黒い噂
「ところでドラクゥル様は何かご予定はありますか」
「特に何も。一応今後の予定としては一度カイネに戻って野菜を卸して移住してきた子達が慣れた辺りでネグルでまた子供探しをします」
「ネグルですか……あまりいい噂は聞かない国ですね」
「まぁギャンブル大国らしいので、そりゃ印象はあまりよくないですよね」
「いえ、それもですが黒い噂もそれなりに広まっているのですよ」
ライトさんが心配する黒い噂という言葉に俺も気になった。
「黒い噂ってギャンブルのせいで破産した人達の事でしょうか?」
「その人達の後が非常に黒い噂であふれているのです。なんでも破産した人に対して救済という名の違法ギャンブルが行われているという話です。借金をしてまでギャンブルをし、借金を一括で返却する代わりに非常に危険なギャンブルに参加させられるという噂です」
なんだかマンガで見たことのある展開だな。
借金チャラのために危険なギャンブルか。どんな事させられているんだか。
でもクラルテがそこにいると仮定して、本当にそんなことをさせるだろうか?そう言った事を許すだろうか?
あいつは遊び人だが、その誇りとして相手が本当に嫌がる事、楽しめないゲームを開催させないという心情はあったはずだ。
「どんな内容なのか知っていますか?」
「いえ、まったく分かりません。ただ分かっているのは大負けした人達はみなげっそりとした表情で、かなりひどい目に遭ったようです」
「詳しい内容は」
「それが……何かしらの魔法をかけられたなどではなく、単に口に出すこともはばかれるほどに精神を摩耗してしまったようで、ろくに話してはくれません。それに他国の事ですのでこちらから口を出すこともできません」
そりゃそうだよな。黒い噂があるからと言っても他国の問題だ。
世界最大の宗教と言っても国がどんな風に金を稼ぐかはその国の形による。ギャンブルはよくないと言って所でその国のあり方を変えることはできない。
「そればっかりはどうしようもないですからね……」
「ですので少しならともかく、ネグルであまりはしゃぎすぎない方がよいですよ。その噂に巻き込まれては心配です」
「白夜教の教皇様が心配してくれるとは恐悦至極」
「あまりふざけないでください。本当に何が起こっているのか分からないので慎重にお願いします」
おっと、ライトさんに怒られてしまった。
でも俺はギャンブルどころかパチンコもした事がない。遊んだ事があると言ってもゲーム内のミニゲームや、大型スーパーの中にあるコインゲームぐらいだ。
だからギャンブルというものに興味がないわけではない。でもマンガやアニメで出てくる怖いスーツの男達が出てくるような本当にヤバい人達がいるところで思いっきり遊べるとも思えない。
だからこそライトさんも真剣に忠告してくれているんだろう。
ブランの父親だからと言ってそんなに心配しなくてもいいのに。
「分かりました。ちゃんと注意しますよ」
「ブラン様やほかのお使い様達のためにも本当に気を付けてください」
俺が苦笑いで答えると、ライトさんが余計に注意してくる。
俺がたじたじになっているとガブがクスクスと笑いながらライトさんに言う。
「ライトさん。私達もいますから、そんなひどい事にはなりませんよ」
「そうかもしれませんが……何かとお父様であるドラクゥル様に甘いではないですか。仕方がないと思う部分もありますが」
「大丈夫ですよ。お父様はあまりギャンブルが好きではありません。みなで遊ぶ物が好きですので、自分1人が楽しむゲームはあまり好きではないんですよ」
それは認めるけど、それはあくまでもみんなで遊ぶという前提があるときだけだ。
普通に1人で狩りゲーしたりしてたぞ。
「それならよいのですが……あまりはしゃぎすぎないようにしてくださいね。それではそろそろ帰ります」
「それもそうですね。お父様、ライトさんの事を送ってきます」
「ああ。気を付けてね~」
ライトさんは俺達に向かって頭を下げた後、帰って行った。
するとメルトちゃん以外のポラリスのみなさんが一気に息を思いっきり吐き出した。
「あ~。白夜教の教皇様に会っちゃったよ……」
「心臓に悪いですね」
「私なんて天上の人ですよ。なんでドラクゥルさんの周りにはあんな凄い人たちばっかりいるんですか」
特にディースさんはぐったりとして、もうぬるくなってしまったジュースにようやく口をつける。
そんなこと言われてもな。俺というよりは俺の子供達が、の方が正しいと思うし、何でと言われても分からない。
多分あれだ。ブラン達が神様扱いされているから自然とお偉いさんばっかり周りにいる状況になってしまったんだろう。
類は友を呼ぶってやつなんじゃないか?お偉いさんは自然とお偉いさん同士で仲良くなる。みたいな。
「それにしてもネグルか。あそこにはまって帰ってこなくなった冒険者も少なくないよな」
「しかしほとんどはガラの悪い者達が一発当ててくると言い残して帰ってこなかっただけですからね。借金に苦しんでいるのかも、とは思っていましたが、まさか黒い噂があるだなんて知りませんでした」
「でも普通に楽しむにはいいところ。ほどほどが1番」
「……ところでさ。ネグルって具体的にどんな賭け事が行われてるんだ?」
正直俺がギャンブルと聞くとトランプを使った物、ルーレット、パチンコ、スロットぐらいしか思いつかない。他にも競馬とか競輪とか思いつくけど、異世界にこの類のギャンブルが存在するのかどうかよくわからない。
そう聞いてみるとアレスさんが指を折りながら言う。
「聞いた話によるとカードゲームが数種類に、ダイス、ルーレット、こんなところか?」
「他に魔道具を使った遊び台もあると聞いてます。なんという……名前だったでしょうか?」
「私はあまりそういう話は聞かないから分かんないわ。メルトちゃんは何か知ってる?」
「冒険者ギルドでネグルのカードゲームを真似して賭けをしてるのを見た。確かポーカーという賭け事」
ポーカー。
これで俺達の子供達がかかわっている可能性が出たな。
名前だけだからまだまだ早いかもしれないけど。
「カードのギャンブルってこの世界じゃ最近出たばっかりなのか?」
「いや、さすがにそんなことは無い。でも遊ぶ奴は少ないけどな」
「カードゲームそのものはありましたが、絵柄が地域によってまちまちだったり、大きさがバラバラだったのであまりなじみはありません。イカサマを仕込んだ上で勝負を仕掛けてくる相手もいたぐらいでしたしね。そのため統一性がなく、誰も勝負しようとしなかったんですよ」
「でもそこから出てきたのがネグルのカードだ。ネグルに行けば普通に買えるらしいが、すべて同じ品質、イカサマを仕掛けるとすれば簡単にバレる。そういうのがなくなったから最近はちょっとした事で遊んでいる連中もいるな」
カードの品質と絵柄の統一か。
確かにカードの統一が出来れば簡単に売り出すことが出来るだろう。それによりカードゲームの需要を上げたってところか。
ある程度信頼が生まれれば簡単に売れるだろうな。お手軽だし。
「それじゃ一定数以上の人がカードで遊んでるってことか」
「そうだろうな。お土産にカードを買って子どもと遊んでるって聞いてるぞ」
意外とカイネって知られてるんだな。
ただのギャンブル大国じゃなさそうだ。
ライトさんの言う通り、少し気を付けておくか。




