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次の目的地

 夜。

 ホブゴブリン達にいろいろと教えて晩飯を食ってゴブタの様子を見に行った時、運よくゴブタが目を覚ましていた。

 そんなゴブタの隣りにはゴブコがおり、車いすから降りてゆっくりとゴブタの頭を撫でていた。


「よう。起きたかゴブタ。お前の部下達に伝えておいた方がいいよな」


 俺がそう聞くとゴブタはゆっくりと言う。


「お久しぶりです。親父殿」

「お前そんな言い方じゃなかっただろ。それともそれが皇帝としての話し方って奴か?」


 そう聞きながら隣に座ると、ゴブタは上を見る。

 天上ではなくどこか遠くを眺めている様で、視線を合わせないまま話す。


「それで、何の目的で来られた」

「目的はゴブタ達をアルカディアに連れて帰る事。それだけだ」

「……変わらないな、親父は。儂はもう言葉使いも、姿も色々と変わってしまったと言うのに」


 確かに俺が知っている頃のゴブタとはかなり違う。肉体は若々しかったし、声も枯れておらず、髭も生えていなかった。

 でもどれだけ年老いたとしても息子である事は変わらないし、俺が生きている間は永遠に俺の子供だ。


「儂は死ぬのか?」

「もうすぐ死ぬ。あと2日ぐらいだ」

「そうか……死ぬ前にこの家に帰って来れた事だけは、幸運というべきかも知れぬ。ゴブコも済まない。儂が死ねばお前も……」

「最後までお供させていただきます」


 夫婦仲の良さは変わらないようで何よりだ。

 でもいくつか伝えておかない事もあるし、聞いておきたい事もある。


「そんな2人に聞きたい事と話しておきたい事がある。どっちからにする?」

「それでは話しておきたいことからお願いします」


 ゴブタがそういったので俺は正直に話す。


「ホーリーランドって国が強力な力を持った人間を仲間に加えた。その忠告かな」

「それは勇者ではなく?」

「勇者じゃない方だ。この間行ったアビスブルーって国に居た人間がホーリーランドに引き抜かれた。使う武器は銃や火器、近代化学兵器をメインに使っている。まだまだ調査中だし、ホワイトフェザーに監視してもらってるから動きがあれば情報は来るが、すでにそいつは動き出してる。ホーリーランド周辺の魔物を手当たり次第狩って巣ごと殲滅してる。おそらく最初に攻めるのはパープルスモックだろうが、魔物の国を否定している国だ。その内ゴブリン帝国にまで手を伸ばすかも知れない」


 俺がそう言うとゴブコは信じられないという表情をしていたが、ゴブタは静かに思考し、口を開く。


「その際子供達はどうするおつもりで」

「ゴブリン帝国に住んでいるホブゴブリン達を全員アルカディアに避難させるつもりだ。生まれ育った地を離れる事に不満を持つ者は必ず現れるだろうが、勇者とそいつ、リアムって奴が同時に攻め込んできた場合逃げる先は用意しておかないとダメだろう。戦うというのであれば協力もするが……正直おすすめは出来ない」

「協力というのは現在どのような計画をお考えでしょう」

「アビスブルーには死蔵した銃火器がある。巨人や人魚、コボルトと言った多種多様なモンスター達が居るために規格を統一できないから製造などは無駄だと判断したらしい。でもお前達の国、ゴブリン帝国は違う。ホブゴブリンという1種族だけの国だ。だから武器の規格を統一する事は可能だし、訓練すればかなり強力な軍隊になるだろう。それでも出来れば逃げて欲しいし、戦争を起こさないように全力を尽くすけどな」


 俺がそう言うとゴブタは少し目をつむってからゆっくりと目を開けて、しっかりと俺の目を見て言う。


「親父。確かにあなたの言う言葉に間違いはない。生き残るために逃げる、これは当然の選択だ。だが縄張りを、国の頂点に立つ者として戦わずに逃げるという選択肢は存在しない。親父もアルカディアを奪おうとするやつとは戦おうと思うだろ」

