神と天使
その後の1時間の激闘を制し、俺達はようやく終わったと疲れ切った状態でしばらくぼーっとしていた。こんなのうどん屋のバイト以来だな……お昼のピークタイムに似た感じだった。
そう思って俺は芝の上でグダ~っとしているとライトさんが他の偉い神父さん達やシスターさん達を連れて戻ってきた。
「お疲れ様です、みな様。あとは我々が片付けますのでお休みください」
「ライト様。コンロの片づけは我々が――」
「今日の事で疲れ切っているでしょう。我々はもうすでに準備を終えました、あとはお任せください」
「しかし――」
「お願いしま~す」
俺が大の字になって休みながら俺はそう言った。
他の人達はえ、マジで頼むの!?と言う表情をしていたがライトさんは俺の返事で満足そうにうなずきながら他の人達がバーベキューコンロを片付け始めた。相当偉い立場の人達のようでさっきまで一緒に頑張っていた神父さんやシスターさん達はあわあわしている。
相当偉い人達なんだな~っと思いながらしゃがんで俺の頬を突っつくライトさんに視線を向けた。
「で、何してるんです?」
「いえ、ドラクゥルさんは貢物をちゃんと捧げたのか気になりまして」
「あ~。忘れてた」
忙しかったし、いつ渡しに行けばいいのか分かんなかった。
「では今から参りましょう」
「え?入っても大丈夫なんですか?」
「特別ですよ。本当は18時以降は人を入れてはダメなんですから」
じゃあなんで俺はいいのだろうと思いながらも大聖堂にフラフラの足取りで向かう。自分で思っていたよりも疲労していたようだ。早く帰って寝よ。あ、でもハクの事見たいしな……お手伝いって人前に出る物なのか?出るなら見てみたいな……
なんて思いながら大聖堂に入る。すでにそこにはいろんな人からのお供え物が山のように積み重なっていた。
ある程度並べ方に決まりがあるのか、野菜や魚の干物など食材は左側、どこからかかってきたプレゼントの箱のようなものは左側、そして手作りの品と思われる物は中央に置かれていた。
俺は大皿に最高品質の肉の塊を1つ大皿の上に乗せた。
やっぱり最初は重ねて5つぐらい肉乗っけてお供えしようと思ったけど、1つの方がおいしそうに見えるな。
あの状態だとなんか怖いんだよ。
俺は大皿に乗った肉をライトさんに渡しながら聞く。なんでもお供え物を置くのはライトさんのような偉い人達の仕事だとか。神様に直接渡す物を運ぶのも偉い人達の仕事らしい。
なので既に偉い人達がお供え物を庭に向かって運んでいる。全て神様宛の物だから1つ1つ丁寧に運んでいる。効率悪いんじゃないかな~っと思うが神様に渡すから変な事は出来ないんだろうな。
「ところでお祈りって決まったルールみたいなのあったりします?お祈りをする手順みたいな」
「ありませんよ。ただ神に感謝をささげる、それこそが最大の信仰なのですから」
ライトさんは大皿ごと肉を受け取るとなぜか1番目立つ中央に置いた。
そこは手作りコーナーみたいな感じじゃないの?食材だから左側じゃないの?
