ダンジョン探索、序
人数分の防具を用意した後、武器はどうするかという話になったがこちらは使い慣れている武器の方がいいという事で特に変更はない。
その後俺達は相乗り馬車で移動してカーディナルフレイムの入り口であるダンジョンの入り口の前に立っていた。
「スゲー数の冒険者の数。これ全員カーディナルフレイムに向かっているんですか?」
「そんな事はねぇよ。ダンジョンに行く理由のほとんどは魔物の素材を取ってくる事だからな、ダンジョンに出入りするような感じで探索するはずだ」
俺の質問にアレスさんが答えてくれた。
つまりここに居る冒険者は必ずしもカーディナルフレイムに行くためではない様だ。
それにして……俺が浮いているとここまではっきりする事はアビスブルーの時以来だ。
周りにいる冒険者達はみな屈強な戦士と言う感じで、荷物を持っている人ですら一定以上の実力はあると素人の俺でも分かる。
冒険者の中に女性も混じってはいるが、その人達も強そうな雰囲気が出ている。多分魔法使いなんだろうが、隙のない雰囲気というのがよく分かる。
そう考えてみると若葉のように魔法使いではない女性は多分いない。
恐らく熱風から身を守るために薄いローブの様な物を着ているが、若葉の様に動きやすさを重視して薄着でいる人はいない。
ちなみに若葉の服装は熱風から身を守るために指の先からつま先まで肌が露出している所はないが、腹は薄い肌着で隠れているだけだし、足は長い靴下、腕は夏場に日焼けしない様にする手袋の様な物で隠している。
他の女性達とはかなり違う。
そして俺は分かりやすく初心者装備だという服と巨大なリュックを背負っていた。
荷物運びをする新人冒険者は大抵この格好だというのでそれに従ってみた。まぁ実際の所は格好だけであとは全てアルカディアで作った服やリュックだから防御力などは他の物に比べれば天と地ほどの差があるけど。
とにかく俺はアレスさん達の後ろで大人しくしていた。
戦えない者がいるのが場違いである事は十分この雰囲気だけで分かったからな。
「それではお次のパーティーのみなさんどうぞ」
「パーティー『ポラリス』。今回はカーディナルフレイムに行くつもりだ」
ダンジョンの入り口であると同時に入国検査のための場所であるので、ここで入国審査を同時に受ける事になる。
俺達は冒険者カードを提示して、受付のごつい男性は俺のカードを見て渋い顔をした。
「ランクD。しかも採取系か……あんた大丈夫か?」
冒険者ランクに関してはちょっと1人でアルバイト感覚で薬草とか採取している間にここまでランクが上がっていた。
それでもまぁ戦闘系の依頼を受けていないのでこれでも時間がかかった方らしい。依頼された薬草や鉱物、ちょっとレアな素材などを拾ってきて期限以内にギルドの人に渡せば依頼は終了っと言うのが採取系のやり方だった。
「今回は荷物運びとして参戦しました。体力と物を運ぶのは得意ですので」
「まぁそういう事なら認めるが、絶対無茶はするなよ。大人しく強い奴の後ろに隠れてな」
「はい。そうします」
受付のごつい男性から注意を受けたけど無事にダンジョンに入る事が出来た。
初めての本格的なダンジョンに少しワクワクしながら俺はアレスさん達の後を歩くのだった。
――
初めてのダンジョンに入って俺は早速現実の厳しさを知った。
「ドラクゥルさんそっちから魔物来るから下がって!!」
いつ襲ってくるか分からない魔物。
「ドラクゥルさん。そこトラップなので踏まないで下さい」
しれっと現れるトラップ。
「ドラクゥルさ~ん。勇気を出して!」
めっちゃ細い道などなど、様々な困難が俺を待ち受けていた。
「はぁ。しんど」
「大丈夫ですかドラクゥルさん。休憩いれますよ」
ライナさんが気を使ってくれるが正直素直に休憩を入れたいとは言えない。
「いえ、体力的な部分は大丈夫なので行けるところまで行きましょう」
「そうですか?本当に危ないのは無理をして体力を削る事です。ドラクゥルさんは初めてのダンジョンですし、トラップや魔物に襲われるなど普段経験しないことをしているんですから、休みたい時は素直に言ってくださいね」
「ありがとうございます。それじゃ……次の休憩できそうなところまで頑張ります」
とまぁこんな感じで情けない姿をさらしている。
こういう時生産限定のチートは役に立たない。いや、自分で車とか作れる感じのチートなら問題なかったんだろうけど、俺が作れるのは食材とモンスター達の育成だけだからな……クレールに頼んだら車とかもらえないかな?
