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カーディナルフレイムの問題

「お父ちゃん……これは恥ずかしい……」

「いい加減他のみんなの前でも普通にしてられる様になっとけ」


 俺はルージュの手を引いたままみんなの前にまで戻ってきた。

 その光景に連れてきてくれた巫女さんは驚いている様だがブラン達に関しては特に気にした様子はなく、俺達の言葉を待つ。


「ほら、ルージュ」

「……迷惑かけたな」

「ルージュ」


 また素直に謝れないので俺が強く言うとルージュはうっとした表情を作った後にそっぽを向きながら言い直した。


「……ごめんなさい」


 本当に俺以外に対して素直じゃないと思いながらため息を吐くとみんなからルージュに向かって一言。


「「「とりあえず一発殴らせろ」」」


 ノワールとクレールだけではなくブランまで怒った様子で拳を握ったのはちょっと珍しい。

 それ程俺の状態は悪かったのだろうか?

 ルージュはその言葉に対して素直に従った。

 と言っても全員が本気で殴った訳じゃない。本気で殴ったのはブランだけだ。


 …………マジでブランがキレてるな。

 ノワールはルージュのおでこに拳をコンっとぶつけたぐらいだし、クレールは頭を冷やせという意味なのか手を冷たくした状態でデコピン。

 ブランだけはグーで頬を殴った。


 いや~……ここまで本気でキレたブランは初めて見た。

 ルージュもグーで殴られるとは思わなかったのか、殴られた頬を抑える事も忘れてブランの事を茫然としながら見る。

 ブランの目はそれはそれはもうとんでもないぐらい冷たくなっていた。今まで見た事がないほどに冷め切っており、戸惑いよりも恐怖の方が大きい。


「…………次やったら本気で戦争起こすよ。いいよね」

「は……はい……」


 流石のルージュも本気でキレたブランには勝てないらしい。

 でも今のでスッキリしたのかいつも笑みを浮かべて俺に抱き付く。


「パパも、もう二度とあんな危ない事しちゃダメだからね。またしそうになったら全力で止めるからね」

「お、おう。もう無茶な事はしねぇよ」


 いつものプンプンという表現が合う可愛らしい怒り方をしているが、さっきの状態からよくここまで綺麗に切り替える事が出来るもんだ。

 女って怖い。

 俺の事を考えての行動でもあるんだろうが、本当にたくましくなったもんだな……


 ちなみに殴られたルージュはヴェルトにゆっくりと頭を撫でられている。

 幼い子をあやす様な撫で方なのでルージュは顔を真っ赤にして耐えていた。ヴェルトも「よしよし」なんて言ってるから余計に恥ずかしいだろう。

 ヴェルトは感情をあまり表に出さないので分かり辛いが、多分直接殴ったりするよりもいいと判断した気がする。

 とにかくこれで5人目だ。あと1人でとりあえずSSSランクの子供達は揃う。


「そんじゃ帰ろっか。俺腹減った」


 そう思いながら口に出すと俺の腹がちょうど鳴った。

 その音を聞いてブラン達は笑う。あまりにも気の抜けた音だったためにみんなも気が抜けたんだろう。

 複雑そうにしているのは俺達の事をここまで連れてきてくれた巫女さん。

 俺はブランの時と同じように言う。


「別に俺の所に帰ってきたからって独占するつもりはねぇよ。ルージュはこの火山を落ち着かせてるっていうのは聞いてるし、この国に影響が出る様な事はしない」

「ありがとうございます。ですがこちら側の要求に応えて下さればルージュ様は心置きなくそちらに行けると思います。お食事をしながらお聞きしていただけないでしょうか」


 ほう。それは随分と興味深い話だ。

 それに俺がルージュのためなら話を聞くと思ってるんだろ?


「それじゃごちそうになろうかな」


 俺はそう巫女さんに言った。

 だがルージュは巫女さんに言う。


「この国の問題を他の物に話すとは、それ程状況は悪化しているのか」

「はい。今回は特に多く生まれてしまったらしく、このままいけばこの国は滅びます」


 なんかかなり物騒な話が出てるみたいなんですけど。

 この国が亡ぶって相当大きな話だよな。

 ルージュは俺を見て複雑そうな表情をした後、女王という立場にいる存在として俺に言う。


「お父ちゃん。みんなも都合がよすぎるって言うだろうけど、手を貸してくれませんか」


 こういう時にはちゃんと素直に言えるんだな。


「当然。娘の助けをしない薄情な父親じゃねぇよ」

「許したから手伝ってあげるよ、ルージュお姉ちゃん」

「私も協力しよう」

「……ん」

「手伝ってあげます。特別に」


 こうして俺達はルージュの抱えた問題、カーディナルフレイムの問題に立ち会う事になった。


 ――


 場所は変わってカーディナルフレイムの食堂。お城の飯を食う所を食堂と言っていいのかどうか分からないが、10人以上座って食べれる場所の事を俺は食堂だと思っている。

 俺達はカーディナルフレイムの食事を楽しみながら詳しい話をルージュから聞く。


「それで、この国の問題って何だ?」

「マグマスラッグの異常発生です。マグマスラッグは前から問題視されていましたが、これはもう無視できない状況になっています」


 マグマスラッグ?

