世界最大の宗教の発言力
昨日の夜にそんな事を6大大国で話し合っていた翌日、会議が本格的にスタートした。
ホーリーランドの主張を聞いてから各国は自国の重鎮達と相談し、それぞれ確認したい事や、疑問点をまとめて話し合う。
その様子を俺はメニュー画面で盗み見る。
俺がこの会議場を用意した事はライトさん達しか知らないので他の国の王様達はそれぞれ好きに話し合う。
『それではピュア・ホーリーランドに問います。どのように魔物の居ない世界を実現させる予定でしょうか』
ライトさんのこの言葉から会議はスタートした。
小難しい話は説明できないのでノワールに解説してもらいながら話すと、簡単に言うとこんな感じ。
まず優先的に絶滅させるのは食人種と言う人類に害しか与えない種族を優先的に排除する。予定ではおよそ50年かけて食人種のほとんどを絶滅させ、100年以内には確実に食人種を絶滅させる予定。
その後は危険な魔物を優先的に排除し、最終的には全ての魔物を排除するつもりだそうだ。
そしてこの長期的な計画な理由は魔物を殲滅しながら新しい素材などを発見、開発するための時間でもあると言う。
これは科学技術の向上、つまり鉄だけではなくアルミとかチタンとかまだ使われていない金属を発見したり、加工するための研究時間に使いたいと言う。
これに関してはアビスブルーの協力の元、進めていきたいと言っていた。
ホーリーランドの王様は結構色々考えた上で魔物の絶滅を本気で望んでいた様だ。
食人種の根絶、魔物の素材に代わる新素材の開発、その後起こりうる経済への考えなど中々の説得力だ。
細かい所はよく理解できなかったが、彼の言葉にはそれを成し遂げようとする強い思いがこもっている。そしてダメ押しとも言える現実的な対応と本気でなければここまで調べたり計画を立てたりしないだろうと思えるほどに準備をしっかりとしていた。
これはこちら側にとって思っていた以上に強敵であると感じながら会議を眺めていると、やはりホーリーランドの方に力を貸そうと考えている王様達が多そうだ。
実際ホーリーランドの王様の言葉は好印象に映っているらしく、ホーリーランドを6大大国に数えていいのではないかと考えてる方が多い。
そして少ない否定派はやはりダンジョンを経済の中心としている国がかなり悩んでいる。
彼らの取って魔物とは経済を発展させるうえで必要不可欠な存在だ。人類にとって敵だと分かっていても、ダンジョンを目的にやってくる。もし魔物が居なくなってダンジョンもただの洞窟のようなってしまえば国を維持する事ができない。
そう考えている国も決して少なくない様だ。
おそらくこの魔物が居ないと国として続けていく自信がない国にとってかなり大きな問題なのではないだろうか。
ライトさん達のように自国で魔物だけど神様が居るから、と言うのとはわけが違う。言い方を変えてしまえば国を存続させる方法さえ見つかれば魔物を根絶させても構わない、と言うかも。
ホーリーランドの王様にとっても、こちら側としても、そんな彼らを説得する事が勝負の分け目かな。
「ノワール目線だとホーリーランドの王様ってどう思う?」
「私の視線から見てもいい手を打っていると思う。魔物が居なくなった後のことも考えているし、説得力のある理由もよく使っている。この資料もよく出来ている。特に魔物が居なくなった後の経済と技術開発でアビスブルー製の道具で金属などを見付け、加工する技術などは非常に説得力のある言葉だろう」
「グリーンシェルやアビスブルー、ライトフェアリーに関してはどうだ?俺から見ればこの国に住んでいるのは魔物の方が多いと感じているが」
「その辺りは我々と違い長く共存しているため魔物として見ていなさそうだ。おそらく彼にとって獣人やフェアリーは人類なのだろう」
「それでもグリーンシェルの王様が質問しているけどな」
俺達がメニュー画面で見ている映像に丁度グリーンシェルの王様がホーリーランドの王様に対して質問している。
『このリストに入っていないが、我々獣人とエルフに関してはどう思っている』
『我々の同士であり、同じ人です。確かに私は人間でグリーンシェルの方々は獣人が多いですが、我々は良き隣人としてこれから先も共に歩んでいく事でしょう』
やっぱ王様って言うのは度胸があって口がうまくないとやっていけないのかね?
