何かに狙われた
カーディナルフレイムに着いたばかりの日は流石に休んでいたが、アレスさんとライナさんはディースさん達の予想通り夜にジュラの店に行ったらしい。
何故知っているかというと、酒吞に頼んで一緒に行ったと今朝知ったからだ。
どうやら夜遅くに酒呑の元に行き、一緒に一杯やろうと誘ってその店に行ったという。その結果、アレスさんとライナさんは朝帰りで今現在二日酔いでぶっ倒れている、という訳だ。
どうやって知ったかは朝酒吞が茨木に怒られているのに遭遇し、茨城から聞いたから。
その事を他の女性陣にも伝えると、呆れられながら自業自得と言う事で終わった。
そして今日は昼間から町を散策している。
町並みについては少し見たが、実際に見て回ると本当に冒険者向けという意味がよく分かる。
まずはとにかく武器屋が多い。どの店もドワーフが作ったと言う噂の鉄製の武器ばかりで剣や槍だけではなく死神が持つような巨大な鎌や、メリケンサックなんて言う珍しい物まで売っていた。
それから飲み屋と飲食店が一緒になった店もかなりあるし、昼間っから飲んでる冒険者もかなりいる。
グリーンシェルでもやってきた冒険者中心の販売が多かったが売っている物は結構違う。
例えばこの町には鉄製の武器ばっかりだが、グリーンシェルだと魔法使い向けの杖が売られていたがこちらでは見かけない。
グリーンシェルではよく見かけたポーションの様な飲んだり塗ったいるする消耗品はほとんどなく、代わりにアミュレットと言うお守りが多く売られていた。アミュレットはちょっとした効果が付与されたアイテムらしく、壊れない限りはずっと使い続ける事が出来るらしい。
飲食店についてもグリーンシャルは夜になってからしか飲み屋がやっていなかったのに、こちらでは昼間っから開店しているなど細かい違いが多い。
そして1番の違いは闘技場だろうか。
この国の中心にある巨大な闘技場。ギリシャで見るコロッセオと言う奴によく似ており、丸い形の建造物であそこで毎日試合が行われているらしい。
と言ってもあそこにいるのはこの国で特に人気のある選手たちだけだそうで、他の人気のない選手達は他の闘技場と言うよりは個人経営しているトレーニングジムの様な所で試合をしているとか。
その代わり小さなところだと武器を使わない試合がメインだそうで、プロレスの様な物だったり、ボクシングの様な物が多いという。
それから1部の男性から人気なのが女性同士の試合だ。
中心の闘技場で戦うのは男性のみであり、女性は人気がないからとの理由で出場できないとか。迫力も欠けるし、関節技が多い試合が多いので見た目の派手さもいまいちだと聞く。
見に行くのは試合をよく知らない俺の様な入国したばかりの者か、戦っている最中にはだける服を見たいと思っている変態だけだとか。
なのであまり人気のない女性同士の試合は町の端っこに集中している。
俺個人は男が強いとか、女が弱いとかよく分からないが、体格のいい男の方が有利かな?ぐらいの感想しかもたない。
あと目立つのはキャバクラの様な夜のお店が非常に多い事。
キャバクラから風俗まで男性限定の店が非常に多い。しかも普通の飲み屋とかの隣りに普通に建っているので店に入る時間違わないか少し気になる。
どうやら男性冒険者が多い事から女性の仕事は夜の仕事が多い様に感じる。品がいいとはとても言えないが、需要が高いからこそあちこちにあると思うと仕方がないようにも感じる。
それからこの国で子供の姿が全く見えない。
住居区の様な所があるのか、それとも町の端の方にあるのか分からないが全然姿を見ない。
まぁあっちこっちに夜のお店が大量にあるから情操教育によくないのかも知れない。この国で子供を育てるのはあまり向かないと思う。
そう思いながら見学しに行ったのは中央の闘技場。カーディナルフレイムに来たら必ず見に行く観光地なのだから見ておいて損はない。
入場料は銀貨2枚と個人的には安い方だが普通の人達からすると結構お高め。でも1枚買えば1日中いてもいいらしいので個人的には安い。
その代わり出店で売っている食べ物や飲み物は全てお祭り価格なのでちょっとお高め。さらに言うと予約席があるらしく、そこに座るには金貨を支払わないといけない。
ただしそれはただの試合の話であり、有名な剣闘士などが出場する試合になるとその日の予約席はかなりのお値段なのだとか。でもその分個室でゆっくり見られるとか、お高い菓子などが食べられるとか、あとで好きな選手と会う事が出来るとか、色々特典があるとかないとか。
なので俺は途中から闘技場に入り、戦いを見る。
普通に銀貨を払った人達は自由席で見る事ができ、良い席は早い者勝ち。俺はかなり遅くに来た様で階段のようになっている席の一番上だ。
モニターの様な物はないので戦っている所から遠いとその分見えにくいが、その熱狂は本物だ。
現在は2人の剣闘士が剣を片手に1本、もう片方に丸い盾を装備した半裸の男達が戦っている。
どちらの剣も本物の様で剣が相手を捕らえると血があふれる。どちらもまだまだ浅い傷の様で戦い続けるが、俺には刺激が強過ぎるな……
でも周りの人達はその姿に熱狂し、声援を送る。
この国の店を見てポーションなどのアイテムが少ない様に感じたのにこんな風に戦っていて大丈夫なんだろうか。薬がなくて傷を治す事が出来ない事態など想像していないのかも知れない。
それともそれは個人でやれと言う感じなんだろうか。
ここで戦っている選手達はみな自分の意思でここで戦っているのであり、映画のように奴隷同士が戦わせている訳ではない。危険を承知で自分の意思で戦っている。
プロレスだろうがボクシングだろうが、戦うという事は何らかの事故で死ぬ可能性があることを承知で戦っているのかも知れないが、本当に死をかけて戦う事はないだろう。
どれだけ戦っていると言っても所詮はスポーツという意識があるからだ。
でも目の前で行われているのは殺し合いと言う名の見世物。他人の殺し合いを楽しめるというのは穏やかな世界で生きてきた俺には正直合わなそうだ。
目の前の試合が終わり、片方の男性が血まみれで倒れる中観客たちが歓声を上げる。そして1番良さそうな所に座っていた偉そうな女性が前に立った。
女性が着ているのはチャイナドレスっぽい服で、物静かとはかけ離れた雰囲気があるが、それでも品格と言う物を感じる。真っ赤な髪をショートカットでまとめているのが余計に活発なイメージを持たせているのかも知れない。
その女性は言う。
『良い試合だった。次も励め』
魔法か何かで声を大きくした声は闘技場に響き渡り、観客も湧く。
その偉そうな女性は闘技場を見渡す時に丁度俺と目が合った。
その瞬間俺の背筋が凍った。
その視線から感じるのは非常に強い怒り。憤怒とはこういう物なのかも知れないと初めて思った。
決してして逃がさない。
その思いだけが俺に強く突き刺さるが、女性は後ろにいたメイドに連れられて奥へと消えた。
俺はその強過ぎる殺意から近くの席に座って自分自身を落ち着かせる。
手足の震えが止まらない。強い捕食生物に狙われた草食動物の気持ちがよく理解できた。
あれを前に逃げたくても絶対に逃げ切れない。そう思えるほどの強い視線。
だが同時にどうしてあの女性からそこまでの怒りと殺意を感じたのかが分からない。
俺は激しく動く心臓の音がやけに強く聞こえながら、アルカディアに帰った。




