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配達

 今日も農作業をしていると酒吞がバツが悪そうな表情をしながら話しかけてきた。


「あ~、ジジイ。ちょっと悪いが手伝ってくれねぇか」

「ん?お前がたよってくるなんて珍しいじゃん」


 酒吞が頼ってくる事は本当に珍しい。

 俺に頼る前に茨木に頼るし、多くの家族と里のみんながいるのだから俺に頼る機会の方が少ないだろう。

 それなのに俺に頼ってくると言う時点で厄介事なのは間違いないが。


「それで、何があった?」

「あ~、大した事ではないんだがよ……人手が必要なんだ。借りれる連中いねぇかな?」

「人?新しい弟達やみんなでやれば問題ないと思うが……どれくらい人を借りたいんだ?」

「ざっと20、いや10人は欲しい。酒を運ぶ連中が少なくてな、困ってんだ」

「あ、な~んだ。酒の輸送に手を借りたかったのか。でもそうなるとおチビ達はダメだな……子供に酒を運ばせるのは見た目的にも悪いし」

「だからできるだけ酒を運んでも問題のない見た目の連中がいい」

「だよな……」


 う~ん。

 そうなると運んでくれるモンスターだけではなく人の方も選出させる必要がある。

 当然ブランみたいに幼い見た目の子供達は自然とアウト、ノワールとかは大丈夫だと思うがヴラド達はもうしばらく大人しくしていて欲しい。

 そうなるとヨハネとかルージュとかあの辺りだよな……

 まぁルージュは顔割れてるからダメだろうけどさ。


「それじゃヨハネ達に協力できないか聞いてみる。顔合わせはちゃんとそっちで出てくれるんだろうな」

「当然だ。その辺は俺や茨木、雷光と伊吹がやる。だからこそ人不足とも言えるんだが……」

「他の鬼達は?」

「あいつらはまだまだダメだ。人間の事を弱者だと思ってる。弱者だったらこんだけ繁殖に成功する訳ねぇのによ」


 まぁそういう見方もあるか。

 最も繁殖に成功している生物がこの世界の覇権を握っていると言ってもいいのかも知れない。


「人間の事を見下してるのか」

「ジジイのおかげでそう見る連中も減ったけどな」

「ん?俺??」

「前にジジイが俺の事叱っただろ。その時に強い人間ってのを初めて見たらしい」

「里が出来るまで人間との戦いとかなかったのか?」

「人間が来るには険しい山道だったからな、それが自然と国境の様になっていたから人間を見た事ないって連中もそう珍しくない。里に来た連中は他のオーガの里との戦いに負けて逃げてきた連中の方が多い。と言っても俺も言う事聞かない連中は殴ってきたが」

「多少は仕方ねぇよ。多少はな」


 言い方を変えれば殴られた程度で離れていくような関係ではないって事だ。

 酒吞は酒に拘りがあるがそれ以外の事はおおらかだ。喧嘩っ早くなるのも悪い酔い方をした時だけだし、私生活でも暴力的ではない。

 はず。


「それじゃお前達に付いてい行くようなメンバーでいいか。酒はどんな感じで運んでる?」

「荷車だな。里の出入り口まで酒を運び、そこから荷車を押して運ぶ」

「あの隠し階段の下までか?」

「隠し階段の下までだ」

「意外と重労働じゃね?」

「結構重労働だな。里の連中にはほとんどその手伝いをしてもらっているし、少しでも楽に運べるよう考えてはいるが……なかなかいい案が思い付かなくてな」


 なるほど。

 それで里の人達みんなで酒を運んであとは荷車で販売元までって事か。

 そりゃ大変だし出来るだけ改善したい所だろう。

 直ぐに出来る方法と考えると……やっぱりエレベーターでも作るか。

 別に人1人運べるほど大きなものじゃなくていい。酒瓶を運べるくらいの大きさでいいのであれば人が持って階段を上り下りする必要がなくなるだけでも楽になるはずだ。

 問題が技術者と設置場所、もしかしたらエレベーターを作るために穴を掘るところから始めなければならないかも知れない。

 でもまぁできるだろ。


「それならエレベーターでも作るか?運ぶのっていつ?」

「2週間後の朝からだ。だがエレベーターって言うのは人が乗る物じゃないのか?」

「別に中に入るのが人か荷物かの違いだけで作り方は大きく変わらない。人が乗れるくらいとなると安全性の確認とか色々あるから時間掛かるけど、荷物用エレベーターなら比較的すぐ出来る。サイズは酒瓶を入れるケース4つ分で大丈夫か?」