 確かにあいつらダンジョンの中盤で集団交尾してたけど、やっぱりあれ異常発生してたんだ。

 足の踏み場もないぐらい発生してたからな、やっぱり異常か。

 それにしてもここの肉料理美味いな。肉ばっかりで野菜の類が異常に少ない気もするけど。


「マグマスラッグぐらい簡単に潰せるだろ」

「それが数を増やし過ぎて間引きも上手くいかない程に大繁殖してしまったのでこれをどうにかして欲しいというのが今回のご依頼です」

「依頼って言ってもここにはAランクとかBランクの冒険者達がいっぱいいるんだからその人達に任せればいいんじゃないの?」


 ブランが俺も思っていた事を言ってくれた。

 しかしルージュは残念そうに首を横に振りながら言う。


「残念ながらマグマスラッグは討伐してもあまり価値のない魔物という位置付けであり、冒険者達は絶対に討伐しないという程に人気がないのです。こちらでもマグマスラッグ1体を倒したらこれだけの報酬を出すと国からギルドに依頼を行っておりますが、残念ながらうまくいっていません。マグマスラッグの体温は高く、剣などでは攻撃してもその前に溶けてしまい無駄に終わる事が多いからです」


 そう言えばそんな事をアレスさん達も言っていたな。

 魔物の価値が低い割に面倒な魔物だとか。


「それによりマグマスラッグを食べてくれる魔物のほうばかり冒険者達が狩ってしまい、マグマスラッグがさらに大繁殖する要因を作ってしまいました。なのでこの依頼をお父ちゃんたちに依頼しなくてはならないと思っております」

「なるほどね。ダンジョン運営も大変だな。ヴェルトもダンジョン運営している様な感じだけど、その辺どうなんだ?」


 ヴェルトもある意味ダンジョンを運営していると言ってもおかしくない感じの立場だ。

 自分の背中の上で日々冒険者達が魔物を求めて狩りをしている訳だから、何かしらの対策などを知っているかもしれないと思っての発言だ。

 あまり食の進まないヴェルトは少し考えた後、ゆっくりと言う。


「……食べる子、増やせない?」

「残念ながら状況は芳しくありません。一応こちらで飼育しているサウルス系の子達もマグマスラッグをエサにする事でマグマスラッグを消費しないかどうか実験していますが、やはり好みの味ではないためにあまりいいとは言えません」

「マグマスラッグを食べると言ったら種火鳥の類は居ないのか?」


 種火鳥とはDランクの火系小鳥型のモンスターの総称で、マグマスラッグを好んで食べる。

 この環境下ならいそうな気がするが彼らは居ないのだろうか?


「残念ながらそちらは冒険者達にとって格好の獲物として認識されているため、ほとんどが逃げてしまいました。現在はこの火山付近の森に棲み、エサを取りに行く時だけ洞窟に向かうという状況です」

「火種鳥が?あいつらって何か価値があるのか?」

「羽目的です。彼らの羽は赤くて綺麗なので羽目的の乱獲が以前に起こりました。それでは危険だと判断し、ギルドに買い取りの禁止を発令しましたが、今でも密猟は途絶える事が出来ていません」


 なるほどね。捕食する側に大きな価値があり、捕食される側に価値がないからどんどん増えていったと。

 それにマグマスラッグは正直言ってメチャクチャ弱い部類だ。だから食物連鎖では下位でありメチャクチャよく食べられるのでその分繁殖力が強い。

 確かにこれは面倒な問題だ。

 うちの子達に討伐させるのが1番手っ取り早いかな?


「そうなると……クレールの力を借りて卵を死滅させるところから始めないとダメだな。クレールはあそこに大量の水をぶちかます事出来るか?」

「たやすい事かと」

「あとは人海戦術でマグマスラッグ達をとにかく間引きするしかないか。火種鳥の類はうちでもかなり多く存在するし、マグマスラッグを食べる溶魚ようぎょも多い。そいつらにバイキングだって言って連れてくるか。ノワールとブランも一応手伝ってくれ。長距離からのビームなら簡単に倒せるだろ?」

「父さんがそう言うのであれば」

「ビームじゃなくて魔法だよ、パパ」

「ヴェルトは耐火性の高い樹木を発生させてマグマスラッグ達を逃がさないように檻を作ってほしい。明確な大きさは判明してないが、出来るか?」

「……ん」

「それじゃマグマスラッグ退治と行きますか。あ、ステーキのお替りあります?」


 そう言うとメイドさんは頭を下げると音もなく皿を下げてくれた。

 それを見たルージュは俺に言う。


「その、お口に合いましたか?この国で養殖している家畜の肉なのですが」

「ああ美味しいよ。ちなみに聞くが養殖って大丈夫なのか?あまり食料自給率が高いようには見えないんだが」

「意外と大丈夫ですよ。確かに食料自給率は高くないので様々な所から輸入していますが、火山の周りではある程度は栽培が出来ています。坂が多いので畑などはあまり広げられませんが」

「それじゃ火山の周りは草木が生い茂ってるって考えていいのか?」

「多少は、ですが。この火山の火山灰を栄養にして植物が成長しているので竜達も多く生存しています。今度お父ちゃんに紹介しますね」

「俺の子どれぐらいいる?」

「それなりの数がいますよ。火系のドラゴン型ばかりなので寿命とタフさには自信があります」

「なりほどね。それじゃ今度会わせてくれ、それからルージュには先にアルカディアに行き来できるようにしておくから」

「ありがとうございます」


 丁度2枚目のステーキが来たのでまた食べる。

 どうも試合の後だからか腹が減るんだよな。

 とりあえず飯食った後はマグマスラッグ退治を頑張ってみますか。

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