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大掃除の準備

 という訳でマグマスラッグ退治にやってきた俺達。

 メンバーは俺達家族にカーディナルフレイムの騎士団、この辺に住んでいるドラゴン達と冒険者達である。

 この辺に住んでいるドラゴン達はルージュの配下であり、1部俺の子供も混じっていた。なのであっさり隊列に組み込まれ、それでも不満が出る若いドラゴンにはアルカディアの肉をちらつかせたらあっと言う間に従った。

 冒険者に関してはギルドで集まった人達とアレスさん達、そしてジュラのお店の女性や女の子達だ。

 今回の依頼は新人の子達に経験を積ませるのには丁度いい依頼らしく、参加してくれたほとんどの冒険者が新人である。


「やっぱり予想通り熟練の冒険者たちは参加してくれなかったみたいだな」

「仕方ないわ。あちらも商売でやっているわけだから、参加したくないと言われたらそれまで。女王である私の言葉であっても選ぶ自由はあるから。でもドラゴンたちがかなり参加してくれたからかなり楽になるわ」


 ルージュはそう言ってドラゴン達を見る。

 彼らにはマグマスラッグたちを直接倒してもらう。彼らからすればかなりの雑魚なので面倒なだけの相手でしかない。

 ちなみに冒険者たちの装備には全員ルージュの加護を与えている。

 加護の内容はどんな熱を受けても溶けないという単純な加護だが、新人冒険者たちにとってこれほどありがたい加護はないらしい。

 新人冒険者たちの最大の懸念はこの戦いで武器を失ってしまうこと。当然ではあるが彼らにとって武器とは商売道具でもある。そんな武器が価値の低いマグマスラッグに溶かされてしまうと大赤字になってしまうので誰もやりたがらないのは当然だといえる。

 だが今回は解かされることはないと分かれば思いっきり武器を使うことが出来る。


「それじゃ騎士団とドラゴン達の指示は頼んだ。俺たちは卵のほうをどうにかしてくる」

「頼む。クレール達にもよろしく伝えておいて」


 そして俺達家族組はまっ先にマグマスラッグ達が生んだ卵を倒すのが役目だ。

 前にも言ったがマグマスラッグは雌雄一体、メスだけを倒せばある程度抑えることが出来る他の動物とは違うので卵からこれ以上ふ化させるわけにはいかないので確実に実行できる俺達が向かう。

 卵をふ化させない方法は簡単だ。ふ化できる温度にしなければいい。


 マグマスラッグの卵が孵化するには1000度以上の熱を与え続けなければならない。

 そのためマグマにできるだけ近いところで産卵しなければならいのであの中間地で産卵していたんだろう。

 確かにあそこなら確実に1000度以上の熱を保つことが出来るが、その卵をふ化させないようにするのは非常に簡単だ。

 マグマスラッグの卵は魚卵のように殻のないタイプの卵だ。熱を少しでも効率よく吸収するためであると俺は予想しているが、悪い言い方をすると卵を守るための障壁がないとも言える。

 なのでそれを利用してマグマスラッグの卵に直接クレールが生み出した水をぶっかけて冷やし、ふ化できないようにするのが作戦だ。


 ぶっちゃければこのダンジョン入り口から水を流し込めば簡単に済む話ではあるが、その場合他の冒険者たちや関係のないモンスターたちまで巻き込んでしまうため、そこまで大胆な作戦は使えない。

 楽だけど他の影響を考えるとやっぱりな……


 それからだが今回は奴隷の子供達も連れてきている。

 理由は彼らが育てたおチビたちの力を借りるため。鳥系のモンスターと魚型のモンスターにとってマグマスラッグとはちょうどいい栄養源なので食べさせるとよく成長する。

 そのことと今回の作戦について話すと久しぶりの仕事だと喜んで参加してくれた。

 そして参加するおチビ達も大喜び。俺達家族はこれからバイキングにでも行くような軽いノリでダンジョンに向かうのである。


 ――


「あの、アレスさん。ドラクゥルさんたちはいつもあんな感じなの?」

「ジュラさん。ええ、大体いつもあんな軽い感じですよ。マグマスラッグ。大したことのない魔物ですが武器を溶かされたり倒すのにコツがいる魔物をあんな軽い感じで倒しに行くんですから本当にすごいですよね」

「そうよね……あの試合の後からなのかどうかよくわからないけど、女王様とも仲良くしているし、うちの子たちも加護を与えてくれたから本当に助かるわ。私も加護のおかげで遠慮なく叩けるし」

