結果
こうして行われた1か月にも及ぶ世界会議。
その結果は――
『これより、ホーリーランドを6大大国の1つとして認めます』
負けである。
「なんで負けたの?他の6大大国全員が否定的だったのによく通ったな」
「それほどまでにあのホーリーランドの努力が実を結んだという事だ」
「どゆこと?」
「ホーリーランドはずっと前から魔物を倒すことで支持を受けてきたの。だからその結果とも言えるんだよね……」
ブランがそう教えてくれた。
なるほど。どれくらい前からそうしていたのか分からないが、魔物を倒して恩を売りまくっていたってことだな。
それが実績となり大国の1つとして認められたという事か。
「それじゃ……仕方ないか……」
俺は政治と言うものはよく分からない。
だからそうなってしまったことは仕方ない。
だがこうなるとゴブリン帝国に関してはどうした物かな。
実際にゴブリン帝国をどう攻め込むのか分からないし、本当に攻める気があるのかどうかも確かめないといけない。
「とりあえずゴブオに連絡。ゴブリン帝国にとって大きな事件だろうし、これがきっかけでホーリーランドがゴブリン帝国に攻め込む理由も出来たとすれば相当ヤバいだろうから教えてあげて」
「新しく生まれたゴブリン達に連絡させます。あちらも同じゴブリンの方が落ち着いて聞いてくれるでしょうから」
クレールが冷静にそう言った。
さて、戦争と言うものは嫌いだが、子供達が戦うのをただ黙ってみていられるほど俺は大人ではない。
いや、大人だからこそ動かないといけないと思う。
こうなったらアビスブルーで死蔵している火器の装備も視野にいておかないといけない。
少しずつ、本当に少しずつ俺の思考は危険な方向に進んでいく。
子供達が戦うのであれば俺はいくらでも支援する。いくらでも手を貸そう。
だから子供達を何としても――
「パーパ」
ふとブランが俺の目を両手で隠した。
「えっと?ブラン??」
ブランに向かって顔を向けようとしてもブランはずっと俺の顔を隠し続ける。
訳が分からなくてどうにかブランと顔を合わせようとするが、ずっと隠されるので諦めた。
何か理由があるんだろうが、どんな理由があるのか分からない。
とりあえず大人しくしているとブランは俺に優しく話しかける。
「パパ落ち着いた?」
「落ち着いたと言うよりは戸惑ってる。なんで目を隠すんだ?」
「落ち着くと思って。パパ今怖い顔してたよ」
「そりゃ……孫たちが危ない目に遭うかもしれないんだ。色々考えるよ」
「そういうのは私達がやるからいいの。パパは変わっちゃダメ。ね」
娘にこんなこと言われるのは恥ずかしいと思うべきなんだろう。
でもなぜだろう。
その言葉に救われている俺がいる。
「でも……」
「たぶんパパはそう言うのを知っちゃダメなんだよ。私達はもう知ってる。だから私達に任せて、ゴブオお兄ちゃん達の事をちゃんと守るから」
正直に言うと子供にこんなことを言われるのは悔しい。
俺は結局肝心なところで何の手助けも出来ていないのではないだろうか。
成人した子供達に甘えてばかりの毒親という奴なのではないだろうか。
「で、でもやっぱり」
「ダーメ。パパが本気出したら国1つなくなっちゃう。さすがにそれはやりすぎだからね。それじゃさっそくライトちゃんたちと話さないとね~」
そう軽く言いながら我が家の会議室を出た。
子供達の背に手を伸ばしながらも、俺は結局動けずにいたのだった。
――
「ブラン様、神々の皆様。今回はこのような失態をしてしまい、申し訳ありません」
大国に数えられている王達が神達を前に膝を付き、謝罪する。
神々は平伏する王達を前に円卓に座り、特になんて事の無いように言う。
「仕方ないよ。今回は相手の方が1枚上手だっただけ、この程度なら簡単に覆すことが出来るから気にしなくていいよ」
「しかしブラン様の父君に不快な思いをさせてしまった事でしょう」
「不快っていうよりはちょっと暴走しかけてたって感じだけどね。それじゃ確認するけど――ホーリーランドはゴブリン帝国と戦うつもりなんだね」
「左様です。パープルスモックの次はゴブリン帝国を落とし、魔物の国を完全に排除しようとしております」
「そう。私達はゴブリン帝国に陰ながら支援します。これは決定事項です」
「は」
ブランはいつもの子供っぽい笑みを辞め、2000年間生きてきた神としての風格を漂わせながら静かに宣言した。
ライトはこれにただひれ伏し、次の言葉を静かに待つ。
「タイタン。あなたには念のためアビスブルーにある武器庫から火器の取り出しをお願いします。敵の一人はあのリアム・フォートレス、最低でも同じ性能の武器を生産する必要があります。用意しなさない」
「火器の大きさはホブゴブリンを基準として生産してよろしいでしょうか」
「認めます。みな基準はホブゴブリンですので合わせて生産するように」
クレールは即座に銃の生産をタイタンに求めた。
「……ポーションある?」
「通常のポーションでしたらいつでも出荷可能です。数は1000でよろしいでしょうか」
「……ん」
クラルテの言葉に即座に応えるグリーンシェルの王。
そして最後にブランは言う。
「私達の目的はあくまでも戦争を回避するためです。戦争に勝つことではありません。そこをはき違えないように」
ブランがまとめると各国の王達はそれに答えた。
そしてブランは思いっきり息を吐きだすとノワールが笑う。
「ブラン。もう少し頑張ったらどうだ」
「無理。パパじゃないけどこういうの無理~。むしろ良くノワールお兄ちゃんとか為政者の恰好続くよね~」
完全にブランは溶けたアイスのように力を抜いてしまい、だらける。
それを見た王達は、終わりだ終わりっという感じで立ち上がった。
それでも席には座らずそれぞれが信仰する神の後ろに立つ。
「それでどうする?戦争を起こさせないと言っても具体的な方法はどうしようか?」
「最も効果があるのは戦争のルールを変えてしまう事です。今回の場合は魔物が相手でもむやみに戦争を起こさせない、と言う視点を置いてみましょう」
「その事案そのものは昔からあったがな。パープルスモックとホーリーランドが最初に戦った時から話し合いは行われている」
「そう考えると何100年も喧嘩してるんだよね……なんでホーリーランドってあそこまでするんだろ?」
ブランのつぶやきにライトさんが答える。
「前の王達の事は分かりませんが、ピュア・ホーリーランドの事なら分かります。彼は魔物を倒すことでブラン様に求めてもらいたいと考えているようです。魔物が減ればブラン様の負担が減ると考えておられるようです」
「え~。ブランそんなこと頼んでないのに~」
ブランははた迷惑な信仰心に頭を机にぶつけてしまう。
その反応にクレールも経験があるのか、疲れた表情を浮かべながら言う。
「わたくしも歌手として活動しているのでわかります。時々ファンの方からどう使えばいいのか分からない物をもらったり、気持ち悪いファンレターなどをもらったりしますわ。こちらが求めている物と違う贈り物は困りますわ」
「僕達の所もあるね。僕達フェアリーはお肉とか食べないのに送られてきたときはどうしようって考えちゃった」
そんな話をしながら戦争を回避させるように力を注ぐのだった。




