負けたけど足止め中
その後俺のよく分からない所でブラン達が動いた結果、ホーリーランドは思いっきり足を引っ張られている。
ホーリーランドは確かに新しい6大大国の1つとして迎えられたが、ライトさんはそんなホーリーランドに1つの仕事を依頼した。
それがパープルスモックでバラバラになった食人種の殲滅だ。
パープルスモックの領域内にいた食人種達が新しい縄張りを求めて、他国の村などに現れて女子供を襲っている。パープルスモックがない今、食人種を殲滅して周辺国を安心させろって感じの事を言った。
なので現在のホーリーランドは食人種を殲滅するために奔走している。
これが結構、いやかなり面倒な事になっている。
まずホーリーランドがパープルスモックに攻め込んだ際に獣同然の食人種達は縄張りを捨てて逃げ出した。
しかも制御していた吸血鬼達のほとんどはアルカディアに移住、戦った者達は基本的に戦死、生き残った上級奴隷達は彼らに協力的ではない、本来残していた資料は全てアルカディアに移している。
それによりパープルスモック跡地にはお高い家具は残っていても貴重な資料や研究資料などは全然残されていないため分布図なども分からない。
よって自力で探す事になり効率的に動けていない。
食人種達は確かに獣程度の知能しかないが、言い換えれば獣程度には知識を広げていく。
特にベートは本来単独で動く食人種だ。それが知恵を付けて群れて狩りをする方が効率が良いと学んだからこそ群れていたのだ。
だがこの世界の住人にとってベートとは群れる食人種と言う常識があるので群れているのが当然だと思い込んでいる。
故にベートを群れで探していても単独で行動するベートは見付けられない。
更に元の世界の史実と同様にベートを狩るために騎士団を向かわせているのも無駄だ。
ベートは非常に臆病な性格であり、騎士団がぞろぞろ向かった所ですぐに気づかれ逃げてしまう。
捕獲したければ少数精鋭でその土地を知り尽くした狩人に任せるしかない。
だが何度も言うようにパープルスモックの事をよく知っている吸血鬼達は全員アルカディアに移住、捕まった上級奴隷達は今もホーリーランドに協力しない。
よって現地の事を全く知らない素人たちが頑張ってベートや他の食人種達を追いかけて頑張っているそうだ。
ちなみに今回はリアム・フォートレスは動いていない。正確に言うと動けない。
現在のリアム・フォートレスは諸国を回りながら厄介なモンスター達の相手をしているらしいので参加していない。
それに恐らくだが奴自身の性格が食人種の殲滅と言う地味な活動に向いていないのだと思う。
銃を乱射して巨大なモンスターを倒す事に快楽を感じたようで、強力なモンスター退治の旅に出ている。
代わりに正義君がパープルスモックで食人種を倒している様だが先程言った様に効率よく動いているとは言い難い。
そんな事があり現在のホーリーランドはゴブリン帝国との戦争に備える事すら出来ず、厄介な事を押し付けられて他の事にかまっている時間はないのである。
これが政治的な嫌がらせか……
きっと俺がもっと頭が良ければこう言った事にすぐ気付けたんだろうが、非常に効率的にホーリーランドの動きを止めているのだから流石子供達。うちの子本当に頭いい。
そんな時間稼ぎをしている間に俺はゴブオに会いに来ていた。
「悪いなゴブオ。ホーリーランドを止める事ができなかった」
「十分だよ爺ちゃん。今足止めしてくれてるんだろ?その間にこっちはしっかりと準備をしておく。銃の購入も目途に入っているし、銃を使った訓練も既に行っている。問題はそれ以外の武器などかな。パープルスモックを落としたなら攻撃性能の高い魔法の方が警戒しないといけないかも知れない」
「そっちは魔法を作ったノワールとヴラド達が居るから大丈夫。俺はよく分からないがこの魔方陣を使って防御魔法を使えばノワール達が作った魔法は防げるらしいぞ」
「具体的にはどのような感じで防げるんだ?」
「確か魔法の大元である術式を破壊する魔法?とか言ってたな。規格の統一のためにノワール達が作った魔法は全て根幹は同じらしい。それは相手に使用されても問題がない様にわざと大元は同じにしておいたとかなんとか」
「なるほど。術式の根幹が同じだからこれ1枚でノワール兄さんの魔法を防げるのか。早速魔術師団にこの魔方陣を教えておく」
俺はさっぱり理解できていなかったがゴブオは理解できたらしい。
やっぱりうちの子達ってなんでこんなに頭がいいんだろう?
俺がバカだからそうならないように努力した結果とか?