「お、おう。今回売りに出すのは1ダースのケースで20セット。十分だ」

「あの階段20セットはキツイわな。すぐ作りたいからどの辺に作りたいか教えてくれ」

「いや、そう簡単に言うが出来るのか?アルカディアの外だぞ」

「問題ない。ドワーフにまで進化した子供達がいるし、穴に関してはモグラがいるら大丈夫。それでも突貫工事になるだろうから場所だけでも早めに決めて欲しいと思う」


 物作りが特徴の子供達はぶっちゃけ何かを作らないとストレスが溜まってしまう。

 あの子達は何かを作ると言う特性上全く仕事がない状態だとどんどんフラストレーションがたまっていくのでどこかでガス抜きをさせないといけない。

 あれ?そう考えると突貫工事でも結構いい仕上がりになるんじゃないか?


 ちなみにモグラと言っているのはDランクモンスターの地竜。

 見た目は本当にただのデッカイモグラ。

 ちょっとデフォルメされて可愛いくらいだ。


「あいつらのデカいもん造らせろって要望も答えられるから丁度いい。と言う訳で場所の確保頼む」

「分かった」


 こうして急ぎ、荷物用エレベーターの建設依頼が来たのだった。


 ――


「あれ?荷物用のはずだよね?思ってた荷物用と違うんだけど??」


 エレベーター建設は子供達に任せて2週間後、スレイプニル達を連れて里に来るとそこには俺が想像していたのと違うエレベーターが建設されていた。

 俺が想像していたのは荷物だけを運べる、ギリギリ子供が入れる程度のエレベーターを想像していた。

 しかし俺の目の前にあるエレベーターは明らかに大きさが違う。20人乗っても余裕があるくらい広く、更に荷車も余裕で入れるくらいの大きさだ。

 あれ?酒吞の方で要望変わったか?


「なぁ酒吞。やっぱりこっちの方が便利とか思って頼んだ?」

「それがな……押し切られた」

「押し切られた?」

「サイクロップスとかの技術者勢に将来的にはこっちの方がいい、こっちの方が便利だ、一気に運べる方がいいだろう、工事は予定通り終わらせるから、とデカい方にいつの間にか変わってた」

「あいつら……それでこんな運送業者みたいなデッカイエレベーターに代えたのか」


 納得しつつも暴走して酒吞達を困らせたのならちょっと説教が必要だよな。

 だがこれでかなり便利になったのも事実。使い心地を確認してから説教だ。


「それで人の方は確保できたのか」

「出来たよ。ヨハネ達の所から10人借りれた。それでどんな風に配達するんだ?」

「俺、茨木、雷光、伊吹が一緒に行く。店の数は多いが渡す数は少ない。かなり細々とした配達になるがよろしく頼む」

「あいよ。それじゃこのエレベーター使って下に降ろしますか」


 このエレベーターなら一度に全ての酒瓶を運ぶ事ができるし、人も入る事ができる。

 便利なのは認めるが、これほど大きい物にしなくてもいいのではないか?そう思うがやっぱりあると便利だ。

 なんか矛盾してる気がするけど。

 こうして思っていたよりも巨大になってしまったエレベーターを使って酒瓶が入ったケースを全て下ろし、荷馬車に詰める。


「これ俺のメニュー画面みたいに収納できる魔法とかないの?」

「聞いた事ねぇな。あったとしてもかなり高価だろうし、金がねぇから無理だろ」

「意外とヴラド達があっさり開発してくれそうな気もするけどな……あとに馬車はスレイプニル達が運ぶから大丈夫だ」

「荷馬車も最新式の奴だしな……これ自走しない車だろ?」

「車はエンジンが搭載されていないと車とは言いません。よってこれはただの荷車で~す」


 酒吞が言うようにサスペンションなどがしっかりしているので車にしようと思えば多分できる。

 これも暇そうにしている物作りが得意な子供達に任せたら車一歩手前まで作り上げたのだから本当に感心する。

 そんな荷車に荷物を詰め込み、俺は酒吞と共に酒を売りに向かったのだった。

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