大掃除開始!
俺達家族チームはクレールとルージュの加護のおかげで以前よりも楽に移動することが出来ていた。
やっぱり子供たちの力借りると本当に楽だわ。俺はやっぱり情けないけど。
奴隷の子供達もそれぞれのパートナーと真剣な面持ちで俺達の後ろを歩く。本来であれば人は絶対に近づけないほどの熱が充満するこのダンジョンの中で唯一好きに移動できるのは俺達だけだろう。
「さて……着いたけどどうするかな……」
俺達は以前カーディナルフレイムに入ったとき場所よりも高い場所にいる。
本来であればはずれのルートだが、俺達はこれから水を放出してここいらを冷やすからこの場所がちょうどいいと思っていた。
だがこの高い位置から見ると余計にマグマスラッグの数が異常であることを認識した。
床から天井までびっしりとマグマスラッグはひしめき合っており、おそらく卵をふ化させるためにおしくらまんじゅうみたいなことをしてさらに熱を上げている。
俺はメニューからルージュに確認の連絡を取る。
「ルージュ。俺達は目標のポイントに到着した。そっちはどうだ?」
『もう少しだけ待って。もうすぐで全員配置完了するから』
「了解。完了したらまた教えてくれ」
『ラジャー』
通信を切ってからマグマスラッグの群れを見てドン引きしているクレールに聞く。
「クレール。これ見てどう思うよ?」
「非常に気持ち悪いです。今すぐ殲滅しちゃだめですか」
「もうちょびっとだけ待ってくれ。配置完了する前にやったら取りこぼしが出る。それにあいつの対策もどうするかな」
俺は天井の最も熱いところにいる2匹のかたつむりを発見した。
あれはマグマスラッグの上位種ヴェスヴィオだ。おそらくマグマスラッグが進化してあの状態になったんだろう。
正直あれを見逃すのは非常に悩みどころだ。
ヴェスヴィオは進化して強くなったからか、繁殖面はマグマスラッグに比べて非常に低い。せいぜい大きないくらみたいな卵を1つか2つだけ産んでおしまい。さらに大人になるまでおよそ10年の年月が必要となる為時間もかかる。
今回は増えすぎたマグマスラッグの間引きだからな……あれは倒さずに放っておくというのもありだ。
何より最も熱いところを独占しているマグマスラッグなのだから非常に強い個体なのは間違いない。それにクレールの水鉄砲で天井まで届かせるとなると多分面倒くさいだろうな。
「天井のヴェスヴィオはどうしよっか?」
「まずはあの気持ち悪い集団を一気に流します。全滅してはいけませんか」
「だから今回はあくまでも間引きだって言っただろ。全滅させてまた生態系が狂ったら面倒だろ」
「あんな気持ち悪い生物は消えてしまえばいい……」
クレールがちょっとキャラ崩壊しながら言うが、その気持ちは分からなくもない。
でもマグマスラッグはフンで新しい道を作ったり、道端に落ちているごみや汚れを食べてくれる存在でもあるので絶滅したらこのダンジョンを管理するのが大変になるだろう。
気持ち悪いの一言で全滅させたらルージュが困る。
なんて思っているとルージュから連絡が入った。
「もしもし」
『お父ちゃん。こちらの配置が完了しました。いつでも大丈夫です』
「それじゃこれから作戦を開始する。そっちも気を付けるように言っておいてくれ」
『はい。よろしくお願いします』
メニューを閉じてみんなに向かって言う。
「それじゃ作戦開始する。クレールは卵をふ化できないように冷やすことだけに専念しろ。ノワールヤブランは天井とかに引っ付いてるマグマスラッグを落としてくれ。奴隷の子たちはパートナーたちに指示を出してくれ、腹いっぱいになったらアルカディアに戻っていいから。鳥系の子たちはできるだけ天井にいるマグマスラッグを食べてくれ。それじゃ作戦開始」
あまり気の張った感じではないが作戦は始まった。
まずクレールが魔法で水を大量に、高圧で発射する。
