6大大国会議
パープルスモックが敗れた後、ノワールが例の洞窟に行って生き残った吸血鬼達を連れてアルカディアに帰ってきた。
帰って来れたのは13人で、他の吸血鬼達はみな倒されてしまった。ちなみに奴隷騎士達である人間達は一部捕らえられ、他の牧場の人間達同様にホーリーランドに連れていかれたと思われる。
そしてアルカディアに避難してきた吸血鬼達は、ノワールとヴラドの指示を受けながらアルカディアに馴染もうとしていた。
当然だがパープルスモックの生活とアルカディアの生活は違う。向こうでの主食は人間の血であるが、こちらではブラッディピーチ、味は良いので不満は出ていないが困惑している雰囲気は感じる。
そしてパープルスモックの跡地は町への損傷はあまりない状態で占拠、首都の占拠によりホーリーランドは各国に勝利を宣言。他国からも認められパープルスモックの領地は全てホーリーランドの物となった。
これにより世間は、吸血鬼の国がなくなった事により喜びの声が大きく上がっている。やはり力のない普通の人間から見れば吸血鬼は危険な存在で、恐ろしい存在だったのは間違いない。
しかし喜びの声だけではなく、当然不満の声もある。不満と言うのが以前クウォンさんが言っていたように貴族向けの商品を売る商人が販売に困っている事、高級品を作る職人たちがどうするかと相談する毎日らしい。
確かに吸血鬼達は怖いし、恐ろしい対象として見ているが、それでもいいお客だった。
価値あるものを適正な価格どころか少し高く買い取ってこれからもよろしくと言ってくれるお客でもあったのだ。金払いも良く、マナーもいいお客なのだからこれ以上ないぐらい良い商売相手だったと言える。
そのお客が居なくなってしまったのだから販売する商人も、商品を作る職人も頭を抱えていた。
更に他の大国、ホワイトフェザー、グリーンシェル、アビスブルー、カーディナルフレイム、ライトフェアリーで緊急会談が設けられる。
各国の代表者が6大大国から5大大国にするか、それともパープルスモッグを倒したホーリーランドを6つ目の大国として認めるか、その相談が行われる事となった。
パープルスモッグは他の大国に比べれば領土も狭く、目立った産業がある訳でもないが、新しい魔法開発に関しては6大大国の中で突き抜けていた。
それをホーリーランドが継承できるのかどうかも視点の1つだろう。
社会の裏ではパープルスモックが開発した新魔法だと知らずに使っている人間も多いとか。
とにかくパープルスモックがなくなった事で世界に大きな波紋が広がり続けている。
ここから世界がどうなるのかは、まだ誰にも分からない。
――
「で、何でその重要な会議でアルカディアを使おうって事になったの?」
パープルスモックの件がまだまだ落ち着かいない間にブラン達SSSランクの子供達から頭を下げられた朝食の時間である。
パープルスモックの吸血鬼達の受け入れやら何やらをしているので最近はちょっと忙しい。
何せ彼らにとって人間とは食料であり、家畜だったのだからこのアルカディアに居る人間も自分達のための家畜、という風に勘違いしていたので止めるのが大変だった。
その影響でアオイとか吸血鬼に対して警戒心MAXだし、隣人トラブルを静めるのも俺の役目なのだ。
そんな中急にその重要な会議でアルカディアを使いたいと言われてもどう対応すればいいのかよく分からない。
だってここにはパープルスモックの吸血鬼達がいるんだぞ?ついこの間負けていなくなったはずの存在が居るってバレたらどうするの?
しかも世間ではパープルスモックがなくなった事で吸血鬼達は絶滅した、と言う噂まで流れている様で今吸血鬼達を見付けられると結構面倒な事になりそうだ。
それにパープルスモックから追い出した張本人、ホーリーランドの王様とかも来るんだろ?復讐だー、みたいな感じで襲わない様にさせるのも大変だと思うぞ。
俺が理由を聞くとブランが目を逸らしながら言う。
「その、私達の部下、上層部達が行ってみたいって……」
「観光気分か。と言うかそれ以前に王族やら貴族やらが泊まれる場所なんてないぞ。まぁ建てようと思えば建てられるけど」
「もちろんそれだけじゃなくて、6大大国会議は毎年開催する国を変えて行っているの。ただ本当ならパープルスモックで行われる予定だったんだけど……」
「ホーリーランドが分捕ったからな。でもそれなら他のどれかの国でやるだけじゃねぇの?特にアビスブルーなんて王族貴族の受け入ればっちりだろ?」
「出来なくはないけどかなりギリギリなのです。確かにお父様の言う通り受け入れようと思えば出来ますが、その場合他のお客様が入国できる余裕はなくこちらでキャンセルする事になります。流石にそれは避けたいのです」
「大国の1つがなくなったからその分色んな人が来て真剣に会議をすると。他の国はどうよ?」
「カーディナルフレイムは今回の人数を受け入れる事は出来ません。と言うかたどり着けません」
「……グリーンシェルもダメ」
「ライトフェアリーはもっと無理だろうね。そういう会議の時は周辺国のどこかで適当にやるから」
俺の質問に子供達が答えた。
つまり今回はそれぐらい多くの人数を受け入れる事ができないから、という事か。
具体的にどれぐらい来るんだ?
