ライトフェアリーへ
クラルテの所で大金を手に入れた後、俺達はライトフェアリーへと向かった。
ライトフェアリーの評判は子供に優しい国、子育てをするならライトフェアリー、自然と共に生きる国、などと言われている。
そんな子育てしやすい事に定評のあるお国柄だからか、他国から子育てのために移住しようとする事も珍しくないらしい。
ただし裕福な国、例えばホワイトフェザーなどからの移住などは断っており、戦争や魔物によって村を破壊された人達などを優先的に受け入れているので滅多な事がない限り移住する事は出来ない。
そんな子育て支援に力を注いでいるからか、シングルマザーが最も多い国でもあると言う。
十分に育児を行う事ができる国だからこそ多いのだろう。
そして子供を健康的に育てる事にも力を注いでいるらしく、図書館や学校という公共施設が充実しているのも特徴的だ。
ほとんどの施設が公共の物であり、市民プールや公園と言った子供が遊ぶ施設も充実しており、公園で遊ばせるために近くの国からこっちに来て遊ばせる親も居るらしい。
そんなライトフェアリーにはカジノ以外の普通の遊びもいいのではないかと思いやってきた。
最初ジュラさんがこの国がいいんじゃないかと言っていたので気になったと言う事もある。
少し下見をしてアルカディアに居る子供達を公園で遊ばせるのも悪くないだろう。
「でも結構突然だよね。パパ何か引っかかってる?」
列車の中で外の景色を眺めながらぼんやりとしているとブランに言われた。
まぁ元々ライトフェアリーに行く予定はなかったのだからそう聞かれるのも当然だ。
俺の膝の上に座るブランの頭を優しく撫でながら答える。
「まぁ引っ掛かると言うか何というか、多分裏カジノと関係する何かがあると思ったからな。それを調べたかっただけ」
ブランに正直に言うと前の席に座るライトさんとアオイ、隣に座る若葉が驚いた表情を作りながら俺の事を見た。
でもブランと他の席に座る子供達はその事を察していたみたいで驚く様子はない。
「だよね~。パパが勝ち取ってきた景品のリストを見せてもらったけど、普通に考えてかなり難しい物がいくつかあったしね。ただの高い家具とかは借金として取られちゃった可能性とかもあるけど、分かりやすいのがいくつもあったし、多分妖精か精霊が関係してるよね」
「ああ。それっぽい証拠がゴロゴロ出てきてるもんな。多分あいつら隠す気がない、というよりは気付かれるとすら思ってなかったんだろう」
「あの、証拠とは?」
ライトさんがそう聞くので俺は小瓶を取り出した。
その子瓶の中には様々な色の砂の様な物が入っており、混じる事なく綺麗に光っている。
それをまじまじと見つめるのはアオイとライトさん。
「なんですかこの砂?綺麗な砂ですね」
「しかしこの世界にこのような砂はないと思うのですが……」
そして若葉だけが驚いたように俺を見る。
「こ、これどこで見つけたんですか!?やっぱりアルカディアで集めたんですか!!」
「若葉はこれの正体を知ってるみたいだな。でもこれはアルカディアで集めた物じゃない、これは俺が手に入れた家具系の景品に付着していた鱗粉だ」
「な、なるほど。それで証拠、ですか」
若葉は理解できたようだがアオイは理解できてない様でまだ不思議そうにしている。
ライトさんは少し考えてその可能性に気が付いたのか、ハッとして俺の事を見た。
多分ライトさんの予想は当たっているので俺は頷いてからこの鱗粉の正体を言う。
「こいつはフェアリーの鱗粉だ。色で分かるように様々な種類のフェアリーが関係しているのは分かる。多分裏カジノとフェアリーは何らかの関係がある」
フェアリー。
アルカディアでは進化条件の難しいモンスターとして結構有名だ。
ランクはDで特別な力はないが寿命のない存在としていきなり進化させるのは非常に難しい。
特徴を上げるとすればその鱗粉だろう。このフェアリーの鱗粉は様々な素材になり、道具を作るのに属性を付与したり、属性を強化するために使用される事もある。