それにより壁に張り付いていたマグマスラッグ達はぼたぼたと落ちて落下していく。直接水が当たっていないマグマスラッグ達は突然の水に驚き慌てて逃げ始める。
マグマスラッグの弱点をおさらいすると、弱点は身体が冷えて固まってしまう事だ。なので少量であろうとも冷たいと感じる物が触れると慌てて逃げ出す生態が存在する。
と言ってもまぁ急いで、と言っても所詮ナメクジなので動きは非常に遅い。でも急いでいる雰囲気はある。
だから水しぶきに少し触れただけで大慌てでマグマスラッグ達は様々な方向に逃げていく。
俺はメニューを開いてルージュに報告する。
「とりあえずほとんどの連中が逃げ出したぞ。動きは遅いがかなり大量に居るから気を付けてくれ」
『了解。他のグループにも通達しておきます』
「あと俺達は卵の根絶と逃げ遅れた連中をちびちび潰していくから」
『了解』
短い通信は終わり、次は奴隷の子達の番だ。
「それじゃ子供達、パートナーたちのご飯の時間だ。指示出しよろしく」
「分かりました。さぁ、行ってこい!!」
そう言って子供達はパートナーを放った。
火種鳥達はクレールが落としたスラッグを空中で掴んで食べたり、溶魚がマグマの中に飛び込んでからマグマスラッグをマグマの中に突き落とすような動きをしながら咥える。その後は丸呑み。
それなりに数は居るがそれよりも圧倒的に多いマグマスラッグ達。クレールが狙いにくい天井に居るマグマスラッグ達はブランとノワールが地味に撃ち落としているがそれでもまだまだ居る。
ちなみにヴェルトは最初に張った木の根を利用してどこにマグマスラッグ達が多く向かっているのかどうかサーチしてもらっている。
「ヴェルト。マグマスラッグ達の動きは予想通りか?」
「……ん」
どうやら作戦は順調そうだ。
実は事前に決めていた事なのだが、マグマスラッグ達が通った後ははっきりと残っていたので、マグマスラッグ達が逃げるとしたらどの方向に逃げるのか予想していた。
その通った後からどの道を多く使っているのか予想し、最も多い所にルージュ、次に多い所にドラゴン達、その次に多い所が騎士団、最も少ないと予想されているところ冒険者さん達に任せた。
いくらあまり強くないと言っても数が凄まじいので念のため1番数が少ないであろう場所に行ってもらう。
ただ……1番心配なのはルージュだ。
1番強いことは知っているが、それでもこの大軍勢にたった1人で戦うというのはあまりにも無謀な気がしたからだ。
それでもルージュは大丈夫の一点張りなので少しでも数を減らしておきたい。
そして面倒なのがヴェスヴィオだ。
ヴェスヴィオの場合背中の火山の様なからの影響で水を多少浴びても問題ない。さらに俺達を明確に敵と認識したのか、こちらに向かって火山弾を背中から発射させた。
「させない!」
ブランは結界を張って俺達の事を守ってくれる。
それでもヴェスヴィオは諦めず何発も火山弾を発射して攻撃し続ける。
もう片方のヴェスヴィオも火山弾を発射してくるのでこのままだと少し危険か?
「ノワール、クレール。あいつどうにか出来そうか?」
「倒せという意味か?」
「いや、拘束するぐらいでいいかな」
「それなら簡単ですね」
そう言ってクレールは火山弾に水を当ててこっちにまで届かないように当てると、ノワールの目が一瞬光ったかと思うとヴェスヴィオ達は急に動きが鈍くなった。
「今のは?」
「あの2匹の魂に直接威嚇した。しばらくは戦おうとは思わないだろう」
流石ノワール。こういう時はすんなりと仕事をやり遂げるからカッコいい。
子供達のパートナーたちは腹が膨れたからか戻って休み始めた。
既に地上近くのマグマスラッグの卵はいびつな形の岩のようになってしまい、卵が孵る事はないだろう。そしてほとんどのマグマスラッグ達は逃げてしまい散り散りバラバラになった。
「みんな大丈夫だよな……」
俺達の役目はこれでほぼ終わったが、娘と他のみなさんが心配だ。
少し休んだら戻って手伝わないとな。