ホーリーランドの王様、グリーンシェルの王様に不機嫌そうな気配を放ちながら話しかけてきたのに一切怯まずに答えたぞ。
本当に良き隣人として見ているのかどうかは分からないが、それでもこの場を乗り切ったのは見事だと思う。俺だったら焦って噛んだり動揺を表に出してたもん。
でもそう言った様子を見せないのはやはり王様としての意地とか色々あるんだろう。それとも王様はこういうのが標準装備されている物なんだろうか?
そう考えながらも会議は進んでいく。
ぱっと見はホーリーランドの主張に賛成している国の方が多いが、決して巻き返せない数でもない。だいたい6割くらいだろうか?残りの4割はやはり魔物関連で経済を回している国の様だ。
他にもドワーフなどの人間では無い種族たちはまだまだ警戒している感じ。他にも剣や弓、武器を作っている国の王様なども警戒している様に感じる。
やはり魔物がいる事で武器も売れているんだろう。その魔物がいなくなる事で売り上げが落ち込むと考えているのかも知れない。
実際平和な世界に武器は必要ない……と思いたい。日本じゃ銃刀法違反とかあるし、銃とか全然身近になかったから平和=武器がないと感じるけど、アメリカとかじゃ普通にある訳だしな……
結局今後どうなるかはこの世界の人達が決める事なんだろうな……
『それでは次の問いです。――あなたは我々の神を殺すつもりがありますか』
ライトさんがかなり危ない質問ぶっこんできた!!
この問いかけに対してホーリーランドの王様だけではなく他の国の王様にも動揺が見える。表情などは変わらないが、何となく雰囲気が引き締まったと言うか、マジで下手な事を言うとぶっ殺される。みたいな雰囲気があった。
確かにホワイトフェザーではブランが年に何回か姿を現し、祭りの最後に現れる。もしくは本当に人間の手ではどうしようもない時にブランはドラゴンの姿で駆けつけて助けてくれる。
そんな神をどうするのかと言う質問だろう。
そして俺はもしかしてと1つの予想を立てた。
『何をおっしゃるのです。我々白夜教徒が神に牙をむく訳がないでしょう』
『しかし敬虔な信者であるあなたも知っているでしょう。我々が神と崇める者の本質は魔物、心優しき魔物です。あなたは魔物の居ない世界を創造すると言いました。では神を殺すと言う事でよろしいでしょうか』
『それはあまりにも話を飛躍し過ぎです!!我々の神が魔物のはずがなく――』
『魔物です。神は自らの事をそのように語っております。もし我らの神を滅ぼすと言うのであれば――その時は全力を持って抵抗させていただきます』
ライトさんはホーリーランドの国王の言葉を聞かず、一方的にそう宣言した。
これはつまりホーリーランドの事を認めないと公表したと言っていいんだよな?
しかも世界最大の宗教である白夜教徒を敵に回すと言うのは非常に恐ろしい。話を聞く限り白夜教徒は世界各地に信者がいるし、回復系魔法を使う冒険者のほとんどが白夜教徒に入って回復の力を高めるために入信する人も少なくないと聞く。
その白夜教徒を敵に回すと言うのは世界を敵に回す覚悟はできていますか?と聞かれているのと変わらない。
それにホーリーランドの国王も白夜教徒。白夜教徒を裏切るような真似はしないだろう。
ホーリーランドの国王は手を握りしめながらも、冷静に言う。
『何度も主張している様に、我々の敵は魔物です。我々人類を食い物とする醜悪な存在。神をその枠組みに入れる事もまた不敬ではないでしょうか』
『しかしあなたは全ての魔物を絶滅させると言いました。それとも人類に都合の良い魔物だけを残すと言うおつもりですか?』
その言葉にホーリーランドの国王はただ耐える事しか出来なかった。
何も話せなくなったところを見てライトさんは言う。
『本日の会議はこれまで』
その言葉により会議場を出て行く。
何と言うか……権力と世界最大の宗教の強さを垣間見た気分になった。