……娘に車もらおうとするとか情けなさ過ぎるからやめよ。
そんな事を考えながら歩いていると少し広い所に着いたのでここで一時休憩となった。
「みなさん汗とかかいてませんか?これ食べると少しは良くなりますよ」
「これは?」
アレスさん達が不思議そうに受け取ったのは平べったいタブレットタイプのお菓子だ。お菓子と言っても夏バテ予防のお菓子であり、ミネラルとか塩分とか補給できる奴。
「熱い所で体調不良にならないように作ったお菓子……みたいなものです。一応疲れても食べやすい様に酸っぱくしてありますけど、酸っぱいの大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だ。それにしても……妙なお菓子だな」
「そうですね。お菓子と聞くと甘い物を想像するので珍しく感じます」
「でもこんな熱い所だと酸っぱいのが丁度いいわ」
アレスさん、ライナさん、ディースさんは大丈夫そうだが、メルトちゃんに関しては酸っぱそうな表情をしていたのでもう少し酸っぱさを抑えた方がよかったかもしれない。
若葉に関してはある程度分かっていたのか最初だけ酸っぱそうな顔をした後に普通に食べた。
そして俺は聞く。
「ところで水筒の中身、なくなってる人いませんか?補充しますよ」
「あ、それじゃ頼む。それにしてもこの妙な味のする水、本当にこれが身体に良いのか?」
「身体に良い、というよりはできるだけ血や体液に近付けることで水分を吸収しやすくした。と言う方が正しいですから、あまり気にしなくてもいいかも」
俺がアレスさん達に渡していた水と言うのは自家製スポーツ飲料だ。
ラファエルとドクター監修のもと、開発されたスポーツ飲料は実はまだ未完成。普通の水よりも体に吸収されやすいという条件はクリアできたのだが、味付けがされていないために本当にただの甘じょっぱい水でしかない。
目指せ!ポ〇リ!!もしくはア〇エリ!!
なんて心の中で思いながらアレスさんのスポーツ飲料を補充していると、若葉が俺に向かって言う。
「それにしてもドラクゥルさんのおかげでかなり安全に進めてます。流石社長」
「なんだそれ?俺はさっきから足を引っ張ってばっかりだよ」
「でもこうしてスポーツ飲料を作ってくれたり、塩分とかを補充できるタブレットを持ってきてくれたりしてるじゃないですか。私としてはこうしてみんなの事を支えてくれる人がいてくれると、とても助かります」
「そう言ってくれると助かるよ。あ、食事とかどうしますか?」
「軽く摘まめる程度の物って作れるか?」
「それじゃ簡単に作りますね」
そう言って俺が用意するのはホットドックもどき。
何故もどきが付くのかというと、挟んでる物がソーセージだけではなくハムとレタスだったり、サンドイッチの玉子だったりするから。
実家でパンと言うとこうやってホットドッグの生地に何でも挟むか、食パンで挟んだ物ばっかりだったんだよな。他の家だとどうなんだろ?
それを3種類1つずつ全員分作って渡すと軽くと言いつつもしっかり食べた気がする。ホットドッグもどきとはいえ3つ食べたからかもしれない。
その後腹を休ませながらアレスさんが言う。
「それにしても……本当にドラクゥルさんがいると本当に助かるな」
「そうですか?足引っ張ってばっかりだと思いますけど」
「そんな事はない。普段のダンジョンだったらこうして柔らかいパンを食べるなんて事すら出来ないんだ。それに食料も水も気にせず進める。これってかなり楽になる条件なんだぞ」
「そう……何ですか?」
似た様な話はこの世界に来たばっかりの時にも聞いたが、まだ実感は湧いていなかった。
それに関して他のメンバー、若葉を含めたみんなが頷いた。
「ここまで熱いダンジョンとなると水の消費量にも気を付けないといけませんし、カーディナルフレイムに行くとなると食料の問題も出てきます。それになんだかんだで荷物を圧迫しますし、1番重いのは水ですからね」
「飲むためにも、スープに使うとしても必須ですからね。少しずつ減ってはいきますが、減ったら減ったであとどれぐらい持つのか心配になります」
「せっかく倒した魔物の素材が持ち帰れない時もある。ご飯も不味い」
「ダンジョン攻略中の時は保存の効く硬いパンに硬いチーズ、しょっぱい干し肉ぐらいですからダンジョン内でちゃんとした食事がとれるのは本当に稀なんです。食料が尽きて水も尽きたら死んじゃいますし、何より水などがなくなったから戻らないといけないって事がないだけでも効率に大きな差が生まれますから。だから社長がいるだけでものすごく助かっているんですよ」
ライナさん、ディースさん、メルトちゃん、最後に若葉がそう言った。
そうか……役に立ってたか。
また少し休んだ後に俺達はまたカーディナルフレイムを目指して歩き始める。




