マグマスラッグ
ダンジョン探索も5日かけて中盤に到着。
でもここが1番キツイと俺は思う。
「あ……あじぃ~」
てっきり俺はマグマが近くあるのは終盤になってからだと思っていたのに中盤からすでに道から外れたらマグマがあるところだとは思っていなかった。
まだ道は広いがこの先細くなっていくと思うとやっぱり怖いという感情も出てくる。
マグマの熱が俺達にまで届いて耐熱用装備の重要性が非常によく分かるダンジョンだ。
「すみませんドラクゥルさん。またお水の方を補充していただいてもよろしいでしょうか?」
「あいよ~。それにしても本当に熱いですね。夏の暑さとはまた違った熱さだ」
ディースさんにスポーツドリンクの補充をしながら言う。
「もしドラクゥルさんが用意してくれた装備が無かったらとっくに引き返している所です。水の消費も非常に激しくなっていますし、本当はもっと水の消費を抑えながら進まないといけないんですが……」
「その辺りは俺がいるのでいくらでも補充します。みなさんも辛くなる前に言ってくださいね」
俺はみんなに注意を促しながら言う。
「頼む」
「頼みます」
「お願い」
「お願いします」
みんなそう言ってくれたので俺達は先を進む。
それにしても中盤に入ってから若葉とライナさんからトラップに関する注意がかなり減った。どうやらこの辺りにトラップは少ない様で、あまり注意される事はない。
その代わり火に関係する魔物が多く現れる様になってきた。
俺達は歩いていると前方から他のパーティー達が現れ、その中心にいる男性が手を振りながら言う。
「こっちはやめておいた方がいいぞ!マグマスラッグがうじゃうじゃいる!!」
親切な冒険者だとこういう事を言ってくれる人達がいる。どうやら目の前の人達はその良い人達だった様だ。
「マグマスラッグって本当か?あいつら単独行動ばっかりだろ」
アレスさんが話しかけると相手は手を横に振りながら言う。
「それがどうやらあいつら繁殖の時期だったみたいでよ、1か所に固まってるんだ。あいつら倒しても何の価値もないし、逃げてきた」
マグマスラッグとは全身マグマでできたナメクジの事。
ビジュアルは……正直言ってかなり気持ち悪い。見た目は完全にナメクジだし、通った後はマグマが通った後によく似ており、しばらく地面が溶ける。
魔法には弱いだろうが、物理攻撃には非常に強いし、その熱で剣や弓を受けても溶かしてしまう。そのため戦っても武器を失いだけの魔物として非常に嫌われている。
「繁殖って本当かよ」
「そうでなきゃあの数が1か所に集まる事なんてねぇだろうよ。とにかくこの先はマグマスラッグが大量に居るから歩く事すらままならねぇぞ。大人しく引き返すんだな」
そう言ってその冒険者達は帰っていった。
この情報を得た俺達はどのように動くのか相談する。
「マグマスラッグ……普通に考えれば避けたい相手だが……」
「カーディナルフレイムへの最も安全なルートは使えなくなりましたね。迂回するとしてもどのルートを選ぶか悩みどころです」
「足場が悪いって噂の所ならここから近いですね」
「でも落ちたらマグマに落ちる。まだ足場がしっかりしている方がいい」
「でもその場合魔物が多く出るルートだろ。魔物も足場の良い所の方が現れるんだから危ないだろ」
そんな感じで話し合っているので俺は置いてけぼり。まぁ素人が何言っても仕方ないだろうが。
そう思っていると話を聞いていた若葉が俺に聞く。
「ドラクゥルさん。マグマスラッグの生態にも詳しいですか?」
「え?ああ、まぁそれなりには」
「ならその話を聞いてから行動しませんか?マグマスラッグの異常発生なら聞いておいた方がいいかも知れません」
若葉のその言葉で俺に注目が集まったが、何を話せばいいのか分からない。
「とりあえず……何から話せばいいですか?」
「マグマスラッグが異常に増えた場合どうなるか分かるか?」
「そうですね……とりあえず細い道などはかなり危険になります。マグマスラッグが食べるのは基本的に岩石や固まったマグマなどです。ですので仮に元々細い橋のようになっている様な所をマグマスラッグが食べていたとすれば非常に橋が脆くなっている可能性が高いです」
「あいつら何食ってんのか分からなかったが、岩石やマグマを食ってたのか」
「はい。ただ食べた物を排出した物が新しい道になったりもします。元々は岩などですからただの岩よりもかなり頑丈な岩になっているはずです」
その事を話したらライナさんがふと気が付いたように言う。
「それはつまり、マグマスラッグが自分達で道を壊してまた自分達で新しい道を作っていると?」
