カーディナルフレイムの女性達
昨日は子供達の前で色々グチったのでちょっと顔を合わせ辛い。
そりゃルージュに嫌われて泣いたけど……もうちょいなかったかな~俺。せめてこう、親の尊厳をあまり傷つけないやり方と言うか何と言うか。
でもまぁ少しスッキリしたのも本当だ。やっぱりたまにはグチってはっちゃけないといけないのかも知れない。
それに朝飯の時は普通にしてたし、あまり気にしていないのかも知れない。
そう思いながら今日もアルカディアでの仕事をしようとした時に酒呑とノワールが一緒に居た。
「どうしたんだ2人とも。荷車にそんな大量の瓶詰めて」
リアカーの上に木箱があり、その中に酒呑が作った酒が入っている。鬼気屋のラベルが張ってあることから恐らく外に売る分だろう。
俺の質問に酒呑が答える。
「これからカーディナルフレイムで売りに行くんだよ。俺は納得した出来じゃねぇが、こんなんでもいいから売ってくれってうるせぇ客がいるんだよ」
「鬼気屋の酒って幻の酒って言われるぐらい価値があるんだろ。それなら仕方ないんじゃないか?」
「生産量がすくねぇのは俺が納得してねぇからだ。米も水もそれなりに美味いが、所詮それなりだ。俺は納得してねぇ」
「相変わらず酒へのこだわりが強いな。生産量とか時間とか色々考えてるんだろ?」
「そりゃな。だがここに戻ってきたからな、これからは納得した出来の酒を下ろす事が出来る。その事も伝えに行こうと思ってな」
「ごひいきにしてるみたいだな。でも何でノワールも一緒なんだ?」
正直こういう事には付き合わないとばっかり思ってたので以外だ。
家庭内の事に関しては色々お兄ちゃんしてルノワールだが、こういった仕事に関係する事には決して口を出さない物だとばかり思っていた。
今回は口を出すというよりは手伝いだけど。
「少しな。手伝うついでにカーディナルフレイムに言っておくべき事があった事を思い出してな、ちょっとした外出ついでだよ」
「そうか。それじゃ今度男だけでどっか居酒屋にでも飲みに行くか?」
「それならうちで飲む方が酒が美味いだろ」
「それはそうだけど外食と言うか、ちゃんとした店で飲む雰囲気もたまには楽しみたいなって思ただけだよ。それに本当に思い付きだから実際にはみんな一緒に居酒屋に行く事になる可能性の方が大きいしな」
「違いねぇ。それじゃ俺達は先に言ってるぞジジイ」
「おう。お客さんに失礼のないようにな」
「んな事ぐらいやってるってぇの!」
流石にそこまで子供じゃないか。
自分で穴を空けてカーディナルフレイムに行く子供達を見送ってから俺は仕事を始めるのだった。
――
仕事が終わって大体午後3時ごろ、俺はまたカーディナルフレイムを散策していた。
子供たちに関する情報集めもしているが、どうもこの首都にはいない感じなのでダンジョンが落ち着いたら改めて探してみようと思う。
なぜダンジョンが落ち着いたらという言葉が出るかというと、ダンジョンから出れる場所は複数あり、その中の1つがこの間追いかけらえたフレイムサウルスがいる牧場だ。
牧場はダンジョンのもっと上のほうにある出口につながっているらしく、首都にたどり着くよりも遠いとか。
他にもこのこの山のてっぺんに行くためのルートも存在しているらしく、登山家はそこを通ることが多いとか。
まぁ山歩きが好きといってもダンジョン内だから高ランクの冒険者じゃないといけないらしい。
それにてっぺんの魔物達はダンジョン内の魔物よりもランクが高いらしく、Åランク冒険者向けだとか。なので普段は冒険者もいかないほどに厳しい場所だとか。
多分俺が探している子供たちはそこら辺にいると思う。
そこにはちゃんとしたドラゴンもいるとの噂だし、多分いるだろう。
その時はさすがにアレスさんたちではなく子供たちに頼んで一緒に探そうと思う。俺たちだけで言ったほうが警戒されずに済むだろうしな。
そう思いながらぶらぶらしていいると、偶然ジュラに会った。
今日の服装は露出度の高い踊り子の服ではなく、どこかジャージっぽい機能性重視の服を着ていた。
「ジュラか?」
「ドラクゥルさん?こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「本当に奇遇ですね。ジュラはこんなところで何を?」
「ちょっとね。あまり見せるものでもないけど見ていく?」
「今暇なんでよろしければ」
「それじゃこっちよ。着いても覗くだけにしてね」
