アルカディアを案内中 後編
次に来たのは海エリア。
海と言ってもとある海岸の1つであり、海は広すぎるのでその1部だけご紹介。
「………………ここどこ?」
「………………どこかの孤島でしょうね」
ジュラとアオイが途方に暮れている。
別に孤島にいるだけで特に変なことは無いし、ただの穏やかなプライベートビーチのような感じでしかない。
おっかないモンスターはいないし、穏やかな水モンスターばっかりだ。
どういう訳か水系モンスターが強くなるにつれて氷系とでもいうべきモンスターに変化していく。だから強力なモンスターは北極というか、南極というか、めちゃくちゃ寒いところにいるので穏やかな暖かい海ではあんまり強力なモンスターはいないのだ。
なのでこの辺にいるのはランクの低いモンスターであり、今そこで歩いているのはペンギンだ。
このペンギンの名前はキョウテイペンギン。漢字で書くと競艇ペンギン。
なんで競艇?と思う人は非常に多いだろうが、このキョウテイペンギン、泳ぐ速度がかなり速いのである。泳ぐ速度がモンスター界最速のCランク。知恵の足りないモンスターではこのペンギンを捕まえることが出来ない。
知恵のあるモンスターはどうするか?群れで追い詰めてみんなで捕まえる。
と言ってもそれは海の中にいる間だけで砂浜をあるっている姿は普通のペンギンだけどね。
「あの、ドラクゥルさん。ここはどこですか?」
「ここはあんまり戦闘向けじゃないモンスター達の孤島ですよ。小さい子もいますし、おとなしくてかわいい感じの子が多いところがいいと思いまして」
「確かにあまり怖い感じはしませんが……大丈夫なんですよね?」
「大丈夫ですよ。俺が育てたので人懐っこいですから」
「ジュラさん!見て赤ちゃん!!」
「かわいい赤ちゃん!!」
そう言ってアザラシのモンスター、コトアザラシの赤ん坊を抱っこしている。
コトアザラシの赤ん坊は少し困った表情を見せながら俺に助けてと視線を送っている。少し遠くにいる親も助けてあげてくださいという表情をする。
助けてあげようと思うが、どうやら俺の出番はないらしい。
海からクレールが現れて女の子の前でしゃがむ。
「お嬢ちゃん。その子は親の元に帰りたいみたいよ。あっちに貴方たちと遊びたそうにしている子たちがいるかその子たちと遊んでくれないかしら?」
「そうなの?ごめんね~」
そう言って女の子は素直にアザラシを砂浜に下ろして放す。アザラシはすぐに親の方に向かって行く。
そして女の子は興奮した様子でクレールに聞く。
「それでどの子と一緒に遊んでいいの!?」
「あっちの砂浜にいるわ。ボールで遊んでるから見ればすぐに分かるわよ」
「お姉ちゃんありがとう!!」
そう言って女の子たちは別のアザラシの方に向かって走っていく。
クレールは女の子達を手を振って見送ると俺に向かって嘆息しながら言う。
「お父様。こういったときはお父様がしっかりと注意しなければならないのではありませんか?」
「悪い悪い。ちょうどお前が注意しに来たからさ、俺は必要ないかな?と思っちゃったから」
「例えそうだったとしてもお父様が率先して行うことが大切なのです。今の子たちは素直だったからよかったものの、駄々をこねて放さなかったらどうするつもりだったのですか」
「その時はちゃんと説得してたって」
俺だってずっと無責任にあの子の事を放っておくつもりはなかった。
でも俺が言うよりはクレールの方があの子も安心できたと思うけどね。
その後クレールはジュラ達に向かって丁寧に頭を下げる。
「初めまして、アルカディアの海と水系モンスターを管理しております、クレールと申します。本日は孤島までご足労いただき誠にありがとうございます」
「い、いえ。そんなかしこまって言わなくても大丈夫ですよ。管理という事はあのペンギンたちも?」
「はい。弱いモンスターなので色々この島に住む魔物達の事を気にかけているのです。もしこの海で何かあったらお伝えください。それでは」
「あ!ちょっと!!」
そう言ってクレールが服を着たまま海に入っていったのを見てジュラは慌てて声をかけたが何も問題ない。
ジュラに向かって俺は言う。
「ジュラさん。あの子も水系の魔物です。それにあの子もブラン達と同格のSSSランクです。心配することはありませんよ」
「そ、そうなの?それじゃあの人の場合はどんな姿なの?」
「姿は……あ、ちょうどあれですあれ。今大きくジャンプしたのがクレールですよ」