なんて思ってもライトさんに何らかの考えがあると思っておこう。こういう宗教の事って詳しく知らないし、信者でもない俺には縁遠い話なんだろう。
とりあえず神様にまた子供達に会いたいです、と頼んでおいてから祈りをやめる。
ライトさんはどこか満足そうにしながら言う。
「どのようなお願いをされましたか」
「会いたい人達が居るので、またその人達に会えるようお祈りしました」
「そうですか。そのままこちらにどうぞ。ドラクゥルさんにはお席を用意しています」
「…………お席?」
一体どういう意味だ?ここは飯を食う場所とかじゃないぞ。
困惑しているとライトさんは何故か恭しく頭を下げながら言う。
「ハク様のご命令です。ドラクゥルさんにはハク様のお姿を見ていただくため、いい席を用意する様にと言い付かっております。ですのでハク様のお姿を最も良い場所で見ていただこうという訳です」
なるほど、ハクの晴れ舞台を見るためって事か。
確かこの感謝祭の最後はこの大聖堂の裏にある大きな庭で行われると聞いている。そこにこの神様への供え物を運び出し、神様が来るのを待つという。
確か神様が来るのは……20時と聞いている。それまでの2時間はこのお供え物を庭の中央に運び出し、準備するための時間らしい。だから本来であれば8時以降はこの大聖堂に入れないし、入った俺はかなりの特例と言う事になる。
「それでいい席と言うのはどこなんですか?」
「この大聖堂の展望テラスです。神のために用意された庭園であり、お食事もできますよ」
「飯……そういや昼にちょっと串肉つまんだぐらいでちゃんと食ってなかったな……」
ぼんやりとそんな事を思い出しながら言う。あくまでも昼飯は他の人達にふるまったと言う感じであり、俺自身はあまり食ってなかった。
そう思うと自然と腹が鳴った。ライトさんは俺の方を見るので俺はつい苦笑いで返す。
まるで飯を催促している様な気になるので気恥しい。
「どうぞこちらに。すでに準備は整っております」
「いや~すみません」
後頭部をかきながらそう言うとその展望テラスに向かって歩く。
もちろんエレベーターなんて都合の良い物はないので階段で上がる。10階分ぐらいだろうか?少し疲れながら展望テラスに着くと自然と扉が開いた。
「……これは確かに綺麗な場所だな」
大聖堂の屋上にある展望テラスは人を癒す力があると言ってもいいぐらいに綺麗な場所だ。
毎日手入れされているのだろう雑草1本もない土、その土に根付く青々とした木、そしてメインと言えるカラフルな花々はまるでどこかの名のある美術家が描いた絵画のように美しい。
普通屋上は風が強いイメージがあるが単に今日は風が弱いのか、それとも結界の様な物で調節されているのか夜なのに寒すぎず、風も決して強過ぎない。心地いい空間が存在している。
「気に入って何よりです。ここは神自ら手入れをなさっているのですよ」
「神様が?花とかが好きなんですか」
「はい。何でも神が御幼少の頃自然の恵みが溢れた土地で暮らしていたらしく、土と草木の匂いがお好みだそうです。ではこちらのお席に」
そう言ってライトさんが促してくれた席には既に数人のシスターが待ち構えていた。
真っ白なテーブルの上には既に食器が置かれており、何故か食器は俺の席にしかなかった。
「あの、ライトさんの分は?」
「私はお話をするだけです。神のご説明と今回のお礼としてお食事を振る舞うだけですので。流石にドラクゥル様のお肉などには劣りますが、この国で最も上質な食材などを使っています」
そんな風にライトさんから説明されている間にも綺麗な銀色の蓋、名前は知らないけど料理にかぶせる蓋つきの食器を俺の前に置き、蓋を取った。
それは普段食べているようなお手製の適当料理とは違い、どこかの高級レストランの様に飾り付けまで全部施された料理だった。
これ俺1人で食っていいの?マナーとか色々あるんじゃないの??
「えっと……これ本当に食べていいんですか?色々とマナーには疎い物で……」
「構いません。ここで食事をなさっているのはドラクゥル様お1人、ご自由にお楽しみください」
ライトさんにそう勧められるまま、戸惑いながらも「いただきます」と言ってからナイフとフォークに手を付けた。
こういう時大したものを食べてこなかった自分が恨めしい。どれだけ美味い物を食べてもどう表現すればいいのか分からない。
「こちらは前菜の新鮮な野菜を使ったキッシュです。神にお楽しみいただけるよう専用の農家で栽培した野菜となります」
「神様に食べてもらうための野菜……こりゃ凄いな。普通の野菜はどこかアクがあると言うか、野性味みたいなのが残ってるものなのにこの野菜には一切そう言う物がない」
この世界の野菜は単純に不味い。何故と聞かれると品種改良など一切されていない野性味あふれる野菜が多く感じたからだ。
今言ったかアクだったり、やけに硬かったりと様々。品種改良してきた農家のみなさんの努力のたまものなんだと強く感じた。
「神のお使い様が教えて下さったのです。野性味のない野菜の作り方、そう言った事も教えていただいたのです」
