専用食材
翌日。予定通り3人は現在の俺の家に来た。
俺の掘っ建て小屋の方がまだましではないかと言う感じの家に3人とも不満を漏らす。
「仮なのは頭では理解できていますが……あまりにもお粗末では」
「ドラクゥル様。いくら普段はマイルームにおられると言われましても……これはあまりにも……」
「とりあえず掃除していいですか。これほど汚い小屋は久しぶりです」
エリザベート、ジェン、レディーの3人が言う。
まぁ……うん。俺自身アルカディアに行くために買っただけだから汚いとは思ってるけどね。うちの子達から直接言われるとちょっとショックだな。
かなりの金をもらっているわけだし、引っ越した方がいいのかね?でも立派な家に住んでいるのに姿を一切あらわさないとなると不自然に思われるよな。
…………ならこのままで大丈夫か。どうせアルカディア側にいる時間の方が長い訳だし。
とりあえず掃除する気のレディーを止める。ここを掃除する必要はないからだ。
まぁ汚いから掃除したいと言う気持ちは分からないではないけど、本当に周りの視線を気にせずに使える場所程度にしか思ってないから。ここには住んでないから。
とにかく掃除しようとするレディーを止めてさっさとアルカディアに行く。
久しぶりに帰ってきたアルカディアにジェンとレディーは懐かしそうに表情を緩ませる。エリザベートに関してはどこか不思議そうな表情を作る。
「ここがアルカディアですか……日の下なのに吸血鬼にダメージがない?」
「そりゃ吸血鬼だろうが何だろうが、この世界で生まれ育ったモンスター達はこの世界でダメージを負う事はない。普通の吸血鬼でも昼間に出歩いたからと言って消滅するようなことはねぇよ」
これもゲーム補正と言うかなんと言うか、日向ぼっこが好きという珍しい吸血鬼はよく昼寝をしていた。だが決して死ぬことはないし、寿命がないのだから永遠に昼寝をしようと思えばできなくない。
昔の事を懐かしむのもいいが、ブラッディ・ピーチの元に行く必要がある。俺はメニュー画面を表示してピピっと俺達4人を移動させる。
ブラッディ・ピーチの生育場所はもちろん吸血鬼が住んでいた屋敷の近くに育てている。
基本的にじめっとしていて日の光が強く入らない場所に生息している。気の見た目は普通の桃ノ木と変わらないが、桃自体に関してはピンクと言うよりはかなり赤くてリンゴに近いだろうか。だが持つと人の肌のように柔らかく、環境によるダメージよりも物理的なダメージの方が弱いのでちょっとした衝撃ですぐに傷ついていしまうデリケートな桃だ。
しかも水分量は非常に高く、ちょっと傷ついただけで果汁が零れ落ちてしまうので注意が必要だ。
一気に移動したことにエリザベートは驚いているようだが俺とかは特に変わらない。畑の状態を確認するのにいつも使っている機能なので特に感じる事はない。
俺は木に近づいて状態を確認する。木の状態は最高の状態を維持、木の実も最高品質の状態を維持しているので誰が食べても問題ないだろう。
「これが伝説のブラッディ・ピーチ……なのですか?何やら袋が付いていてよく分からないのですが」
「ああ、これは収穫のための方法だよ。直接手でもぎ取ろうとすると失敗するからさ、袋にかぶせて自然と熟して落ちて来るのを待ってるんだよ。成功率は高いし、常に見張っている必要もない。自然と落ちてきたのを袋ごと回収する」
「直接収穫するとどうなりますの?」
「手に果汁がべったりついてしばらく他の物を触れなくなる。血のように真っ赤な果汁だから汚れも落ちにくいんだよな……上手くもいでも枝とくっついてたところから果汁が漏れたり、本当に手間のかかる桃だよ」
吸血鬼を育てるために事前に育てていたのだが、袋にかぶせて自然と落ちて来るのを待つ以前の時は本当に苦労した。まさか何の役に立つのか分からない袋をここで使う事に気が付くのにそれなりの時間がかかった。
通知で収穫しないといけない時間は分かるのだが、その後収穫するときはそっと慎重に行わないといけないので時間がかかるし、時間をかけると収穫してなかったものが自然と落ちて収穫失敗になったりと面倒だった……
