お偉いさん達は我が家に居ます
俺は会議場のど真ん中に転移し、6大大国のお偉いさん達の前に姿を現した。
「みなさんお久しぶりです。お迎えに上がりました」
俺がそう言うとみなさん少しだけ驚いた様な表情を作ったのが意外だった。
事前にみなさんにはアルカディアに滞在してもらい、終わったら転移で迎えに行くと言っていたから特に驚くような事はしていないはずだ。
驚いた様子がないのはオベロン達とカーディナルフレイムの巫女さん達。この2組だけは表情が変わらない。
「どうかしましたか?」
「それはドラクゥル殿が突然現れたからだ。以前の様に黒い穴の様な物を出すと思っていたから違って驚いただけだ」
グリーンシェルの王様が代表するように言った。
なるほど。いつも俺が黒い穴を空けて転移していたから今日も黒い穴が現れてから出てくると思っていた訳だ。
でもここは俺の縄張り、いつでもどこにでも行ける。
「それは説明不足で申し訳ありません。ここ、アルカディアに居る時は黒い穴を出す必要がないんですよ。ですからスッと来れた訳です」
「なるほど。それから少しだけ待ってくれ、妻と娘を連れてくる」
そう言って護衛の人に女王様とレオを連れてくるよう王様は護衛に伝えた。
実は女王様とレオもこの会場に来ている。と言っても複数ある待機室の一室で待っているのでこの場にはいない。
でもそれは大丈夫。もう既に子供達に頼んでおいた。
護衛の人が動く前に扉が開き女王様とレオ、そしてその護衛さん達をヨハネとヴァルゴが連れてきた。
「ドラクゥル様!お久しぶりです!!」
レオが階段を駆け下りながら俺にしがみ付いた。
その様子を見ていた女性陣は微笑ましそうに表情を緩ませる。ただ王様だけはちょっと複雑そうに苦笑いしていた。
「レオファリア。約束はどうした?」
王様がそう言うとレオはハッとしてから少し離れてからお姫様らしいドレスのスカートを少し持ち上げながら丁寧に挨拶をする。
「改めまして、お久しぶりです。ドラクゥル様。本日は神の国にお招きいただき感謝いたします」
まだ女王としての貫禄はないが、丁寧な言い方に少し困惑する。
王様と女王様に視線でどういう事?と聞くと女王様が言う。
「レオフェリアには研究を認める代わりに王族としての責務を果たすように言いました。特に今回の様な各国の要人の前ではいつまでも子供のままではいけません。ですのでこれからは王族としてのマナーなども大切にするよう言い付けております」
「研究も王族としての責務も一緒って大変じゃありませんか?レオにそんな事出来るんです?」
「もちろんこの先苦労するであろうと言いましたが、それでも研究を続けたいと諦めなかったので認めました。ですが王族としての責務もしっかりと果たすようにと言ったのです」
それは……大変そうだな。
俺は平民だし、お偉いさん達のマナーなんてイメージすら出来ない。
普通に生きていくだけでも大変なのに、研究と王族としての教育の二刀流か。
レオも大変だな。
「レオ。頑張れよ」
「ありがとうございます」
ニコニコ顔で言ったからまだ大丈夫なのかな?無理はしないように言っておきたいところだが、王族として、何て言われたら俺は何も言えない。
と言うか普通に他の家庭の事に口出しするのはマナー違反だよな。
相当ひどい状態なら口出すべきだろうけど。
「みなさんこちらに集まって下さい。一気に我が家まで転移します」
そして集まってきた6大大国の要人達。
まとめて俺が名のアクションもせず我が家の前に転移すると、全員驚いていた。
「まさか本当にここまであっさり移動する事ができるとは……」
「私達巨人族もあっさりと転移できるとは、流石神々の父ですね」
これには王様だけではなくタイタンさんも驚いたように言った。
アルカディア限定とはいえやっぱり便利だよね。
とりあえずお客さんであるみなさんには申し訳ないが我が家に泊まってもらう。大したものはないが我が家の方が色々と便利なのだ。
家の中なら客室もたっぷりあるし、ぶっちゃけ他の建物よりも様々な機能が備わっているから複数の種族が集まった時には我が家の方がいい。
例えばホームの機能、巨大系モンスターであっても余裕で入れる。
「タイタンさん、エルちゃんは魔法を解いていいよ。確かサイズ変更って魔法で無理矢理小さくしてるんだったよね?」
「え、ええ。そうですがここで元のサイズに戻ってしまうとこの屋敷を壊してしまいます」
「それに天井が低いと圧迫感が……」
「タイタンさんとエルちゃんが戸惑うのは分かる。でもここは大丈夫だから。確かサイズの合わない服着てるみたいにキツイんでしょ?」
俺がそう言うとタイタンさんとエルちゃんはお互いに顔を見合わせてから魔法を解除する。
知ると2人の身体は大きくなる所か小さくなった。
