Aランク冒険者
マグマスラッグの交尾というあまりにもイレギュラーな事態を突破したからもう大丈夫だろう、と思って意気揚々とダンジョンの奥に向かっていた頃が懐かしい。
まぁ確かに終盤の方、マグマスラッグ達がいる所から上に上がり、熱によるダメージがなくなった事に関しては良い事だと思う。
他の冒険者達にこの装備を見られるのはまずいという事で、気温がまだマシな所にたどり着いてからアルカディアに戻って着替えた後、ご覧のありさまだ。
「走れ!とにかく走れええええぇぇぇぇぇ!!」
俺達は後ろから迫ってくるティラノサウルスもどきに追い掛け回されていた。
ディらのもどきのちゃんとした名前はフレイムサウルス。火を噴く恐竜型のモンスターでランクはD、意外だと思われるかも知れないがアルカディアでは恐竜系は全てデカいトカゲ扱い。進化するとドラゴン系になるがその前段階と言う感じだろう。
まぁそれは悪魔でもアルカディア内での評価であり、現実はジュラシ〇クパークよりも酷い状況である。
え?今はワールド?そんなに変わんないだろ。
「何であんなバカデカい奴が穴の中にいるんだよ!!火の系統とはいえ生息区域が俺が知っている場所と違う!!」
「事前にこのダンジョンに現れる魔物について調べましたが、フレイムサウルスが出てくるなんて書いてませんでしたよ!本当に!!」
俺と若葉は走りながら言い合う。ポラリスのみなさんは俺達より少し後ろで同じように全力で走っている。
「それじゃこいつ迷い恐竜か!?」
「そんな迷い犬か迷い猫みたいな感じで言わないで下さい!!あんな大きいのがそう簡単に迷い込む訳ないじゃないですか!!」
「でも実際すぐ後ろにいるんだからどうしようもねぇだろ!!」
「倒し方とか知らないんですか!」
「それこそ普通に倒すしかねぇよ!!あいつはアルカディアの中では雑魚い方なんだよ!サラマンダーとかの方がランクは上だからな!!」
「あんな大きくて凶暴そうなのが弱いってどんな世界ですかアルカディア!!」
「ブランとかノワールが1番強い世界!!」
「納得するしかないですね!!」
ただでさえ後半になってからでこぼこした整備されていない道を歩いている様な感じなのに、恐竜が後ろから迫ってくるとなれば必死は当然だ。
こうして声を出しながら走っているのはちょっとした現実逃避のため。
アレスさんが俺達に追い付いて同じように走りながら言う。
「ドラクゥルさんの力でアルカディアに逃げれないのか!?」
「申し訳ありませんが今は無理!!」
「肝心な時に何で!?」
「アルカディアに行くための穴は少し時間を待たないと開かないんですよ!時間的には3秒ぐらいあれば開きますけど、走りながらだと絶対後ろの方に開く事になります!!」
普通に開く分には何も不自由な所はないが、こうして走りながらとなると話は違ってくる。
アルカディアに行くための穴は固定式らしく、1度開けようとしたところにしか開かない。さらに俺の前方に1メートルの所にしか開かないので流石に3秒後となると走り去っている可能性の方が高い。
俺1人取り残されても自分でまた開けば帰れるが、他のみなさんが取り残されたら目も当てられない状況になっているかもしれない。
それが嫌なのでこうして走って逃げているという事だ。
「なので3秒時間を稼げますか!?そうすれば確実に全員アルカディアに避難できるんですけど!!」
「あれ相手に3秒か……あれBランクの魔物なんだけど!」
「こう考えて下さい。相手はただのデカいトカゲ!!」
「5メートル超えてるトカゲなんてトカゲじゃねぇよ!!あ~もう!メルト!!ライナ!!魔法とか弓で時間を稼げないか!!」
「ここまで全力で走っていると弓を構える暇もないですよ!!」
「ま……ほう、えい、しょう。むり!!」
ライナさんも全力で走っているために弓を構える事が出来ない。メルトちゃんも走るので精いっぱいで息を切らして詠唱が出来ないらしい。
ちなみにディースさんは現在全員に速度を上げる補助魔法を連続で重ね掛けしているのですでに頑張っている。
そしてその魔法が切れたら俺達はフレイムサウルスに追い付かれてしまう。ディースさんの魔法もギリギリだし、逃げる以外の方法を取らないといけない。
でもすでに逃げ回って体力ギリギリだって言うのに戦えというのも酷だ。
せめてどこかに逃げめる場所があれば――
