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奇妙な違和感

 その後俺はゴブタ達の事をメイドや護衛達に任せた後、いつも通りに過ごした。

 ゴブタ達の要望で自分達ばかりに気を使う必要はないと言われていたからだ。だからいつも通りに起きて、畑や各施設の確認をした後、みんなで飯を食っていつも通りに寝る。

 そうしていつも通り寝た翌朝、ゴブタ達は眠ったままそっと永遠の眠りに落ちた。


 もちろん朝起きてゴブタ達が居なくなっていた事に寂しさや悲しさ、心の中に大きな穴が開いた感覚、今までも既に居ない子供達の事を知って似た様な感覚にはなったが、ここまでではなかった。

 きっとすぐ近くで子供が遠くに行ってしまった。その事実が初めてだったからだろう。


 もちろんゴブタとゴブコの遺体は丁重にゴブリン帝国に運び込まれた。

 その後ゴブリン帝国で盛大に葬儀が行われる。

 葬儀は1週間かけて行われ、初日は粛々と行われたが2日目からは盛大に行われた。正直に言うとお祭りの様な感じだ。

 どうやらゴブリン帝国では葬儀は明るく元気に送り出すと言う感じの文化らしい。理由は死んだ相手が心配してこの世に残らない様にするため。だから悲しむのは最初だけであとは明るく振る舞うのだという。


 これはこれでいい葬式なのではないかと思う部分と、ゴブタとゴブコが本当に慕われていた事を知って安心している俺がいた。

 葬式の間にゴブタと話した事を話す事は避け、とりあえず葬式が終わるまで待つ。

 ゴブリン帝国からアルカディアに戻ってくると、若葉が何だかワタワタしている。


「どうかしたか?」

「え。あの、その、何と言ったらいいのか……」


 おそらく若葉はゴブタとゴブコが居なくなった事で気を使いながら何かを言おうとしているんだろう。

 優しい子だなっと思いながら俺は若葉の頭を撫でる。

 何故撫でられるのか分からないけど、とりあえずされるがままになっている若葉。そんな若葉に笑みを見せてから俺は言う。


「気にするな。どうしようもない事だ」

「でも……ドラクゥルさん凄く落ち込んでますよね」

「そりゃね。ようやく見つけた息子と娘が死んだんだ。悲しまない訳がない」

「なら……」

「こればっかりは寿命だし、病死というどうしようもない事だ。誰かに八つ当たりする事も出来ない、誰にもどうする事も出来ない事なんだよ」

「……仕事、戻りますね」

「今日もありがとうね」


 若葉にそう俺は言った。うまく言葉は出なかったようだが励まそうとしてくれただけで十分だ。

 さて、こっちはこっちで色々と準備しておくか。


 ――


 アビスブルーから帰ってきてから俺が行っている事がある。

 それは新しいモンスターの赤ちゃんを育てている事だ。最初こそ昔から居る子供達を全員集める事さえできればそれでいいと思っていたが、最近は戦争だ何だという事で警戒をしている。

 その中で俺に出来る戦力強化は何かと聞かれると、それは新しい子供達を育てる事だけだ。


 もちろんいきなり何十体もの子供達を育てる事は出来ない。いくら子供達が戻ってきていると言っても全員ではない。向こうに残っている子供達もいるし、天使達だって常にこちらにいるわけではない。仕事でホワイトフェザーに居る事が多い。

 なのでヴラド達が連れてきた奴隷の子供達と一緒に新しく生まれた子供達を育てている。

 元々作物に関してはメニューで少し様子を見たり調整するだけなので時間はあまりかからない。新しく生まれた子供達を育てる時間は十分ある。


 ただ最近新しく生まれてきた子供達に疑問があるのである。


「ドラクゥル様。新しく生まれた子供達がまた進化してくれましたよ」


 奴隷の子供達のリーダーである少年が新しく生まれた子供達が進化した事を教えてくれる。

 今回はクレールの様な海洋系モンスターを育てようだ。水のベビーモンスターは海獣、つまりアザラシとかイルカとか、そういった海に住む動物系に育つ確率が非常に高い。

 魚系のモンスターが居ない訳ではないが、基本的にアルカディアでは魚という食料アイテムが存在するせいか見た目も魚であるモンスターは非常に少ない。居るとしてもサメやウツボの様な肉食系の魚ばかりだ。

 あと意外に思われやすいのは巨人達。巨人達は水系モンスターの進化タイプ。何も知らない時は巨大なモンスターが多い土系のモンスターだと思っていたいので、初めて気が付いた時はマジか~っと思った。

