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ジュラにアルカディアを見てもらう 後編

 ジュラとアオイが真剣に話している間に海に着いた。

 家からそう離れていないし、見慣れた光景なので大したものの様には感じないが、初めて海を見るカーディナルフレイムのみなさんから見ると感動する光景だった様だ。


「おっきー!!」

「向こう側が全然見えない!!」

「ここの水って飲めるの?」

「しょっぱいって聞いてるけど、どうなのかしら?」


 女の子達の質問に女性達が答える。

 どうしても分からない時は俺が答えるし、海辺で遊ぶだけでも十分楽しめている様だからこれでいいか。

 個人的には船出して釣りをするのが楽しみの1つなんだが、今は海に住むモンスターも結構増えてきたから下手するとその子達釣りそうになるから控えてるけどね。


「…………海まであるなんて本当に凄い。これ本当にゲームの能力だけなの?実は別の力もあるんじゃ……」

「いや、あとはモンスターを自分で育成して強くするだけです。箱庭ゲームらしい能力でしょ」

「モンスターの育成、か。それじゃここに居るモンスターは全部あなたが育てたの?」

「大体はそんな感じです。一部は野生動物みたいな感じで連れてきたんですけど、それは食人種だけですね」

「食人種、確かバンパイアのような人を襲う種族ね。本当に大丈夫なの?」

「彼ら専用の食べ物も生産可能ですから。彼らが食べてた果物、あれは吸血鬼専用の果物なのであれを食べさせておけば人間を襲う必要とかないんですよ。ベートとか他のモンスターもそんな感じですね」

「ベート……私にはそっちの方が恐ろしいわ。本当にいるの?」

「闇系のモンスターがいるエリアで放し飼いにしています。滅多にここまで来ませんが……」


 ベートのような基本的に臆病なモンスターである事が多い闇系のモンスター達は滅多に縄張りから出てくる事はない。

 でも最近あいつら妙な動きを見せてるんだよな……行動としては縄張りを広げようとしている感じ。ほぼ野生動物と変わらないので、恐らく食っちゃ寝出来る環境になったので数が少し増えてきたからだろう。

 元々はそう言う時進化して出生率を調整する物なんだが……やっぱり俺が直接育てたモンスターと違うからか、なかなか進化しない。



「そう。その言葉信用するからね」

「ありがとうございます。それからアオイさんのゲーム能力ってどんな感じなんですか?」


 俺がそう聞くとアオイは少し困った様な表情をする。

 なんでだろうと思いながらも答えてくれるのを待っていると、答えてくれた。


「私だけ聞かせてもらって、答えないっていう訳にもいかないわね。私のゲーム能力は……スマ〇ラよ」

「ス〇ブラ?ス〇ブラってあの任天堂の?」

「ええ。戦う前に好きなキャラを選択してそのキャラの技を使えるわ。ちなみにあなたの訓練につかったキャラはガノン〇ルフよ」


 思っていた以上に有名どころが出て来たな。

 でも俺が殴られている時に黒い炎?みたいな奴は出てなかったからあれ全部弱攻撃だったのか……


「あれ?それじゃ剣とかも使えますか?銃とかも」

「そう言うキャラを選択すれば使えるわね。でもその代わり別のキャラにセレクトし直した時に突然武器が使えなくなる時があるからそこは注意ね」

「バットとかハンマーとか使えますよね?」

「そうなんだけどね……ある程度制限がかかっているのか、この世界の武器を使うにはキャラを選択していない状態化、武器を使っているキャラを選択しないと何故か使えないのよ。ちなみにゲームに出てくるアイテムは出現してくれないわ。モンスターボールでポ〇モンが出来てくれる事もないわ」


 うん。それ多分俺と被るからじゃないかな?

 そうなるとバットもハンマーも出て来ないか。アイテム全部だと想定すると爆弾とかも出てこないんだろうな……

 ま、バットをずっと握って永遠に無双できたらチートだもんな。


「大体の事は分かりました。ちなみにキャラは全部使えるんですか?」

「全部……でもないって言うべきかもね。最新のゲームのキャラしか出てこないからそれより前のキャラは使えないの。もちろん前作からずっといる正式メンバーは別だけど、最新ゲームに入っていない場合は使えないわ」

