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戦争初日、終了

 その日の夕食、明らかに空気が悪かった。

 俺が初めて本物の戦争と言う物を見た事で体調を崩したのが理由だろう。特にブランは俺の事をチラチラ見て大丈夫なのかどうか確認している。

 そんな様子のみんなにわざと俺から聞く。


「それで、戦争はどうだった」


 その言葉に子供達は顔を見合わせたが、意外な人が口を開いた。


「パープルスモックはホーリーランドの戦力を確認中、ホーリーランドはアビスブルーの勇者の戦闘能力を確認していたようです」


 そう教えてくれたのはライトさんだ。

 普段と変わらない様子で教えてくれた。


「ライト」

「分かっております。あまり深い話はいたしません。それに納得いたしました」

「納得?」


 俺が確認するように聞くとライトさんは頷く。


「はい。ドラクゥル様はやはり普通の方だと言う事です。ドラクゥル様はこちらにいらっしゃいますブラン様、神々と我々が呼んでいる方がの父として特別視しております。しかしその心は戦った事のない平民と変わらない。その事に納得したのです」

「なんだ。俺は怒ったりしたら平然と世界を滅ぼす存在か何かに見えたか」

「はい。それも可能だと我々ホワイトフェザーは断言します」


 その言葉にブランは驚きと不満を表情に出すが、ライトさんは軽く受け流す。

 確かに俺の子供達、ブランやノワール達は神と呼ばれその力を戦いのために使えと言えばライトさん達が想像するような事ができるのかも知れない。

 でもあの時見た光景を思い出すとそんな事をさせようとは思えない。

 いや、させてはいけないと思っている。


「大丈夫。うちの子供達にこんな気持ち悪い事させようとは思わないですよ」

「でしょうね。ドラクゥル様の性格を考えればそう結論付けるでしょう。ですがご忠告を。ドラクゥル様の事をよく知る私はそう結論付けますが、よく知らぬ者、半端に知っている者はそのように思わぬ者の方が多いでしょう」

「はい。気を付けます」


 このやり取りにブランはライトさんにそっと「このタイミングで言わなくていいのに」と言う。ライトさんはブランに謝罪してまた戦争について教えてくれる。


「そして戦争に関してですが、やはり早くもホーリーランドが優勢の様に感じます。アビスブルーの勇者、リアム・フォートレスは自身を見張る監視をことごとく撃破、パープルスモックもそれには気が付いていますが人が近付かないと詳しい情報を得る事ができないので何度か送りましたが、すべて失敗に終わっています」

「でしょうね。元々あいつの装備は長距離向け、短くても中距離向けと見るのが自然です。クレールはその辺どう見ている?」

「遠くからの監視、となると撃破されるのは仕方がないと思っております。特に多く使っていたのはスナイパーライフルで超長距離から狙っておりましたから」


 やっぱりそういう感じか。

 しかしと奥から近付かずにそいつを倒すとなるとこちらも超長距離から攻撃するしかないんじゃないか?つまり魔法対近代化学兵器の銃撃戦だな。


「しかし奴の武器にも弱点があった。いや、発見したと言う方が正しい」


 ノワールの言葉に驚いた。

 あいつに弱点とかあったんだ。


「それで弱点は」

「実は1回スモッグゴーストが撃たれたが、何のダメージもなかった」


 ………………


「ブラン。銃が届かないぐらい超長距離からビーム撃ってあいつ殺せる?」

「ダメージはなかったと言っただろう。先程の言葉と矛盾しているぞ」

「子供を撃たれてきれない親はいない。無傷だろうが何だろうが、俺は許さない」

「とにかく最後まで話すとだ。奴の武装は全て物理攻撃であり、スモッグゴーストの様な実体のないモンスターにはダメージを与える事ができないことが判明した。つまり奴も無敵ではないと言う事だ」

「…………分かった。でもスモッグゴーストのように肉体と言える物がないモンスターは確かに居るが、ほとんどDランク以下ばっかりだぞ。確かに魔法を使えば倒せなくもないかも知れないが……弱い魔法で倒し切れるか?」