まぁ何にせよこれでノワール達が作った魔法でゴブオ達が傷付く事は避けられる。
ちょっとホッとしているとゴブオはチラチラと俺の後ろにいる2人に視線を向けていた。
「2人がどうかしたか?」
「いや、その、何だ。その2人のゴブリンって……」
「ああ。この2人はアルカディアで新しく生まれたゴブリンだよ。もう進化してゴブリンキングとゴブリンクイーンになってるけどな」
俺の後ろにいるのは新しくごブリンキングとゴブリンクイーンにまで進化したゴブリン。
どうも新しい子供達は自分たちが求める進化先を知って食事をしたり、トレーニングを行っているとしか思ない。
そんな中自分からゴブリンキングを目指したこのゴブリンはちょっと特殊だと思っている。
その理由は弱いからだ。
ゴブリンの最上種と言ってもそれはあくまでもゴブリンの中での話だ。
育成成功しやすいから弱い、育成が難しいから強いと言う訳ではない。
他の子供達は戦闘系や生産系のモンスターに進化しているが、単純に戦闘力を求めているだけなら酒呑童子のように鬼系のモンスターに進化した方が戦力にはなる。
元々ゴブリンは数でどうにかすると言う、ある意味最も人間に近い種族なのではないだろうか?
とりあえずこれからアルカディアではこのゴブリンキングとゴブリンクイーンが中心となって過ごしていくだろう。
「なんというか……うちの親父とお袋に雰囲気が似てるんだけど?」
「そうか?誰と似ているかなんて考えたこともなかったからな……言われてみると似てる気がする……?」
う~ん。
確かに雰囲気はゴブタとゴブコに似ている気がしないでもないが……やっぱり別人だと思う。
ゴブタはここまでしっかりとした筋肉はなかったし、ゴブコもここまでハッキリとしたボディーラインをしていない。
2人ともゴブタとゴブコに比べると肉付きが非常に良い。
どうやっているのかは分からないが、効率的に食べている食材と運動によって得たんだろうが今俺がこの環境で行えばこうなっていたのか?
ゴブタとゴブコはなんだかんだで初期勢に近い。
何となく気まぐれで、正確に言うとなかなかゴブリンが進化しなくて苛立っていた時のストレス発散と思い付きでゴブリン100体育てようと思いついたときにリーダーとして育てたのがゴブタだ。
当時は食材もまだまだ高品質とは言えなく、普通に育てている畑の中から1つか2つ高品質の物が出ればいいという時代だったから今の環境で育てたらかなり違ったのかもしれない。
「やっぱ俺には分からん。ゴブタはゴブタだし、ゴブコもゴブコだ。この2人じゃない」
「う~ん。でも俺の目には似ているような気がするんだけどな……」
「とにかく、今は足止めできてるけど落ち着いたらゴブリン帝国に攻め込む可能性は高くなった。あまり言いたくないが……いざって時のためにな」
「当然だよ爺ちゃん。親父たちに託されたこの国、守り切るつもりだ」
決意ある表情を見せてくれるのは爺ちゃんとして喜ぶべきなのかもしれないが、それが戦争と言うくだらない事に対しての決意だと思うとやるせない気持ちになる。
アルカディアに戻って本当に俺だけ何もしなくていいのか悩む。
「父さん。そんなに悩むことは無いと思う」
ふとゴブリンキングが俺に話しかけてきた。
普段は無口なのでこうして話しかけてくるのはまれだ。
「なんでそう思う」
「周りのみんな、兄さんや姉さんたちは父さんに戦いを知ってほしくないんだと思う。だから多分、そのままで良い」
「子供達が必死に動いているのに?こういう時こそ親が動かないとダメなんじゃないか?」
「……気持ちは分からないわけじゃない。でも、父さんは温かくないとダメだ。冷たくなっちゃダメだ」
「冷たく?」
「人を蹴ったり殴ったり、喧嘩すると自然と分かる。自分自身が誰かに優しくできる、温かいと感じる人にはなれないって分かる。だから父さんは温かいままでいないとダメだなんだと思う」
温かい、か……
そんな風に思ってくれているのは嬉しいが、俺はお前たちが思っているよりも冷たい人間だぞ。
自分の家族ばっかりが大切で、他の人の幸せなんてろくに考えたこともない。自分の事ばかり考えている。
それなのに……
「…………分かったよ。もうしばらく動かないでおく。ライトさんのおかげで戦争はかなり遅らせることが出来ていると言えるし、すぐに戦争が始まるってわけじゃないからな。その温かいってやつを頑張ってみるよ」
その言葉にゴブリンキングは満足げにうなずいた。
隣にいるゴブリンクイーンもニコニコとしている。
あ~あ。
情けない。




