ホーリーランドに行くか
「という訳でとりあえずホーリーランドの事直接見てみたい」
俺が晩飯に子供達に向かって言うと何故かしんっと辺りが静まり返った。
あれ?俺何か変な事言ったかな?
なんて思っているとブランが今まで見た事のない表情で俺を見ていた。
目からハイライトが消え、持っていた箸を握ってへし折った。
「パパは何を言っているのかな??自分で何を言っているのか分かっているのかな??」
ブランがブチギレてらっしゃる!?
今まで見た事がないキレ方してるんですけど!?
つい俺は他の子供達に視線を向けるが、やっちまったな感が物凄く伝わってくる。
え、もしかしてみんなは知ってたの?ブランが本気でキレるとこうなるって知ってたの??
「パパ」
「はい!!」
ついブランの雰囲気にのまれて背を伸ばしながら答えるとブランはハイライトの消えた眼のまま俺に向かって言う。
「今度ゴブリン帝国と戦争するかもしれない国に行って何するつもりなの?危険なリアム・フォートレスが所属している国に行きたいってどう言うつもりなのかな?」
「こ、好奇心と敵情視察?」
俺がそう言うとブランは大きなため息をついた後、俺に向かって神としての視線を放ちながら話す。
「あのねパパ。今のホーリーランドは私のいう事をそう簡単に聞いてくれないの。しかも今は軍事力を増している真っ最中で冒険者とか傭兵とか雇い続けてる。1番多いのはホーリーランドに共感している国だけど、それでも戦力を集めているのは確かなの。だからそんな危険な所にパパを行かせられない」
「いや、ブランが言いたい事はもちろん分かるよ。でも自分の目でホーリーランドって国がどうなっているのか確認してみたいと言うか――」
「絶対にダメ。最低でも私達SSSモンスターが一緒に居ないと許さないから」
それだけは譲れないと言うブラン。
もしかしてホーリーランドってそんなに危険な所なのか?
そう思いながらノワールに視線を送ると思い出すように説明してくれる。
「ホーリーランドは人間至上主義の国だ。魔物から取れた素材などはできる限り使わない徹底した魔物嫌いの国として有名だ。食べ物、衣類、建材まで全て魔物由来の素材を使っていない。借りに魔物の素材である事を隠して製造、販売、使用が確認された場合厳しく対応される。魔物の素材を持ち込んだり使用する事が許されているのは冒険者のみだ」
「商人とかはアウト?」
「アウトだ。魔物の素材を販売しようとしているとみられる。その場合良くて素材の没収、悪ければ死刑だ」
「死刑!?」
「指定禁止薬物の持ち込みなどと同じ扱いだ。それだけホーリーランドは魔物の素材は国に持ち込まれないように厳重に取り締まっている」
「で、でも冒険者がいるなら――」
「冒険者ギルドで買い取ってもほとんどは他国に輸出される。販売価値のない物ならその場で焼却、そもそも買い取らないと思うがな」
徹底し過ぎだろ……
でもふと考えてみると魔物の素材を一切使っていない物って見た事ないな。
この世界では魔物と言う存在が居る事で元の世界ではありえない生物由来の素材が多く出回っている。
見た目に変化はないが、この世界のレンガはストーンゴーレムを砕いた石を粘土に混ぜ込む事で強度を高めたり、木製の家を建てる際に木の魔物を加工しているらしい。
それが一般的と言える世の中で唯一前の世界の様に魔物を使用していない国と言うのは普通に気になる。
まぁだからと言ってそれがホーリーランドに行ける理由にはならないけど。
「それなら……1日だけでもダメ?」
「……1日」
「純粋に魔物に頼らない国がどんな感じなのか見てみたいんだよ。もちろん1番大事なのはお前達だし自分の命だ。でも仮にすべての魔物をアルカディアに移動させるとなると世界中に影響が出る訳じゃん。だからその前に魔物に頼らない国がどんな物なのか見てみたいんだよ。ダメかな?」
俺が真剣に考えながら言うと、ブランは少しだけ考える。
俺の顔を見ながらじっくりと考えるとため息をつきながら指を一本立てた。
「1週間」
「え?」
「1週間だけなら許してあげる。その代わり色々条件があるけど」
「え、行っていいのか?」
「特別。本当に特別だからね。その代わりパパの安全を守るために自由はないよ。それでもいいなら」
「お、おお。それでいいよ」
なんかよく分からないけどブランから許可がもらえた。条件と言うのが気になるが行けないよりはいいだろう。
「それで条件って何だ」
「1週間ウリエルお兄ちゃん達と一緒に行動する事、興味があるからと言って勝手に行動しない事、向こうでは泊まらずアルカディアに帰ってきて寝る事。この条件が守れるなら一緒にホーリーランドに行かせてあげる」
「そんな事でいいのか?と言うかホーリーランドに行く予定でもあったのか??」
「ライトがホーリーランドに行く予定があったからそれに付いて行く形だよ。食人種に対する会議があったし、技術交換会もあるからパパにはその技術交換会の方に付いて行ってもらう方が良いと思う。パパが見たいのはそっちでしょ?」
「おう。魔物の素材を使わない技術に興味がある」
「それは私達もそう。ここまで魔物の素材を使わない国は珍しいからみんな興味あるし、真似しようともしてるの。特に魔物嫌いの国がね」
なるほどな。
そうなると地球の歴史の様に文化が根付いている可能性は高いかな?
俺の農業技術などは基本的にアルカディアで知った経験が大きいし、基礎的な事しか知らない。
もし発展しているのであればちょっと勉強してくるのもいいかも。
「それじゃ俺はその技術交換会の人達に紛れればいいんだな」
「そういう事。ただしあまり目立つような事はしちゃダメだよ。表立って敵国とは言えないけど、ゴブタお兄ちゃんのお家を壊そうとしてるんだから」
「分かってる。目立たずそっと技術を見てくるよ」
こうして俺のホーリーランド行きが決まったのである。