「そうですか……」


 そういや俺のス〇ブラの知識ってキューブで止まってるんだよね。今どんな感じなんだろう……


「教えてくれてありがとうございます。ス〇ブラって子供の頃以来やってないんで最近の奴分からないんですよね」

「そうなんですか!?こっちに留学してからみんなと一緒にやっていたのでやってない人がいるなんて……」

「元々身内と集まってゲームをするぐらいしかやってませんでしたから」


 そんな元の世界での話をしていると、ふと何かが近付いて来るような気配がした。

 何となく違和感を持ってメニューを使って確認すると、やはり何かが近付いて来る。しかも群れで動いてるな。

 メニューを操作して確認してみるとやってきたのは闇系モンスターがいるエリアからだ。さらによく確認してみると……あ、これ普通の人にはちょっとヤバいかも。

 そう思っているとウリエルが俺の前に慌てて下りてきた。


「親父!すまねぇ緊急事態だ」

「分かってる。さっきメニューで確認した。みなさんの安全を第一に確保、その後あいつらが何しに来たのか確かめる」

「分かった」

「な、なにがあったの?」


 アオイが俺とウリエルのやり取りに不安になっているのではっきりと答える。


「緊急事態だ。フラグ踏んだかもしれない。うちのウリエル達がみなさんの護衛をするので少しだけ固まっていてください」

「わ、分かった!」


 ウリエルもみなさんに緊急事態が起きた事を伝えて全員を1つに集める。

 そして俺達が見上げる家の近くから見下ろす集団が現れた。

 現れたモンスターは全て犬系であり、闇で統一されている。まだ小さい犬の様に見えるのはベート、そしてその周りには複数の頭がある犬と1体のひときわ巨大な狼がこちらを見下ろしていた。


「あいつら……いつの間に進化したんだ?最近まではベートのはずだったんだが」


 俺はそう呟いてからあいつらの正体について確信した。

 俺達が連れてきたベートの集団が進化して俺の前に現れた。それが何故このタイミングなのかは不明だが、もしかしたら若い女性と女の子達の匂いを嗅ぎつけてここまで来たのかも知れない。

 どれだけエサを与えた所で元野犬である事は変わらない。


「あ、あれなんですか……」

「あの特に大きな狼は危険な雰囲気を感じます」


 俺のすぐ後ろで2人の声が聞こえたので振り返ってみると、そこにはジュラとアオイが居た。


「何してるんですか。危ないから下がっていた方がいいですよ」

「あれに狙われたら逃げられない事は分かるわ。あの魔物が何者が分かるわよね」


 ジュラにそう聞かれて俺は少しため息をついてから正直に答えた。


「真ん中にいるのはAランクモンスターのガルム、狼っぽく見えますがまだ犬です。次に頭が3つあるのがBランクのケルベロス、頭が2つあるのがCランクのオルトロス、最後にいっぱいいるのがベートです」


 それぞれ闇系のイヌ科モンスターとして有名な部類だ。育成条件も軽く、ただ育てているだけで自然とあそこまで進化する事が出来る部類。

 しかしランクが高いからと言って戦闘能力が高いとは限らない。

 主に希少な、育成が難しいモンスターの方が強いことが多い。彼らの進化は非常に自然な物であり、悪い言い方をすればただでっかくなっただけと言えなくもない。

 まぁそれでもベートは子牛ぐらいの大きさ、オルトロスは体高2メートル、ケルベロスは体高3メートル、最後にガルムは体高5メートルの犬。デカいだけで恐怖を覚えるのは自然だ。


 正直に言うとジュラはかなり厳しそうな表情をし、アオイはうわ~っと言う表情を作った。


「…………勝てませんね。あれだけの軍勢となると」

「有名どころがいっぱい居るじゃない。確かにああいうの見ると移住するかどうか悩みむわね」

「ところで基準程度で聞いておきたいんですけど、ジュラさんってAランク冒険者でしたよね。もしかしてガルムの事倒せたりします?」


 素直な疑問として聞いてみたが、ジュラさんは顔を横に振る。


「いいえ。正直勝てないわ。冒険者のランク制度は自身の1つ下のランクの魔物に確実に勝てるという保証の様な物だもの。つまり私の場合はBランクの魔物までは確実に倒せるって事ね」

