ゲームの目撃者
一仕事終えると女王様からも一服いかがですか?と誘われたのでお城でお茶とお菓子を軽くいただいている。
「このお茶初めての味です。どんな物を使ったんですか?」
「こちらは果樹園で出来た果実の皮を使ったお茶です。まだまだ試作段階ですが、お味のほどはどうでしょう?」
「そうですね……やはり果物の皮を使っているので香りがいいですが、まだ少し薄いかと。しかし非常に飲みやすいのでいろんな方に楽しんでもらえそうですね」
「そうです。今回は癖の少ないお茶を目指しておりまして、今後少しずつさまざまなバリエーションのお茶を製造できたらと思っています。今は生産できる果実の量も少ないので1種類だけでお茶を作る事は難しいですが、生産が安定したら1種類だけのお茶を作ってみようと思います」
「それじゃこれはブレンドした物なんですね。それはそれで大変だったでしょう」
「はい。果物の皮を使う際に苦みや渋みが強く出てしまう事がありまして、それを微調整するのが大変でした。しかしこう言った細々とした事は私は好きですので苦ではありませんわ」
女王様とそんな話をしているとレオの実験好きは女王様から引き継いだのではないかと思う。
元々誓いのバラ開花させようと努力し続けていた訳だし、研究者気質は元からあったのかも知れない。
それに女王様から頂いた農業に関するこの世界の本を読んでみて色々面白いと思った。内容は意外と科学的な視線で書かれており、リン酸など、固有名詞は違うが似た様な成分や現象などは出ているので恐らく呼び方が違うだけだろう。
「それで、次は何をしでかすつもりだ」
「しでかすって……俺は特に問題を起こしていないはずですが?」
「ドラクゥル殿の周りではよく起こる事ではないか。カーディナルフレイムに行けば娘と殴り合いの喧嘩をしたとヴェルト様より聞いたぞ」
「ヴェルトめ、人の家庭の事情をそうほいほい言うなよ。まぁ確かにそうですが、親子喧嘩はしでかすとは言わないと思いますが」
「事情は聞いている。喧嘩1つで娘が帰ってくるのならよいではないか。最近のレオは……」
「それはあなたが色々と否定的な事を言うからではありませんか。農作業に夢中になり過ぎてお稽古を忘れてしまう事はどうかと思いますが、それ以外は土いじりをしてもよいではありませんか。あの子が将来この国を豊かにしてくれるかもしれませんよ」
「それは私も願っているが……姫が毎日土いじりで泥だらけになるというのはどうだ?最近では糞尿なども躊躇なく触るのだぞ。一国の姫が泥まみれと言うのは違うだろう」
「これから私達はヴェルト様だけに頼ならない道を模索しているのです。その過程でレオが少し泥にまみれる事ぐらい許してあげた方がよいではありませんか」
やっべ、子供の育て方で論争が起き始めた。
こういうのって明確な答えはないし、巻き込まれるとそう簡単に抜け出せない事も知っている。
俺の親がそうだった。
父親は完全に放任主義で緊急時以外では特に親子らしい関わりがなかったし、逆に母は過保護で何をするにしても報告を求めてきたりしていたので2人とも極端だった。
そんな2人の喧嘩で最も多かったのが俺をどう育てるかみたいな感じの話。この時2人の性格は全く違うのでぶつかり合う事が何度もあったのだ。2人とも極端だったのでどちらか一方に同意する事も、敵対する事も出来ず、結局嵐が過ぎ去るのをそっと待つしかない。
子供の教育というのはどんな世界、どんな場所であろうとも変わらない様だ。
俺の場合は1人と多くの子供達で更に小さな子供達を育ててきたからそういう喧嘩はなかったけど。
「お兄さんは次にどこに行くの?」
なんて考えている時に助け舟が来た!
ラッキーと思いながらレオの質問に答える。
「今度行くのはネグルって国だ。知ってるか?」
「え~あそこ~?あそこって全然面白くないよ」
「そうなのか?」
「うん。だって遊ぶ所も全然なかったし、お父様もお母様も全然外に出させてくれなかったんだもん。行ったのはご飯食べに行く時だけだよ」
あ~。これは仕方ないのかも知れないな。
おそらくレオがネグルで暇をしていたのはギャンブルをしている所に子供を連れて行きたくなかったからだろう。
遊ぶ所がないと言うのは子供が遊ぶような公園などは一切なく、本当にギャンブルをする所しかない。という意味だろう。
確かにそれでは子供は面白くない。それともやっぱり未成年は入館禁止制限とかあったんだろうか?
その話が聞こえていたのか、王様と女王様が意外そうな表情をする。
「ドラクゥル殿がギャンブルか?これはまた意外な」
「それともまたご子息の話でしょうか?」
「その通りです。SSSランクの次男がそこに居るかも知れないと思って行ってみるんです。と言っても確かな情報ではないので無駄骨になる可能性の方が高いですが」
「ネグルにですか?それは、その……」
「ギャンブル好きですよ。ご想像通りです」
素直に認めるとどう反応していいのか分からないという表情をされた。
まぁギャンブル好きの息子がいると言われればこんな表情になるよな。
でも別に恥ずかしがるような事はないので普通に言う。
「ギャンブル好きと言っても遊ぶのが好きなだけですよ。流石にその国で破産しているって事はないはずですから」
「はずというのが怖いな」
「もちろんその方の事を信じたいのは分かりますが……」
「あれ?これってそんなに心配される事ですか?ギャンブルってこの国じゃ嫌われているとか?」
「ギャンブルそのものは各国で小さく行っている事もそう珍しくない。だがネグルでギャンブルをするというのはかなり危険を冒していると言っていいのだ」
王様は随分と真面目そうな表情で言う。
やっぱりギャンブルで破産してしまった人は多い様だ。
でもどうやらそれだけではない様な表情をする。
「あの、その表情は何ですか?そんなに怖い事してるんですか!?」
「ああ……あの国にはVIPしか入れない裏カジノがある。もしそこで勝負をしているしたら、必ず恐ろしい目に遭っている」
賭博系マンガの定番!?
え、まさか借金返済のためにビルとビルに繋がる鉄筋の上を歩かされたり、訳の分からない地下帝国を作るための労働力になってる訳じゃねぇよな!!
「恐ろしい目とは一体……」
「非常に危険なゲームに参加させられる。借金返済のために命を懸けたゲームに参加し、それを見に来た他の金のある観客たちに賭けをさせるのだ。運が良ければその1回のゲームで借金を返済する事が出来る。しかしそうでなければ危険なゲームに何度も参加させられるのだ……」
「しかも食事や水なども全て借金として加算され、結果いつまでもゲームを終わらせる事が出来ないという恐ろしい目に……」
想像以上に質の悪い国だった!!
え、うちの子本当にそんなところにいるの!?居て欲しくないな~、参加してほしくないな~。
「なので本当にドラクゥル殿の子がその国に居た場合、かなり危険な目に遭っている可能性が非常に高い」
「元々ギャンブルが好きなのだとするとありえない話ではありませんから」
嫌な話本当に聞いちゃったなぁもう!!
こうなったらサッサとクラルテを探しに行くしかない!!
「ちなみに具体的にどんなゲームをしていたのか教えていただけませんか?」
「それは、その……」
「1度王族と言う事でその裏VIPゲームエリアで見ましたが、もう二度と見たくありません」
どうやら相当ひどい物らしい。
クラルテの奴、危険な目に遭ってないといいけど。




