表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/211

大勝ちし過ぎ

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「………………どこに賭けますか?」

「……赤の9に20枚。黒の10に10枚。黒の8に10枚」


 今俺達がいるのはルーレットで掛け金の上限がない所に居る。

 初心者向けの所で5連続でドンピシャで当てたと思うと次は中級みたいな所で10連勝、上級みたいな所で20連勝、そしてこの最上級の所で既に25連勝をしていた。

 まぁ上級の所からこうして一度に複数の所を予測する様になってはいたが、それでも必ずと言っていいほどに入る。

 既にディーラーの人は俺の膝の上のブランの事を怪し気に見ていたし、俺達全員イカサマをしていないかボディーチェックをされた。家族で来ているから集団でイカサマをしていると思われたんだろう。むしろチームでイカサマをする方が勝率は高まるか?

 賭けの倍率は初心者用の所で教えてもらった通りだが、ディーラの技術なのだろうか。絶妙にボールの投げ方をコントロールしている感じはしていたけど、それでもブランは勝ち続けた。


 もはやテーブルはディーラーとブランの一騎打ち状態で、ブランの他にプレイヤーは居ない。俺も中級者向けの所から賭けるのをやめていたし、他のプレイヤーもブランの異質さを感じてか周りでゲームを見ているがチャレンジはしないという空気が出来上がってしまっている。

 そしてお互いに緊張した雰囲気の中、ディーラーがボールを転がす。

 周りにいる人達全員が緊張している中、ボールがどこに落ちるのか全員息をひそめてボールの行き先を見守っていると、黒の8にボールが落ちた。


「お、おめでとうございます。勝利分の360枚です」


 ディーラーは震えた声でブランの勝利を口に出した。

 ブランは俺の上で目頭を摘まむ様にしてもむ。相当集中していたようなので当然目も疲れるだろう。

 ブランは手に入れたチップにあまり興味はなさそうで、本命である赤の9に入らなかった事に少し不満そうだ。


「む~。外しちゃった」

「いや、ブランさん?十分勝ちまくっておられますが、これでも不満なのですか?」

「だって~本命に入らなかったもん。念のためにその周りにチップ置いてたけど、そっちに入っちゃったら勝ちとは言えないでしょ?あと目も疲れちゃった」

「そうだな。休憩しような」


 チップを店で指定された特別な籠の中に入れて俺達はテーブルを離れた。

 周りの観客はもう少しブランが勝ち続ける様子を見たかったようだが、ディーラーはブランが離れてくれた事にホッとしている様に見えた。もちろんお客を楽しませるためにしているから笑顔は崩していなかったが、他の客が立ち去る時に行っていた「またお越しください」と言う言葉がなかったのであっちはあっちで相当疲れていたか、これ以上暴れられたくないと思っていたと思う。

 離れながら少し気になって振り返ってみると、ディーラーが交代しているのを見た。そして他のお客がプレイヤーとして勝負しに席に座るのも見えた。


 少し離れた壁側の所に休憩スペースが設けられている。

 そこに座って近くのボーイにジュースを頼んだ。

 ここでの飲食は認められているが、その代わりチップを払わないといけない。この店ではチップが全てのお金替わりらしい。

 そのためちょっとした出店の様な所もある。出店と言ってもお祭りのような簡単な物ではなく、ちゃんした小さめのチェーン店みたいな店だ。それでも多くて5人ぐらいしか入店出来なさそうだが。


 ボーイからジュースを受け取りチップを払う。

 ついでに果物ももらってブランに食べさせた。ブランは目を閉じながら俺にジュースを飲ませてもらったり、果物を食べさせてもらいながら目を休ませる。

 その間ブランは俺の上でだらしなく、ぐったりとしながら休んでいるのでちょっと重い。

 まぁそれでもちゃんと抱きしめておくけどさ。


「ねぇねぇブランちゃん!あれ絶対必勝法みたいなのあったよね!!私にもできるかな!?」


 アオイが意外とがっついて来る。

 お小遣い少なかったかな?それとも単に大勝ちして目立ちたいだけ?

