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若葉とアレスさんの試合

 日を改めてポラリスのみなさんをアルカディアに連れてきて、若葉と会ってもらった。

 もちろん若葉にも話しているし、ダンジョンについても話した。ポラリスのみなさんと話した内容を出来るだけ細かく話し、若葉も構わないかと聞くと了承を得た。

 なので今日ポラリスのみなさんと若葉が初めて会う。


「初めまして。ポラリスのリーダーのアレスだ」

「斥候兼弓使いのライナです」

「回復とサポートをしています、ディースです」

「メルト、魔法使い」

「若葉です。グリーンシェルのダンジョンで探索と斥候をしていました。よろしくお願いします」


 少し堅苦しい感じがするが、初対面だからこんなもんだろう。

 今回はアルカディアの草原でお互いの実力を確認し合ったり、ダンジョンでどんな連携などを取るのかある程度考えておくそうだ。

 もちろん事前に打ち合わせした通りに動ければいいが、そうできない事の方が多いのが現実。なので最低限お互いの邪魔はしない様に動く様に決めるという。

 ちなみに俺は非戦闘員なので会話や模擬戦に参加しない。冒険者用語とか知らん。


「それじゃ若葉さん。軽くて合わせお願いするよ」

「よろしくお願いします」


 今回はポラリスのリーダーであるアレスさんが相手をする。若葉の手には木で作った双剣もどきを握り、アレスさんには両刃の剣風の木刀を渡した。

 若葉は物理攻撃メインだから自然とアレスさんに決まった様な感じだが、リーダーとして手合わせしておきたいという気持ちもあったらしい。

 そんな試合をする2人を見ながらライナさんに聞く。


「ところでアレスさんの個人ランクってどれぐらいなんですか?」

「ポラリスのメンバーは全員ずっと同じパーティーを組んでいたので全員Cランクですよ。一応パーティーとしてはBランクに近いCランクと言う立場です」

「へー。それじゃみなさん結構強いんですね」

「そんな事ありませんよ。私達ぐらいのパーティーはそれぞれの町に1組ぐらいはいますから強いという訳ではありません。Bランクになればまた少し違ってきますが」

「Bランクから色々特典着く。ギルド管理の宿が安くなったり、武具を優先的に売ってくれたり」

「色々あるんですね」


 流石に特典の事までは知らなかった。

 ランクが上がる事に何か特典が増えていくんだろうか?

 そう思っている間に若葉とアレスさんの試合が始まった。


 本当はこういう時丁寧に戦闘解説できればいいんだろうが、元々対して戦いに関して詳しくないし、プロレスとか関節技の名前とか全然知らないのでうまく言えている自信はない。

 とりあえず個人的な感想としては意外と若葉が戦えているという感想だ。

 アレスさんが持っている木刀に比べて短い分攻撃できるのか?と思っていたのだが、素早く懐に入って双剣を突き刺す様に攻撃を繰り出しているので攻撃が鋭い。


 アレスさんは剣が長いという有利性を生かして距離を取りながら木刀を振るう。

 その動きは学校で習った剣道の技とは違い、結構自由な動きをしている感じがする。

 そりゃ剣道はスポーツ的な所もあるからどんな風に当たるのかとか気にするべき点があるんだろうけど、アレスさんの木刀は首や足、腕なども狙っているのでより実戦的な印象を受けた。


 それにしても若葉、あんなに動けたんだな。

 普段一緒に畑の土をいじったり、果物を一緒に収穫したり、生育状況を確認し合うぐらいにしか動いている所を見ていなかったのでこんなぴょんぴょん動けるとは知らなかった。

 しかもアレスさんと剣を避ける時、俺なら仰け反ってそのまま倒れるぐらい身体をのけぞらせても倒れたりしない。凄まじいほどの身体の柔らかさとバランス感覚を持っている。

 探索がメインと聞いていたので本当に意外だ。俺はてっきり防戦一方になるとばっかり思っていたのでいい意味で期待を裏切られた。


「凄いな。若葉ってあんなに戦えたんだ」

「知らなかったんですか?」

「何度か一緒に冒険みたいな事したけど、戦う事はなかったですから」

「1人でCランクになっただけやはり実力はありますね。しかし……」

「まだ甘い。攻撃してない」

「攻撃してない?」


 さっきから若葉は双剣を使って戦っているのに?

