農作業しながらアオイと若葉と話す
戦争を起こさないための努力は子供達にほとんど任せ、俺はいつも通り畑仕事に精を出す。
より正確に言うと他の仕事をしている方が気が紛れてよかった。
畑仕事は少しずつ進化していく子供達の他に、ヴラド達が連れてきた奴隷達、アオイと一緒に来た女の子達も手伝ってくれているので最初に比べると非常に楽になった。
メニュー画面を使って作業すれば俺1人でも問題ないが、出来るだけこうして自分の手で収穫ししたいと思っている。
作業効率だけを重視するのであれば非常に無駄な時間だが、俺はこの無駄な時間が好きだ。
今はトウモロコシをもいで収穫しているとアオイが収穫を手伝いながら聞く。
「この間重要な会議があったらしいですけど、どうだったんですか?」
「こっちの負けだよ。魔物を殺す事で正義を貫くタイプの国でな、ゴブリン帝国を倒そうとしてるから阻止したかったんだけどな……」
「ゴブリン帝国ってあのゴブリン帝国ですか?世界最強のダンジョンで誰も突破した事のないゴブリンの国」
「多分それで合ってる」
「流石国と言う規模で攻めないとあのダンジョンは突破できる気がしませんからね~。あ、でもドラクゥルさんのお孫さんの国だからもう攻略済みって考えてもいいんですかね?」
「攻略とは違う気がするけどな」
そんなことを言い合いながらふと思ったことを聞いてみる。
「ところで冒険者目線で見るとゴブリン帝国ってどんな感じのダンジョンなんだ?」
「あ~。ハッキリ言うとダンジョンっていうのは名ばかりですね。現実的に考える最高難易度のダンジョンハガーディナルフレイムじゃないかな~?」
「現実的?」
「はい。だって冒険者だって命は欲しいわけじゃないですか。それに冒険者の収入って基本的に魔物からはぎ取った素材とか、依頼をこなすことで手に入る報酬なんですよ。でもゴブリンの素材と言えば精々皮か持っている武器ぐらいです。もしくは巣にため込んでいるガラクタの中にお宝が混じってないかどうか調べるくらいですからね~。基本的にゴブリンは魔物の中でもハズレくじなんですよ」
「それじゃゴブリン自体に価値はあまりないってことか」
「ですね~。しかもホブゴブリンとかになると限りなく人間に近くなるわけじゃないですか。あれの皮はぎはトラウマ物だって聞いたことがありますよ」
確かにゴブリンの習性の1つに色んな物を集める習性があると図鑑に書いてある。
ただし何を集めるのかはそのゴブリン次第であり、必ずこれと言う統一性がある訳ではない。
おそらくガラクタと言うのは人間的には価値のない物を集めていたゴブリンであり、価値のある者はおそらく光物を好んでいたゴブリンだろう。
光物を好んでいたら銀貨とか持っているかもしれない。
「それじゃ本当にホーリーランドは魔物が作った国だからって理由だけでゴブリン帝国を倒そうとしているってわけか」
「あの国は潔癖症が多いんですよ、多分。カーディナルフレイムでは魔物は商品みたいな感じでしたからね~。まったくいなくなるのは困ると思いますよ」
「だよな……」
正直この世界は地球のように何かしらの合金を作ったりしている様子はない。
鉄を鍛えて鋼にするくらいはしているが、他の金属と他の金属を混ぜて作った合金は見たことがない。
詳しい事は分からないが、ただ単に職種な金属を手に入れるくらい穴を掘る技術がないのか、それともただ単に見つけられていないだけなのか、そこまでは分からない。
それにそんな新素材を見つけるよりも魔物と言う人間よりもはるかに頑丈な生物の骨などを使った方が手っ取り早い事の方が多い。
実際切れ味のいい剣に魔力を含んだドラゴンの鱗を混ぜることで切れ味が維持しやすくなる剣を作っていたり、オオカミ型の魔物の牙をそのまま利用して作られた短剣まである。
狩りゲーの設定をそのまま反映しているかのような武器などもこの世界では当然の物として使わているのだからすべての魔物を絶滅してしまえばそれらの技術も失われることになる。
実際それらを危惧した国は最後まで反対していたわけだし、魔物の素材を加工して販売している国はこちらの味方になってくれていた。
「その反対していた国は現在ホーリーランドに武器を売らないようにしているようです」
収穫中にふと声をかけられたので顔を上げるとそこには若葉がいた。
「休憩のご時間です」
その手にはお盆があり、お盆の上にはお茶とおにぎりがあった。
そして若葉の後ろにはカーディナルフレイムから移住してきた女の子達とヴラド達が連れてきた奴隷たちの姿もある。
俺達は休憩に入り、若葉に確認をとる。
「若葉。さっきの話本当か?」
「本当ですよ。ルージュさんから聞きました。ルージュさんのいるカーディナルフレイムの周辺国は魔物の素材を加工して武器を作る鍛冶師などが多くいるそうです。ですからルージュさんから味方してほしいと言う前からホーリーランドの意見には反対だったそうです」
「その理由は?」
「単純にこの先食べていけないと言う理由のほかに今まで自分たちが築き上げてきた技術が無駄になることを嫌がったそうです。そしてホーリーランドの主張を利用して、『ならば汚らしい武器で戦う必要はないな』と言って魔物の素材を加工した武器の販売を中止させたそうです」
俺が考えている事とほぼ同じ返答だな。
自分達のとって怒りをまっすぐぶつけたのか、それとも他の意図があってそう言ったのかは分からないが最低でも表向きはそういう事か。
しかしホーリーランドの主力武器って確か聖なる加護を込めた武器、だっけ?