 そう考えているとブランは目を閉じながらまだ少し疲れが抜けない感じでだらけながら言う。


「多分できるよ。特別な事はしてないし」

「教えて教えて!!」

「ただボールの速度とホイールの回転を計算するだけで大体落ちる場所は分かるから」

「…………え?」

「それだけだよ。あとはディーラーさんの動きや表情を見てどんな感じにボールを投げるのかある程度予想するともっと勝率は上がるよ。最後のはディーラーさんが思っていた以上に疲れてる感じだったから予想外れちゃった」


 あまりにもとんでもない内容に俺達は茫然としていた。

 つまり俺の予想を外してブランは運ではなく、計算によってボールがどこに落ちるのか計算し続けていたという事だ。


「ちょ、ちょっと待って。ブランちゃん電卓とか持ってた?もしくは小さいスパコンとか……」

「そんなの使わなくても計算できるよ。だからじっとボール見て疲れちゃった」


 まだ眠たそうな感じではないが、疲れているのはよく分かる。

 でもなブラン。普通の人に、人間にボールの速度とホイールの速度を頭の中だけで計算してどこに落ちるのか予想というか、答えを出す事は出来ないんだよ。

 この回答にアオイは若葉とこっそり話す。


「やっぱり見た目は子供でも、頭の中は大人以上なんだね」

「だって最低でも2000年は生きてる神様ですよ。見た目通りなのはドラクゥルさんに甘える時だけですよ」

「……だね~。そのギャップも可愛いと思うけど」


 ブランが可愛いのは知ってる。

 でも頭の中はちゃん2000年分育っていると思うと複雑。

 しかしこの調子だと他のうちの子達もやらかしてる感じがしてくるな。

 ちょっと心配だからブランが回復次第様子を見に行ってみるか。


 ――


 で、予想通りやらかしていた子供たちに会う。

 まずはノワール。対戦相手であるディーラーさんが泣いている。


「では次を頼む」

「も、もう勘弁してください……」


 ディーラーさんがマジでノワールに頼み込んでる!?

 この状況は予想してなかったな……というかブランよりも状況がひどい。


「ノワール。何で勝ちまくったんだ?このチップの山」

「ん?ああ父さんか。たまにはポーカーやブラックジャックもいい物だな。ここまで勝てると気分が良い」


 そんな会話をしているとディーラーさんが俺に懇願こんがんするような表情を見せる。

 多分ノワールを連れて帰ってほしいんだろう。

 俺はその様子でいいのかと思いながらもノワールにストップをかける。


「一応全員どれだけ稼いだのか一回集まろうと思う。ノワールも来てくれ」

「もうそれぐらい遊んでいたか。ならキリがいいからここまでにしよう」


 こうしてノワール回収。

 ちなみにディーラーの人は女性で何故かバニーさんだったのだが、ノワールが居なくなった途端に倒れて他の従業員さん達が慌てて駆け寄った。


「ノワール……どんな勝ち方したんだ?」

「普通にプレイしただけだ。自身の手札が悪ければおり、手札が良ければ勝負しただけだ」


 絶対普通のプレイではない。

 見てないけどそう思う。


 次、クレール。

 クレールはノワールに近い場所でゲームをしていたのですぐに分かった。

 そして当然の様に大量のチップが山のように積み上げられている。


「クレール。随分勝ってるみたいだな」

「あらお父様。お父様も勝負しますか?運の要素が強いのでお父様も遊びやすいかと」


 クレールがやっていたゲームはバカラというらしい。

 山札から配られたカードの数字が丁度9になる様に勝負するらしい。

 運要素が強いと言っているが……なんでそんなに勝ってるの?運要素どこ行った。


「いや、1度集まって成果を報告し合おうという話になってな。キリが良かったら戻ってきてくれないか?」

「分かりました。では休憩といたしましょう」


 優雅にそう言ってるが勝ち方はエグイぞ。

 まさか運任せのゲームでボロ勝ちとか、ありえね~。


 で、次はヴェルト。

 サイコロのゲームに居たのだが……内容が意外だった。


「半か丁か!!」


 半丁勝負って……なんでいきなり日本?

