アルカディアを案内中 前編
投稿再開します
ノワール達の頼みによって避難してくる吸血鬼達のために家を建てている間、ジュラさん達がみんなでアルカディアの確認に来た。
「今日は色んな所に行って色々とこのアルカディアでのルールなどを覚えていただきたいと思います」
みなさんにそう言ってから俺は見学ツアーみたいな事を始める。
まず最初に来たのは最も危険である可能性が高い闇系のモンスターが生息するエリア。ここには前に来たガルム達の様な食人種が多い。
ちなみにこのエリアと家族みんなで過ごせる草原エリアの境界線にヴラド達の屋敷がある。
闇エリアは生物にとってあまり住み心地の良い空間とはとても言えない。
不気味な雰囲気に枯れた木々や割れた大地、水は濁っていたり空気も淀んでいる。
「まずここが闇エリアです。この間来たガルム達などが住んでいます。ほとんどこんな感じであまりいい雰囲気ではないので近付かないとは思いますが、闇エリアには食人種が多く存在します。そこに見える綺麗な泉にはケルピーが生息しており、人懐っこいと勘違いして近付かないようにしてください。あれは演技で油断した相手から湖の中に引きずり込むので注意してください」
「本当に居たのね、食人種」
ジュラさんが改めてそう呟いた。
ちなみにここに居るのは大人の女性だけで子供達には過激すぎるという事でヴラド達の屋敷で待ってもらっている。
本来であれば吸血鬼に大切な子供を任せるなんて事はしないだろうが、前回共にバーベキューをしてある程度信頼を得た事で許されたと言う感じだろう。
「まぁ食人種だけではありませんけどね。あそこで手を振っているのがスモッグゴーストです。全身特殊なガスで出来たからだですが人に対して無害です。あえて言うなら人を驚かすのが好きっていう所ですかね。あっちには進化したウィル・オ・ウィスプです。あっちは穏やかな子が多くって夜道に出てきてちょっと驚きますが、家まで安全に送ってくれる優しい子です」
スモッグゴーストとウィル・オ・ウィスプがこちらに向かって手を振っている。
彼らはどちらかというと愛嬌があるというか、ちょっとデフォルメされたような姿なので正直あまり怖くない。
ウィル・オ・ウィスプに関しては古い街灯の様な笠を被っており、半透明の骨のような姿で浮いているがリアルな骨ではないので全然怖くない。掌から炎を出す事が出来るが、辺りを照らす事しか出来ないので害はない。
あえて言うなら夜中に音もなく現れると驚くぐらいだ。
「ウィル・オ・ウィスプに関しては害がないのは冒険者ギルドでも有名だわ。そんな子もいるのね」
「あの子達はイタズラ好きな子もいますけど、ほとんどが寂しがり屋が多くってかまって欲しいだけなんですよね。ただランクが上がるにつれてやっぱり戦闘向きになっていきますから、ある意味ランクの低い今の内にしか見られないと言ってもいいかもしれませんね。それじゃ次のエリアに行きましょう」
子供達を回収してから向かったのは森林エリア。
超巨大な生物が多く、種類も最も多いこのエリアには様々なモンスターで溢れ返っている。
「え~こちらは森林エリアとなっております。ここにはもっとも数多くの魔物が生息しており、本来であれば戦闘能力の高い魔物などが多くいますが、全員うちの子なので勝手に襲ってくる事はありません。その辺りは保証いたします」
「この辺りでのルールってどんなのがありますか!」
アオイが手を上げて質問してきたので俺は少し考えてから言う。
「そうだな……それじゃ最も重要な事から教えましょうか。こっちです」
そう言ってみなさんを連れて来た場所はこの森の中心、つまり黄緑がいる。
黄緑はまだまだ幼いとは言えこの森を管理する重要な存在だ。もし分からずにイタズラされたりしたら困るので先に重要な存在である事を教えておいた方がいいだろう。
そして森の中心、ちょうど森が十円禿げのように綺麗な円を描きながら木々が生えていない日当たりの良い所にたどり着く。
その十円禿げの中心に小さな木が1本生えてる。
「あれがこの森を管理している黄緑です。まだまだ幼いですがこの森にとって必要な存在なのでイタズラとかしないで下さい」
「あの小さな木が重要なの?」
「まだ子供ぐらいの大きさしかないわよね」
ジュラとアオイが不思議そうに言うので正体を見せてあげる方が手っ取り早い。
「黄緑。顔出せるか?」
俺がそう言うと小さな木が震える事にみなさんは不思議そうにしていた。風がないのに気が1本だけ揺れるというのは不思議に思うんだろう。
だが土の中から亀が現れれば話は別だ。
黄緑はゆっくりした動作で顔を出し、どうかした?と俺の事を見る。
「この子が黄緑です。グリーンシェルに居るヴェルトの子供です。まだ小さいですがこの森を管理しているのであまり変な事はしないで上げて下さい」
俺がそう言うとみんな近くに寄って黄緑の事を見る。
「こんな小さくても凄いのね」
「この子もモンスターなんですか?」
「そうです。と言っても人を襲って食べる様な種族ではないので本当に穏やかですよ。何もしなければ背中の木から光合成してエネルギーを作れますし、水分は地中から吸い取る事が出来るので本当に何もない時はずっとこのままなんですよ」
