ルージュと戦う事になりました
ちょっとだけジュラと話をしてからアルカディアに帰ると、何となくいつもと違う空気を感じた。
なんでだろうと思いながらも家に入ると、会議室の前で門番職の奴隷の少年2人が休めの状態で立っていた。
「どうかしたのか?」
「ヴラド様やノワール様、ブラン様達が会議室で会議中です」
「ドラクゥル様にはあとで会議結果をお知らせするのでまだ入らないでほしいと言っておりました」
「ふ~ん。そうか。それじゃ後で聞くか」
奴隷の子供たちともある程度親しくなれたと思ったが、やはりそう簡単に言葉使いなどは変わらないか。
彼らの足元にはまだ小さいモンスターが2人の真似をしてきりっとした表情で真似をしていた。
片方は丸々とウニか毬栗のようになるアルマジロとヤマアラシを足したようなモンスター、ヤママジロ。もう片方はトリケラトプスのような姿のモンスター、シールドトプスだ。
ヤママジロは攻撃力が高い1体であの針は鉄でも軽々と貫く。シールドトプスは大楯のような顔で、大きな岩が転がってきても受け止められるほど防御力が高い。
まさに矛と盾のようなモンスター2体が門番をしていてちょうどよさそうだと思う。
さて。子供たちが俺に黙って会議をしているということは俺の出番はない会議内容なんだろう。
多分国家間の小難しい話とか、俺とは一切関係ない事だと思う。
なので俺はのんびりと久しぶりに自分で晩飯を準備する。ここのところガブリエルたちに任せてばっかりだったからたまには自分で料理しないと感覚を忘れてしまう。
そんな軽い気持ちで始めた料理だが、途中からガブリエルと一緒にご飯を用意してくれている天使達がこちらをじっと見ていたので一緒に料理をした。
そろそろ終わるだろうな~と考えながら電子ジャーからご飯が炊ける音が聞こえると、予想通りブラン達が会議室から飯を食いに来た。
「今日はパパがご飯用意してくれたの!?」
「ずいぶん時間掛かったな。腹減ってるだろ、得意の大量調理だ。好きなだけ食いな」
「パパのご飯ー!!いただきます!!」
ブランが真っ先にテーブルに着いたので俺は先にブランの茶碗にご飯をよそう。
その後は順番にご飯をよそってからみんな分もよそい、いただきますをした。
俺の飯はガブリエル達に比べれば適当で1人でも多く一気に作れるような大胆な男の料理ばかり。今回だって生姜焼きを山盛り、サラダは洗って食べやすい大きさにちぎりって大皿に盛りつけただけ、ちなみにドレッシングとマヨネーズはお好みで。あとポテトサラダも作って周りにプチトマトを並べた、一気に大量生産できるといったら唐揚げも山盛りで作った。
ちなみに我が家ではレモン汁ではなくレモンの粉をかける。レモンエキスを粉末にした物をかける。
まぁそれでもレモンかける、かけない戦争は起こる訳だけど。ちなみに俺はどっちでもいい。
それにしてもみんな食べるな。会議だけだと思っていたのでちょっと多過ぎたかな?と思っていたがそうでもない様でみんな唐揚げや生姜焼き、サラダなど好きな様に取り皿に取って食べていく。
「それにしてもお前ら随分腹減ってたんだな。会議内容が白熱したか?」
俺がそう聞くと会議に参加していたみんなの箸がピタリと止まった。
不思議そうにみんなの顔入りを伺うのは俺と若葉。本当に会議の内容は俺が知らなくてもいいような内容だったのだろうか?
いや、俺がこう聞いてピタリと止まったから恐らく俺に関係する話なんだろう。
でもまぁそのうち話すだろうと思って追及はしなかったが、ブランが恐る恐る言う。
「パパ、ご飯の後で話してもいい?」
「別にいいぞ」
そう言ってブランは少しだけホッとした様な表情をした。
他のみんなもホッとした表情をして一体どれだけ難しい内容だったんだろうと思う。
なのでそれ以上会議の内容については触れず、自分達から話してくれるのを待つ。
晩飯を食ってリビングでお茶を飲んでいる時に、ノワールから切り出した。
「父さん。まず最初に謝らせて欲しい。私達はルージュへの説得が失敗した」
その言葉は様々な意味で驚いた。
1つはルージュに会う事が出来た事。もう1つはノワールが説得に失敗したという所だ。
何度でも言うがノワールはこの家の長男として様々な子供達同士の問題などに割って入って問題を解決してきた、そのノワールがルージュに説得が失敗したという事はそれだけ怒っているという事なのだろう。
「そう……か。悪いなノワール。いつもこういう時貧乏くじばかり引かせてる」
「好きでやっている事だから謝る必要はない。それに本当に今回は父さんが危険なんだ」
俺が危険?どういう事だ?