薬の制作にも使われ、飲んでよし、加工してよしの結構なんでも使える万能素材だ。
「し、しかしフェアリーの鱗粉は非常に高価です。それが裏カジノなら景品として十分です。それが景品になっていないとなると……」
「あの裏カジノ、フェアリーが運営していた。な~んてな」
俺が冗談を言うように言ったが、3人共真面目に聞いていた。
そしてライトさんも納得したように言う。
「妖精の鱗粉はライトフェアリーでしか入手する事ができない貴重な品です。普通なら目玉景品になってもおかしくないはずです」
「目玉?アルカディアでは属性ごとに好む場所はあったけど、基本的に全国分布じゃないのか?それこそホワイトフェザーなら光系のフェアリーが居てもおかしくないと思うんだが?」
「あのねパパ。フェアリーたちは今向かってるライトフェアリーに集まってあまり動かないんだよ。あの国の王様は人間だけど、支配してるのはオベイロンとティターニアだよ」
「あの2人か。確かにフェアリーの親玉であるあいつらが居る場所に集まりやすいか。でも基本的にフェアリーって自由気ままだろ?子供っぽい感じで」
「その辺りは自然環境を良くしたり、子供達がいっぱい居るから子供達を使ってる感じみたい。言い方は悪いけど」
「あ~。そういやそんな話あったな。フェアリー種は子供好きで一緒にいたずらをしたり、遊んだりするって言うあれか」
「うんそれ。とにかくライトフェアリーは子供とフェアリーのための国って感じだよ。大人はいるけど全員ライトフェアリー出身だけ、そしてフェアリーのために子供は出来るだけ早く産むのが常識みたい。ライトフェアリーでは大人になると同時に結婚して、子供を残すから人はいっぱいだよ」
「ちなみに大人として扱われる年齢は?」
「確か……15歳!」
「早過ぎねぇか!?15で結婚して子供産むって、精神的に大丈夫なのか?親としての自覚ある?」
「その辺りは人によるらしいよ。積極的に育児をする人も居るけど、パパが懸念している様に精神的にまだまだ未熟な親はフェアリーに子育てを頼むって話も聞くから。早い子だと10歳?ぐらいで親になるって」
「じゅ!!」
10歳ってまだ小学生じゃねぇか。
それが事実なら想像以上におかしな国になってるんじゃないか?ライトフェアリー。
子育てがしやすい環境と言うのは素晴らしい事だと思うが、だからって子供が子供を産む環境が素晴らしいとは思えない。
何でもかんでも年齢で決めるつもりはないが、やはり大人として使われるにはそれなりに年齢を積み重ね、大人としての自覚と言う物が必要だと思う。
子供っぽい大人と聞くと、何らかのおもちゃが好きとか、幼児向けのぬいぐるみが好き、というイメージが俺の中にあるが否定はしない。俺自身未だに育成ゲームが好きで子供っぽいと言われれば否定できないからな。
でも子供の間まで子供産むのはどうよ。肉体的な成長も未成熟である可能性が高いし、精神的な部分はもちろんそれ以上に未熟だろう。
危険だ。色んな意味で危険だ。
見方によっては少子高齢化よりもデカい問題じゃないか?文字通り大人子供の誕生だ。
「…………親としてちょっと言わないとダメかもな」
「し、しかしそれらは噂、本当にそうなっているとは限らないのでは?」
「その時はそれでいいですが、もし本当に頭の中が子供のままで、大人の自覚がないとすれば相当危険ですよ。政治的にも、国としても」
「そうですが……」
「と言っても親として本当に大丈夫なのか確認するぐらいの事しか出来ませんけどね。政治とかは分かりませんから」
「むしろそのぐらいがちょうどいいでしょう。あまり口を出すと他国の事に口を出すな、と言われてしまいますから」
こうして俺はライトフェアリーに向かい、裏カジノについてもう少しだけ調べてみるのだった。
種族 フェアリー(火)(水)(土)(風)(光)(闇)
ランク D
小さな小人の様な姿に蝶の翅があるモンスター。
背中の翅から鱗粉が取れ、様々な素材や薬の原料となる。
翅の色は種族によって変わる。