そう言われてついていくと、たどり着いた場所はどこかのスポーツジムだった。
ちょっと覗いてみると、闘技場で戦う人たちのためのトレーニング施設のようだ。サンドバッグや鏡張りの壁などシンプルな作り。
中央には試合用の舞台もちゃんとあり、ここで試合をするんだろうなと分かる。
あと疑問に持ったのはここに居るのは女性ばかりという点だ。
ストレッチをしたり、関節技の練習をしていたり、派手な技の練習などもしている。
普通ならダイエット目的とか、スポーツ好きの女性達という印象を持つかもしれないが、女性達の目はあまりにも真剣だったので声を出したりは出来なかった。
「これで分かった。あまり見せる物ではないって所」
「えっと、彼女達はここで何を?」
「ここに居るのは闘技場に出場するためだったり、冒険者としてランクを上げるために来てる子達よ。夜は私の店で踊り子として働いてもらいながら、昼間はこうして体を鍛える場所を提供してるの。もちろんダンスの練習もできるからそっちを目的にしているこの方が多いわね」
「俺はてっきりダンスだけだと思ってましたよ。でも何で冒険者とか闘技場の話が出てくるんですか?」
俺がそう聞くとジュラは前に見た諦めてしまった人の表情をしながら言う。
「このカーディナルフレイムは力こそが全て。この国を出るためにはダンジョンを突破するしかないし、お金がいっぱい入る選手になるにしても実力がなければどうする事も出来ない。ほとんどの冒険者のランクを上げようとしている娘達はこの国の外に出たいから頑張ってるの」
「…………」
「そうでないとしてもこの国の外に出ようと冒険者に依頼しようものなら足元みて法外な額の金を要求されるからね、結局自分で突破できるように強くなる方が手っ取り早いのよ」
「そんなにひどい扱いを受けているんですか?この国の女性達は」
「男性に比べると酷いっていうのが多分1番正しいんだと思う。それに出て行ったところでうまくいく保証なんてどこにもないから、私みたいに諦めて夜のお店と掛け持ちで冒険者してる女の子の方が圧倒的に多いでしょうね。この国はダンジョンのおかげで発展しているけど、同時にダンジョンのせいで中々外に出られないから閉鎖的でもあるのよ」
グリーンシェルとは大きく違う事がよく分かった。
グリーンシェルはこの国と同じようにダンジョンで倒した魔物やヴェルトの背中で勝手に生えた薬草などを売買する事で国を豊かにしているが、別にダンジョンに囲まれている訳ではない。
ちょっと近くのダンジョンに行くと言う感じでしかないのでカーディナルフレイムよりも殺伐としていないし、強い奴がなんでも偉いという風潮はない。
でもカーディナルフレイムはこの首都全体がダンジョンに囲まれている状態で、力がないと首都の外に出る事すら出来ないのだから弱い者は首都に留まり続けるしかない。
多分そこから長い時間をかけて強い奴は偉い、と言うとても原始的と言える風潮が生まれて言ったのかも知れない。
そして強くなりやすいのはもちろん男性。特にここのダンジョンは破壊力を重視した冒険者が多く、女性では難しい面が非常に多そうだ。
全く。ルージュの奴は一体何をしていたんだか。同じ女性として何か力になる事が出来たんじゃないだろうか。
でもあのルージュがただ見ているだけというのも考え辛い。何か策を練っているのかも知れないが、動きが遅かったら意味がない。
「でもジュラは実力的にもこの国から出る事が出来ますよね?何で今もこの国に?」
「それはあの娘達の事が放っておけないからよ。確かに私1人なら簡単に逃げ出せるわよ、でもそれだけじゃ私は不満なの。せめて私のお店にいる娘達全員と一緒にこの国を出たいと思ってるわ。そうじゃないと絶対後悔しちゃうもの」
「すみません。そうですよね。自分だけ逃げるなんて思う訳ないですよね。多分貴女はそういう人だ」
「あら。なんでそう思うんですか?」
「強い人の目をしていると思ったからです。しっかりと前を向いて、何かあっても立ち止まらない様な感じがしたので」
そう伝えるとジュラは少し驚いた表情をしてから微笑んでくれた。
「そんな風に評価していただきありがとうございます。それじゃ今度うちの子達の試合も見に来てくださいね」
「その時は応援させていただきます。それじゃ」
「お店の方もよろしくお願いしますね」
こうして俺はジュラと分かれた。
色々と頑張らないといけない事が増えるな~。




