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ジュラの決断

 ジュラ達を案内して数日後、結論が出たというので俺は若葉、そしてノワールを連れて一緒に『竜人の踊り子』までやってきた。

 そしてその答えは個人的に意外だった。


「最初に言っていた女の子達とアオイだけ移住をさせてもらえないかしら」


 結構いろんな人が驚いたり住み心地がよさそうだと思っていたように感じたので正直意外だ。

 でもその理由を聞くと納得もできた。


「やっぱり私達はこれからもカーディナルフレイム(ここ)で頑張っていろんな女の子のためにやりたいから。私達がここに居れば道に迷った女の子たちを助けることが出来る。どうしてもまた外に出してあげたいって子が出たらその時はまたお願いできるかしら」


 だから俺は納得して頷いた。

 ノワールに向かって頷くとノワールがジュラの前にまだ白紙の紙を1枚出して話す。


「ではこれから私達で細かい取り決めを決めましょう。これはその誓約書を書くための書類です。細かい所までお互い誤解のない様に決めていきましょう」


 こういった子供を預ける、預かるという話にはこうしてちゃんと紙にも残しておかないといけないと思ったのでノワールを呼んで、目の前で誓約書を書くという事を決めた。

 ジュラも俺の事を信用してくれているがそれとこれとは別、ただの口約束みたいな感じでは不安な所もあるだろう。そのことを事前に話し、今こうして書いている。

 しかしアオイの方は少し残念そうにしながら俺に向かって行った。


「あ~あ。せっかくみんなで楽しい生き方が出来ると思ったのに、残念」

「でもそんなジュラさんだからこそついてきたんじゃないですか?みなさんの事を考えて決めたことでしょうから、尊重しないと」

「それは分かってるんだけどね~。あとさ、ドラクゥルさん普通に話しなよ。敬語じゃなくてさ」

「いや、でも……」

「だってこれからお世話になる人に敬語で話されるってなんか違和感が半端ないんだもん。だから素で話してよ。他の子達もそう思ってるし」


 アオイが同意を求めるように後ろにいる女の子達に振り返りながら言うと、女の子たちはうなずいた。

 それを見てから若葉に聞いてみる。


「なぁ若葉。俺の敬語って何かおかしいところあるか?」

「敬語が変じゃなくて、年上の人に敬語で話されるってことが慣れていないんですよ。だから私もため口で話してくださいってお願いしたわけですし」

「そういうもんか?」


 個人的には年上だからこそ敬語を使うべきだと思うところがあるのだが、違ったか。

 なんというか、個人的なイメージとして上司が部下にも敬語で話すというのは相手を尊重しているという感じがしたのだが、違ったか。

 その辺は個人差があると思うが、本人がため口でいいというのであればそうすることにしよう。

 なんて話しているとジュラとノワールの細かい話と契約書作りが終わってノワールは俺に契約書を見せる。


「これなら問題ないだろう」

「正直とんでもない条件じゃなければある程度のめるけどな」


 契約書を読んで確認するが、特にヤバい問題はない。

 むしろこんなもんでいいのか?と思うほどだ。


「ジュラさん。この内容で本当にいいんですか?」

「あ、あれ?何かおかしな内容はなかったと思うんですが……」

「だってこれ、結構条件が優しいというか、この程度でいいの?ってぐらい条件が思っていたよりも楽だったので」

「これで、楽?」


 ジュラはかなり戸惑いながら契約書を確認する。

 俺の手元にある契約書を若葉とアオイがのぞき込むと、その条件を見て俺に言う。


「……ドラクゥルさん。これで楽とは言えないと思いますよ。普通は」

「そうだよね。普通はこれを楽とは言わないよね~」


 …………?

 でもこの条件普通だよな。


「周りの方々には申し訳ないが、父はかなり世間とずれた価値観を持っている。いや、我々がそうさせてしまった。と言ってもいいのかもしれない」

「なんだそれ?」


 俺がノワールにそう聞くと若葉は納得したような表情をする。

 でもジュラやアオイは俺と同じように不思議そうな表情をしている。

 するとノワールと若葉は解説するように言う。


「まず父は一度に多くの子供を育てることに対して何の抵抗感もない。そして子供は自由にさせるべきだと考えている」

「しかもそれでドラクゥルさんの子供達、つまりノワールさん達はみんな上手に育ってます。そして一緒の育ててくれる人も大勢いて子供を育てるのに最適な空間であることも理由でしょうね。食材も自給自足で肉も野菜も十分にあります」

「さらに今も新しい弟妹が増え続けている。今更10人増えたところで父は何も思わない。父よ、人間の子供が10人ほど増えることに対してどう思う」

「特に何も?あ、これは悪い意味じゃなくて良い意味でね、だって俺もう既になん1万人っていう子供達を育ててきたわけだし、今更たったの10人が増えたぐらいなんと思わないよ」


 ノワールにそう言うとジュラとアオイは何か納得したようにうなずいた。

 何に納得したのかさっぱり分からない。

 それにこの契約書を読む限りなんというか、従業員の補充のようになっている。


 ちゃんとホワイトフェザーまで送り届け、仕事先を探すというのは分かるがその間俺のところで働くというのはどうなんだろう?