「今の説明だとそうなりますが、あくまでも今のは例です。もし本当に道を作っていたとしたら上位個体がいる可能性が非常に高いですよ」
「マグマスラッグの上位個体の名前は?」
「ヴェスヴィオって言うナメクジと言うよりはカタツムリに近い魔物です。背中に火山のような形の甲羅があり、動きは鈍いですが背中の火山を噴出して攻撃してきます。ちなみに本物のマグマと同じ熱量なので人間が触れれば文字通り骨まで焼けますね」
小さな火山を背負ったカタツムリを想像して全員は頷く。
「よし。もし道が脆くなっていたら危険だから広い道を行こう。魔物に関しては戦えそうなら戦おう」
アレスさんの言葉にみんな頷いた。
こうして俺達は少し回り道をして再びカーディナルフレイムに向かっているのだが……
「これ、本当に異常事態じゃありませんか」
ライナさんの言葉に俺達は頷いた。
遠回りして歩いてきた道の前には大量のマグマスラッグが歩いている。歩くと言ってもナメクジなので地面を這っているのだが、それが床から壁までびっしりといるのだから気持ち悪い。
この光景に俺達は流石にひきつった笑みを浮かべるしかない。
「塩かけたら溶けませんかね」
「普通のナメクジじゃないから多分無理」
若葉のつぶやきについツッコんでしまう俺。
でもこの光景は男でもキツイぞ。全員床這ってるし、その影響で本来歩けたであろう場所は全てマグマスラッグの熱によって溶けてしまっている。
岩でできていたはずなのに熱した鉄のように赤く染まっているのを見ると、正直彼らが通った後を歩けるとは思えない。
まだマシなのは彼らは好戦的なモンスターではない事。放っておけば向こうから何かしてくる事はまずない。
「これどうします?本当に大行列のマグマスラッグの群、あれが通った後に通れるようになるのはいつになるか分かりませんよ」
「仕方ない。別の道行くか……」
アレスさんのため息を聞きながら道を戻って反対側にたどり着くと……
「………………ここもかよ」
俺達の前にはマグマスラッグの大群がどこかに向かっていた。
「これ本当に異常の一言で済むかどうか分からないぞ。マグマスラッグってここまで驚異的な魔物だったっけ!?」
「アレスさん落ち着いて下さい。一応ヒール」
アレスさんが怒りと熱さでストレスが溜まっている。
でも迂回しようとした道全てがナメクジによって塞がっていると思うと仕方ない。
若葉は不安そうになりながら俺に聞く。
「何か弱点とかないんですか?」
「弱点と言われてもあいつらの弱点は寒さだぞ。水ぶっかけられるだけでもかなり嫌うが、あの大群相手に効く大量の水なんて魔法でも無理でしょ」
マグマスラッグの生態として血も全てマグマでできているという設定だったりする。
より正確にはマグマと同じ熱量なのだが、弱点が1つある。あの体に直接水をぶっかけると血管に小さな岩の粒が出来てしまい、血栓のようになってしまうのだ。
固まった岩を元通りに溶かすには時間がかかり、結果どこかで血の流れが止まってしまい死に至る。
これがマグマスラッグ系全体の弱点だ。
と言ってもさっき言ったヴェスヴィオレベルになると、身体を冷やす前に水を一瞬で蒸発させてしまうから意味ないか、大量の水を用意する必要があるんだけどね。
なのでこんな水なんて一滴もないであろう所では矛盾した倒し方になるのである。マグマに落としたしても泳いで這いあがってくるし。
「つまりこの場で倒すのは無理って事ですね」
「そうだね~。絶対無理」
「と言ってもこのまま立ち去るのを見ているだけっていうのもな……とにかく待ってあいつら全部通った後を狙うのもいいが、そうなったら道はマグマの道になってるぞ。流石に靴までは火鼠の毛を使ってないし、通れるとは思えない」
そうアレスさんが言ってから全員で悩む時、若葉が言う。
「ドラクゥルさん。ここはどうにかドラクゥルさんの知識でどうにかなりませんか?」
「どうにかって言われても……一か八かの賭けぐらいの案しかないぞ」
「それってどんな賭けですか」
「マグマスラッグたちが交尾してる下を進む」
俺が思い付くのはそれぐらいだった。
種族 マグマスラッグ
ランク D
マグマの身体をしたナメクジ型のモンスター。
形状は何とかナメクジだと分かる形態をしているが、半流動体のためしっかりとした形がある訳ではない。
全身マグマなので冷やすと身体の1部を動かせなくなり、最終的には死に至る。仮に冷えてしまった時は他の仲間が温めてくれればどうにか立て直す事もなくはない。