 確かに若葉の武器は短くて受け止める事が出来ないので避けるしかない。でもすれ違いながら剣がぶつかったり、わき腹とかに当たる事もある。

 何でだろうと思っているとライナさんが説明してくれた。


「若葉さんは意図的にアレスの急所に攻撃が当たらないようにしています。しかしアレスはちゃんと急所を狙って攻撃しています」

「それって危なくない?」

「危ないと分かっていますよ。ですが冒険者同士の試合と言ったら普通は怪我をする事前提の試合である事が多いですからね。そうしないと実力が分かりませんから」


 そういう物なのか。

 戦わない俺には分からないが、そういう物だと思うしかないのだろう。

 正直に言えば安全な防具を身に付けて試合をして欲しいというのが素直な気持ちなのだが、普段通りの格好で行わないと意味がないらしい。

 若葉もこの事は冒険者時代に何度も経験していたので知っていると言っていたが、見ている事しか出来ない身としてはスゲー不安だ。アレスさんの剣は容赦なく顔とか腹とか遠慮なく狙っているし、更に魔法ありとかになったらどうなるんだろう。


 そんな風にハラハラしながら見ていると試合が終わったのか2人は剣を下ろした。

 俺は若葉に向かって傷薬を持って駆け寄った。


「若葉!ケガ大丈夫か!?」

「このぐらい大丈夫ですよ。慣れてますから」

「慣れてるとかじゃないでしょ。女の子なんだから傷が残らない様にするとか、気にしておけよ。とりあえず剣が当たったところに塗るぞ。腕とかは塗ってあげるけど腹とかは後でちゃんと自分で塗れよ」

「ド、ドラクゥルさん!腕とは言え人前で塗らないで下さいよ……」

「放っておいたら放置そうな気がするんだよ。何なら顔も塗ってあげようか?」

「自分で塗ります!もう、過保護なんですから……」


 そう言いながら若葉は恥ずかしそうにしながらも薬を塗っていく。

 ドクターお手製、万能軟膏だ。切り傷、打ち身、痣でも何でもオッケーな代物だ。さらにハチや蚊に刺されなど何でも効く。しかもアルカディアで育てた薬草100%で天然由来成分のみなので赤ちゃんが間違って口に入れも大丈夫!!という本当にとんでもないお薬だ。

 それを若葉に渡してからアレクさんに聞く。


「ところで結果は?」

「もちろん合格だ。信用できる。少し不安な所もあるが」

「そうなの?」


 俺が聞くと若葉に聞こえないように声を小さくしたアレスさんが言う。


「あの子は優し過ぎる。俺が急所を狙っても全然攻撃してこないし、逆に誘っても全然攻撃してこない。傷付けないようにって気を使い過ぎてる」

「それは良い事じゃないの?」

「普通に見ればいい事なんだが、冒険者の中には必ず絡んできたり、最初に脅してくる奴は必ず出てくる。そういうのに会った時戦えるのかどうか心配なんだよ。特にカーディナルフレイムの冒険者達は実力至上主義だから荒れてるって話だ」


 その場合最も狙われるのは俺だと思いますけどね。

 荷物持ちとして同行するんだぞ。絶対いいカモだって思われるじゃん。


「特に女の子はな……若葉ちゃんは若いし、うちのパーティーは女の子結構いるから。たまに狙われるんだよ」


 そういう意味でも狙われてるのか。

 ディースさんもメルトちゃんも苦労してきたんだろうな……


「それじゃ若葉も?」

「多分。だから今の内に実力を確認しておきたかったんだよ。最低でも自分の身は自分で守れるようにってね」


 うん。俺は無理だ。

 精々学校の授業で学んだ剣道を披露するか、素人丸出しのがむしゃら攻撃しか思いつかない。

 多分効かないだろうけど。

 こうして若葉はアレスさん達に認められた。

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