 彼女たちはまだまだ小学生、1番小さい子で小学1年生の年なのだから働かせるというのは正直どうかと思う。小学生なんて元気にバカなことして勉強よりも周りの人との付き合い方とか、大切な友達を作るのが重要というか、普通に働く年じゃないんだから自由にしていていいと思う。

 若葉だってまだ中学生。本当は働かせるなんて事はしたくないけど、本人が何もしていないのにお小遣いをもらったり食事や部屋の掃除などをしてもらうのが居心地悪いというので住み込みのアルバイト、という名目にしている。

 まぁ何かあった時とかは助けてもらってるけどさ。それ以外は本当に毎日仕事してるんだよ。ちょっと畑の手伝い程度とかでいいのに、自分で何か仕事はないかと聞いてくるぐらい真面目なんだから。


 俺自身子供のころは親に色々世話になりっぱなしだったので子供には自由に過ごしてほしいと思う。もちろん悪い事をしない限りは。

 だからまだ幼い子供達を働かせようと思わないし、俺の考えを押し付けるようなことだけはしない。

 飯を食う時ぐらいは従ってもらうけど。バラバラに食うとなると面倒だし。

 俺が子供達に言うことは、決まった時間に飯を食うからそれに合わせてちゃんと飯を食いに来い。これだけだ。あとは自由にしてていいぞ。


「ジュラさん。俺は別に従業員を増やそうとしたわけじゃないんですよ。お小遣いだって普通に渡しますし、4人一部屋とか言わずに普通に1人1部屋用意します。特にこの条件なんです?うまくいったらこの額をお支払いしますって言う内容は。俺は金の亡者じゃないんですかこんな条件いりませんよ」

「で、ですが食費も服なども色々お金がかかりますし」

「食費に関してはうちでは完全に0円です。全部畑で育ててますから。服の素材って知ってます?なんだかんだで原料は植物、もしくは動物の毛皮や蚕のような一部の昆虫の糸などです。これら全部家で生産できますから、こちらも0円です。ぶっちゃけ家の中にいるならお金は必要ないぐらいですよ。さすがに完全にうちの中にいることは不可能ですから、お小遣いも上げますし」

「そ、それはいくらなんでもこちらが得すぎませんか!?こちらが色々お願いしているんですから、このぐらいは……」

「いりません。これじゃまるで子供達を買ったみたいじゃないですか。俺そんな非情な人間じゃありませんよ」

「そんなつもりは……」

「とにかくお金入りません。ちょっとしたお手伝いぐらいはしてもらうかもしれませんが、大人と同じように働かせるつもりはありませんよ」


 俺がそう言うとジュラは助けを求めるようにノワールの事を見た。

 その表情を見てノワールは俺に向かって話をかみ砕きながら言う。


「父よ。これ以上ジュラをいじめるのはやめておくべきだ」

「いじめるってなんだよ?何もいじめるようなことはしてないぞ」

「これはいじめているのと同じだ。父よ、確かに父にとって子供を10人ちょっとを預かることは何の苦でもないだろう。だがそれでは恩が多すぎるのだ。少しでも恩を返すために金を払おうとしているのだ。恩を過剰に押し付けるのはいじめとそう変わらない」


 そう言うものなんだろうか?

 恩の押し売りというつもりは全くない。その方が子供達のためだと思って行ったのだが……どうやら違った感じになってしまったらしい。

 俺はため息をついてさらにかみ砕いていう。


「つまり俺はこの金をもらわないといけないってことだな」

「そういうことだ」

「ならもらっておくが、この金は俺がどう使おうがかまわないんだよな?」

「もちろん。それは受け取った時点で父の物だ」

「そうかよ。それじゃそのお金はいただきます。きちんと子供達のために使わせていただきます」

「ありがとうございます」


 こうして俺はしぶしぶその金を受け取った。

 なんか子供を買ったみたいな感じでやっぱり気分がよくない。でもまぁ仕方ないので受け取った。

 なのにジュラはどこかほっとしたような表情になったので違和感がぬぐい切れない。

 こうして正式にアオイを含めた13人の女の子たちがアルカディアに移住したのだった。

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