夜のお店
謎の女性から殺意を感じて怯えながらもあの女性は誰なんだろうと思いながら自室で休んでいると、アレスさんとライナさんが現れた。
その表情はだらしなく、これから何しに行くのかその表情だけでよく分かった。
「ドラクゥルさん。一緒にカーディナルフレイムに行きませんか?」
「さっき風呂入ったから出歩きたくありませんよ。それにこそこそ来たって事はそういうお店に行くんでしょ」
「ええ、はい。ジュラさんに今度はドラクゥルさんも一緒にと言われたのでどうせなら3人で行かないかと思いまして」
正直今の心境だとエロい店に行きたいという欲求はない。このままゴロゴロして気分を落ち着かせたいという気持ちでいっぱいだ。
だが昼間この国をうろついた時に子供達がいるかもしれない情報の様な物は一切なかったため、どこかで情報収集しないといけないとも思っている。
最低でもルージュはこの国に居るはずだ。そのヒントになる様な事を知るためには……人と付き合いが多そうな場所に行くしかないかも知れない。
「……はぁ。仕方ない。行くか」
「よっしゃ!それじゃ早速行こう!ディース達に見つかる前に行こう!!」
「バレるとちょっと空気が悪くなるんですよね。出来るだけ早く行きましょう」
「はいはい」
それなら行かなきゃいいのに、と思う俺は空気が読めるので口には出さない。
でも一応ノワールにメールでジュラの店に行ってくると連絡を入れてから町に向かった。
夜の町の様子はというと、昼間よりも人数が多いような気がする。
俺達のように遊びに来た男性陣と、店の呼び込みをしている女性達と昼間より大通りが人で溢れている印象を受けた。
店の前で松明を燃やし、女性達が下着と変わらない服装で男達を誘惑しながら目にいざなう。
本当にこれだと夜に女性の居場所はないと感じた。ここに居る女性達はみんなお店の人達ばっかりで、当然ではあるが遊びに来た女性らしい姿はない。
女性向けの店、ホストがいるような店はやっていないんだろうか?ゲームなどの勝手なイメージはあるが、歌舞伎町とかあんな感じで女性向けの夜の店もやれば人気でそうなんだけどな。
「ここだここ。ドラクゥルさんこの店だ」
2人の後ろを歩いていると確かにジュラからもらった名刺と同じ店、『竜人の踊り子』と書かれている店があった。
竜人という事はリザードマンでもいるのかと思ったが、多分そういう意味じゃないだろうな。
ただ驚いたのは店の前に居た女の子。俺の目にはまだ小学生ぐらいの様に見える女の子が子供らしくない丁寧な口ぶりで案内をする。
俺はその事に驚いていたが、既に昨日2人は来ているからかあっさりと入店した店は男性達の歓声で非常ににぎわっていた。
ステージの様な所に男性達は集まっており、そのステージで踊り子の服装をした女性達が魅惑的に踊っている。
顔は輪郭だけは分かる感じで薄いベールで隠されている。それなのに尻や胸は本当に大切な所をギリギリ守っていると言う感じで尻なんかはほぼ丸出しと変わらない。胸もマイクロビキニよりも面積が少ないのではないかと思う程に面積が足りていない。
男性向けの店だから仕方ないとは思うが、女性側にはかなりのストレスがかかっているだろうなっと思ってしまう。
「いらっしゃいアレスさん、ライナさん。今日はドラクゥルさんも来てくれたのね。ありがとうございます」
「ジュラさん今日もよろしくお願いしま~す」
「お願いします」
「こちらこそお願いします。ドラクゥルさんは近くで見ますか?」
「俺は……適当に座って飲んでます」
「そう?あの子達の踊りも見てあげてね。それじゃ」
そう言ってジュラは2人を連れてステージの近くに向かった。
どうやらこの店は女性が魅惑的な踊りを見せる店の様で、俺が想像していたキャバクラとは違う感じらしい。どちらかというと……ディスコ?に近いんだろうか。
いや、イメージだけどやっぱり違うか。ディスコってお客さんを含めた人たちみんなで踊って騒いでるイメージあるし、やっぱ違うな。
踊っているのはスタッフの女性だけだし、ステージの近くで見る男性達はそんな女性たちの踊りに魅了されて興奮している。
「ゆっくりお酒を飲むお店じゃなくてごめんなさいね。ゆっくりお酒が飲めるお店の方がドラクゥルさんの好みだったかしら」
そう言いながらジュラが俺の前に酒の入ったコップを持ってきてくれる。
どうもと言ってから受け取り、ちびちびと飲みながら言う。
「お仕事大変ですね」
「ええ。今ステージに居る子達みたいにうまく踊れないと人気は出ないからね。今いる子達は上から10番目から8番目に上手い子達で踊ってるの。中々でしょ」
「はい。あまり踊りとかに詳しくありませんが、凄い技術だって言うのは分かります」
相手を魅了するほどの踊りというのは非常に難しい物だろうという大雑把な基準でしかないが、それでもあの3人は周りの男性客を惹きつけている。そう簡単に出来る物ではないだろう。
そして踊りが終わるとステージから降りて手を振る。
そんな彼女達の服の装飾は袋状になっている事に今気が付いた。その袋の中に入れるのは銀貨や銅貨、どうやらあれがこの世界のおひねりと言う奴らしい。
そのおひねりを入れる袋は当然と言えば当然だが、パンツとブラジャーの部分にしか付いていない。
あれ色んな意味で大丈夫なのかと思ってジュラを見ると、俺に説明してくれる。