「それを無料であっさりと何十人分もほどこすんですから本当にすごい。俺達も負けてられないな」

「ですが……あの家族に追い付くにはどれぐらい努力しないといけないんでしょうね?」

「それに娘さんのブランちゃん。あの子も私たちに回復魔法の上昇する加護を施してくれたし、まるで伝説の神様みたい」

「……私はヴェルトさんが気になる。樹木の魔法は火に弱いのに取りこぼしの出ないように樹木の魔法を使うと言った。見てみたい」

「確かにそれはそれで不思議だよな。樹木系の魔法って正直かなり地味だろ。相手の足元に草のトラップで転ばせる魔法、枯れた葉を肥料に変える魔法、あと何あったっけ?」

「植物を急速に成長させる魔法などが多いですからね。戦いとは関係のない魔法ばかりですから、農家の出の方が学んだり、食料自給率を上昇させる宮廷魔導士ばかりですからね。私たち冒険者や騎士の方々にはあまり触れない世界ですからね」


 そんな話をしていると目的のポイントに着いた。

 ここからマグマスラッグを逃がさないために対策をすると説明にはあったが、具体的な方法に関してはまだ話されていない。

 ドラクゥルとヴェルトはどのようにマグマスラッグを逃がさない様にするのかと様子をうかがっていると、ドラクゥルは出入り口付近に何か小さなものを等間隔で土の中に埋める。

 何しているんだろうと思っているとドラクゥルはヴェルトに声をかける。


「ヴェルト、お願い」

「……ん」


 ほとんど頷くだけのヴェルト。

 目をとして何か集中するような仕草をするといきなり穴が巨大な枝の様な物でふさがれた。

 その後もあちらこちらから小さな音が鳴り、何事かとアレスはドラクゥルに聞く。


「ドラクゥルさん!これは一体!?」

「ヴェルトの力を利用してこの一帯をこの木で覆って逃げれないようにします。この音は枝がこの辺りを覆うために地面の中を突き抜けている音でしょうね」

「それって大丈夫なんですか!?地面の中を突き抜けるって!!」

「そりゃこの枝とかを全部切り倒したりしたら崩れますけど、今回の場合は木の根のように絡みつくんで崩れる心配はありませんよ」


 当然のように非常識な事を言う。

 魔法で樹木を一気に成長させてこの辺り一帯を覆ってしまうだなんて、普通やろうとしないし出来ない。


「でも結局木ですよね?マグマスラッグの熱で焼かれちゃうんじゃ――」

「その辺りも大丈夫ですよ。うちにある木の種類で特に火に強い物を選びましたから大丈夫ですよ。ちなみに木の名前は『血鬼樹けっきじゅ』、地獄の鬼も焼けないほど火に強い木です。なのでマグマスラッグごときに突破する事は出来ませんよ」


 笑って言うドラクゥルだがそれがどれだけ凄い事なのか全く理解していない。

 アレスたちは茫然としているとヴェルトが目を開けてゆっくりと言う。


「……出来た」

「ありがとヴェルト。それじゃルージュ。俺達は先に卵の方をふ化出来ないようにしてくる。ちゃんとみなさんの事守るんだぞ」

「分かっています。こちらは後方から逃げたマグマスラッグを倒す事に集中します。お父ちゃんも気を付けてね」

「分かってる。そんじゃ行ってくるね~」


 いつもの軽い調子でブランちゃん達を連れて行ってしまった。

 そしてこちらはルージュの指示のもと戦う事となる。


「それではみなさん。包囲網は完成しているのでここからは各部隊に分かれて逃げ出したマグマスラッグを倒していただきます。

 まず騎士団に関しては東に100メートルほど先のポイントで戦っていただきますが、決して無理のしないように。私の加護で熱に関する攻撃はほぼ無効化する事が出来ますが、マグマを噴出させる攻撃やのしかかりなどは通常通り攻撃が通るので過信し過ぎないように。

 ドラゴン達はここから北に500メートル先のポイントで戦っていただきます。怠けていたり殲滅しなかった場合は私が直接活を入れるので覚悟しておいて。

 冒険者のみなさんは西に50メートルの地点で防衛をお願いします。騎士団同様に私達の加護を過信せず戦って下さい」

「あの、この1番広い道は誰が守るんでしょうか?」


 1人の冒険者がそう聞いた。


「私1人で対処できますのでご安心ください。むしろみなさんは私の攻撃の余波で燃えないように気を付けてください。十分に距離は離れていますが一応警戒をお願いします」


 本来であれば女王という立場に存在するのだから守られるべきだが、目の前にいるのは女王という立場だけではなく、この国最強の女性でもある。

 その最強が戦うという事に騎士団も冒険者達も士気を上げ、みな武器を掲げたりこぶしを突き上げる。


「それでは移動を開始してください。もうすぐ作戦を始めます」


 こうしてマグマスラッグ殲滅作戦が開始された。


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