでも使用可能なのでかなり大きなサイズにはなっているが見た目はとても地味。
ちなみにこのルームランナーを使う時間は3時間だ。上級になると30分で終わりなのだがゆっくりな分安全と言う事なんだろう。
上級でもルームランナーの形は変わらないが、途中ハードルが現れて途中ジャンプしないといけない。画面でプレイしていた時はちょっとしたミニゲーム感覚であり、タイミングよくボタンを押す事でさらに能力値が上がる仕様になっていたので現在はそれが出来ないのが残念だ。
5体はルームランナーを使って3時間歩き続ける。進化の道は少し長くなりそうだ。
――
こんな感じで穏やかに進化させるようにした2日目の昼。
「パパー!!パーパー!!」
ゲーム機能を使った畑の管理をしている間にブランが呼びに来た。
「どうかしたか」
作業をささっと終わらせてからブランを見るとブランは興奮した様に言う。
「みんな進化したよ!全員スレイプニルに進化した!!」
「お、思っていたよりもやっぱギリギリだったな。それじゃ早速見てみるか」
俺はブランと手を繋いでトレーニングルームの方に歩く。
そしてトレーニングルームの前には5体の立派な馬型モンスターがそこに居た。
「よ。寿命が延びた事でちょっと若返ったんじゃない?」
俺がそんな風に片手を上げながら言うとスレイプニルたちは誇らしそうに鳴いた。
まずは1体1体首や胴体、ふくらはぎなどを触れながら状態を確認する。もちろん触ったからと言って何か分かる訳ではないが、スキンシップをしながらの方がいいだろう。
そんな風に触れ合いながらパラメーターを確認していくと多少の能力値の上下はあるが全員ほぼ同じぐらいのパラメーターだ。多少魔力量に差があるのはユニコーンが元になっているからだろう。ユニコーンに進化させるには魔力系高めに育てないとダメだし。
「こんだけ立派ならパープルスモックまでの足として十分行けるだろ」
「そうだね。それに確か空も飛べるんだっけ?」
「え、飛べねぇよ?空を走れるだけだぞ」
スレイプニルの最大の特徴は8本足だけではなく空を走れる事だと思う。原理とかは全くの不明だが、走れるのだからそれでいい。
そういや空を走った場合はどれぐらい早く着く事が出来るんだろう。直線距離だとどれぐらいなんだろうな。
なんて話をしているとスレイプニルたちは牧場を走りだす。
若返って嬉しいのか、かなりの速度を出して文字通り風を切って走り抜ける。
「流石スレイプニルだね。障害物のない場所だと最速だよね」
「確か地上を走る速度はピカイチだったよな。まぁ主に草原とかだから障害物がないって条件が付くけど」
どこまで行くのか知らないが、もう既に俺の目には見えない。
しばらくその場で待っていると、スレイプニルたちが空を走って帰ってきた。5体の内2体は大空を走っているが、3体は2メートルほどの高さを走っている。
これも進化した元の種族差なんだろうな。おそらく上空に居るのが元ペガサスなんだろう。大空を走るのためらいがない。低い所を走っているのは元ユニコーン達、地面ではなく空を走るのにはまだ慣れと根性がいるようだ。
「あの調子だと全員空を走っていく訳にはいかなそうだね」
「でも十分すぎる機動力だ。所であいつらに乗馬するのに鞍って必須だよな。アクセサリーの鞍で大丈夫かな……」
一応おまけ程度にモンスターにアイテムを与えて帽子をかぶせたりする事が出来る。でも別に戦闘ゲームではないのでステータスには一切関係ないし、本当にただのオシャレなのでぶっちゃけ興味のなかった俺は一切してこなかった。
なのでアクセサリー関連は全て倉庫にしまわれており、1回も使った事がない。
「多分大丈夫じゃない?」
「ブランも疑問系か。1回も使った事ないからな~」
「でもあれって壊れる事もないんだよね。ならきっと大丈夫だよ」
そりゃ育成ゲームに壊れる要素とか要らないだろうからな。
とにかく無事に出発前に足が出来た事に喜ぼう。
スレイプニル
Aランク
足が8本ある軍馬。その先祖は神を背に戦場を駆け抜けた。
発達した筋肉と力強い足取りから空を駆ける事も出来る。
馬形モンスターでは最速の足と最大の体力によりどこまでも自由に走り抜ける。