お使い……あ、天使みたいな人達の事か。
「そしてそのお使い様を含めた神はある者をただひたすらに探しております」
「ある物?」
更についているソースもキッシュに付けて舐めとったように綺麗な状態にしてフォークとナイフを下ろすと、次はスープが置かれた。
これは……魚介系のスープだな具はなく、魚の美味そうな少し濁った出汁を直接飲んでいる様な感じがする。
ただ魚の味だけではなく干したキノコ類でも入っているのだろうか?魚だけの味と言う訳でもない。
「神は父君を探しておいでなのです」
「神様の……お父さん?」
「はい。神は神の父君がこの世界のどこかに居るのではないかと探しております。今でも時折り父君の事を思い、夜泣きをなさっています」
「……愛されていますね。その神様のお父さんは」
そう言いながら俺は食事を進める。
前菜、スープ、メインの牛のステーキを食べ続ける。
そしてライトさんの話も進む。
「今現在大国を支えているヘキサグラムと言われる神と同等の存在、全部で6柱の神です。その神が居る国と居ない国では大きな差が開いています。文化、財力、軍事力、どれも神のいない国に比べると差は広がるばかり。なので神がいる6つの国を6大大国と呼ばれるようになりました」
「なんだ、まさかどこかの物語みたいに『神を倒して人の時代を創る!!』とでも言うのか?」
「まさか。神は我々人類の事を尊重してくれています。最低でも6大大国はどこもそんな事を考えてはいないでしょう」
「やっぱり神様が気に入らないという国はあるって事だな」
何だか面倒な話だな~っと思っていると最後にデザートがやってきた。
俺の前に置かれたのはアップルパイ。美味そうで最後に砂糖を溶かした液体でも塗ったのか、光沢が美しい。
俺はそのパイを一口食べると違和感を覚えた。
別に不味いとかそう言う事ではない。素直に美味しいし、使っているリンゴだってきっとこの世界でかなり上等な物を使っているのだろう。
だが、どこかで食べた事がある味の様な気がするのだ。
確かにどこかで食べた味、と言うよりはこれは……
「流石にこれには気が付いた様ですね」
「ライトさん……これ、どういう事なんですか。このアップルパイ、俺が作ったアップルパイをより美味しくしたものですよね」
そう。これは俺が以前に子供達に食べさせたアップルパイのはずだ。
もちろんゲームでの話だし、味なんて分からない。分かっている事と言えばそれを食べさせたことによる子供達への好感度の上昇やステータスの変化ぐらい。
だが何となく分かる。これは昔俺が子供達に食べさせたものだと。
「……どこかに俺の子供達が居ると思って行動してはいたが……こんなに早く見つける事が出来るとはな。で、ライトさんって何者?」
「それは少し後になさいましょう。神の御降臨です」
そうライトさんが言った直後だった。
太陽とは違った眩しさを感じる。その方向を見ると数多くの天使達が中心にいる生物を守りながら現れた。
地上に居る人間達はその神々しい姿に感涙する者が多く、そうでなくとも神の威光に自然と頭を下げる者が大勢いる。
その神と呼ばれる生物は純白の羽に包まれたドラゴンだった。
青い瞳は母の様な慈愛と力強さを感じ、その肢体と尾は流麗であり無駄を一切感じさせない。その翼はこの場に居る人々すべてを包み込むように広げる。
人々に近付くにつれて自然と発光する白い光を弱めながらその場に降り立った。
俺はそのドラゴンだけではなく周りに居る天使達に関しても非常に驚いた。
姿形ではない。あれは、あの子達は――
「ドラクゥル」
ライトさんが座ったまま俺に向かって言う。
「この国ではドラクゥルの名は教会の幹部たちにのみ伝えられます。それは神々のファミリーネームであり、絆。この名は決して口に出してはいけませんし、ただの人間が語る事は許されません。許されているのは神々と神々に仕える存在のみ」
ライトさんは真剣な表情と声色で言うが俺にはそんなものどうでもよかった。
「やっと、見付けた!!」
ブラン・ドラクゥル。
子供達の中で末っ子であり、最後に進化させる事に成功したSSSランクモンスターである。
エレメンタルフェザードラゴン。
名前 ブラン・ドラクゥル。
SSSランク。
純白の羽に包まれた世界に6体しかいないSSSランクモンスターの1体。司る属性は光であり、結界による魔法防御、自身や他者を癒す力に特化している。
心優しい性格をしており、他の種族であろうともその慈愛を持って包み込む事により相手に安心を与え続ける。その代わり他のSSSランクモンスターに比べると戦闘は不得意。
補足
ブラン・ドラクゥルはドラクゥル家の末っ子として生まれた。そのため他の兄姉に甘やかされて育てられたため孤独を感じる事を嫌う寂しがり屋。
甘やかされたと言っても躾などはきちんとされていたので我儘と言う訳ではないが、他の兄姉に比べると子供っぽい言動と行動が多い。熾天使の兄姉はよくブランに振り回されている。
なおホワイトフェザーに住む人間達の先祖を助けた理由は父であるドラクゥルと同種であり、寂しかった時に偶然見つけた事が始まりである。