「その辺りは検証中だ。おそらく奴は物理攻撃と物理防御に特化していると考えている。故に魔法攻撃がどこまで通じるのか、それはこの戦争で確認すればいい」


 それはそれでパープルスモックの吸血鬼達を犠牲にするような感じがして嫌なんだけどね。

 だがそれ以上に子供達の方が大切なので今回の戦争に参加はしないと判断したのは俺自身だ。だからこれ以上の事は言えない。


「……そう判断したのならそれ以上の事は聞かない。それでパープルスモックの方から住民の受け入れについて相談とかはあったか?」

「流石に戦争初日でそれはない。それに知っているだろ。吸血鬼と言うのはプライドが非常に高い、だからすぐに助けを求めると言う事はしないだろう」


 それを言われると確かに。

 吸血鬼達は貴族社会の中に生きているせいか、非常にプライドが高い。身内であればある程度心を許しているが、現在心を許せるヴラド達は俺の下に付いていると言う形だと受け取っているらしいし、知り合いがよく知らない奴の下に付いたと思うと気に入らないんだろう。

 かといって俺が下手したてに出るのもよくないらしい。俺が下手に出ると他のみんなもしたとして見られるからそう簡単に頭下げるなだと。

 そうなるとライトさん達はかなり身内に近いよな。グリーンシェルの王様たちとか。

 …………あれ?親しいの大国のお偉いさんたちばっかりじゃね?アビスブルーのタイタンさんとか、多分だけどカーディナルフレイムの巫女さん達もお偉いさんに含まれるよな?多分。


「それじゃノワールたちから見てどれぐらいで助けを求めそうだ?吸血鬼達は一応不死だけど、弱点が無いわけじゃないからな。その辺の対策ってどんな感じ?」

「そうだな……聖水を銃口に付けただけで効果があるのかどうか、もしくは弾丸そのものに聖属性の魔法を付与することが出来るのかどうかによって大きく変わる。つまりホーリーランド側の技術力による、としか今のところ話せない」


 まぁそうだよね。

 技術力と聞くとアビスブルーのイメージが強いが、あれはあくまでも科学的な面から見た技術力だ。

 魔法を他の物に付与する、と言う点ではどういう技術が使われているのか分からない。

 なのでライトさんを見るとライトさんは言う。


「確かに剣や鎧に聖属性の魔法を付与することはできます。しかしその技術は非常に難しく、大司祭からその訓練を行いますが全員同じようにできるのかと聞かれるとできません」

「枢機卿の人達は?」

「聖属性の付与が得意で戦いに貢献した枢機卿がいますが、彼1人だけです。それに聖属性の魔法を付与したとしても効果が続くのはおよそ5時間です。連続して同じ魔法を付与すると武器が劣化しますし、劣化することを嫌ってそのまま使う騎士達もいるほどです」

「付与もそんなに万能って訳じゃないんだな」


 使える人が少ない、使えても武器が劣化する可能性が高い、時間制限あり。

 確かにこうして条件を並べると扱いが難しい様に感じる。

 しかしブランがいるんだからその辺り問題ないんじゃないのか?


「でもブランがいるんだから一気に剣とかに聖属性を付与する事は出来ないのか?付与ならラファエルとガブリエルが得意だったはずだし」

「ううん。それは出来ないの」

「何で?」

「剣が弱すぎるんだよ。私達の力って物凄い物みたいで、剣の方が耐えられないんだよ。しかも素材そのものを変える必要があるみたいで普通の鉄とかじゃ絶対に無理。力を抑えて付与してみたけどすぐに砕けちゃった」


 どうやら付与を付ける素材そのもののランクが重要になっているらしい。

 確かにアルカディアでも一定の条件を満たしていないと付与できないが、それと似た様な感じだろうか。


「それじゃ素材そのものを変えればブランの付与を付けても問題ないって事ですか?」

「恐らくそうでしょうが……この世界にブラン様の力に耐えられる素材はないでしょう」


 まぁヴェルトの枝みたいに体の一部が色々使えるとなれば話は別だったんだろうけどな。

 ブランの場合は羽だけだからな……流石に羽を鉄と混ぜるみたいな事はアルカディアでも出来ない。


「どこも上手い話はそう簡単に見つからないものだな」

「そうですね。それに現在のホーリーランドはホワイトフェザーの加護がありません。付与できたとしても剣の劣化などは激しく、付与しない方が耐久性に優れているでしょう。おそらく聖属性の付与は出来たとしても1つ2つでしょうね」


 それなら吸血鬼達が弱点攻撃されて一方的に負ける、みたいな展開にはならないのかな?


「だが戦争は序盤だ。奥の手を持っている可能性があるのだから、そうすぐにどちらが勝つかどうかは分からない。気長に待とう」


 ノワールの言葉に俺は頷き、今後の事を見守る事しか出来なかった。

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