 サイコロを籠の中に入れて奇数が半、偶数が丁でどっちになるか当てるゲーム。

 これもギャンブルなのは知ってるけどさ、何かカジノでやるってイメージない。

 そんな中、特に賑やかに遊んでいる場所が1つだけあった。

 その様子を見てみるとヴェルトが周りにいる厳つい感じの冒険者のおっちゃん達に気に入られていた。


「姉ちゃん良い勘してるな!」

「それに俺達に一切ビビらねぇとはいい度胸だ!!」

「ここには若いねぇちゃんが来ねぇから良い花が咲いた!!」


 何て言われているがヴェルトはちょっと嬉しかったのか頬が赤い。

 普通に遊んでいたからかチップは特別多いという程ではない。

 それでも他の冒険者達よりも勝っている様だが。

 ディーラーの人も着物風の服を着て雰囲気を上げている。

 なんだか声をかけ辛い感じではあるが、そろそろ集まるべきだろう。


「ヴェルト。集まるぞ」

「……ん。今日はお終い」

「何でぇ~もう帰っちまうのか?」

「もうちょっと遊ぼうぜ」

「……また明日」

「お。こりゃ良い事聞いた。それじゃまた明日遊ぼうぜ!!」


 そう冒険者の人達に手を振りながら言われてヴェルトも手を振り返しながらこちらに来る。


「楽しかったか」

「……ん」

「いい人達そうでよかったな」

「……ん」


 最初に渡した軍資金よりも少し増えた感じの籠を持ってヴェルトも来た。

 そして最後、ルージュに関してだが……まさかここが1番酷いとはな。


「おやめくださいお客様!!それ以上は、それ以上はお許しください!!」

「別にいいじゃない。イカサマをしている訳じゃないんだから」


 ルージュが居たのはスロット。

 その足元には大量のチップが置かれており、スロットじゃなくてパチンコの玉の籠が大量に積み重なっている様な感じになっている。

 その光景に俺と同様にみんなも唖然としている。

 ちなみにルージュが今遊んでいるスロットからは今もチップが大量に吐き出されている。

 明らかに大勝ちしているのは誰の目にも明らかだった。


「ルージュ……お前なにした」

「あ、お父ちゃん。言われた通り大勝ちしてた」

「そりゃ勝って目立てと言ったが……どんだけ大勝ちしたんだよ」

「別に変な事は一切してないわ。ただ目押しで777ばっかり出しまくってただけ」


 あ~うん。777ばっかり出してたらそりゃこうなるよな……

 目押しでイカサマが一切ないというのは良い事だと思うよ。うん。信頼大事。

 でもね、やっぱり限度って物があるんだよ。なんだよこのチップの量。何回777出したの?


「それにしてもこれは多過ぎだろ。何百回777出したんだ?」

「休みながらだから30回ぐらいかな?ここのスロット凄い親切設計だよ。他の人が負けてたまったチップを777出す度に放出されるんだって」

「……つまり外れてたまってたチップを全部お前が分捕ったと?」

「悪い言い方しないで。そう言うシステムなんだから良いじゃない」


 確かにそのルールには一切触れていないし、悪い事をしていないのも事実だろう。

 でもね……後ろに居るボーイさんとか、バニーさんとか、他のゲームのディーラーさんとかが物凄く頭下げてるんだからやめてあげなよ。

 な?


「そろそろ帰るからキリ良い所でやめろよ」

「は~い。それじゃコイン全部出たらやめるね」


 そう言ってチップを回収するルージュ。こりゃブラックリストに書かれる事間違いなしだな。

 こうして比べてみるとブランやノワールがどれだけ周りの事を考えていたのかよく分かる気がする。

 ルージュって本当に勝負事には一切手加減ないよね。

 そう思っているとバニーさんが遠慮しながら俺に声をかけてきた。


「あのお客様。出来れば今回稼いだチップで景品と交換していただきたいのですが……」

「景品?どんなのあるの」

「様々な物がございますよ!鬼気屋の秘蔵のお酒、グリーンシェルに居る職人が作った貴重な木製の家具、カーディナルフレイムで作られた火鼠の衣などが目玉商品です!!特に火鼠の衣はちゃんと冒険者の方が防具として仕立ててもらえるほどの物です。いかがでしょうか?」


 ……どうやら俺達に景品を交換してもらって少しでもチップを回収したいらしい。

 と言っても要らないものと交換しても正直あれだな~っと言う感じはあるのでメニュー表みたいなのないの?


「その景品の一覧表とかは――」

「こちらにございます」


 ボーイさんがすっと出した。

 どうやらすでに準備していた様だ。

 とりあえずその一覧表を見ながら景品を見てみるが……本当に色々あるな。

 高級食材から旅行券、家具、酒、冒険者向けの装備など色々ある。

 と言っても俺が欲しいのは特に……あ。


「なぁルージュ。お前が集めたチップ使わせてもらってもいいか?」

「いっぱいあるから別にいいけど、何が欲しいの?」

「これだよこれ。ここにある奴全部一種類ずつ欲しいな~っと思って」

「なら全部使っていいよ。私は特に欲しい景品はないし」


 そしてブランやノワール達にも一覧表を見せてから何と交換するのか決めてもらった。

 ちなみに俺がルージュのチップで交換してもらった物は数と量があるので明日改めていただく事となった。

 こうして俺達は多分、ブラックリスト入りしたと思う程に大勝ちして景品を分捕ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