「はぁ!!」
誰かの声が聞こえたと思ったら大きな音が洞窟内に響いた。
何事かと思って振り返ってみると、そこにいたのは踊り子風の服を着た女性がフレイムサウルスに蹴りを入れた後の姿だった。
誰?と思っているまもなく女性は踊るように動きながらフレイムサウルスに連続で蹴り続ける。
もちろんフレイムサウルスも小さな人間を倒そうと火を噴きだそうとするが、顎を蹴られて強制的に炎を使えなくさせてしまう。
他にも踏みつけようとしたり、尻尾で叩き付けようとしているが、女性は軽くかわしてしまい当たらない。
「これでお終い!」
その一言と共にフレイムサウルスの顎に回し蹴りを決めるとフレイムサウルスは動かなくなった。
まさか物理攻撃、しかも体術限定で倒すとかヤバいだろ。
なんて思っていると踊り子の服を着た女性が話しかけてくる。
「君達大丈夫?運が無いわね~フレイムサウルスに出くわすだなんて」
「助けてくれてありがとうございます。えっとあなたは……」
「ああ、私はジュラ。踊り子の服着てるけどAランクの冒険者よ」
「Aランク!!」
ぱっと見まだまだ若い様に見えるジュラと言う女性は何て事のないように言った。
Aランクは非常に優秀な冒険者の証だというのは前に聞いたが、俺はてっきりごついおじさんとかそういう感じの人ばっかりだと思っていたのでとても驚いた。
俺の表情を見てかジュラは言う。
「みんな私のランクの事を聞くと驚くのよね。でもカーディナルフレイムに住んでると自然にAランクになれるから私以外にも若いAランクは結構いるわよ」
「さ、流石カーディナルフレイムですね。強い冒険者達がいっぱいだ」
「その分ガラの悪い連中も多いけどね。このままカーディナルフレイムまで送っていってあげるわ」
そう言って俺達の事を連れて行ってくれるジュラだが、1つ気になった事があったので聞いてみる。
「ところであの、フレイムサウルスは」
「あれは後でギルドの人に連れて行ってもらうわ。実はあのフレイムサウルス、牧場から逃げ出した魔物でね、捕獲依頼が出てたから殺したりしたら依頼達成できないのよ。だから今回は防具だけで来たのよ」
踊り子風のひらひらした露出度の高い服が防具と言うのは非常に違和感があるが、ゲームでもよくある事だから気にしなくていいか。
そう思いながら俺達はジュラ産の案内でカーディナルフレイムに向かう。
どのような経緯でフレイムサウルスにあったのか話すと非常に驚かれた。
「嘘!あのマグマスラッグの熱の中を通ってきたの!?よく生きてこっちに来れたわね……」
「ああ。お陰でアミュレットは全部壊れて帰りはどうしようかと思ってたところだよ。そこにフレイムサウルスが出て来たから逃げるしかなかったんだ」
アレスさんがジュラとこちらの話をする。
一応マグマスラッグの所を突破できたのは事前に自分達を守っていたアイテムが壊れてしまった事にすると話していたので予定通り。
「それでも本当によく生き残ったわね……あそこを突破するには伝説級のアイテムが必要と言われている程なのよ。お陰でこちらも外と情報のやり取りが出来なくて困ってるし、マグマスラッグ達はあと1ヶ月はあそこに留まり続けるだろうから動けないのよ。しかも離れたとしてもしばらくは人が通れないほどの熱を発し続けるだろうし、外の情報はとても貴重よ」
「他に情報を得る方法はないのか?」
「ない事はないけど……このダンジョンを通るよりも危険なドラゴン達の住む山を突破する必要があるわ。そこまでして外に出たい冒険者も町の人も居ないからみんな引きこもってるわ」
ドラゴンか……あいつら属性によって結構生息範囲が変わるが、やっぱり火に関するドラゴンだろうな。
それにしてもフレイムサウルスの牧場とか、ドラゴンの巣があるとか随分と血の気の多い連中が多いらしい。
火属性のモンスター達は感情的な性格をした子達が多かったが、この世界でも同じなんだろうか。
そう思いながらカーディナルフレイムに向かうのだった。
種族 フレイムサウルス
ランク D
巨大な恐竜型のモンスター。
身体が大きい分動きは遅い。攻撃は踏みつけるか噛みつくか尻尾で叩き潰す事が多い。
一応炎を吐き出す事も出来るが火炎放射器のように真っ直ぐ炎を放つのではなく、主に足元に向かって火を噴いて広範囲に攻撃する。そのため攻撃力は低く、熱くても我慢する事は出来る。