「それじゃ同ランクの魔物の場合は?」

「基本的に相打ちでいい所と言った感じかしら。正直あの子達を守りながら戦えって言われたら絶対に勝てないわね」


 ジュラが後ろで怖がっている女の子達に少しだけ視線を送るとそう言った。


「そこはうちの天使護衛部隊が居るので問題ありませんよ。あとウリエル、あいつらと俺達の格付けってまだやってなかったっけ?」

「そう言えば……やってなかったような?」


 あ~。それ完全にこっちの凡ミスだ。格付けもしてないのに呼んじまったよ。

 俺はジュラとアオイに向き合って謝罪する。


「すみません。あいつら調子乗ってるみたいなのでちょっと格付けしてきます」

「格付けって……」

「そんな事より後ろ!後ろ!!」


 ジュラが何だか分からないとういう表情をした後、アオイが慌てた感じで声を荒げる。

 振り返ってみると崖から飛び降りたガルムとケルベロス、オルトロスがすぐそばにまで来ていた。他のベート達は回り道をして素直に走っておりてくるのが見えた。

 あのままこちらの退路を阻むつもりかもしれないが……この程度じゃ俺を阻む事なんて出来ない。

 俺の自信はSSランクのラファエルがいるからではない。ただ単に目の前にいる犬が大した事がないと分かっているからだ。


 俺とガルムは向かい合い、ガルムは唸り声を上げる。

 それに対して俺はただ静かにガルムの両目を見て決して離さない。

 この世界にだって喧嘩は起きる。でも重傷になるぐらいの喧嘩はない。

 それは何故か、俺は俺が最も原始的で、最も効果がある喧嘩のやり方を決めたからだ。


 その方法は睨み合い。

 ただこれだけ。


 どちらかがビビって目を逸らせば逸らした方の負け。そして先に手を出した方が負け。

 本当にたったこれだけ。

 でもこの喧嘩の勝ち負けは非常に分かりやすく、どちらが強者か視線と相手の空気だけで分かるのだからこれ以上ないぐらい分かりやすい。

 それは子供達の仲で当然流行り、喧嘩する時は額をくっつけて間近で睨み合う。


 もちろん反抗期の子供達もこの睨み合いで俺と何度も喧嘩してきた。お互いに傷付け合うよりはマシと言う感じにとらえる子もいるし、俺が脆弱な人間だからそれに合わせるという側面もあるだろう。

 でも残念だったな。

 俺はこの睨み合いで1度も負けた事がない。


 ガルムは俺の視線から何か違和感を感じたのか唸るのをやめた。

 それでも俺は睨むのをやめない。


 ガルムは何かを感じて俺だけではなく耳を動かして周囲を確認する。

 それでも俺は睨むのをやめない。


 ガルムは何か意外そうな雰囲気を出した後、より強く俺の事を睨む。

 それでも俺は睨むのをやめない。


 ガルムは異質な何かを感じて目を逸らした。

 それでも俺は睨むのをやめない。


 そしてガルムは、伏せて許しを請う。

 俺は睨むのをやめずにガルムの鼻先にポンと手を置いて撫でた。

 負けたガルムは大人しく伏せ続けた。


「元の場所に帰れ。喧嘩したくなったらいつでも売りに来い。買ってやる」


 そう言った後ガルムは他の犬達を連れて大人しく帰っていった。

 尻尾は垂れ下がり、耳も折れている。

 俺はため息をついてからみなさんに向き合った。


「みなさん申し訳ありません。さっきのガルム達は完全に俺の支配下に置かれました。恐がらせてしまって申し訳ありません」


 そう謝罪した後天使達に守られていた女の子や若い女性達はほっとしたように力を抜いた。

 しかしジュラとアオイだけは俺の事をじっと見て、アオイが不思議そうに聞く。


「あの、今ので本当にガルム達はもう襲ってこないんですか?」

「はい。これでもう大丈夫ですよ。恐い事がありましたし、今日はもうお休みしますか?」

「ええ。今日は休ませてもらうわ」


 ジュラがそう言ったので俺はみなさんを店にまで送ってから改めて言っておく。


「他の国に移住するとしても一時期はアルカディアに居てもらう事になりますので今回の事をふまえてもう1度よく考えて下さい。正直今回の事はイレギュラーでしたが、それでもあのように乱暴者が全くいない訳じゃありません。見た目が怖い子もいます。ですからよくお考え下さい」


 そうみなさんに言ってから俺は穴を閉じた。

 俺は大きく息を吐きだしながら、ガルム達のせいでアルカディアの印象が悪くなっていないか不安になる。

 とりあえず帰ってゆっくりしようと思っている時に、ノワールとブラドが真剣な表情で現れた。


「なんだ、ガルム達の事なら放っておいていいぞ」

「父さん。その事じゃなくてもっと大きな問題が発生した」

「パープルスモックに残った吸血鬼達から連絡が入りました。勇者と例の男が本格的にパープルスモックを消すために動き出したようです」

「分かった。話を聞く」


 厄介事や面倒事は重なる物だと何かで読んだ事があるが、まさか俺がそれを経験するとは思ってもみなかった。

 種族  ガルム

 ランク A


 体高5メートルある大型の犬型モンスター。見た目は狼に似ているが種族的には犬であり、特徴は少ない。

 主人の命令に忠実でその命令を成し遂げるまで永遠に相手を追い続ける程にしつこい。

 口から黒いオーラを吐き出す事が出来る。


 種族  ケルベロス

 ランク B


 頭が3つある犬。3つの頭はそれぞれ違う意志と思考があり、1つ潰したぐらいでは死なない。

 地獄で番犬をしていたので口から地獄の炎を吐き出す事が出来るが、あくまでも地獄の表層の炎しか出せないので酒吞童子ほどの威力はない。


 種族  オルトロス

 ランク C


 頭が2つある犬。2つの頭はそれぞれ違う意志と思考があり、1つ潰しても活動できる。

 頭が2つある牧羊犬なので何かを追いかけ回したり以外にも何かを守るのが得意。だが守り方は雑。


 種族  ベート

 ランク D


 子牛ぐらいの大きさで頭から尻尾まで真っ直ぐ伸びる一本線が特徴的な雑種犬。

 非常に臆病で慎重な性格で、女か子供しか襲わない質の悪い犬。

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