シャチという動物を知らない可能性が高いのでどう説明しようと思ったが、クレールが島から離れる前に1度大きくジャンプしたので、その姿を指さすことで教えることが出来た。
ジャンプして着地した衝撃で海水が大きく跳ね上がる。それを見た子供達が笑い、大人たちはクレールが飛んだ大ジャンプに驚くのだった。
――
最後に来たのはカーディナルフレイムから来たみなさんからすれば見慣れた光景である火山エリア。
火系のモンスターが生息しているエリアであり、マグマとか普通にその辺で川のように流れている危険地帯でもある。
このエリアにはあまり多くのモンスターは存在しない。その理由はあまり植物が育つ環境ではないからだ。
一応このエリアに生える植物としてサボテンとか、乾燥や熱などに非常に強い植物が点々と生えてはいるがそれはふもとの荒野、そして砂漠地帯だけの話。ルージュの住む火山では弱い火系のモンスターがたくさんと、ほんのわずかな強いモンスター達が生態系を作り上げている。
だから火のモンスターだからと言って必ずこのエリアに住んでいるとは限らない。弱いモンスターはふもとの荒野か砂漠エリアの方が圧倒的に種類も数も多い。一点特化の耐性を持っている火鼠だったり、圧倒的な強さを持つルージュのような存在ばかりが住んでいる。
ちなみに酒呑童子はこのエリアには住んでいない。酒造りに適さない環境だからだそうだ。
「ここが最後のエリア、火山地帯です。みなさんカーディナルフレイムで見慣れているでしょうが、ここが最後なので案内させていただきました。みなさん熱とか大丈夫ですか?」
「ある程度慣れているので大丈夫ですが、あまり長時間いるわけにはいきませんね」
ジュラの視線には暑そうにする女の子たちの姿がある。
もちろん女の子達に危険なことはさせないので軽く案内してから帰るつもりだ。
「それじゃ手早く案内しますと、この道をまっすぐ進むとルージュのいる火山の中心部。戻って右側に向かって行くと砂漠エリア、左側には鋼やエリアがあります。場所によって住んでいる魔物の種類が大きく変わるのがこの一帯の特徴ですね。それじゃ帰りましょう」
「え、もう帰るの?もうちょっと見学したい」
そう意外なことを言ったのはアオイだ。
周りの大人たちも意外そうな表情を作るが子供達の安全の方が優先される。
リゾート地みたいな孤島から暑苦しい火山エリアにやってきたせいか、ちょっと顔色が悪い子達がちらほらとみられる。
だから予定よりもかなり早いがすぐに帰った方がいい。
「後で連れてきてあげるので我慢してください。それじゃすぐ帰りますよ」
こうして俺はメニュー画面から全員を一気に家の前まで転移する。
そして顔色が悪くなっていた子達にスポーツドリンクを渡して回っているとアオイから声をかけられた。
「ねぇねぇ。1つ聞いてもいい?」
「火山エリアだったら後で連れて行ってあげますよ」
「そうじゃなくて、確かきみの生み出すモンスターは全部で6属性に分けられるんだよね?それじゃあと1つ余ってるんじゃない?」
意外と鋭いな。確かにあと1つだけ残っている。
そのエリアは高原エリア。風系のモンスターが多くいるエリアだ。
しかし……
「確かにあと1つ残っていますが、あの環境厳しいので子供達を連れてはいけないと思ったのでまた今度でも構いませんか?」
「厳しいって、火山エリアよりも厳しいの?火山の方がヤバいと思うけど」
「確かに熱とかそういう意味では向こうの方が何倍も危険ですけど、あっちは標高の高さと風が強くてそう簡単には歩けないエリアなんですよ。標高の高さは大体富士山の8合目くらい、空気が薄いのに気が付かなくて、地面はしっかりしているせいではしゃぎすぎるとあっという間に高山病になりますよ」
そう。とにかくあのエリアはトラップが多い。
いや、意図的に配置しているとかそういうのではないけどさ。天然のトラップが多いんだよ。
それに定期的に風が強くなるからあっと今に吹き飛ばされるし、色々と厄介なんだよ。単純な火山エリアよりもさ。
「そうなんですか。それじゃそっちの方が強い魔物が多いんですか?」
「環境込みだと高原エリアの方が厄介の相手の方が多いかもしれませんね。単純な力だけなら火山エリアの方が多いと思いますけど」
それにクラルテがいないせいか暴風が安定しないんだよな……
だから余計に今は近づかない方がいいという理由もある。
どのエリアも安全に巡るためにはなんだかんだでSSSランクモンスターがいないと安定しないんだよな。
早く見つけに行くか。あの自由人。