袋の使い方を知ってからは自然と落ちてきたものを機能で一気にっメニュー内に収納すればいいだけになったのは本当に楽。他の野菜とかはデリケートでない物は機能で一斉収穫のボタンで済むのにな……
とにかく自然と熟して落ちた物をメニューでまとめて回収。その後3人に桃を手渡した。
「お前らも食ってみな。実際に食った感想を聞きたい」
「ありがとうございます。いただきます」
「ありがとうございますドラクゥル様。お嬢様もいただきましょう」
「え、ええ。でも皮は剥いてくれないの?」
エリザベートがレディーにそう聞くがこればかりは無理だ。
レディーはエリザベートに言う。
「お嬢様。このピーチは大変皮が薄く、ナイフで切ろうものなら果汁が全て外に出てしまいます。果実と言うよりは血の入った袋のような物です。人から血を吸うように直接牙を立てるのが正しい食べ方です」
「そ、そうなの。果物を直接口にするのは初めてだわ」
そう言う会話を聞くと本当に育ちはいいんだな。
ちなみにこの桃は全部で4種類の味……と言うか分類される。それは人間の血液型であるA、B、O、ABの4種類だ。
俺が以前に興味で食ってみた時はぶっちゃけそんなに飲みたくはないと思った。確かに桃のような甘い味はしたのだが……それ以上に血を飲んでいる感じがした。吸血鬼用と言う意味では何の問題もないのだが、この桃、輸血にも使えるって説明に書かれてるんだよな。
だからどうしても果汁と言うよりは普通に血が入っているような感じがして俺は好んで食べたりしていない。桃を食べたければ普通の桃を食う方が美味い。中身はほとんど液体で噛む必要ないし。
別にどこ血液型がレア用とかそう言う事はないのだが、単に吸血鬼たちの好みによって変わると言う感じだ。俺にはよく分からないが好みと言われてしまえばどうしようもない。
同じリンゴと言う食べ物でも品種によって味が違うからそれと同じような感じなんだろうか?
ちなみに基準としてジェンの好みはA型、レディーの好みはB型だ。エリザベートにはよく分からないので適当にO型のを渡した。
そして初めて食べたエリザベートが興奮したように言う。
「これ!上級血袋の血よりとてもおいしいですわ!!」
「当然です。ドラクゥル様が作られたブラッディ・ピーチなのですから」
「懐かしい……そして美味しい……やはり人間の生き血よりこちらの方がいいですね」
エリザベートは夢中になって果汁をすすり、2人は楽しみながらすする。
正直人間の血とこの桃の果汁のどっちが美味いとか興味ない。だって俺食べないし。
でもまぁ3人の様子を見る限り、俺が作った桃の方が美味いと言ってくれるのは素直に嬉しいとは思うけどな。
でも生きるために仕方がないとは言え、人間の血と比べられると言うのも複雑だ。そりゃ食人種とか言われるんだよ。仕方ないけどさ。
仕方がないと言うのは吸血鬼の生物的な理由がほとんどだ。
吸血鬼は1度死んだ人型種から生まれる事は話したが、その際にとある器官が他のモンスターに比べて非常に低くなっている。
それは消化器官、つまり胃や腸の働きが非常に弱いのだ。
死んだことによる影響と見るべきなのか、普通の吸血鬼は液体しか口に含む事しか出来ない。それは身体の動きが非常に悪い生かす意味あるの?っと聞きたくなる様なベッドの上で寝ている爺さん婆さんが食べる流動食ですら口にする事が出来ない。
固体だった物をドロドロにしたところで食べられない。食べる事が出来たとしても身体に栄養として行き渡る前に腹を下す。
だから高たんぱくと言うべきなのか何と言うか。血液を直接吸収する方が効率的で唯一行なう事が出来る食事なのだ。
ついでに言うと吸血鬼の犬歯には小さな穴が空いており、そこから血を吸血している。そして噛むのは動脈ではなく静脈だったりする。
「それじゃジェンとレディーのはアルカディアに来れる様にしておくけど、2人だけで大丈夫か?」
「問題ありません。ブラッディ・ピーチを手に入れるのは急務ではありませんし、しばらくは人間牧場の方も持つでしょう。勇者を名乗る子供は現在人間牧場の人間達を優先しているようですから」