 しかも育成条件がそれなりに難しく、結構育成条件を知っておかないと最初っから巨人や人魚の様な人型は滅多に育たないのである。


 なのに目の前にいる水系モンスターは人魚と巨人だった。

 俺は驚きながら少年に言う。


「よく人魚と巨人に進化させる事が出来たな」

「はい。私達も不思議だったのですが、この子達は偏食でちゃんと育つかどうか心配だったのですが、上手くいって良かったです」

「偏食?」

「はい。最初から偏食がひどくて苦戦しましたが、無理に食べさせる必要もないと教えていただきましたので、そのまま食べさせている間に人魚と巨人に進化しました」

「それって1度ぐらい嫌いな食べ物食べたよな?」

「いえ、最初からでした。最初からこれは食べるけどこれは食べたくない。という感じでしたね」


 少年の表情から嘘を言っている様子は全くない。

 この子達は最初から自分で食べるものを決めていたのか?

 実はアルカディアの赤ちゃん達にも好き嫌いは存在する。でもそれは口に含んだ後での話だ。人間の赤ん坊でも変わらないと思うが、口にしてみた時に好きか嫌いか決める。

 だから1度も食べた事のない物を嫌う事はまずない。

 それなのに食べないという事はどういう事だろう。


「まったー。わた、へん?」

「あ~無理に喋らなくていいぞ。進化したばかりで喋ったりし辛いだろ、もう少し慣れてからで大丈夫だ。あと変って事もない」


 人魚が無理に話そうとしたので俺はそう言った。いくら進化したといっても急に言葉が話せるようになるわけではない。

 巨人の方も声を出そうとしたが、動物の鳴き声のような声が出るだけでまだ人の言葉にはなっていない。まぁ賢いから人間の言葉を理解はしているが、話すのとはまた違う難しさだろう。


「他の子達に関してはどうだ?」

「性格などに関してはみんな問題ないんですが……どの子も偏食なんです。特定の食べ物ばっかり食べて、他の物は全然食べない。これでも大丈夫なんですか?」

「人魚の場合だとどんな感じだ?」

「人魚の場合だとマジックローズ、インテリジェンスソイなどの魔力系と知能系の食材ばかりです。他にも食べますがかなり小食で必要最低限の摂取という印象を受けました」

「それじゃ巨人は?」

「パワーパイン、スタミナライスなどの物理攻撃系と体力系の食べ物ばかりです」

「運動の方は!」

「こちらもかなり偏っていて、人魚はマジックライトとインテリジェンスメイズ、巨人はパワーリフティングとスタミナランニングばかりです」


 どういう事だ?確かに進化させるにはそれらを食べさせてステータスを向上させる必要がある。そしてトレーニングルームで訓練するとより効果を発揮させる。

 それを自主的にこの子達がやった?しかも1体2体ではなくどの子もか?それは明らかに異常だ。


「…………」

「ドラクゥル様?」

「悪い。子供達の食べている物とトレーニング内容をまとめている物はあるか?」

「それは直ぐにまとめて提出できます」

「それじゃあとでまとめて持ってきてくれ。少し確認したい事がある」

「分かりました。至急取り掛かります」

「そんな急がなくてもいいから。杞憂に終わるかも知れないし」


 俺は頭の中でその可能性はありえないと思いながら少年に言った。

 俺が思った可能性とは自分が進化したい種族になるにはどんな物を食べ、どのトレーニングをすればいいのか知っているという可能性だ。


 知っていれば誰だってするだろうが、子供達にそんな知識はないはずだ。生まれて間のない子供達なのだからそんな知識をどこから持ってくるのか分からないし、仮にブラン達に教えてもらっていたとしても実行するとは限らない。

 それにこのアルカディアにモンスターの進化先を記したデータは俺のメニュー画面のモンスター図鑑にしか書かれていない。アルカディアにある本は俺が買った電子書籍だけだ。映画化した小説やアニメ化したマンガなど色々と買ったが、そういった物ばかりでどうすれば進化するのか書かれている物はなかったはず。

 攻略本も探したけどなかったからな……ネットで見た進化先は適当にやってても進化する中途半端な物だけだったし、データに残していないはず。


 そうなると現実的なのはブラン達に教えてもらう事だが……そんなうまく自分がなりたい種族の事を事細かに教えられるだろうか?

 特に巨人に関してはエルも帰ってきていないので細かく知っている者が他にいるとも考え辛い。

 とにかく子供達に違和感を感じながら俺は家に戻るのだった。

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