「説得に失敗したって事はルージュは本当にアルカディアに帰ってくる気がないって事なんじゃないのか?」
「……条件を聞けばアルカディアに帰ってきてもいいと言っていた。だがその条件がかなり父さんに危険な内容だった」
「危険な内容ってどんなだ?」
俺がそう確認するとノワールは重く言う。
「父さんが了承してから1週間後、この都市の中央にある闘技場で決闘を行う。対戦相手はルージュと父さんだ。父さんがルージュに勝てばおとなしく戻ってくると言った」
………………なるほど。空気が重いのはそういう事か。
ルージュはSSSランクの中でも特に戦闘能力に特化したモンスターだ。火系のモンスターは攻撃的な能力振り分けである事が非常に多い。図鑑の説明でも凶暴という書かれているモンスターが非常に多い。
実際育成でも難しかったのが火に関係するモンスター達だ。戦闘能力が高いだけあってステータスは結構高く、他のモンスターに比べると難易度が高めに設定されている。
そしてその難易度の高い火系のモンスターのてっぺんが俺と戦う。
普通に考えれば俺が勝てる訳がない。
なるほど、交渉失敗で危険という意味がよく分かった。
つまりルージュは俺と戦って、しかも俺がルージュに勝てと。
「俺、娘が特に悪い事もしてないのに殴る家庭内暴力野郎になりたくないんだけど」
「いやドラクゥルさん、そんな感じじゃないですよね。それその人だってノワールさんやクレールさんと同じランクなんですよね。え、本当に死んだりしないですよね?」
「流石にそこまで殴られる事はないと思うけど……」
怒ってるって言っても流石に君が死ぬまで殴るのをやめない!!みたいな事しないよね?
…………やべ、感情的なルージュだとその一歩前程度まではいきそうな気がする。
とにかく俺はこんな事で娘を殴りたくないのが正直な理由だ。
俺の反応に対して周りの目はなんか変だ。何と言うか視点が違うんじゃないかと視線で訴えている。
「な、なんだよ」
「……ズレてる」
「何が?」
「……心配してる所」
「どこがだよ。俺がお前達を2000年も放置してたのはどうしようもない事実だ。だから俺がお前達に怒られるのは仕方ないが、俺がお前達にその事で殴るのは違うだろ」
「それがズレてるんだよパパ。それ以前にパパがルージュお姉ちゃんの攻撃に耐えられるか、逃げられるかが大問題なんだからね。正直に言えば逃げ回ってほしいけど」
「逃げ回るって意味ないだろ。あの闘技場で試合見たけどさ、逃げる場所も隠れる場所も何もない平らなステージだぞ。どこに逃げろって言うんだよ?」
「最低限の条件として1ラウンド、3分間生き残ったら父さんの勝ちにするという条件だけはどうにか取る事が出来た。だがあのルージュ相手に3分だぞ。普通の人間なら1秒持てば十分偉業だ」
「え。でも俺ってなんだかんだでお前達の遊び相手してるし、以外と大丈夫じゃね?」
と言ってもまぁ子供達が本当に子供の頃の話ではあるけど。
それに大人になっていくにつれて確かにプロレスごっことか戦う系の遊びはしなくなったけど、鬼ごっこや相撲とかはちょいちょいやってた。
それはルージュでも同じ。むしろルージュの時の方が激しい戦い系の遊びしてたかも?戦隊モノの敵役やったり、ライダーの敵役やったり。
でもそれでは不安だとみんなから首を横に振られた。
それならどうしろと。
「私達がパパに全力で加護を与えるよ。そうすれば――」
「それだけは止めろ。ルージュがキレる」
申し訳ないがそれだけはダメだと思う。
確かにブラン、ノワール、ヴェルト、クレールの4人から加護を受け取ればかなりの強化になるだろう。
でもそれじゃきっとルージュの怒りは収まらない。さらに怒りを燃やして攻撃してくる事は目に見えている。
だからこれは最低でも俺の力だけでルージュと試合をしないといけない訳だ。子供の頃のごっこ遊びで敵役をした時のように。
ブランは提案をここまであっさりと切り捨てられるとは思っていなかったのか、驚いて固まっていた。
他のみんなも驚いていたし、それじゃどうするかとすでに視線で訴え合っている。
「ま、俺も今のルージュ相手に何もしない訳じゃないさ。とりあえず俺もトレーニングしてみるとするか」
SSSランクを相手にすると言うのに楽観視していると思われる発言だが、実際楽観視している。
その理由はなんだかんだでルージュは俺を殺さないように殴ってくれると思っている事と、気分としては久しぶりにルージュとごっこ遊びをする感覚と変わらないからだ。
それでも大人になったルージュを相手するので、ちょっとトレーニング室で頑張った方がいいかな?ぐらいの感覚なのである。