確かブランが武器に聖属性の付与を行った武器を使っていたとか何とか。
…………あれ?これって大丈夫なのか??
「なぁ若葉。これホーリーランドにとって大打撃なんじゃないか?」
「なぜそう思ったんですか?」
「だってホーリーランドの武器って普通の剣に聖属性の加護を付与した物なんだろ?それはホワイトフェザーと喧嘩して行えない、行えない事もないけど非常に難しい。かといって魔物の素材を使った強い武器は手に入らない。これ軍事力低下しない?」
「普通ならしますが、大打撃と言うほどにはならないでしょうね」
「なんで?」
「もともとホーリーランドでは魔物の素材を使った武器は軍で取り扱っていないんです。開発コストとか人数分用意するのが難しいなどの理由ですね。これはかなり裕福な国でないとできない事なので他の国でも軍全体で魔物の素材を使った武器を持っている軍隊はそうないと思いますよ。まぁ将軍とか軍の上位に位置する人たちは特殊な魔物の素材を使った武器を使っていると言う噂はありますが」
「あ~。そこまで考えてなかった」
アルカディアでは魔物の素材を使うのは当たり前のこと過ぎて忘れていた。
素材を生み出してくれる子供達がいることで魔物の素材はほぼ永遠に手に入る環境にいたので量産くらい簡単だと思い込んでいた。
アルカディアでのルージュが住んでいる火山の近くには鉱山もあるのでそこからさまざまな金属が採掘できるし、鉱山のレベルがMAXなのでレアメタルも安定して採掘できる。
そう言った環境を作り上げることが出来るアルカディアはともかく、外の世界ではどしても手に入らない素材と言うものも存在するんだろう。
希少な素材を使用するのに量産するのは当然無理だし、矛盾している。
「それじゃ戦力的にはあまり変化はないのか……」
「あまり変化はありません。それに元々“潔癖症”のホーリーランドの事ですから、あの国で将軍などの渡される剣などは強力な聖属性の加護を与えた聖剣だと噂では聞いたことがあります」
「…………それってもしかしてブランの加護だったりするかな?」
「その可能性は高いかと……聖剣伝説によると大昔に白夜教の神の加護を受けた剣を当時の教皇様から受け取った、と書かれています」
ブランの加護を受けた剣か……効果切れていると良いな……
「というか若葉ってそういう話詳しすぎない?もしかしてそれもゲーム能力補正だったりする??」
「それも一応あります。正確に言うと調べたことをいつでも引き出せる能力、みたいな感じです。と言っても1度自分で調べたり聞いたりしないとできませんが」
「絶対記憶能力みたいな感じ?」
「メニュー画面から重要なキーワードとして保存されているっといった方が正しいですね。すべて私の記憶にある訳ではありませんので、ドラクゥルさんが使っているメニュー画面と似た感じですね」
俺はうなずきながら納得する。
なるほど俺のメニュー画面と似たような感じなのなら納得だ。
おそらくゲームの違いもあるだろうがメニュー操作があるのはゲームとして当然だろう。
それにアドベンチャー系ならついてて当然かもしれない。手に入れた情報などを確認したりできないなんてありえないからな。
「そうか……ゲームの内容によってメニューが変わる事なんて考えもしなかった」
「そうですか?私はドラクゥルさんがメニュー画面をよく使っているので私は意識していましたが」
「だって俺のは箱庭ゲームだし、画面で操作するのが当然だったからな。今はこうして自分の手でやってるけど」
「それは……確かにそうですね。私も当然のように使っていて忘れがちですが、本来は画面の向こう側の出来事のはずですもんね」
そう言えば俺はいつの間に当然のようにこのゲームの力を使っていたっけ?
最初は色々確かめながらだったのに今では自然と使いこなしている。
それは他の4人も多分同じで、きっと違和感なくゲームの力を使っている事だろう。
まったく。
俺達をこの世界の呼び込んだ神様は本当に何がさせたいんだ?