「あれはわざとだから大丈夫よ。トップになればお金の重みで落ちるぐらいチップをもらうのがあの子達の目標なんだから」
「仕様って奴なんですね。それじゃ普通の給料とかってどうなってるんですか?」
「この辺りじゃ普通の額よ。でもああやってもらったチップは全て自分の物に出来るからあの子達も必死なの。トップの子は1番低い子の100倍近い金額を1回踊っただけで稼ぐから」
なるほど。そうやって給料に差が生まれていくのか。
それじゃそのトップの子は半分以上おひねりで稼いでいる訳だ。
「厳しい世界なんですね」
「ええ。この国じゃ強い者が正義、弱い者は踏みにじられるから」
その声は諦めてしまった者の声。悲しいとか悔しいとかそういう感情は一切なく、ただ仕方ないと受け入れてしまった者の声だ。
Aランク冒険者なのに何故そんな諦めてしまった声を出すのか分からない。Aランク冒険者ならこの国でかなり自由にできると思うのに何故だろう。
何やら踏み込んではいけない所の様なので俺は違う話をする。
「ところで今日闘技場に行ったんですけど、その時偉そうな女の人って誰ですか?」
「偉そうって……どんな人?」
「赤いショートヘアーで、赤いスリットの入ったドレスっぽい服を着た人」
「それ女王様よ。そういえば今日決勝戦だったわね」
「女王様?決勝戦?」
「ええ。闘技場などの催しは女王様公認の試合なの。だから出場選手はみんな名のある選手ばっかりだし、今日の試合はそんな王族も見に来るほどの大きな大会の決勝戦だから見に来たのね」
この国の女王様か。でもそんな偉い人に殺意を向けられる覚えはない。
何でだろうな、と思っていると次の人が踊り始める。
「あの子がこの店のトップダンサー、かなり凄いのよ。どこで学んだのか知らないけど、見た目の派手さも人の目を惹きつける才能もあるからかなり人気なの」
その踊りとはポールダンスだった。
ステージの上にはいつのまにか1本の棒が設置されており、それにある程度よじ登った後ステージ付近のお客さんに触れるか触れないかの距離まで手を伸ばして回ったりする。
それにしてもポールダンスってこの世界にもあったんだな。まぁ俺も知識だけで実際に見た事はないけど。
なんて思いながら酒をちびちび飲んでいると、今ステージの上で踊っている女性が服を脱ぎ出した!
元々服を着ているとは言い難い恰好であったがそれでもまさか脱ぐとは思わなかった。
結果上も下も脱いでしまい、生まれたままの姿で踊りを続ける。
それを見たステージ近くの男性達の盛り上がりは最高潮。女性の大切な部分が見えたとか見えなかったとか、下品な話で盛り上がっている。
「あの子ったらまたこんな事して。他の子達はしないのに1人だけこういう事すると他の子もこんな事で稼ぐようになるからやめなさいって言ってるのに……」
「え。て事はあれ独断ですか?自分から脱いでるんですか?」
「……はい。こうするとチップの入りがいいからと言ってやるようになってしまって……」
どうやらマジで独断らしい。
俺は乾いた笑みを浮かべながら踊る女性を見る。
特別スタイルがいい訳ではないが、やはりポールダンスは体力を使うからか身体はよく引き締まってい
る。無駄な肉がないという奴だろう。スレンダーな方だが全く胸がない訳ではない。
独断で裸になったと思うと凄く複雑な気分になる。だって店側から強制的にやれと言われているのならともかく、自分から裸になるっていうのはどうしても信じられない。
1人家で裸族でいるというのとはわけが違う。人前で裸になると嬉しくなる本物の変態か?
なんて思っている間にステージの女性はおひねりをもらって帰っていった。
その時俺と目が合った様な気がしたが、気のせいだろう。気のせいじゃなかったとしてもただの偶然だろう。
なんて思っているとアレスさんとライナさんが戻ってきた。
「いや~楽しんだ楽しんだ。ドラクゥルさんは遠くからでよかったのか?人がいてよく見えなかっただろ?」
「いえ、酒飲みながらだったのでチラチラ見てましたよ」
「せっかくトップダンサーが踊っているのですから近くで見ればよかったでしょうに。それじゃそろそろ相手してもらいましょうか」
「相手?」
何の事だろうと思っていると、ジュラが俺に不思議そうに見ている。
「ダンスが終わったら別室でエッチな事して行かないの?本番はダメだけどできるわよ」
俺は少し考えてから、エッチと本番の言葉で何をするのかだいたい想像できた。
「あ~。そこまではしなくていいや。俺は帰ります」
「え!?もう帰るのか!!」
アレスさんが驚いて言うが、元々そういう事をしたくて来たわけじゃないから。
「それじゃお酒代とステージの料金っていくらですか?」
「お酒とかそんなに飲んでないからこれぐらいね。本当にしていかなくていいの?」
「いいダンスが見れたのでまた来ます」
そう言って大目にお金を払っておいた。と言っても金貨1枚ポンとジュラに置いただけだが、ジュラは驚いて俺に言う。
「これは流石に貰い過ぎよ!チップ込みだとしてもこれはとても――」
「俺は弱っちいですけど金だけはあるんで。それじゃ」
そう言ってさっさと立ち去った。
さて、結局子供達に関係しそうな話はなかったな。そう思いながら家に帰ると、想像以上に早い帰りだったらしくノワールに驚かれた。




