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昆虫被害

「親父。少し悪いがレオ嬢ちゃんの頼み聞いてくれないか」


 午前中、畑仕事をしているときにヨハネがやってきた。

 普段はグリーンシェルでヴェルトの背の上で生活しているのでアルカディアにやってくるのは珍しい。


「レオの頼みってもしかして新しいポーションの開発とか?」

「そうじゃなくてな、どうもアーミービーの様子がおかしいらしい。だから様子を見に来てほしいって話がこっちに来たんだ」

「アーミービーって果樹園の奴だよな。あれ国家事業だから協力して当然の内容じゃない?」


 グリーンシェルの果樹園は国が運営している実験施設と言っていい。

 新しい収入源として果実をおいしく育てるだけではなく、木々を増やすことも視野に入れているのだから非常に重要な施設と言える。

 そんな果樹園の花を受粉させる役割を持っているのがアーミービーたちだ。

 非常に危険な蜂として有名だがちゃんと距離感を守って飼育すれば何も問題はない。

 そのアーミービーに異常が起きるのは大事件と言ってもいいかもしれない。


「分かった。それじゃ行こう」


 こうして俺はグリーンシェルに向かった。

 と言ってもいつも通り穴をあけて通るだけなので徒歩数分だが。


 試験的に飢えて少しずつ増やしている果樹園に入るとレオが俺を見つけて慌てて言う。


「ドラクゥル様!!蜂たちが!蜂たちが!!」

「落ち着け。何があったのか教えてくれ」


 レオが随分と取り乱しながら言うので俺も動揺した。

 半泣きで言うので何を言っているのかよく分からず、とりあえず現場に向かう。

 現場はアーミービーたちの巣箱の近くであり、そこにはアーミービーたちの妙な死骸が残っていた。


「これ、いつ見つけた」

「ぐす。朝……今日も元気神に来たら……こうなってた」


 レオの事をメイドさんに預け、死骸をよく観察する。

 蜂たちの死骸は一か所に集められおりちょっとしたくぼみにまとめて捨てられたようにも見える。

 1つを持ち上げよく観察してみると、厄介な連中の仕業であると俺は分かった。


「ヨハネ。悪いがアルカディアから薬持ってきてくれ。俺の緊急管理薬品ナンバー138番とナンバー053」

「げ。緊急管理薬品ってヤバい奴じゃねぇか」

「今回は特別だ。これ以上被害が広がらないように1番強い奴を使う。今朝見つかったんなら被害はまだ少ないはずだ」

「分かったよ。とにかく持ってくる」


 そう言ってヨハネはアルマディアにある薬を取りに戻ってくれた。

 しかし隣にいるレオといつの間にかやってきていた女王様が心配そうに見ている。


「危険な状態なのですか」

「発見するのが遅れていたら危険だったかもしれませんが、滅多にいないモンスター、魔物ですから。もし放ったらかしにしていた場合は巣の全体の1割の働きバチがこんな感じになってたかもしれませんね」


 俺はアーミービーの死骸を掌に転がしながら言う。

 死骸は頭の部分に点のような小さな穴が開いている。

 普通に考えれば外側から食われたと思うだろうが、傷をよく見ると内側から食い破られた跡がある。

 だからこいつは――


「こんなひどい事、誰がやったの?」

「こいつはパラサイト・ワームにやられたんだろう。運がなかったな」

「パラサイト・ワーム?」

「文字通り寄生虫だ。パラサイト・ワームは卵の状態で他の昆虫の中に入るとそいつに寄生して体内で成虫になる。成虫になった後は頭から突き破ってどっかに行くマジで気持ち悪い魔物だ」


 女王様はそれを想像したのか物凄く嫌そうな表情をする。


「それは人類に害はないのですか」

「一応……ですかね。寄生されることは無いけど寄生されている事を知らずに食べたりするとどうなるか分からないですから」


 それを聞いた女王様はさらに顔を引きつらせる。

 この世界でも昆虫食はメジャーではないが、寄生虫入りの虫を食べるなんて想像もしたくない。


「外に出た後はどうなるんですか?」

「外に出た後はミミズみたいに地中に潜る。その後繁殖してどっかの池の水とかに卵を産んでおしまいだな。その水を飲んだ鳥類のフンに混じってたり、直接その水を飲んだ昆虫、その池の中に住んでる昆虫だったり色んな昆虫に寄生しながら子孫を残す。まぁ成虫は弱いけど」