この事に驚き、戸惑っていた。
2人とも人間の中で少し大きいだけの人の大きさになった。
「これは?」
「このホームの機能の1つ。色んな種族を強制的にこのホームに入れるサイズに変更させる。ぶっちゃけ2人よりもデカいクレールとかヴェルトとかが来ても強制的にサイズ変更させるからこの家壊れないよ」
俺がそう説明すると2人は目を見開く。
そんなに驚くような事か?むしろ超巨大モンスターを育成しているのだから当然の機能と言うべきだと思うのだが。
「それから……部屋は全て1人1部屋のつもりで割り振っておいたんですけど、それでいいですか?」
「我々は1つの部屋でいいだろうか?娘を1人にするのは少しな」
「分かりました。グリーンシェルの王様達は家族部屋ですね。少し広い部屋を用意するのでそこを使ってください。他の護衛さん達は王様達の近くの部屋でいいですか?」
俺がそう聞くと護衛のみなさんは頷いた。
やっぱり守る相手は近くにいる方がいいだろう。と言っても部屋は全て完全防音だから聞き耳をたてても意味ないけどね。
「それから食事に関してはどうしますか?部屋で食べます?それとも食堂で食べますか?」
「食堂でお願いします。食事をしながらホーリーランドへの対策や相談事をしておきたいので使わせていただけると助かります」
ライトさんがそう言ったので俺は頷いた。
どうやらこれは各国の間で決めていたようで特に不満が出る事はない。
部屋までは俺が案内し、2時間ほど休憩を挟んでから晩飯とをみんなで食べる事にした。
俺も自室に戻って少しグダグダした後みなさんと一緒に飯を食う。
俺は関係なくない?と思ったが神様の父親として参加して欲しいんだと。
俺は政治的な考えは出来ないと思うのだが、意見の1つとして聞いておきたいと言われてしまえば断る事も出来ない。それに急な開催に力を貸してくれたから俺の意見を聞かない訳にはいかないってさ。
素人丸出しなんだからそんな気にする事ないと思うんだけどな。
なんて考えている間に自室の部屋をノックされた。
「お父様。食事の時間です」
「ああ、今行く」
俺の事を呼びに来てくれたのはガブリエルだ。
今日のガブはメイド服を着て変装しているつもりらしい。
しかし本当は今日から1ヶ月間国賓に出してもおかしくない料理を出してくれる料理長でもある。
身内だけだったら俺のガサツな男の料理、味は悪くないけど大量生産しやすい家庭料理では彼らに出すのは失礼なんじゃないかと思ったのでガブ達に任せた。
食堂に着くとどうやら俺が最後だったらしく、ちょっと申し訳ない。
既にお客さんとブラン達は座っていたので何だか気まずい。
「すみません。俺が最後だったみたいで」
「いえ、問題ありませんよ」
ライトさんがそう言ってくれた。
こうして俺が座ってからあまり時間を置かずに料理が置かれていく。
「ほぉ。これはまた見事」
「アビスブルーでも取り入れたいですね」
「これが神の料理ですか」
いや、普通の料理です。
ガブが他の人に食べさせても問題ない様に綺麗に盛り付けてあるけど、普通の料理だからね。
「この魚、まさか泡マグロでは?」
泡マグロ?何それ??
現在前菜で食べているサラダには数枚の魚の刺身の乗っかっている。
これ全部家で養殖している魚だよな?泡マグロなんて魚いないはずだけど。
「ガブ?」
「私も知りません。使った魚はダッシュマグロです」
ダッシュマグロ。食料用の魚で見た目は完全にマグロ。
しかし釣りあげてから腐るまでの時間、足が速いのであまり食べれないマグロだ。
しかも捌くのもスピーディーに行わないと味が悪くなるし、繊細なのに手早く捌けって言ってること矛盾してない?と思えるマグロである。
俺がガブに質問した後クレールが教えてくれた。
「ダッシュマグロであっています。アルカディアではダッシュマグロですが、アビスブルーでは泡マグロと言う名前でお客様に提供しています」
「そうなの?と言うかそれ以前にアルカディアの食用品種もこの世界に居たんだ」
「ごくまれにですが現れます。非常に希少である事の他に、調理が難しい事から超高級食材として有名です」
「そうだったのか……全然知らなかった」
それ以前にアルカディアの食材がこの世界に存在していた事自体が初耳だ。
グリーンシャルでは苗木をあげたが完全な野生種となれば話は変わる。
まさか子供達がこの世界に来た時に既に紛れ込んでいた?
「超高級食材がこうして並ぶとは……流石神の国ですね」
「いや、何度も言うけどここは神の国なんかなじゃないから。ただの家ですからね」
タイタンさんにそう説明しているとライトさんが食事をしながら真剣に言う。
「それではそろそろお話をしましょうか。ドラクゥルさんがホーリーランドをどのように思っているのか」