「……頭ではな。でもお前達を戦いに巻き込むと思うと、動けないし動いていいのか戸惑う」

「だが儂らモンスターは戦える。戦わずに国を捨てるという選択肢は愚行でしかない。親父もよく言っていただろ、大切な物は意地張って守れと」

「……ああ」

「だから儂らは戦わなくてはならない。そのような話を聞けば余計に戦う準備をしなければならない。アビスブルーという国は聞いているが、本当にその武器を購入する事は出来るのか?」

「アビスブルーはクレール達が造った国だ。協力してくれる」

「そうか……国を守る事ばかり考えていた故に知らなんだ。知っていればも少しマシな終わりだったやも知れぬ」

「あなた……」


 俺の話したい事、戦争が起こるかも知れないという情報はゴブタを奮い立たせてしまったらしい。

 確かに俺は大切な者は意地張って守れと言ったが、俺はゴブタほどの覚悟を持っていた訳じゃない。大切な者を守るためなら逃げるの一択だっただろう。

 でも彼らは違う。戦うと決めている。

 なら俺は1人でも多くの家族が生き残れるように全力を尽くさないといけない。


「分かった。それじゃ後日改めてゴブオに話しておく。それから聞いておきたい事もある」

「なんじゃ?」

「ルージュ、もしくはクラルテを知らないか?あの2人の居場所が分からないんだ」


 そう聞くとゴブタは少し考えてから話す。


「クラルテは分からんが、ルージュに関しては全く情報がない訳でもない」

「本当か!」

「ああ。我が国の貿易相手、酒吞童子なら知っておるかも知れない」

「酒呑童子、あいつも当然この世界に来てるか。でも人間と上手くいっているとは思えねぇな」


 酒呑童子、みんなご存知の超有名なあの鬼の名前を拝借した俺の息子だ。

 喧嘩っ早く大の酒好き、俺の言う事を聞かない不良息子だ。


「実際上手くいっているとは言い難い。人間を出来るだけ除外し、赤の国とその属国の国境線にある山に住んでおる。おそらく酒呑童子ならルージュの事を知っておるじゃろう」

「あいつら仲良かったもんな。良い話が聞けた。ありがとうなゴブタ」

「だが確実な情報と言う訳でもないがな。この程度で良いのであれば話せてよかったわい。儂以外の者でも答えられたと思うがの」

「ですが……彼は本当に気が難しいですから、気を付けて下さいね」

「息子に会うのに気を付けるも何もねぇよ。別に暴力振るってた訳じゃないし」


 最後にゴブコが心配して声を出してくれたが、出会うなり喧嘩するような仲の悪さではなかったからな。そういう心配は一切していない。

 でも鬼の一族って意外と種類多いんだよな……そいつら全員集まってるといいけど。

 なんて思っている間にゴブタは眠たそうに舟をこぐ。

 ゴブコがゴブタに布団をかけ直した殿で俺は立ち上がる。


「それじゃ俺は他の子達の様子を見てくるよ。ゆっくり寝な」

「しかし……もうすぐ死ぬと分かっていてこうしているのも勿体ないと思うのだが……」

「明日ゴブコとデートでも何でもすればいいさ。ゴブコもゴブタの事だけじゃなくて自分の身体を労われよ、そうじゃないと最後の日、好きな事して過ごせねぇぞ」

「はい。ほどほどにしておきます」


 ゴブコがそういったので俺はそっと部屋を出た。

 種族  ゴブリンロード

 名前  ゴブタ・ドラクゥル

 ランク S


 11体のゴブリンキングの中から生まれる特殊なゴブリン。

 配下にあるゴブリンの数だけ戦闘力が上昇するという特殊なモンスター。逆に配下が減ると力も減ってしまう。


 補足

 ゴブタは最も多くいるゴブリン達のリーダーとしてゴブリン帝国を建国、その後1度の敗北もなく帝国を守り抜いてきた。

 性格は基本的に穏やかであるが、責任のある立場として気丈に振る舞っているが、ゴブコの前だけではよく甘える。

 その結果子宝に恵まれ、ゴブリン帝国初代皇帝として激しく、華々しい生き抜いた。

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