「色々楽な子ね」
ジュラがそう言いながらそっと黄緑の頭を撫でる。
「あ、黄緑の場合は背中の木の付け根?みたいな所を撫でると喜びますよ」
「付け根ってこの木の根っこ?」
「そこですそこ」
頭から木の根の部分を撫でると黄緑は目を細めて大人しく撫でられる。
本当にモンスターって好きな所が色々違うんだよな。
そんじゃ次行ってみよう。
お次は山岳エリア。ここにはブランたち天使が多くいるエリアだ。
太陽に近いところで日光を浴びることで神聖な力を高める、みたいなことは特にないがなぜか彼らは高い山が好きだ。
ぶっちゃけ光属性のモンスターたちって分布バラバラなんだよね。
神聖な場所、光が強い場所、穢れていない場所ならどこにでもいる。
だからこの山にしかいないってことは無いが、ブランたちの家がここにあるのだから一応連れてきた。
「ここがブランやほかの天使たちが住んでいる神殿です。かなり標高の高い山にあるので歩いてくるのは難しいでしょうが、一応ブランたちはこんなところに住んでるよ、という紹介程度に覚えていただければと思って連れてきました」
「そ、そう。こんなところに住んでるのね……」
ジュラが少し引き気味に言った。
まぁエベレストみたいなところに建ってるからな、多分怖いんだろう。
ちなみに現在の子供達は天使たちに遊んでもらっている。再会したての頃はまだまだ感情が希薄という感じだったのに、今では普通に笑ったりしている。
と言っても自我が芽生えたばかりの天使はまだまだ子供っぽい部分が多い。見た目は大人とそう変わらないのに言動が子供っぽいと、ちょっとちぐはぐに感じるが仕方ないか。
「それにしても……ここに住んでるのは本当に天使様だけなの?」
「天使だけ、でもないですよ。ブランは天使じゃないから」
「そうなの?あんな可愛いのに??」
「可愛いだけならうちの子全員天使です。ほらあれ、白夜教の神様が帰ってきました」
「え?」
俺の視線には純白の羽に包まれた巨大なドラゴン、つまりブランがドラゴン状態で帰ってきた。
最近のブランはこっちで運動と言って空を飛びまわっている。何でも向こうだと神様としてというよりは象徴として置いてある物と同じ感じで寝床で鎮座していればいいだけらしい。たまにやってくる仕事は国の重要な会議の結果を聞いてOKを出したり、重症の患者などを治療するのがたまにあったりぐらいらしい。
それに自分の縄張り内と言っても神様がちょいちょい空を飛びまわっているのを目撃されるのは信仰的にもちょっと問題があるという事。
1つ目は単純に悪い連中に狙われないかという懸念。仮に決まった時間、決まった場所で空を飛んで散歩していると知られたら待ち伏せされるかも知れないから。
2つ目は感謝祭でのみ姿を現している方が感謝されるのではないか。という派閥が主流である事。毎日ブランが空を飛びまわって、それが日常になったら神への感謝を忘れてしまうのではないか、神への敬意を忘れてしまうのではないか、と考えるお偉いさんが多いので出来るだけ飛び回らないようにブランに頼んだらしい。
なので身体を動かしたい時はアルカディアで空を飛んでいる事が多い。もしくは他の子達と遊んだりする。
そして白夜教の神がここに居る事にジュラは驚きながら言う。
「な、何で白夜教の神がここに居るの!?」
「あれが神様ですか……綺麗なドラゴンですね」
「褒めてくれてありがとうございます。その白夜教の神で綺麗なドラゴンがブランですから」
俺がそう伝えるとみなさん全員が驚いた。
ブランの帰りにミカエル達が出迎える。そのまま神殿に入り、俺達に気が付いてブランはドラゴンの姿から人間の姿に帰る。
「パパにみんなも。今日はどうしたの?」
「アルカディアの案内をしてただけだ。ここがブランの家だ~って教えに来ただけ」
「そっか。パパ今日はごめんね。ホーリーランドの事についてみんなで相談するから今日は帰れないかも。枢機卿のみんなも混じって相談しなきゃいけないから」
「分かった。帰れないのは分かったけどちゃんと寝るんだぞ」
「うん。それじゃみんなもまたね~」
ブランはみなさんに向かって手を振った後にホワイトフェザーに向かった。
やはり今回の戦争はホワイトフェザーも注目しているからか、ミカエル、ガブリエル、ウリエル、ラファエルの4人も出席する様だ。
本格的に嫌な雰囲気になってきたな。ノワール達も受け入れの準備をしているし、あまりいいとは言えない状況に成りつつあるな。
なんて考えていると、アオイが俺に聞く。
「ねぇねぇ。ブランちゃんが白夜教の神様って本当?」
「本当ですよ。去年の感謝祭を見てれば説明は不要なんですけど……表向きはあのドラゴンの姿で神様やってます」
「ちなみに女の子の姿とドラゴンの姿、どっちが本当とかあるの?」
「それはドラゴンの姿の方ですね。あくまでも人の姿は後から覚えたそうで、俺が最初から知っているのはドラゴンの姿ですから」
「へ~。でもやっぱり驚くよね。ドラゴンが目の前で女の子になるって」
「俺はもう見慣れた光景ですけどね」
そんな風に俺とアオイ話をするが、他のみなさんはしばらく驚いて動けなかった。