「それならいいが……全く。傍迷惑な勇者だな。いや、モンスターと戦うって意味では勇者的な行動と言えなくもないかも知れないけど」
そんな事を呟くと、エリザベートが不思議そうに言う。
「しかし人間牧場の人間を解放してどうするのでしょう?あれは本当に何もできない家畜ですのに」
「そう言えばお前らは人間牧場の人間達をどんな風に管理してたんだ?」
ちょっと好奇心感覚で聞いてみるとエリザベートは首を傾げながら言う。
「どんなと言われましても、普通に家畜としてですわ。病気にならない様に管理し、エサを与える。そして1日1回の採血を行いあとは放し飼いですわね。場所によって差あるでしょうけど、品質が良ければその分高く血を買い取られるわけですし、一定以上の基準を超えないと販売を行う事すら出来ない制度にしているので一定以上の品質は保証いたしますわ」
う~ん。血の売買って聞くとおっかないイメージが頭をよぎるな。
「ちなみに一定以上の年齢を超えたり、病死したりした個体はどうしてるんだ?」
「そう言う個体は主に雄の方が多いですわ。種を残す能力が低かったりすると若い内に処分されて他の肉事食べる食人種の餌になりますね。血が美味しければある程度は長生きできるでしょうけど……雌の場合は子を産むので雄よりは長生き出来ますわね。それから事故死ならともかく病死した物は流石に他の食人種に渡せませんわ」
「思っていたよりも衛生面と言うか何と言うか。ちゃんとしてる感じが凄いな。ちなみに病死した個体の廃棄方法は?」
「特定の廃棄所で骨も残さず焼きます」
やっぱ衛生管理がちゃんとしてるわ~。正直うちの子達が病気になったりしていないか気になってたんだよね。ペストとか、エボラとか血液感染の病気とか感染したらどうしようと思ってたから。
「それからたった2人で人数分収穫するの大変じゃない?その辺大丈夫か」
ジェンとレディーにアルカディアに戻れるように設定しながら聞くと、2人は何て事のない様に言う。
「流石にそこまで落ちぶれてはいませんよ。この2000年の間にわたくし共はただの吸血鬼から真祖へと進化する事が出来ました。そしてブラッディ・ピーチを運ぶ事に関してはこちらでもすでに準備しております」
「準備できてるのなら別にいいんだが……俺もその内パープルスモックに行くから、それまで頑張ってくれ」
「それは重要な事をお聞きしました。我らの国に参られるのでしたらそれ相応の歓迎を準備しなければ」
「勇者関連で忙しい時にそんな事しなくていいよ。とにかく今度そっちに行って、色んな子達をこのアルカディアに帰って来られる様にするから。食人種ってケルピーとかだよな?」
「はい。水辺ではケルピーが多いですね。鳥類系だとスティムパリデス、爬虫類でもバイパー系が多いでしょうか」
「スティムパリデスってAランクじゃねぇか。まぁノワールとかが居るなら納得できるか」
どうやら主に毒を吐いたりする連中が多いみたいだな。そりゃ魔王とか言われても仕方ないって。
「それじゃ少し収穫してから戻るか?」
「いえ。収穫は国に帰ってからさせていただきます。デリケートな実ですのですぐに配れるようにするのが良いでしょう」
「そうか。それじゃいつでも帰って来いよ。ここはお前達の家なんだからな」
「ありがとうございます。それでは国に報告しにまいりますのでしばらく離れさせていただきます。出来るだけ早く戻ります」
「そっちはそっちで国の事とかあるんだから急ぐ必要もないけどな」
俺自身よりもノワールたちの方が不安だ。詳しい事は分からないが、勇者と名乗る誰かのせいで被害を受けている様だし、俺よりも大変なのは目に見えている。
むしろ俺の方が急いでノワールたちの元に行かないとな。
ある程度アルカディアを確認したジェン達は国に帰るそうだ。
「それではまた収穫の時に参ります。久しぶりに会えてホッとしました」
「悪いな。俺がこの世界に来るのが遅れたせいで迷惑かけたみたいだ。ノワール達によろしく」
こうしてジェン達はパープルスモックに向かって帰って行った。
さて、俺は俺でパープルスモックに行く方法を調べないとな。