「よく分からんけどどれくらいの人が来るんだ?お偉いさんとその護衛、くらいしか思いつかないけど」
「もっともっといっぱい来るよ。例えばだけど王様に付いて行くとしても護衛の他に料理係、衣装係、執事、今回は会議だから文官に大臣なんかも来るからかなりの数になるね。小国でも最低500人くらいは来るかな?」
最低500人。1カ国だけで500人来るってマジ?
そんなもんアルカディアでも受け入れる事なんて出来ない。
土地の問題と言うよりもその来た人達を受け入れる建築物が圧倒的に足りない。それに食料だってバカにならないのだから食糧庫がどれだけ持つか分からない。
前は野菜などがあまりまくっていたが、子供達が帰ってきてくれている現在では食料はあまり余らずだいたい1日に収穫できる作物の1割を食糧庫に収めている状態だ。
残りの9割は1日で食べ尽くす。新しいおチビ達も進化しているので食べる量もそれなりに増えているから当然の消費と言える。
と言ってもまだ畑全てを解放している訳ではないので全て開放すればもっと多くの食糧を供給する事ができるが……その場合は余り過ぎになるんだよな……
あくまでも俺は今いる家族たちが食べきれる量を生産しているのでそれ以上は……
なんて悩んでいるとブラン達は慌てて訂正する。
「別に王族とか全員をこのアルカディアに呼ぶ訳じゃないよ。ただみんなで会議するための会場だけ貸してほしくて……」
「え?あ、そういう感じ?俺会場だけ用意すればいいのか。あれ?でもその場合その人達どこに呼ぶんだ?」
「大国である私達の国に招くよ。それぞれ近い国はあるからみんなで周辺国を集めようって話して、それなら重要な人達だけ集めてアルカディアで会議した方がいいんじゃないかって話になったから……パパに相談しに来たの」
「それじゃ俺はどっかのお偉いさんの飯の準備とかしなくていいんだな?」
「うん。ただ会場に入る時は私達がゲートを開けて会場入りするから会議場だけお願いしたいな~って」
まぁ会議場だけならどうとでもなるだろう。
ただ問題は作る場所だが……勝手に抜け出してアルカディアを散策するような真似は出来ないようにしたい。
少し考えてから俺はブラン達に言う。
「会場は俺の好きな所に建てさせてもらうけどいいか?」
「うん。それはいいけど……どこに建てるつもりなの?」
「簡単には会場の外に出れない様にする。どういう意味かは……まぁ後のお楽しみって事で頼む。とりあえず家から離れた所に作るつもりだ。向こうの人達と仲良くするつもりではあるが、人の家の中自由にさせる程心が広い訳でもないからな」
俺の含みのある言葉にブラン達は首を傾げるが、俺の中ではすでに建築予定地は決まっている。
ただ問題はどれくらい大きな会議場を作ればいいのかだ。
「それで?会議場って本当に会議するだけじゃないんでしょ?仮眠室とかレストランとか居るのかね?」
「あ、うん。レストランとかはいらないけどキッチンと言うか、厨房とかは欲しいかも。料理人と食材はこっちで用意するから場所だけ欲しいかも。あと一応仮眠室も欲しいかな」
「トイレとかは……まぁデッカイ体育館みたいに複数用意しておけばいいよな。仮眠室は適当にカプセルホテルみたいにするつもりだけど大丈夫か?」
「う~ん。人数多いから仕方ない部分もあるけど、出来るだけあっちの世界の人達が使い方分かるようにして欲しいな。それから数名の護衛とか執事とかメイドさんとかも連れてくるだろうからその人達が待機できる部屋も欲しいな」
「了解。そんじゃ必要そうなもんとりあえず全部用意しておく。あ、自動販売機とかいる?」
「使い方分からないだろうから要らないと思う」
こうして俺は会議場を準備する事になったのだが、場所は……やっぱりあそこだよな。