「弱い?アーミービーに寄生できるのに??」

「それは最初から体内に居るからできるのであって、成虫になったら他の昆虫に食われたり鳥に食べられたりする方が多い。だからこそ確実に子孫を残せるようになったんだろうな」


 レオの質問に答えた。

 気持ち悪いと思ってしまうのは仕方ないが、そう進化したのだから仕方がない。

 そしてヨハネが2つの薬品を持ってきた。


「親父、これで合ってるよな?」

「合ってる合ってる。そんじゃちょっと危ない効果もあるから離れてな」


 俺がそう言うとヨハネ達は5メートルほど離れた。

 いや、危ないのは138番だけなんだけど……それに危険と言っても殺虫剤ってだけだし。


 とりあえず準備しますか。

 まずは053番の薬品を取り出してビーカーに入れ、ちょっと調整してから弱火で温めながらかき混ぜる。

 すると数匹のアーミービーがやってきた。

 俺はマスクをしてからそのアーミービーに138番の殺虫剤を吹きかけて殺す。

 それをただ繰り返す。


「えっと……」


 レオが不思議そうにしているのでこの薬品の説明をする。


「緊急管理薬品ナンバー053番、『むしむしホイホイ』。特定の昆虫を引き寄せるための芳香剤。体に害はないが引き寄せる昆虫によってはテロも可能な使い方厳重注意の薬だよ」

「そんなに危険に見えないけど……」

「それじゃ聞くけどこの芳香剤を調整してアーミービーが来るようにすると結構危険でしょ。他にも危険な昆虫はいるし、そいつらを引き寄せたら危険だから使い慣れてないと危険なんだよね~。適当に作ると何が来るか分からないし」

「これはアーミービーが好きな香りを出すものじゃないんですか?」

「正確に言うとパラサイト・ワームが好きな匂いを出してる。アーミービーがやってきてるのはパラサイト・ワームに寄生されているからだな。あとは緊急管理薬品ナンバー138『虫コロリン』。どんな昆虫でも一吹きで倒すことが出来る優れもの。でも強力な分他の種族でもこの煙を浴びると体調不良を起こすので注意。間違ってかかると吐き気とかダルさとか、気持ち悪さとか、重い風邪みたいな症状になるから嗅がないようにしてね」


 特に匂いに敏感な人が嗅ぐと体調不良を起こしやすい。

 なのでヨハネだけまだ遠くに逃げているのは正解だ。

 獣人系は特に鼻が敏感だし、ちょっとまいただけでもすぐに逃げ出すくらい鼻に来る。

 匂いは完全に殺虫剤だからな。あの臭い好きな人いないだろ。


 パラサイト・ワームに寄生された様々な昆虫が寄ってきたところを虫コロリンで迎撃していき、もう現れないなと思ったところでむしむしホイホイと虫コロリンをしまった。


「これで良し。これで一応被害は抑えられると思う。寄生させられていた昆虫たちはある程度倒したからね」

「これは生態系に問題はないんですか?」

「今のところは問題なし。もともと肉食系の昆虫が増えすぎたときに繁殖するような虫だから、適当にがちょうどいい。それに全滅させるとアーミービーみたいに危険な昆虫に対しての対策もなくなるからある程度は残しておかないとな」

「……これも自然の力を使っているからですか?」

「使っていると言うよりは借りているって意識している方がいいかも?」


 何となく俺の意識を伝えるとレオは何か小さな声で「そうなんだ……」とつぶやいた。

 まぁ今アーミービーの数が減るのは大変だからね。

 さすがに調薬方法とかは教えられないけど、これからは無農薬の農薬でも教えてあげるかな。

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